日曜日朝のTBSの報道番組「サンデーモーニング」で寺島実郎・日本総研理事長が、 「現政権は株価を2倍にしたが、これは日銀がETF買いに約20兆円を注ぎ込み、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が我々の年金基金を株式市場に約40兆円も注ぎ込んだからで、そんな国は世界にない。株が上がる政治ならいいじゃないかでは済まされない(要旨)」
と発言しました。
経済ジャーナリストの町田徹氏が「そろそろ不安になってきた『日銀の日本株大量買い』の終着点 ~ 」という、なんとも婉曲な感じのタイトルをつけた記事を発表しました。
タイトルは婉曲ですがその説くところは明瞭です。
日銀は13年4月~18年3月の間に、計19・3兆円分ETFを買い入れていますが、現行の年額6兆円の買い入れをずっと続けられることはあり得ないので、いつかは(というよりも少しでも早く)買い入れを縮小し最終的にゼロに近くしなくてはなりません。
しかし日銀が買い入れ額を縮小したことが分かると、それに便乗して儲けるために株を買い付けてきた投資家たちは一斉に売りに転じるので、株は大暴落することになります。
それはGPIFについても全く同様で、現在は国民の年金積立金を資金にして株式で約42・3兆円を保有していますが、株が暴落を始めても売り抜けることは許されないので、結局二束三文の株を保有し続けることになります。
株の買い支えを継続している現在こそ持株にはそれなりの含み益がありますが、それをは砂上の楼閣であって、安倍首相が「現在、運用でこれだけの利益を挙げている」などとうそぶく(嘯く)のは大間違いです。最終的にはGPIFは年金資金を大幅に毀損し、日銀は国家の資金をやはり大幅に毀損することになり、その損害は年金資金の喪失となって、年金を老後の生活資金にする国民を襲います。
その時に安倍首相は一体どう責任を取るつもりなのでしょうか。何一つ責任を取らないどころか、おそらく何の責任も感じないことでしょう。
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そろそろ不安になってきた「日銀の日本株大量買い」の終着点
そろそろ出口が必要では
町田 徹※ 現代ビジネス 2018年7月3日
※ 経済ジャーナリスト
出口はどこにあるのか
日銀が日本株を異次元緩和の一環でETF(上場投資信託)を通じて活発に買い入れた結果、その株式市場における存在感が「池の中のクジラ」のような状態になってきた。
日銀の日本株保有額はシンクタンクや新聞社の試算で25兆円前後(時価ベース)と、時価総額の4%近くに達した模様なのだ。すでに日銀が上位10位以内の大株主になった上場企業が全体の4割弱にあたる1446社にのぼるうえ、東京ドーム、サッポロホールディングスなど5社では日銀が実質的な筆頭株主に躍り出たという。
白川方明前日銀総裁が2010年12月に「異例性の強い措置」として、年間買い入れ枠4500億円でスタートした日銀のETF買い入れは、黒田東彦総裁の就任以来4回にわたって買い入れ枠の拡大が行われ、世界経済の混乱に怯える株式相場を強烈に下支えしたこともあった。結果として、株高というアベノミクスの成功を演出する役割も果たしたと言えるだろう。
しかし、同じように異次元緩和で日銀が買い入れてきた国債と違い、株式には償還期限がない。いずれは、買い入れ枠の縮小から始め、最終的にすべて売却する出口戦略が必要な日がやって来る。日銀の保有株が膨らみ過ぎると、混乱なき出口戦略の遂行が難しくなりかねない。
おさらいしておくと、異次元緩和は、黒田総裁が、2013年4月に発表した日銀の「量的・質的金融緩和」の通称だ。そもそもの狙いは、長く続いたデフレから脱却して日本経済を成長軌道に戻すことにあった。機動的な財政政策運営、経済構造(規制)改革と並ぶアベノミクスの3本の矢の1つと位置付けられていた。
ざっくり言うと、2%の物価上昇率を目標として、①資金供給量(マネタリーベース)を2年で2倍にするなどの量的緩和、②長期国債の平均残存期間を2倍にするなどの質的緩和――などを行う金融政策だった。
この中で、大きな柱の1つと位置付けられたのが、日経平均株価や東証株価指数TOPIXなど特定の株価指数に連動するパフォーマンスをあげるように運用する投資信託であり、東京証券取引所などに上場している投資信託でもあるETFを通じた日本株の買い入れだ。
黒田総裁らはこのETF投資を「株式市場のリスク・プレミアムに働きかけることを通じて、経済・物価にプラスの影響を及ぼしていく観点から実施する」と説明してきた。つまり、株価の下支えや吊り上げでアベノミクスの成功を演出することは眼中になく、リスクの大きい株式投資を日銀のETF買い入れによってリスクを小さくし、投資を活発化させることを目指したというのだ。
こうしたことを通じて、企業が市場から資金を調達し易い環境を整えて設備投資を積極化させて経済の活性化に繋げるとか、株を持つ家計が潤って個人消費が活発になって内需が膨らむといった効果を期待していたと言うのだろう。
前述のように白川時代のETF買い入れ枠は年間4500億円と抑制的だったが、黒田時代になると日銀は一転して猛烈な勢いで買い入れ枠を拡大してきた。異次元緩和を始めた2013年4月に年1兆円に、2014年10月に年3兆円に、2015年12月に年3・3兆円に、そして2016年7月に現行の年6兆円に増やしたのだ。
猛烈な買いっぷり
買いっぷりも猛烈である。ニッセイ基礎研究所のチーフ株式ストラテジストの井出真吾氏は、「日銀の出口戦略に関する考察」というレポートで、「日銀は2017年度に6・2兆円分のETFを購入した。年間の買入回数は81回なので、ほぼ3営業日に1回買ったことになる」と指摘している。
