6日、オウム真理教事件の死刑囚7人が死刑を執行されました。
通常死刑の執行は事後に法務省が発表し、マスコミはこれを受けて報道します。しかし今回は異例で、例えばフジテレビの『とくダネ!』では、8時45分に速報で「麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚の執行手続を始める 法務省」なるテロップを流し、次に9時5分に「7人の死刑執行手続」と打ち、その後1分おきに「井上嘉浩死刑囚の死刑執行」「中川智正死刑囚の死刑執行」「早川紀代秀死刑囚の死刑執行」などと続けるという、公開処刑の実況中継のような雰囲気でした。
局によっては顔写真の上に次々と「執行」のシールを貼ったということですが、これは政府から予めTVメディアに連絡があったから準備できたもので、要するにこの実況放送まがいの極めて異常な事態は、政府によって演出されたものでした。
死刑の最大の問題点は無実の人が処刑されてしまい、救済のしようがなくなることです。その実例は諸外国でも勿論ありますし、日本でもかつて自民党から民主党に政権が移る直前に、無実を疑われていた死刑囚が自民政権のM法務相によってやにわに死刑が執行された例があります。
国際NGOアムネスティによれば、2017年末時点で、全犯罪に対して死刑を廃止した国は106カ国、執行を停止した事実上の死刑撤廃国も含めれば142カ国にのぼります。
先進国:OECD参加35カ国の中で、死刑制度をもつのは、アメリカと韓国、日本のみですが、アメリカと韓国は刑の執行を事実上停止しているので、国家として死刑を積極的に執行している先進国は日本だけということになります。
しかも、日本のマスコミとりわけテレビメディアでは、こうした死刑制度の本質を議論することが半ばタブーとなっています。明らかに言えることは、「死刑制度」においては日本は普通の国ではないということです。
LITERAの記事を紹介します。
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まるで公開処刑! オウム大量死刑執行を“実況中継”したマスコミの狂気!
死刑執行に世界からは非難の声
LITERA 2018年7月8日
オウム真理教教祖・麻原彰晃(松本智津夫)元死刑囚ら7人への死刑執行に対し、世界から非難の声があがっている。駐日欧州連合(EU)代表部は、EU加盟国およびアイスランド、ノルウェー、スイスの駐日大使と共同で、死刑執行を受けた声明を発表。〈加害者が誰であれ、またいかなる理由であれ、テロ行為を断じて非難する〉としたうえで、このように呼びかけた。
〈しかしながら、本件の重大性にかかわらず、EUとその加盟国、アイスランド、ノルウェーおよびスイスは、いかなる状況下での極刑の使用にも強くまた明白に反対し、その全世界での廃止を目指している。死刑は残忍で冷酷であり、犯罪抑止効果がない。さらに、どの司法制度でも避けられない、過誤は、極刑の場合は不可逆である。日本において死刑が執行されなかった2012年3月までの20カ月を思い起こし、われわれは、日本政府に対し、死刑を廃止することを視野に入れたモラトリアム(執行停止)の導入を呼びかける。〉(駐日欧州連合代表部が公表した仮訳より)
また、国連の人権高等弁務官事務所は、JNNの取材に対し文書で回答。〈死刑は人権上不公平な扱いを助長〉〈他の刑罰に比べ犯罪抑止力も大きくない〉〈麻原死刑囚ら7人の死刑が執行されたことを遺憾〉としているという。
しかし、こと日本ではまったく逆の空気に覆われている。たとえば、オウム事件を追ってきたジャーナリストで参院議員の有田芳生氏が、執行当日の6日に出演した『情報ライブ ミヤネ屋』(読売テレビ)で、麻原元死刑囚ら7人への死刑執行についての疑問点を述べるなかで、法務省幹部の『(13人の同時執行は)ありませんよ。そんなことをやったらジェノサイドです』という言葉を紹介した。すると放送後、Twitterでは有田氏を中傷するこんな投稿で溢れたのだ。
