これまで新宿区では4つの公園がデモ出発地・集合地点として市民に開放されてきましたが、突然、区の一部長の判断で「新宿中央公園」だけに限って許可することに変更され、それが6月27日に区議会に報告され、8月1日から実施されることになりました。
憲法21条で保証された「表現の自由」が、区役所の部長決裁で制限されることになったわけです。
その前段には、今月12、13日にあった新宿区議会で自民と公明の議員が「近隣住民が騒音などにより迷惑している。今後規制していく考えはないのか?」などという質問がありました。「やらせ」の質問としか思えません。
近隣住民が迷惑しているのはいわゆる「ヘイトスピーチ」を伴うデモの方で、通常のデモは整然としたものです。デモ隊が通過する間に起きるシュプレヒコールなどは、「表現の自由」を守るために住民が受容すべきものであるし、実際にその程度の雑音に過ぎません。
ところが新宿区は、「区民の生活環境の確保」のためのデモ規制であるとして、「ヘイトスピーチ」の規制には関心を示しませんでした。
安倍政権の意向を「忖度」する姿勢が、地方政治にも蔓延し始めたようです。
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日本外交と政治の正体
世界に逆行…東京新宿のデモ規制は「民主主義崩壊」の表れ
孫崎享 日刊ゲンダイ 2018年7月7日
デモは特定政策に対して国民が自らの立場を表明する貴重な手段であり、世界的に見ると、デモで政治を変えようとする動きが顕著である。
米国フロリダ州の高校で17人が死亡した銃乱射事件では、銃規制の強化を求めるデモが全米で繰り広げられた。韓国では2016年11月12日、30年ぶりに100万人以上が参加したキャンドル集会(ろうそくデモ)が開かれ、これを機に朴槿恵政権は退陣に追い込まれ、文在寅大統領が誕生。今も高い支持率を維持している。ロシアでも、プーチン大統領の4期目就任式を前に、全土でデモが展開された。
今や「独裁国家」を除き、世界各地の首都でデモが展開されるのは当たり前だ。ところが日本ではそうではない。
東京・新宿区は、街頭デモの出発地として使用を認める区立公園を、これまでの4カ所から1カ所に限ることを決めた。区内で行われたデモは昨年度77件あり、うち、60件は今後は使えなくなる3つの公園から出発している。ヘイト行為対策と説明しているが、77件中、ヘイト行為は13件。デモを規制しようとする意図は明らかだ。
日本各地で行われているデモは今の安倍政権の政策に反対、抗議する目的がほとんどだ。新宿区長が「民主主義を破壊したい」という理念を持っているとは思いたくない。しかし、区長がデモ規制に動けば、政権サイドから「よくやった」と称賛されるのかもしれない。
民主主義が崩壊する理由のひとつとして、指導者に対する媚びへつらいがある。森友・加計疑惑で明らかになったのは、霞が関官僚が「国民のために何をなすべきか」でなく「安倍首相が喜ぶか否か」を行動基準にして「忖度」していた疑いだったが、それが地方政治にも蔓延し始めたようだ。
歴史を見ると、「独裁国家」ほど「民主国家」や「人民国家」を標榜するケースが多い。自民党は2005年に「立党50年宣言」を行った。そこでは「わが党は民主主義のもとに」と掲げられていたが、実は政策が「自由」や「民主主義」とかけ離れているからこそ、あえて「自民党」と名乗っているのではないか。
日本は戦後、民主主義国家の道を歩んできたが、今、あらゆるところで、逆行する動きが表面化している。
孫崎享 外交評論家
1943年、旧満州生まれ。東大法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。66年外務省入省。英国や米国、ソ連、イラク勤務などを経て、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大教授を歴任。93年、「日本外交 現場からの証言――握手と微笑とイエスでいいか」で山本七平賞を受賞。「日米同盟の正体」「戦後史の正体」「小説外務省―尖閣問題の正体」など著書多数。
ロコツに憲法違反 新宿区のデモ規制、8月1日から
田中龍作ジャーナル 2018年6月25日
憲法21条で保証された「表現の自由」が区役所の部長決裁ひとつで制限される。狙い撃ちされたのは「最賃デモ」や「安倍デモ」の集合地点となる新宿区の公園だ。
新宿柏木公園発の「最賃デモ」を毎月、行っている団体の代表が、きょう午前、新宿区役所「みどり公園課」にデモ申請(8月1日実施)に行った。これまでは、その日のうちに許可が出ていた。
ところが、きょう「みどり公園課」は許可を出さなかった。団体の代表が理由を尋ねると「使用基準の見直しを進めているため」という答えが返ってきた。
これには前段がある。今月12、13日にあった新宿区議会本会議で自民と公明の議員が質問した。「近隣住民が騒音などにより迷惑している。今後規制していく考えはないのか?」などとする内容だった。
