2020年1月18日土曜日

大統領選に向けトランプが世界に示した狂気(孫崎享氏)

 日刊ゲンダイに連載されている国際政治経済学者・浜田和幸氏の「トランプVSイラン狂気の泥仕合」シリーズに、「医師が警鐘 義父を追い出したトランプの精神状態に赤信号」(17日・3回目)が載りました。そこには、
今回のイランに対する攻撃や経済制裁に関する、トランプ大統領の一連の発言に対して、アメリカの医療関係者、とくに精神障害を専門とする医師たちは危機感を強めていて、『大統領としての職務を遂行するにはあまりにも言動に一貫性がなく、精神不安定の兆候が明らかだ仕事を遂行する上で深刻な問題を引き起こす恐れがある』として、アメリカ議会に対して早急な精神鑑定を行う必要があるとの声明を発表した。緊急声明には800人以上の医師が署名している医師によるこうした緊急提言はこれまで繰り返し行われてきたが、すべて無視された。側近次々とトランプ大統領の元を去っているのは、そばで仕えるほど異常さに嫌気がさすのかも知れない(要旨)」と書かれています
 イラン核合意からの突然の離脱に始まる理不尽な対応は言うまでもありませんが、トランプの対中国や対北朝鮮への対応を見ると全く一貫性というものがありません。世の中には一晩眠ると次の朝は何を言い出すかわからないという人がいますが、まさにその種の人物に見えます。

 トランプの命令を受けた米軍が3日、イラクのバグダッド空港でイラン革命防衛隊ソレイマニ司令官をドローンで爆殺したことへの報復として、イランイラクの米軍基地にミサイル22発を打ち込みました。その精度は極めて高くドローンの格納庫などが見事に吹き飛ばされたということです。予め警告があったとも言われ米軍の死者はなかったようですが、米国は最近になって10数人の負傷者が出たことを明らかにしました。

 元外交官の孫崎享氏が日刊ゲンダイの連載記事「日本外交と政治の正体」に「大統領選への果てなき野望…トランプが世界に示した狂気」とする記事を載せました。
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日本外交と政治の正体 
大統領選への果てなき野望…トランプが世界に示した狂気
孫崎  日刊ゲンダイ 2020/01/17 
 米トランプ大統領の命令を受けた米軍が3日、イラクのバグダッド空港で、イラン革命防衛隊コッズ部隊のソレイマニ司令官をドローンによる空爆で殺害した。イラン国民に「戦争英雄」として広く慕われていたソレイマニ司令官の葬儀や追悼集会は首都テヘランのほか、国内各地で行われた。
 イランの報復は必然だった。イランが報復すれば、米国も報復せざるを得ない。世界で「第3次世界大戦」というキーワードが飛び交った。

 イランの報復は強烈だった。というのも、目標をイラクにある米軍基地とし、攻撃する弾道ミサイルをイラン国内から発射したからだ。「さあ、戦うなら戦うぞ」という強烈なシグナルである。この時点で米国は今までにない窮地に追い込まれた。イランはイラクの米軍基地と、バグダッドのグリーンゾーン内にある米国大使館などをいつでもミサイルで攻撃する意思を示した。米国にはこれを軍事的に防ぐ手段はまずない。
 この状況を見て、トランプ大統領は軍事行動から後退した。米国メディアは、「米国・イランがさらなる軍事行動から撤退」と報じているが、後退したのは米国側である。イランはいつでも反撃する用意がある。

 米国は今、深刻な課題を抱えている。イラク議会が米軍のイラク国内からの全面撤退を決議したからだ。これを実行しなければ、多分、イラク人による武力攻撃も起きるだろう。攻撃するイラク人は主にシーア派であり、イランとの結びつきが強い。紛争が起きれば、米国内でイランとの関連が議論されるのは必至だ。
 中東では、シリア、レバノン、イラク、イエメンなどでシーア派とスンニ派の対立が続いている。イランはシーア派を支援しているが、米国によるソレイマニ司令官の殺害によって事態はさらに複雑、混乱を増した。米国のケリー元国務長官はトランプ大統領の行動を「全くの戦略欠如」と批判している。

 なぜ、トランプ大統領は暗殺に踏み切ったのかといえば、大統領選を意識した行動に他ならない。意図的にイスラム教徒との対立構造をつくり出し、強硬姿勢をとることで支持を得ようとしたのだ。不幸なことに米国民の約4割がこの姿勢を熱狂的に支持している。
 選挙に勝つためなら何でもする。トランプ大統領はその怖さと狂気を世界に示したのである。

 孫崎享 外交評論家
1943年、旧満州生まれ。東大法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。66年外務省入省。英国や米国、ソ連、イラク勤務などを経て、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大教授を歴任。93年、「日本外交 現場からの証言――握手と微笑とイエスでいいか」で山本七平賞を受賞。「日米同盟の正体」「戦後史の正体」「小説外務省―尖閣問題の正体」など著書多数。