郷原信郎弁護士によれば、ゴーン氏問題が「不透明な状況」にある根本的な理由は、西川社長ら日産経営陣(当時)が、ゴーン氏を解職すべき理由として役員報酬額の虚偽記載、私的な目的での投資資金や経費の支出の不正についての「社内調査」の結果を検察に持ち込み 捜査を要請したのに応じて、検察が日本に帰国直後のゴーン氏・ケリー氏をいきなり逮捕したことにあり、それ以後「人質司法」の問題(長期勾留に加えゴーン氏曰く「人間と動物の間の扱い」)が取り分け海外で重大問題として取り上げられたのはご存知の通りです。
更に起訴後も被疑者に弁明が許されなかった(保釈後国内で記者会見のスケジュールを発表すると直ちに再逮捕され、今回のレバノンでの記者会見の前日には妻・キャロルさんの逮捕状が発付)ことなど、ゴーン氏が日本の司法(検察)に多大な不信感を持っていたことには疑問の余地がありません。
この逮捕・起訴に関して弁護団が発表した「見解(書)」についても、日本のメディアは法務省に忖度してロクに報じませんでした。
8日の会見では、日本の政府高官の名前が出されるのではないかと見られていましたが、ゴーン氏は、レバノン政府の立場を考慮して経産省OBの豊田正和氏以外の名前は明らかにしませんでした。
この会見の2日前に、LITERAが「ゴーンが会見で告発予告した『自分を逮捕させた政府関係者』とは? ~ 」とする記事を出しました。官憲一体となった逮捕劇を想定させる内容です(「人質司法」と世界から非難されている不正で非人道的な在り方は、「権力は腐敗する」という警句を地で行くものです)。
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ゴーンが会見で告発予告した「自分を逮捕させた政府関係者」とは?
囁かれていた今井尚哉首相補佐官と菅義偉官房長官の関与
LITERA 2020.01.07
昨年末、保釈中に秘密裏にレバノンへ出国した、日産元会長のカルロス・ゴーン被告。明日8日10時(日本時間)にベイルートで会見を開く予定だが、その内容が世界中で注目されている。ゴーン被告が日本の司法制度の酷さを告発し、自分の逮捕を仕掛けた「日本政府の関係者」を実名で暴露すると予想されているからだ。
ゴーン氏は先月31日にスポークスマンを通じて出した声明のなかで、〈国際法や国際条約における法的義務を著しく無視して、有罪を前提とし、差別が横行し、基本的人権が否定されている〉と日本の司法制度を批判したうえで、〈私は正義から逃げているのではない。不正義と政治的迫害から逃れているのだ〉と述べていた。
ゴーン氏が逃亡していることの是非はともかく、たしかに日本の司法制度は封建国家や独裁国家と変わらない非民主的なものだ。刑が確定していないのに一方的に劣悪な代用監獄に拘束され、起訴されてしまえば、どんなに証拠が不備でも99%以上の確率で有罪になってしまう。ゴーン氏逮捕以降、この日本の司法制度の後進性は欧米のメディアからたびたび批判されており、ゴーン氏も明日の会見で改めてこの問題を強くアピールすると思われる。
だが、ゴーン氏が明日、告発するのはそれだけではない。米テレビ「FOXビジネス」が6日に取材した際、ゴーン氏は東京地検特捜部による逮捕は、自分を日産会長から蹴落とすためのクーデターだったとし、それを示す「証拠」と複数文書も保持していると述べた。さらにゴーン氏は、みずからの逮捕・起訴の背後には日本政府の関係者もいたとして、8日に予定される記者会見では、数人の実名を明らかにする方針を語ったという。
ようするに、ゴーン氏逮捕には「日産内のクーデター」だけでなく、「自分の逮捕の背景には、日産がフランス企業に買収されることを嫌がった日本政府がいる」と主張し、そのことを明日の会見で具体的に暴露すると予告しているのだ。
言っておくが、これはゴーン氏が自分を正当化するために、根拠のない“陰謀論”を主張しようとしているわけではない。