吉住健一区長は「今後、それぞれの公園が置かれた周辺環境や地域からの声も踏まえ、デモの出発地として使用できる公園の基準の見直しを検討していく」と答弁した。
やらせ質問に、 新宿区長は 待ってました とばかりに答えた・・・そんな感がたっぷりあった。
近隣住民が迷惑しているのは「ヘイトスピーチ」である。「最賃デモ」や「安倍辞めろデモ」は整然としたものだ。ただし安倍政権にとっては後者2つのデモの方こそ目障りである。
やらせ質問の1週間後(今月20日)に、驚くべき決定がなされた。「デモ出発地としての公園の使用基準」を見直すというのである。条例ではなく部長決裁の内規の見直しだけだ。見直しの内容はこうだ―
新宿区では「柏木公園」「花園西公園」「新宿中央公園」「西戸山公園」のデモ使用を許可していたが、「新宿中央公園」だけに限って許可する。
憲法21条で保証された「表現の自由」が区役所の部長決裁で制限されることになるのだ。条例ではないので議会で採決する必要はない。
デモ申請を認められなかった団体はきょう午後、新宿区役所に吉住区長を訪ね、見直しの撤回を求めた。吉住区長は公務外出中であったため、総務部秘書担当の森基成部長が対応した。森部長は団体の要望を受け止めるだけだった。
筆者は 「規制の法的根拠は何か?」 と尋ねた。
森部長 「公園の目的外使用ということで認めてきた」
筆者 「(区の)公園管理権に基づくものか?」
森部長 「そういうことです」
憲法に抵触する可能性が高い新宿区の公園使用基準の見直しは、27日に議会に報告され、8月1日から「適用」される。条例ではないので「施行」ではない。お手軽で露骨で悪質な規制だ。
全国の自治体が新宿区にならえば、「最賃あげろ」「安倍辞めろ」と声をあげることはできなくなる。
吉住健一区長は日本会議のメンバー。日本会議首都圏地方議員懇談会の幹事に名前を連ねる。名前をクリックすると吉住区長のHPに飛ぶ。都議時代の2012年には、尖閣諸島を購入するよう都庁に要請を掛けたほどだ。
規制すべきはヘイトスピーチだ。だがヘイトと親和性の高い日本会議の区長はそれを規制せず、安倍官邸に不都合なデモを規制した。
〜終わり~
全国初、新宿区の一般デモ規制 行政の独断で公園使用禁止
田中龍作ジャーナル 2018年6月27日
議会も憲法もあったものではない。「そこどけ、そこどけ、新宿区政が通る」だ。
新宿区みどり土木部は、きょう(27日)、開かれた区議会の環境建設委員会に「公園の使用を規制する新基準」を報告した。憲法21条「表現の自由」に抵触しかねない新基準は、8月1日から適用される。議会に諮ったのではない。理事者として議会に通告したのである。
新基準とは ―― 新宿区ではこれまでデモの出発地として「柏木公園」「花園西公園」「新宿中央公園」「西戸山公園」のデモ使用を許可していたが、「新宿中央公園」だけに限って許可する。
新宿中央公園はPFI(公共施設の民間運営)化される計画があり、イベントが目白押しとなることは避けられない。デモは二の次にされる。他の3公園の使用禁止は、そのまま憲法21条「表現の自由」の制限となるのだ。新宿区はデモのメッカ。かりにPFI化されなくても、中央公園だけでは多くのデモに対応できない。
27日にあった環境建設委員会で共産党をはじめとする野党は、公園を所管する「みどり土木部」を厳しく追及した。立憲民主党の小野裕次郎議員は次のように質した。
“日弁連は公園使用の申請を拒否できるのは「施設を利用することによって他の基本的人権が侵害され公共の福祉が損なわれる場合に限られる」としている。公園条例に縛る文言を入れると憲法違反の恐れがある。いち委員会で論じる話ではないし、ヘイトスピーチ条例のほうを作るべきだったのではないか”。
依田治郎・公園課長の答えがふるっていた。「ヘイトスピーチよりは、区民の生活環境の確保とデモ活動の場の確保を本当に考えてこうなった」。
田中孝光・土木部長は筆者のぶら下がりに「憲法違反にはあたらない」と答えた。その表情は悲愴だった。
今回の「公園使用基準の見直し」はあまりに早手回しだった。
先月25日に町内会から要請が出(出させた?)→ 12日に自民議員がデモ規制を促すかのような質問 → 区長は待っていたかのように「見直しを検討する」と表明 → 20日、公園使用基準の改訂→8月1日、新基準の適用。
憲法21条「表現の自由」に抵触するかもしれない公園使用基準の見直し・・・公務員の一存でこんな大胆な決定ができるだろうか? 森友学園への国有地売却をめぐる文書改ざんのように、背後から大きな力が働いていたのではないだろうか。
共産党の雨宮武彦・新宿区議会議員は「議会軽視ではないか」と土木部に苦言を呈した。
小野議員の同僚議員が法律家のネットワークと国会図書館で調べたところ、デモが出発する公園をたった一つに限っている自治体はない、という。このまま行けば新宿区が全国初となる。
〜終わり~