ポンペオ米国務長官は、6~7日に平壌で米朝高官協議を行い、帰路日本に立ち寄り、安倍首相と会談したほか日米韓3か国外相会議を行いました。外相会議では、北朝鮮に核と弾道ミサイルの「完全かつ検証可能で不可逆的な廃棄(CVID)」を実現させるため、結束する方針を確認しました。
一方北朝鮮の外務省報道官は7日、米朝高官協議について、「米側の態度と立場は実に遺憾だった。米国は、終戦宣言問題を先送りし一方的に非核化要求だけを持ち出した」として、「朝米関係は強固になるどころか、われわれの非核化の意志が揺らぎかねない事態に直面することになった」」と批判し、北朝鮮の安全を保証する具体的措置を早期に取るよう、米側に譲歩を迫る談話を発表しました。
同時に、「トランプ大統領に対する信頼感は保持している」として、協議に先立ち金正恩委員長のトランプ米大統領宛ての親書をポンペオ氏に手渡したことも伝えました。
トランプ大統領は、6月22日、それまでの態度を変え、北朝鮮を「尋常でない脅威」だと述べて、制裁をさらに1年間続けると言明しました。今回、ポンペオ氏が取った態度はいわばボルトン氏の路線に戻ったもので、トランプ氏がボルトン路線を否定したことで6月12日の歴史的合意が達成されたのを、再びひっくり返すようなものでした。
日本政府がそうした感覚が失っているのは不思議なことですが、相手に対して一方的な降伏を要求するようなことをしても北が応じる筈はありません。
米朝首脳会談に向ける動きのなかで中・朝(そしてロ・朝)の結束が強化され、ロシアと韓国の間では北朝鮮を経由したガス供給ラインの建設計画が取り上げられるなど、朝鮮半島をめぐる情勢の中でいまやアメリカは主導権を握られなくなりましたが、だからと言って「ちゃぶ台返し」をするというのではあまりにも子供じみています。
櫻井ジャーナルの記事と、北朝鮮の談話を伝える東京新聞の記事を紹介します。
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朝鮮半島の和平交渉で主導権を握れない米国が強圧的な主張
櫻井ジャーナル2018年7月8日
アメリカのマイク・ポンペオ国務長官が7月5日から7日にかけて朝鮮を訪問、非核化について話し合ったようだ。ポンペオ長官は「建設的だった」と評価したが、朝鮮側はアメリカの姿勢を遺憾だと批判している。
4月27日に板門店で韓国の文在寅大統領と朝鮮の金正恩労働党委員長は「朝鮮半島の非核化」で合意、6月12日にシンガポールでドナルド・トランプ米大統領と金労働党委員長で会談した際にもこの合意を再確認していたのだが、今回、ポンペオ長官は朝鮮の一方的な核の放棄、つまりアメリカへの降伏を主張したようだ。アメリカ政界の主流の意見に沿った発言をしたと言える。
朝鮮の一方的な核の放棄を朝鮮側が受け入れないだろうということをアメリカ側も理解しているはずで、ポンペオ長官が今回、そうした主張をしたとするならば、6月12日の米朝首脳会談で進み始めたかに見えた和平の動きにブレーキをかけ、場合によっては潰そうとしていると思われても仕方がない。
トランプ米大統領の朝鮮に対する表現が6月22日には変化している。朝鮮を「尋常でない脅威」だとし、制裁を続けるとしたのである。その日、韓国の文大統領はロシアでウラジミル・プーチン大統領と会談、平和的な朝鮮半島の非核化を目指すことで一致、国境を越えたエネルギー・プロジェクトを推進し、FTA(自由貿易協定)に関する話し合いを始めることで合意したという。
朝鮮が核兵器の爆破実験やミサイルの発射実験を繰り返し、東アジアの軍事的な緊張を高めていた当時から文政権はロシアとの経済交流を発展させようとしていた。朝鮮の行動はアメリカ支配層にとって好ましいもので、韓国政府の動きは逆だったと言える。