〈ジェノサイド?有田も死ねばいいのに〉
〈あまりにも加害者擁護に怒りさえ覚えた〉
〈これを「ジェノサイド」と言うのならば有田氏及びミヤネ屋はテロ支援団体と言っても過言では無い〉
〈あんだけ人を殺したら死刑が当然!それを批判するあんたは同罪!〉
死刑について批判的な言葉を紹介しただけで「お前も死刑だ」と炎上させられる日本の空気は、ファナティックとしか言いようがない。有田氏があらためて本サイトに対してこう語る。
「『ジェノサイド』というのは、法務省幹部の発言です。私が『13人を同時に執行するのですか?』と聞いたところ、『ありえない。そんなことやればジェノサイドですよ』と、まさしくその言葉がありました。Twitterでも聞き取りに基づいて6月2日に書いたメモの内容を公開しています」
法務省の幹部すら、13人を同時に死刑に処すのは「ジェノサイド」=虐殺だと言っているのだ。死刑制度が誰がどう見ても「国家による殺人」に他ならないでことを考えれば当然の表現であり、7人でもジェノサイドに変わりはない。では、なぜ安倍政権は前例のない同時死刑執行に踏み切ったのか。有田氏は「時期」に着目してこう見立てる。
「現在、開会中の国会では、安倍政権が推し進めているIR法案(カジノ法案)が審議されており、来週には山場を迎えます。また、9月には自民党総裁選もある。安倍首相からすれば森友・加計学園問題も一段落したと思っているいま、戦後最悪のテロ事件の首謀者への刑を執行することで、世間から“毅然とした政権”と受け取られての支持率アップも期待していることでしょう。執行後、ある法務省関係者は上川法相のことを『死神ですね』と漏らしていました。法律専門家の目にもそう映っているということです。まさに政権の思惑を強く感じる異常な死刑執行と言わざるをえません」
先進国で、いまだに国家として積極的に死刑を執行しているのは日本だけ
もちろん、7人もの同時執行は「ジェノサイド」というべき異常なものだが、本質はその数ではない。冒頭で紹介したように、事実、国際社会は明確に死刑そのものを否定し、多くの国で死刑制度は廃止されている。
国際NGOアムネスティによれば、2017年末時点で、全犯罪に対して死刑を廃止した国は106カ国、執行を停止した事実上の死刑撤廃国も含めれば142カ国にのぼる。これは国連加盟国の3分の2を優に超えるものだ。
先進国ではこの傾向はさらに顕著だ。死刑制度撤廃を加盟条件にしているEU加盟国はもちろん、スイス、ノルウェー、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、メキシコ、ウルグアイ、トルコ、イスラエル……。実は、OECD参加35カ国の中で、死刑制度をもつのは、アメリカと韓国、日本のみ。しかも、アメリカはこの10年で死刑執行したのはテキサス州など、一部の州に限られている。韓国は1998年の金大中政権発足以降刑が執行されておらず、2007年にはアムネスティに事実上の死刑廃止国と認定されている。OECD非加盟国では、あのロシアでさえ死刑執行は1996年を最後に停止、その後憲法裁判所も死刑を禁止しており事実上廃止されている。言うなれば、国家として死刑を積極的に執行している先進国は日本だけなのである。
死刑廃止は国際社会の大きな潮流であることは、まぎれもない事実だ。ところが、日本では全く逆の現象が起きている。繰り返すが、死刑について少しでもネガティブな発言をすると「被害者家族のことを考えろ、お前も同罪だ」というバッシングが一斉に襲いかかり、世論の死刑を求める声はどんどん大きくなっているのだ。
なぜか。死刑制度を支持する人たちがまず口にするのは、犯罪が凶悪化しており、抑止のために必要という論理だ。しかし、これはデマに近い。というのも、この20年間の犯罪統計を見れば、凶悪犯罪や殺人事件は明らかに減少傾向にあるからだ。増加しているように見えるのは、厳罰化や予算拡大を狙う法務当局・警察の情報操作と、それを受けたマスコミの過熱報道が原因だろう。
