2018年7月31日火曜日

31- 教員の良心の自由を萎縮させる最高裁判決(小林節氏)

 19日最高裁が、元都立高校教職員ら24名が、卒業式等において起立して「君が代」を斉唱しなかつたことのみを理由に、定年退職後の再雇用を拒否された事件について、高裁の判断を棄却し教職員らの請求を全面的に退ける判決を言い渡したのは、日本が第二次世界大戦でアジアを侵略した加害国であったことから「日の丸」は軍国主義の象徴、同じく「君が代」は戦前の天皇制を象徴するものと受け止める人がいるという、憲法が保障している「良心」の自由(19条)の問題であるという面を無視したものとであるという強い批判があります。
 
 憲法学者の小林節教授がこの問題を29日の「ここがおかしい 小林節が斬る」で 取り上げました。この件については21日に「レイバーネットの記事」として一度を取り上げましたが、小林教授の文章はとても理解しやすいので紹介します
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 ここがおかしい 小林節が斬る!  
教員の良心の自由を萎縮させる最高裁判決
小林節 日刊ゲンダイ 2018年7月29日
 アメリカで、トランプ大統領が黒人差別を擁護するような発言をした直後に、あるプロスポーツの開会式場で国歌斉唱の際に、黒人選手が姿勢を正さず、片膝をつき、黒い拳を突き上げた姿が日本でも放映された。それが「自由な社会」というものである。
 
 わが国は第2次世界大戦の加害国だという歴史的背景があるために、今でも「日の丸」と「君が代」については論争が絶えない。日の丸は、アジア諸国を侵略した帝国陸海軍の先頭にはためいていたために、軍国主義の象徴として忌避する者は今でも多い。また、かつて大日本帝国憲法の下で天皇制を称える歌として用いられた君が代は、国民主権国家に生まれ変わった現行憲法の下では違憲だと主張する者も多い
 だから、日の丸と君が代を用いる儀式に素直に参加することができない者も多い。これは、憲法が保障している「良心」の自由(19条)の問題である。
 
 良心の自由に従って卒業式で日の丸・君が代に「欠礼」した公立校の教員が、懲戒処分を受けた。「式の秩序を乱した」ということで、戒告(単に「叱りおく」こと)はいいとしても、減給、停職は荷重である……と、かつて最高裁は判断した。
 今月19日、最高裁は、式の秩序を乱したことに加えて、「生徒への影響も否定し難い」点を重視し、定年後の再雇用拒否も合法だとした。これでは二重のペナルティーであろう。
 
 前述の歴史を考えた場合、教員が良心の自由に従って日の丸・君が代に欠礼した行為は、次代を担う生徒たちが「人権」と公益の関係を考える最高の教材であったはずだ。
 それが当局に全員を再雇用する義務がなかった時期の処分であったとしても、この判決が全国の教育現場を萎縮させてしまう効果に思いが至らない最高裁には失望させられた。
 
 40年も前にアメリカに留学した時に、憲法教授が、高名な元最高裁判事の言葉を引用して、「最高裁判事は、単に法律家であるだけでは足りず、政治的な雅量も必要である」と語っていたことが、今回、頭の中に蘇ってきた。その教員は君が代に欠礼しただけで5年間の職を失ったのである。 
 
 小林節 慶応大名誉教授
1949年生まれ。都立新宿高を経て慶大法学部卒。法学博士、弁護士。米ハーバード大法科大学院のロ客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。「朝まで生テレビ!」などに出演。憲法、英米法の論客として知られる。14年の安保関連法制の国会審議の際、衆院憲法調査査会で「集団的自衛権の行使は違憲」と発言し、その後の国民的な反対運動の象徴的存在となる。「白熱講義! 日本国憲法改正」など著書多数。新著は竹田恒泰氏との共著「憲法の真髄」(ベスト新著)