現在、アメリカは関税の引き上げで各国を脅している。トランプ大統領は国内製造業が落ち込んだ原因を外国にあると主張しているが、真の原因がアメリカの新自由主義的な政策による製造業の国外への移転にあることは本人も理解しているだろう。アメリカの支配システムを立て直そうとしているようにも見える。
アメリカが世界を支配する道具はいくつかある。例えばドル、石油、軍事力。麻薬が重要なファクターだ。ドル体制から離脱する意思を示していたイラクやリビアは軍事力で破壊したが、現在は中国やロシアがドル離れの中心的な存在。この両国に対し、必死に圧力を加えているが、思惑通りに進んでいるとは思えない。
ドル体制を守る重要な仕組みのひとつがペトロダラーだということは本ブログでも書いてきた。その中心的な国がサウジアラビア。そのサウジアラビアに対してアメリカ政府は石油の増産を強要、その一方でイランからの石油輸入をゼロにするよう各国を脅している。
イランはロシアと同盟関係にあり、イスラエルやサウジアラビアが敵視している。アメリカは韓国や日本に対してもイランからの石油輸入を止めるように要求しているが、そう簡単にはいかない韓国はイランからの輸入を止めると報道されたが、これは韓国政府が否定した。
アメリカはEUへの圧力を強めるため、ロシアからの天然ガス輸送を断ち切ろうとしてきた。2014年にウクライナでネオ・ナチを使ったクーデターが実行されたひとつの理由はそこにある。現在、ノード・ストリーム2プロジェクトを止めようとしている。
クーデターの結果、そのウクライナではネオ・ナチが跋扈する破綻国家だ。そのウクライナでふたつのネオ・ナチ政党、「ウクライナ社会ナショナル党(後にスボボダへ改名)」や「ウクライナ愛国者党」を創設、クーデター時には狙撃を指揮していたと言われるアンドレイ・パルビーが国会議長としてアメリカを訪問、議員たちに歓迎された。
もし、朝鮮半島の和平が実現したなら、天然ガスや石油のパイプラインやシベリア横断鉄道が朝鮮半島を南下してくる。そうなると中国の海上輸送ルートを押さえてもロシアの影響力が増すだけ。軍隊や情報機関をアメリカ支配層が押さえているとはいうものの、韓国は自立へ向かうだろう。アメリカの政策で経済が落ち込んでいる日本もどうなるかわからない。
「非核化意志揺らぎかねない」北朝鮮、米との協議を批判
東京新聞2018年7月8日
【北京=城内康伸】朝鮮中央通信によると、北朝鮮外務省報道官は七日、談話を発表し、六~七日に平壌で行われたポンペオ米国務長官と朝鮮労働党の金英哲(キムヨンチョル)副委員長との米朝高官協議について「米側の態度と立場は実に遺憾だった」と批判した。非核化を先延ばしにする狙いがある一方、自国の安全を保証する具体的措置を早期に取るよう米側に譲歩を迫った。
談話によると、北朝鮮側は「朝米関係は強固になるどころか、われわれの非核化の意志が揺らぎかねない危険な局面に直面することになった」と警告し、米側に揺さぶりをかけた。
また、英哲氏が協議に先立ち、金正恩(キムジョンウン)党委員長のトランプ米大統領宛ての親書をポンペオ氏に手渡したと伝えた。親書には、米朝首脳会談で交わした友好関係とトランプ氏への信頼をより強固にしたいという正恩氏の「期待と確信」が記されているという。
談話によると、北朝鮮側は朝鮮戦争(一九五〇~五三年)の終戦宣言発表に関する問題や大陸間弾道ミサイル(ICBM)エンジン実験場の廃棄、米兵遺骨返還などの問題を巡り「双方が同時に行う措置」を話し合うよう提案した。
しかし、米側は「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」や核計画の申告・検証など「一方的に非核化要求だけを持ち出した」とし終戦宣言問題を先送りする立場を取ったと主張した。
ただ、「トランプ大統領に対する信頼感は保持している」と付け加え、米国との対話継続を求める姿勢も明らかにしている。