そもそも、「死刑があればそれを恐れて凶悪犯罪が減少する」という“抑止効果論”も、「根拠がない」というのが世界の共通認識だ。たとえば、1981年に死刑を廃止したフランスの統計でも廃止前後で殺人発生率に大きな変化はなく、1997年12月に1日で23人が処刑された韓国においてもやはりその前後で殺人発生率に違いはなかったという調査報告がなされている。他方、人口構成比などの点でよく似た社会といわれるアメリカとカナダを比較すると、死刑制度を廃止して40年が経つカナダの方が殺人率は低いというデータが現れている。
だが、日本のマスコミ、とりわけテレビメディアでは、こうした死刑制度の本質を議論することが半ばタブーとなっており、ほとんど正面から扱おうとしない。それどころか、今回の麻原元死刑囚ら7名の執行に際しては、これまで以上に底が抜けた状態としか言いようのない異常な報道が相次いだ。
6日朝、テレビは一斉に死刑執行を速報で伝えたが、それはまるで「中世の見世物」か何かかと思えるほど“ショー化”されていたからだ。
死刑囚の写真に「執行」シールを次々と貼り付けたフジテレビ
たとえば、フジテレビの『とくダネ!』では、8時45分に速報で「オウム真理教の教祖 麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚の執行手続を始める 法務省」なるテロップを流した。他局も同様に「麻原死刑囚 死刑執行へ」などと速報した。通常、法務省は刑を執行したのちに発表し、マスコミはこれを受けて報道するもので、今回の報じられかたは異例中の異例だ。
さらにテレビ各局は、麻原元死刑囚に続いて「執行」に入った死刑囚の名前を次々に速報し、逮捕時の映像等を流した。たとえばフジテレビは9時5分に「7人の死刑執行手続」と打ち、1分おきに「井上嘉浩死刑囚の死刑執行」「中川智正死刑囚の死刑執行」「早川紀代秀死刑囚の死刑執行」などと続けた。
特別報道番組のなかでも、死刑囚の顔写真に「執行」とのシールを次々に貼り付けていった。その様子はさながら「今からこの人が死刑になりますよ」「たった今死刑になりましたよ」というリアルタイムの実況中継であり、ネットでも視聴者から「まるで公開処刑だ」などの多くの懸念があがった。
一方で、コメンテーターらの口からは、死刑制度の是非についてはもちろん、麻原元死刑囚ら7人への執行について正面から疑問を投げかける場面はほとんどみられなかった。法務省幹部の「ジェノサイド」発言を伝えた前述の有田氏は極めて稀なケースだったのだ。
もちろん、マスコミが公権力による刑罰執行の動向を察知し、それを報じること自体に問題はない。しかし、「国家による殺人」を今か今かと待ち構え、執行された元死刑囚の顔にシールまで貼り付けて行くような姿は、公開処刑が行われていた中世のようなメンタリティと変わらないだろう。
しかも、安倍政権はむしろ、こうした国際社会と乖離した状況を、積極的につくりあげている。事実、前述のとおり、死刑がなされる前に「執行手続が始まった」などとメディアが速報することはこれまで前例がなく、政権側から事前のリークがあったとしか考えられない。また、NHKは死刑執行前の7時ごろ、執行に立ち会う検察関係者と見られる人物たちが東京拘置所に入る模様を撮影、死刑執行後には繰り返しその映像を流していた。前段階で確かな筋からの情報を得ていないとできない行動だろう。
安倍首相は死刑執行の前夜5日、自民党の宴会に参加。産経新聞によればこの会は上川法相が「女将」役をしており、SNSには安倍首相や自民党幹部らが笑いながら酒を傾ける姿がアップされた。7人に死刑を執行する前日に乾杯する総理大臣と法務大臣。神経を疑わざるをえないが、これがこの国のグロテスクな現状なのだ。(編集部)