そもそも、2018年のゴーン氏逮捕をめぐっては「日産、三菱自動車のルノーとの統合、海外移転を阻止する日本政府の意思があったのではないか」という国策捜査説が流れていた。実際、ルノーの筆頭株主であるフランス政府は三社を全面的に統合し、日産や三菱もフランスに移転させる計画をぶちあげており、ゴーン氏は当初、この経営統合計画に異を唱えていたものの、ルノーCEO続投と引き換えに態度を豹変。これに官邸や経済産業省が危機感をもち、検察と日産幹部らがけしかけたのではないかというものだ。
そして、本サイトはじめ一部のメディアは逮捕直後から、この日産クーデーター、ゴーン逮捕に安倍政権が関与していると考えられる根拠を具体的に指摘していた。
そのひとつが、ゴーン不正追及の動きが逐一、菅義偉官房長官に伝えられていたとの見方だ。いま、さまざまなメディアで、日産内部にゴーンの不正を調査していた極秘調査チームがあったことが報道されているが、中心人物と名指しされているのが、専務執行役員で弁護士資格も持つマレー系イギリス人のハリ・ナダ氏と同じく専務執行役員で広報担当を務めていた川口均氏(当時。副社長を経て昨年11月退任)。このコンビが最初に動いて情報を集め、弁護士、検察との間で計画を詰めていったといわれている。
ところが、そのひとりである川口氏が、菅官房長官と非常に親しい関係にあった。
「日産の本社は横浜ですから、地元選出の大物政治家である菅官房長官とは会社ぐるみで関係があるんですが、川口さんは特別です。川口さんが横浜商工会議所の副会頭になった頃からの付き合いで、この数年は、頻繁に連絡をとりあって、会食や会合を重ねていた。社内では“川口さんの後ろ盾は菅さん”というのは共通認識になっていました。ゴーンの件も、菅さんに事前に相談していなかったとは考えにくい」(日産関係者)
川口氏は、東京地検特捜部がゴーンを逮捕した直後、菅官房長官を訪ねて、逮捕の報告と謝罪を行った人物。その際、川口氏が報道陣に「菅さんは驚いた様子だった」とコメントしたことから、「わざわざ菅官房長官が知らなかったと強調したのが、逆に不自然」との声が出ていたが、逐一、菅官房長官に報告をあげ、相談していたと見るほうが自然だ。
実際、ゴーン逮捕前から日産内部に食い込んでいたことで知られる「週刊文春」(文藝春秋)も2018年12月6日号の記事で川口執行役員がハリ・ナダ氏と連携をとっておいたことや菅官房長官と親しい間柄であることを強調していた。
■日産取締役に送り込まれた経産省OBの背後に安倍首相の最側近・今井尚哉補佐官
国策捜査をうかがわせる接点はまだある。日産の極秘調査チームが自民党に近い弁護士に相談をしながら、検察への告発を進めていたというのもそのひとつだ。
この弁護士とは熊田彰英氏。特捜部出身のヤメ検だが、2018年3月、森友問題の公文書改ざんで証人喚問を受けた佐川宣寿・元理財局長の補佐人として佐川氏にアドバイスをした弁護士である。他にも、政治資金規正法違反に問われた小渕優子議員などを担当。“政権の守護神”“自民党御用達”といわれている弁護士だ。
「この熊田氏ともうひとり司法取引に強い弁護士が、検察との間に立って、日産幹部たちの責任が問われずに、ゴーンだけを逮捕するというスキームをつくっていったといわれています。この構図を考えると、官邸に情報が上がっていないわけがない」(全国紙政治部記者)
さらにもうひとり、安倍政権と「日産のクーデター」を結びつけるキーマンがいる。それは、6月から日産の社外取締役をつとめる経産省OBの豊田正和氏だ。豊田氏は、同省の事務次官に次ぐNo.2である経済産業審議官、内閣官房参与なども歴任した大物OBである。
実は、ゴーン逮捕以降しばらく、豊田氏は社外取締役という立場であるにもかかわらず、新聞記者が取材に押しかけており、元朝日新聞編集委員の山田厚史氏によれば〈今や「夜の広報担当」といった存在〉(ダイヤモンド・オンライン2018年12月11日)になっていたという。
いったいなぜか。前述したように、豊田氏が日産の非常勤取締役に就任したのは2018年6月。まさに、ルノーとの統合や海外移転を阻止するために、経産省が送り込んだ人物なのだ。