この結果、日銀は日本株の大株主になった。井出氏によると、2018年3月末の時点で、日銀のETF買い入れの累計額は19・3兆円、時価ベースの保有額は24.・4兆円に及んだ。その差額の5・1兆円は含み益である
また、日経新聞が先週水曜日(6月27日)付の朝刊で報じた独自試算でも、同じ2018年3月末の時点で、日銀のETF買い入れを通じた日本株の保有残高は時価で25兆円に達したという。これは、東証1部の時価総額(約652兆円)の4%弱に相当する。
日本最大の機関投資家の一つであるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人、保有日本株は約42・3兆円)に次ぐ日本株の第2の大株主に躍り出た格好なのだ。前述の東京ドーム、サッポロホールディングスのほか、ユニチカ、日本板硝子、イオンの3社でも日銀は実質的な筆頭株主らしい。
ここまでくると、改めて日銀のETF投資の功罪を検証しておく必要があるだろう。
株価の押し上げ効果は絶大だった。黒田日銀がETF投資を積極化して以来、ほぼ5年。日経平均株価はほぼ右肩上がりで上昇した。今年1月の年初来高値(2万4124円)は2013年4月の始値(1万2135円)のほぼ2倍の水準だ。株価下支え効果も大きく、株価は現在も高値水準を維持している。
市場関係者の多くは、「株式相場が下げ局面になると、日銀のETF投資が入る」との認識で共通している。例えば、大和証券のシニア・ストラテジストである家入直希氏も先週火曜日(6月26日)付の「日本株需給アウトルック」で、「日銀によるETF買い入れ、(上場企業各社の)自社株買いの下支えで外国人の買戻し局面では高値更新し易い構図」があるとしている。
しかし、こうした状況は、実力より高い株価形成の原因になりかねない。また、創業者などが多くの株式を保有しており、もともと市場に流通する浮動株が少ない企業株の需給関係への影響は見逃せない。
例えば、ユニクロを展開するファーストリテイリングは、ETFに多く組み込まれており、日銀が1兆円ETFを買うごとにファストリ株を200億円買うことになるという。今のペースで計算すると1年後に市場に流通する株がほぼ枯渇してしまう計算だ。
もともと麻薬のようなものだから
ETF買い入れを巡る日銀の動機を巡る黒田総裁の説明の妥当性も検証しておこう。黒田総裁は6月15日の記者会見で従来と同じように「私どものみるところ、ETF買入れを通じたリスク・プレミアムへの働きかけは、やはり一定の役割を果たしている、効果を持ったと思っています」と述べ、胸を張った。
その一方で、肝心のリスク・プレミアムの検証方法について「測り方は色々あります」と相変わらず明言を避けたことに筆者は違和感を覚えずにいられない。
この点について、老舗シンクタンクの日本経済研究センターは、昨年暮れにまとめた「2017年度金融報告」で、リスク・プレミアムを「PER(1株当たり利益)を株価で割った株価益回りと安全資産利子率(10年物国債の利回り)の差」と定義したうえで、異次元緩和の開始以降のその推移を検証した結果、「この間に国債利回りが大きく低下したこと」を指摘しつつ、「リスク・プレミアムの縮小傾向は確認されなかった」と断定、黒田日銀の主張そのものに疑問を投げかけた。
まるで、日銀のETF投資の本当の狙いが株高の演出にあったのではないかと言わんばかりなのである。そもそも、企業の資金調達の環境整備も消費の刺激も、背景に株高があってこそ期待できることである。日銀のいうリスク・プレミアムに働きかける行為とは、まず株高を促すアクションと見るのが適切な評価ではないだろうか。
繰り返しになるが、ETF買い入れは、スタートした当時の白川総裁が「異例性が強い措置」と釘を刺していたように、世界の中央銀行の常識では禁じ手に近い非常措置だ。リーマン・ショック後の危機対応策として、国債など様々な金融資産の購入に踏み込んだFRB(米連邦準備理事会)やECB(欧州中央銀行)も採用しなかった措置なのである。
ここへきてFRBが今年年4回ペースで利上げして金融政策の正常化を急ぐ構えを見せているうえ、ECBもリーマン・ショック後の金融緩和策の収束に舵を切る中で、日銀だけが頑なに異次元緩和を継続することには過度の円安を招くリスクなどが付き纏う。これまで以上に出口戦略を準備しておくことの重要性は増している。
なかでも日銀のETF買い入れは、買い入れ額を減らし始めるだけでも株価の下支え効果が薄れて株式相場が大きく調整する引き金になりかねない。それだけに、予め出口戦略をアナウンスして、市場に驚きを与えないことは重要だ。いずれ償還を迎えて元本が戻る国債と違い、ETFを通じて買い入れた株式は売却するしか出口がなく、市場を混乱させずに処分するのは至難の業とされてきたからである。
その前例として、2016年7月、イギリスのEU(欧州連合) 離脱決定後に株価が急落した際に、日銀がETF購入額を倍増させたケースは参考になる。あれから株価が3割以上高くなる今日に至るまで、日銀が買い入れ枠を元の水準に縮小できずにいるからだ。
方針を転換をせずにETFを買い入れ続ければ、株式市場の混乱を先送りすることはできるかもしれない。しかし、その一方で日銀の保有株が膨大なものとなり、出口戦略が難しくなることも間違いない。ツケがこれ以上膨らむ前に、黒田総裁の対応が求めらる。
もともと日銀のETF買入れは、痛み止めの麻薬のようなもの。そもそもの動機や効果も怪しくなっており、打ち止めにする時期は早ければ早いほどよいということではないだろうか。