1923年の関東大震災の直後に朝鮮人らが多く虐殺された問題をテーマにした劇の上演や企画展示が今夏相次いでいるということです。
昨秋、小池百合子東京都知事が犠牲者追悼式への追悼文送付を取りやめたことへの危機感が背景にあるのではないかと東京新聞は見ています。
小池都知事は16年7月の都知事選で圧倒的な勝利を収めましたが、17年には、墨田区の都立横網町公園で行われる恒例の9・1朝鮮人犠牲者の追悼式典をめぐり、「様々な被害で亡くなられた人たちがいる」し、「様々な歴史的認識がある」からと、それまで毎年送っていた追悼文を拒否しました。
小池都知事が拒否した背景には、近年、ネット右翼や右派市民団体を中心に拡散されている「朝鮮人虐殺はなかった」という“虐殺否定論”があると言われています。現実にその年、自民党・古賀俊昭都議が都知事の朝鮮人犠牲者追悼文とりやめの端緒となる質問を、都議会で行っています。
追悼式典を主催する「9・1関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典実行委員会」は、昨年次のような抗議声明を出しました。
「人の手で虐殺された犠牲者も自然災害によって命を落とした犠牲者と同じ、よって虐殺された朝鮮人らへの別途追悼の辞は手間だ不要だと言っているのに等しい。・・・
大震災など非常事態時に流言飛語が飛び交うことがあるという歴史の教訓、朝鮮人や中国人に対する差別・偏見が無辜の人々の命を奪う行動にもつながったという過去の歴史的事実に目をそむけるものである」
こうした歴史的事実を簡単に否定するのは論外で、安易に忘れ去ることもあってはならないことです。
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朝鮮人虐殺、都内で劇や企画展 都知事の追悼文中止に危機感
東京新聞 2018年7月18日
一九二三年の関東大震災の直後に朝鮮人らが多く虐殺された問題をテーマにした劇の上演や企画展示が今夏、相次いでいる。背景にあるのは、小池百合子東京都知事が昨秋、犠牲者追悼式への追悼文送付を取りやめたことへの危機感。史実に向き合い、伝えていこうとの思いを込めている。 (辻渕智之)
「一般の(震災での)犠牲者と、人の手で殺された被害者は違う。(小池知事が追悼文を送らなければ)民族差別の事実が否定されることになる」
「ひょっとしてあんた朝鮮人? 中国人?」
こんなセリフも行き交う。劇「九月、東京の路上で」は二十一日~八月五日に東京都世田谷区の劇場「下北沢ザ・スズナリ」で上演される。今もある差別や排外主義とも重ね合わせ、デマや虐殺が広がる九十五年前の現場を追体験できる。
劇団「燐光群(りんこうぐん)」の公演で、主宰する劇作家の坂手洋二(さかてようじ)さん(56)は話す。「生き証人がいなくなったときに歴史の捏造(ねつぞう)に抵抗し、承継していくためのスタートラインにしたい」
昨年、小池知事は記者会見で歴史認識を問われたが「虐殺」「殺された」という言葉を避けた。虐殺の史実は戦前の公文書にも記されているが、こうした事実を認めようとしなかった。
劇は作家加藤直樹さん(51)の同名の本が原作。戒厳令下でデマの拡散や殺害に警察や軍が加担したことも明らかにされる。劇中では、自衛官が野党議員を「国民の敵」とののしり、虐殺はなかったと主張する。坂手さんは問う。「日本人は、弱い人間が死んでいくことへの感受性がとても弱いのではないか。そして、軍隊が軍隊の秩序で動くという怖さも忘れている」
一方、新宿区大久保の認定NPO法人高麗博物館では企画展示「描かれた朝鮮人虐殺と社会的弱者」が開かれている。
虐殺を実際に見た画家や当時の小学生らが描いた絵などのパネル約三十点と関連書籍が並ぶ。流血して横たわり、恐怖におののく朝鮮人、周りに警察、軍隊、自警団、群衆が描かれ、殺気と悲しみが伝わる。
日本人と見分けるため、朝鮮人が発音しにくい語句を言わせ、答えられなかった日本人の聴覚障害者ら社会的弱者が殺されたことも紹介している。「虐殺にリアルに迫るような展示が公的な施設では困難になっている。でも、その現場を描き、書いた人はいた」と新井勝紘(かつひろ)館長(73)は話す。
東日本大震災でも外国人窃盗団のデマが流れ、各地でヘイトスピーチのデモが横行した。「負の歴史にフタをせず、ちゃんと直視し、乗り越えられるかが問われている」
展示は十二月二日まで。劇、展示の問い合わせはそれぞれ燐光群=電03(3426)6294、高麗博物館(月火休み)=電03(5272)3510=へ。