「日産はかつては経産省と非常に近く、有力天下り先だったんですが、ゴーン体制になって以降、経産省OBの受け入れていなかった。ところが、2018年の6月に豊田氏が突如、非常勤取締役に就任。その半年後に、ゴーン会長が逮捕された。これは、クーデターを前提にした人事としか考えられません。実際、ルノーとの交渉など、日産の今後の方向性は豊田氏が主導するといわれていますから」(前出・全国紙政治部記者)
しかも、豊田氏は、安倍首相の側近中の側近で、やはり経産省出身の今井尚哉首相補佐官とも近い関係にあるという。
「経産省時代は大きな接点はありませんが、今井氏が資源エネルギー庁次長をつとめていたとき、豊田氏はシンクタンクの日本エネルギー経済研究所理事長として、今井氏の原発再稼働路線を全面バックアップしていた。今回のゴーン逮捕も、この今井=豊田ラインの連携プレーが大きな役割を果たしたということじゃないでしょうか。直接、検察を動かしたというのはないと思いますが、日産の海外移転を防ぎ、自分たちの影響力を復活させたい経産省が、日産のクーデター組を焚きつけた可能性はおおいにある。そして、こうした経産省や官邸の動きを察知した検察が、強引に捜査に及んだということじゃないでしょうか」(前出・全国紙政治部記者)
■経産省の日産・ルノー経営統合問題への介入示すメールをフランス紙が報道
しかも、本サイトなどが指摘していたこの経産省の関与については、逮捕から1年後、仏紙ジュルナル・デュ・ディマンシュ(JDD)がその裏付けとなるような報道をした。2019年4月14日、経産省が日産とルノーの経営統合案を阻止するため介入していたことを裏付けるメールの存在を報じたのだ。
同紙が報じたのは、2018年4〜5月に当時の日産幹部とゴーン氏との間で交わされたメール。同年4月23日に日産の専務執行役員であるハリ・ナダ氏からゴーン氏に送られたメールには、仏国家出資庁長官でルノー取締役のマルタン・ビアル氏らとの会合が言及されていた。これはルノーとの経営統合をめぐって日産と仏政府とで行われた協議内容の報告だが、そこにはビアル氏が日本の経産省から書簡を受け取っていたとの内容が含まれていたという。
さらに、5月21日に別の日産幹部がゴーン氏や西川広人社長(当時)に送ったメールには、経産省が用意したという「覚書案」が添付されており、「両者の提携強化は日産の経営自主性を尊重することによってなされること」などと示されていたという。ようするに、JDDの報道が事実であれば、安倍政権はゴーン氏逮捕以前から日産とルノーの経営統合を阻止するように直接介入していたということになる。
JDDが報じたメールのやりとりは、国策捜査説の背後にある安倍官邸と経産省の策謀を裏づける証拠となるだろう。前述したとおり、経産省の介入を示すメールがあったのは、ゴーン氏が統合機能強化に乗り出した直後の4月から5月。ゴーン氏の“豹変”を目の当たりにした経産省が血相を変え、仏政府と日産へ強引に迫っていたことが想像できる。そして、その後すぐに経産省の大物OB・豊田氏が社外取締役として日産に向かい入れられていたのだ。これが偶然などということがあるのだろうか。
こうした状況を踏まえると、安倍官邸はかなり深く日産クーデーターとゴーン逮捕に関わっていたとしか思えない。その結果もたらされたのが、強引なゴーン氏の逮捕と拘留だった。
おそらく、ゴーン氏が明日の会見で告発しようとしているのは、この安倍官邸、経産省の暗躍であり、「実名」をあげる政府関係者は首相の側近・今井尚哉首相補佐官と経産省OBの豊田正和氏ではないかといわれている。そして、両者が関与したことを裏付ける新証拠、さらには菅官房長官の名前が飛び出す可能性もある。
いずれにせよ、明日の会見で、この国の人権無視の司法制度の実態と、大企業と癒着して意に沿わない人物を逮捕するという安倍官邸の卑劣な国策捜査が、国際社会に広くさらされることになるかもしれない。 (編集部)