2020年1月5日日曜日

ゴーン被告の逃亡 司法への挑発と忠告(東京新聞)/元米特殊部隊隊員が連れ出す

 元東京地検特捜部検事の郷原信郎弁護士氏は、東京地裁がゴーン氏の保釈を認めたのは「有罪に確証を持てず、無罪の可能性が高い被告人を長期勾留はできないと判断したため」とし、「国際社会から“人質司法”と批判されるように、日本の検察のやり方は悪辣です。ゴーン事件に関しては特別背任も、報酬を過少記載したとされる金融商品取引法違反についても無理筋。検察と日産幹部が結託したデタラメ事件です御用マスコミに甘やかされ、独善的に振る舞ってきた検察に対する国際社会の風当たりはますます厳しくなる。果たしてまともに反論できるのか」(日刊ゲンダイ)と述べています。

 金融商品取引法違反の件は4月に公判が始まる予定でしたが、特別背任の方は初公判の見通しすら立っておらず、裁判が何年続くのかもわからないということです。検察はその間、保釈されたゴーン氏に15項目もの生活上の制限を課し続け、実質的に「長期勾留」に似たような状況に置く積りだったのでしょう。容疑を一貫して否認するゴーン氏は100日以上も拘束された挙句ようやく保釈されたのにキャロル夫人との面会も許されない、それがいつまで続くのかも分からないという状況下に置かれたのでした。

 ゴーン氏の逃亡原因の大半は検察がつくり上げたもの(郷原弁護士)でした。郷原氏は「御用マスコミに甘やかされ、独善的に振る舞ってきた検察に対する国際社会の風当たりはますます厳しくなる。果たしてまともに反論できるのか」(日刊ゲンダイ)とも述べています実際海外からは「人質司法」と批判されるなど、等しく法曹の資格を有しながら人権というものにこれほど無関心・無縁な集団というのは一体何なのでしょうか。

 ゴーン氏脱出の経緯も少しずつ明らかになりつつあります。
 米紙WSJ(電子版)によれば12月29日午前中、ドバイからプライベートジェット機が大型の箱を載せ関西国際空港に到着し、米陸軍特殊部隊隊員出身の民間警備会社の関係者2によって同日夜、ゴーン前会長は箱に収められていた大型ケース(キャスター付)に身をしプライベートジェット機でトルコに向けて離陸したということです。

 東京新聞が「ゴーン被告の逃亡 司法への挑発と忠告」とする社説を掲げました。

 同紙も法務省の掣肘下にあるので、検察への批判的言辞は最小限にとどめていますが、一応書かれています。

 米紙の報道を紹介した毎日新聞の記事を併せて紹介します。
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【社説】 ゴーン被告の逃亡 司法への挑発と忠告
東京新聞 2020年1月4日
 「私は今、レバノンにいる」
 前日産自動車会長カルロス・ゴーン被告が発表した声明で、年末年始は世界中が大騒ぎになった。
 金融商品取引法違反と会社法違反の罪で起訴され、保釈中だったのに無断出国し、逃亡していたのだ。むろん保釈の条件には海外渡航禁止が含まれている。その禁を破ったことは、日本の刑事司法への挑戦であり、大いに非難されるべきである。
 四月に始まる予定だった公判の見通しは立たなくなった。確かに日本政府は二日に身柄拘束をレバノン政府に要請するよう国際刑事警察機構(ICPO)に求めた。

謎に包まれた脱出劇
 だがレバノン側は「国際逮捕手配書」を受け取りつつも、セルハン法相がAP通信に対し、「ゴーン被告を日本に引き渡さない」との意向を表明した。
 世界が注目していたゴーン事件だっただけに、このような展開は残念である。無実ならば正々堂々と裁判で決着させる道を選択すべきだった。カネさえあれば逃げられる前例になりかねない。
 東京地検は入管難民法違反にも当たるとして、警察や出入国在留管理庁と連携し捜査に乗り出している。関係当局はどのような経緯をたどって無断出国に至ったのか、早急に調べねばならない。
 データベースにゴーン被告の出国記録はなかった。ホームパーティー開催の機に米警備会社の社員らの手助けで、楽器の箱に隠れて逃亡したとも報道された。プライベートジェット機を使って、トルコ経由でレバノンへと…。夫人の手配だったとも…。
 しかし、ゴーン被告は「家族が関与したとの報道は間違いだ。自分一人で準備した」と米国の代理人を通じて発表しており、謎に包まれたままだ。

