2018年7月17日火曜日

新設砂防堰堤の限界降水量は住民に告知されていたのか(日々雑感)

 ここに紹介する「日々雑感」氏のブログ記事は、実際に今月6日に起きた悲劇に関連し、かなり専門的な見地から書かれたものです。関係者は大いに参考にすべきです。
 引用記事の中に、「山の上の岩が数千年そこにとどまっていたとして、それが明日落ちてこない保証はない」という言葉が記されていますが、これも特に原子力規制委員会のメンバーには良く認識しておいて欲しいものです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
新設砂防堰堤で対応できる想定降水量が住民に告知されていたのか。 
日々雑感 2018年7月16日
<2014年、広島市内で77人が死亡した土砂災害を経て、同市安芸区に今年2月に完成したばかりの治山ダム。しかし、西日本豪雨で大量の土砂がダムを越え、団地の住民4人が亡くなった。ダムの建設を10年以上、要望してきた男性の18歳の孫も行方不明に。「ダムができて安心してしまったんよ」。やりきれない思いが消えない。
 
 広島市安芸区矢野東7丁目の梅河(うめごう)団地。豪雨に見舞われた6日夜、約60棟の民家のうち約20棟が土砂にのまれ、倒壊した。
 団地に住む神原(かんばら)常雄さん(74)は、10年以上前から「砂防ダム」の必要性を市に訴えてきた。
 きっかけは、1999年6月、広島県内で32人の死者・行方不明者が出た豪雨だった。知人の工場にも土砂が流れ込み、犠牲者が出た。「同じことになっちゃいけん」と考えた。
 
 気になっていることもあった。団地の端の、山の斜面に接した部分に深さ2メートルほどのため池があった。引っ越してきた四十数年前、ここでコイを飼っていたが、雨が降るたび少しずつ浅くなる。三十数年で池は砂で埋まった。山の斜面が削れ、池に砂がたまっていったのでは――。「これは危ない」と神原さんは動き始めた。
 市役所に足を運び、「砂防ダムを造ってほしい」と訴えた。「通い続けていると、だんだん『切実なんじゃねえ』と取り合ってくれるようになった」
 14年8月、広島市の安佐南区、安佐北区で77人が犠牲になる土砂災害があり、いよいよ、行政の動きも加速した。昨年8月、県は梅河団地の奥で土石流を未然に防ぐ「治山ダム」の建設に着手。予算4750万円。幅26メートル、高さ8メートルのダムが今年2月、完成した。
 
 着工直前に団地の集会所で開かれた説明会。「これで安心じゃね」と住民らが言葉を交わす中、県や市の職員が繰り返しこう訴えていたのを、神原さんは覚えている。
 「これで安心できるわけではありません。何かあったら必ず逃げて下さい」
 
 団地が土砂に襲われる数時間前の、今月6日午後。神原さんは高校の期末試験を終えた孫の植木将太朗さん(18)を車で迎えに行き、同じ団地内の孫の家まで送った。
 夜になり、雨が強まった。孫の家は50メートルほどしか離れていないが、山の斜面に近い。外出していた将太朗さんの母親に電話し、将太朗さんを自分の家に避難させるよう伝えた。「すぐに行かせる」と返事があった。
 
 その数分後、「ドドーン」という音が響いた。外を見ると、土砂が崩れ、山側の家々が潰されていた。半壊した隣家から「助けて」と叫び声が聞こえた。降りしきる雨の中、隣の家の人を窓から必死で引っ張り出した。避難してくるはずの将太朗さんの姿は、どこにも見えなかった。
 「あと1分、わしが早く電話していたら、助かっていたかもしらん」。「いくら役所の人に『安心しちゃいけん』と念押しされてもね、やっぱりダムができてうれしかったし、安心してしまったんよ」。そう振り返る。
 
 あの後、崩れた団地を歩き回り、将太朗さんの名前を呼んでみた。返事はなかった。
 「山の上の岩が数千年そこにとどまっていたとして、それが明日落ちてこない保証はない。しょうがないんよ。そう思うことにしている」
(以上「朝日新聞」より引用)
 
 私は2014年8月の安佐南区の土砂災害に際して崩落した沢に砂防堰堤の痕跡すらないのに驚いてブログを書いた。このブログ綴りのバックナンバーを調べられたらお解りと思うが、涸沢であろうと溝が掘れていることは豪雨の際は雨水の通り道になっている証拠だ。
 そうすると普段は水が流れていないから様々な倒木や雑草などが折り重なっていて、一時的な「池」を作って豪雨で決壊すれば勢いを増して下流の宅地を直撃するのは目に見えていた。
 だから砂防堰堤は涸沢にも必要だと書いた。上記記事には安芸区の住民が砂防堰堤の必要性を行政に訴えてやっと今年二月に実現したばかりだとある。だから安心もあったと。
 
 しかし現実は砂防堰堤を超えて大岩が転がって団地を土砂とともに直撃した。砂防堰堤の設計ミスだといわざるを得ない。いったい砂防堰堤を設計した者はどの範囲の土砂がその堰堤に集まると想定したのだろうか。
 二本の涸沢が途中で合流して一本となり、山の斜面を下っているのが分かる。そうすると砂防堰堤の設計段階で相当広範囲の土砂を受け止める堰堤でなければならなかったはずだ。
 あるいは合流するまでの二本の涸沢にもそれぞれ相当の砂防堰堤が必要だったはずだ。そして行政は設計者を伴って砂防堰堤を設置する際の地元住民説明会で、設置した砂防堰堤が有効なのは一時間当たり何ミリまでの降雨までで、それを超えた場合は設置した砂防堰堤の容量を超える可能性があるため避難すべきだ、と説明したのだろうか
 何事も科学技術には性能に想定限度がある。航空機でも想定Gを超えると空中分解する恐れがある、と使用者に対してキッチリと説明してある。
 
 乗用車でもそうだ。工業製品も使用に際しての想定限界を決めて開発・製造している。砂防堰堤だけが想定限度を利用者に対して説明していないということはあり得ない。
 あったとすれば行政の怠慢だし、行政の怠慢を漫然と見過ごした議会の責任だ。そうした基本的な科学技術の常識すらない議員が大きな顔をして「議案」を決議してもらっては困る。
 議員に専門知識がないとすれば、なぜ委員会などに然るべき専門家を招致して意見聴取しないのだろうか。安芸区の土砂災害は砂防堰堤が無駄だったのではない。砂防堰堤の容量や能力を住民にキッチリと公報しなかった行政の責任であり、行政にそうしたことを質問すらしなかった市議会の責任だ。