年明けの3日に米軍によるイランのソレイマニ司令官ら7人の爆殺があり、中東情勢は極限の緊張状態を迎えています。イランの反撃に対して米軍が一旦自制したことをもって危機は鎮静したかのように見なすのは大間違いです。イラクやイラン国内の民兵組織は独自路線をゆく筈ですし、イスラエルはイラン攻撃の事実上のフリーハンドを米国から与えられていると見做されています(別掲の記事参照)。
そんななか政府は自衛隊の中東派遣を見直そうともしないで、河野防衛相は第一陣として海上自衛隊のP3C哨戒機2機を11日に出発させました。第二陣の護衛艦「たかなみ」出航は2月2日で、派遣の規模は全体で260人程度になるということです。
政府は「調査・研究」という建前を隠れミノにしていますが、田中淳哉弁護士は、「米中央海軍司令部に幹部自衛官を派遣し情報共有することが決まっており、実態は有志連合への参加と大差がない。このまま派遣すれば、自衛隊が有志連合の一員とみなされて攻撃を受けたり、米軍が攻撃を受けて自衛隊がその『後方支援』を担うこととなったりする危険性が極めて高い」と警告しています。
元外務官僚の孫崎享氏も、「イランを包囲する有志連合軍の近辺に自衛隊がいればイランは当然その一員とみなすし、派遣目的の『調査』は軍事偵察、敵対行動であり、軍事偵察を受ける側が軍事行動を起こした例は過去多くある」(しんぶん赤旗)と警告しています。
好戦性を隠さない安倍政権の愚かさは計り知れません。
第二東京弁護士会が「日本が自衛隊を中東海域へ派遣することに反対する会長声明」を出しました。
中東派遣の違憲性・違法性を綿密に説いています。
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日本が自衛隊を中東海域へ派遣することに反対する会長声明
2020年(令和2年)1月10日
第二東京弁護士会
会長 関谷文隆
19(声)第8号
1 政府は、2019年12月27日、「中東地域における日本関係船舶の安全確保に関する政府の取組について」(令和元年12月27日国家安全保障会議決定及び閣議決定。以下「閣議決定」という。)により、「自衛隊による情報収集活動」として、ヘリコプターを搭載する護衛艦1隻で構成される部隊を編成して新たに派遣するとともに、既にソマリア沖の海賊対処行動に従事中の哨戒機P-3C対潜哨戒機を、中東アデン湾等の海域に派遣することを決めた。
2 今回の派遣は防衛省設置法第4条第1項第18号「調査及び研究」の規定に基づくものであると説明されている。
しかし、防衛省設置法第4条は、防衛省の所掌事務を定めた規定にすぎないものであるところ、同法第5条は、自衛隊の任務、行動及び権限等は「自衛隊法の定めるところによる」としており、その自衛隊法は、自衛隊の調査研究について対象となる分野を限定的に定めている(第25条、第26条、第27条及び第27条の2など)。
そもそも、日本国憲法前文及び第9条の戦争の放棄(同条第1項)、戦力の不保持・交戦権の否認(同条第2項)の定める恒久平和主義のもとでは、自衛隊の任務及び権限は厳格にとらえられるべきである。今回の自衛隊の中東海域への派遣は、自衛隊法に基づかずに実施され、国民の代表によって構成される国会の関与なく閣議決定のみで決められた点で、自衛隊の活動に対する歯止めがなくなり、立憲主義、法治主義及び国民主権に反するものといわざるを得ない。
3 今回の派遣は、米国が、2018年5月に「イラン核合意」を離脱後、ホルムズ海峡を通過するタンカーへの攻撃等が発生していることから、同海峡の航行安全のため、日本を含む同盟国に対して、有志連合方式による艦隊派遣を求めてきたことが背景にある。政府は、イランとの友好関係に配慮し、「中東地域の航行の安全に係る特定の枠組みには参加せず、自衛隊の情報収集活動は我が国独自の取組として行うものである」と説明する一方で、「諸外国等と必要な意思疎通や連携を行う」としており、具体的には、情報を共有するための連絡要員を、バーレーンにあるアメリカ海軍の司令部に送ることを検討していると報じられている。
武力行使を許容している米国及び有志連合に対して、自衛隊が情報を提供し共有するとなれば、日本国憲法第9条が禁じている「武力の行使」と一体化するおそれがある。
4 また閣議決定は、自衛隊による情報収集活動の結果、不測の事態が発生するなど状況が変化し、当該状況への対応として、自衛隊による更なる措置が必要と認められる場合には、自衛隊法第82条の規定に基づき、海上警備行動を発令して対応するとしているが、海上警備行動や武器等防護(自衛隊法第95条及び第95条の2)での武器使用が国又は国に準ずる組織に対して行われた場合は、日本国憲法第9条の「武力の行使」にあたるおそれがある。
5 よって、当会は、今回の中東地域への自衛隊派遣が、日本国憲法の立憲主義及び恒久平和主義の趣旨に反し、法治主義及び民主主義にも反するものであること、自衛隊が海外での紛争に巻き込まれ、憲法が禁ずる武力の行使に発展する恐れがあることから、反対するものである。