検察官が裁判官役を
 著名な被告の堂々たる海外脱出は、保釈中の監視態勢の問題や保釈の在り方の問題などをあぶり出した。裁判所、検察庁、出入国在留管理庁の連携そのものに重大なる欠陥が潜んでいることも明白になった。逃走の防止策は強化せねばならないし、そのための立法も必要かもしれない。
 ただ「保釈は認めないように」とか「被告は拘置所に閉じ込めておくべきだ」とかの論に結びつけては危険だ。もともと日本の刑事司法は世界から見て異様である
 自白しない限り、拘置が延々と続く実態があるからだ。家族らとの接見が禁じられたりもするから、孤独から早く抜け出すために、虚偽の自白をする事態も生んでしまう。これは「人質司法」と呼ばれる。ゴーン被告の事件で海外メディアを中心に、この問題への批判が噴出した。
 刑事訴訟法は証拠隠滅や逃亡の恐れだけでなく、被告の不利益の程度も考慮すると規定する。つまり「過度な身柄拘束は控えるべきだ」という考えが定着しつつあった。そのため近年は保釈率がわずかに上がっており、この流れは止めるべきではない。
 ゴーン被告の場合は海外渡航の禁止や監視カメラの設置など、十五もの保釈条件を厳守する約束があった。だから、保釈を認めないのではなく、その条件の不備と考えるべきなのである。
 だが、なぜゴーン被告は逃亡したのか。もう一度、昨年末の声明を振り返ってみる。
 <有罪が前提で、差別がはびこり、基本的人権が否定されている不正な日本の司法制度の人質ではなくなる。国際法や条約に基づく日本の法的義務を著しく無視するものでもある。私は裁きから逃れたのではなく、不正と政治的迫害から逃れた>
 これを理解するには、まず日本では検察が起訴すれば99%有罪だという現実がある。ただし犯罪白書によると逮捕者のうち起訴されるのは40%程度でもある。
 つまり海外からは、検察官が裁判官の役目をしているように見えるのだ。「無罪推定」ではなく、「有罪推定」に立つようなものと…。かつ証拠を握る検察側は、弁護側に全証拠を開示しない。取り調べでも、海外では一般的な弁護人の立ち会い権がない
 これで無罪を勝ち取るのは制度上でも難しかろう。それゆえゴーン被告の目には「不正な司法制度」と映ったのかもしれない。

海外紙は制度批判を
 既にオリンパスの粉飾決算を告発した元外国人社長が「日本では公正な裁判を受けられない」と英紙タイムズに話している。
 フランス紙レゼコーは、公判の長期化で夫人との接触禁止が解かれない見通しが「脱出作戦にゴーサインを出した」と報じた。ロイター通信も「家族と離れた保釈生活に苦しんでいた」と伝えた
 スパイ映画もどきの国外逃亡は、意外と日本の司法制度への厳しい忠告となる可能性があろう。


ゴーン被告、音響機器の箱に潜み脱出 元米特殊部隊隊員が連れ出し 米紙報道
毎日新聞 2020年1月4日
 米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)は3日、金融商品取引法違反などに問われ保釈中にレバノンに逃亡した日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告が日本を離れる際、コンサートで使われる音響機器を運ぶ大型の箱に隠れてプライベートジェットに乗り込んだと伝えた。元米陸軍特殊部隊隊員ら米民間警備会社の関係者2人が連れ出したという。トルコ当局の捜査情報に詳しい関係者らの話として報じた。 

 同紙によると、この米民間警備会社の関係者2人は2019年12月29日午前、ドバイからゴーン前会長を隠すための大型の箱を載せたプライベートジェットで関西国際空港に到着。ゴーン前会長は箱の中に潜んで機内に運び込まれた。同日夜に離陸し、30日朝にトルコ・イスタンブールに到着。ゴーン前会長は雨の中、車で空港内を移動し、別の小型ジェット機でレバノンに逃れた。 
 逃亡に使われた2機を運航するトルコのプライベートジェット運航会社「MNGジェット」が、フライト後に二つの大型の箱を発見。ゴーン前会長が隠れていた箱の底には、呼吸用の穴が開けられ、移動しやすいよう車輪も付いていた。もう一つの箱にはスピーカーが入っており、ともに音響機器だと空港の検査でごまかすためだった可能性がある。 
 MNGは3日、従業員の一人がゴーン前会長の名前が残らないように記録を改ざんしたとして告発した。同紙によると、この従業員が、関西国際空港でゴーン前会長を機内に運び込むのに箱の一つが使われたとトルコ当局に説明したという。 
 ゴーン前会長を連れ出した2人はイスタンブールに到着後、別の新空港に移動し、民間航空機でレバノンに向かった。2人のパスポートには日本とトルコの出国スタンプが押されていた。イスタンブールからはゴーン前会長と別行動だったといい、MNGの従業員がゴーン前会長が乗る小型ジェット機に同乗していた。 
 同紙によると、2人のうちの1人は、元米陸軍特殊部隊隊員のマイケル・テイラー氏。アフガニスタンで反政府勢力タリバンに拘束された米紙ニューヨーク・タイムズ記者を救出するために、同紙がテイラー氏の当時の警備会社と契約していたといい、警備業界でよく知られた存在だという。 
 また、事情を知る関係者がウォール・ストリート・ジャーナルに語ったところによると、ゴーン前会長は当初は法廷で争うつもりだった。しかし、裁判の開始が予定よりさらに遅れる可能性があることを12月25日に知り、海外逃亡という「プランB」に切り替えることを決めたという。【ニューヨーク隅俊之】