2020年1月19日日曜日

19- 日本民主法律家協会が「桜を見る会」疑惑の徹底究明を求める声明

 16日、日本民主法律家協会が「『桜を見る会をめぐる疑惑の徹底究明を求める声明」を出しました。
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「桜を見る会」をめぐる疑惑の徹底究明を求める声明
2020年1月16日
日本民主法律家協会
 安倍首相と政府の説明に国民は納得していない
 昨年の臨時国会で明らかにされた「桜を見る会」をめぐる一連の疑惑について、年末に行われた各種報道機関による世論調査の結果によれば、多くの国民が安倍首相や政府の対応に納得していないことが分かります。例えば、昨年12月16日に公表された共同通信の世論調査の結果では、安倍首相が「十分に説明しているとは思わない」との回答が83.5%、招待者名簿のバックアップデータが行政文書に当たらないとの政府の説明に対して「納得できない」との回答が77.9%にのぼり、また、12月24日に公表された朝日新聞の世論調査の結果でも、安倍首相の説明は「十分ではない」との回答が74%、安倍政権が招待者名簿を廃棄し、復元できないとしていることに対して、「納得できない」との回答が76%にのぼっています
 安倍首相は、本年1月6日に行われた年頭会見で、「世論調査の結果についても謙虚に受け止め、今後も丁寧に対応したい」と述べましたが、国民が納得できるような具体的な説明は何もしませんでした。その事実を見ても、安倍政権が「説明責任」を果たさず、疑惑を隠ぺいしつづけ、この国の民主主義と私たちの「知る権利」に重大な危機をもたらしているといわざるを得ません。私たちは、この事態を深刻に受け止め、来たる通常国会において「桜を見る会」をめぐる一連の疑惑について、徹底的に真実を明らかにするとともに、その責任の所在を明確にすることを求めます。

 公的行事の私物化そのもの
 1952年以来、各界において功績、功労のあった人たちを慰労するための公的行事として公費をもって実施されてきた「桜を見る会」が、2012年12月発足した第二次以降の安倍政権の下で、本来の趣旨から大きく逸脱し、開催費用は2013年度の3005万円(予算1718万円)から2019年度の5519万円(予算1766万円)に、招待者数も例年1万人程度だったところ2019年度は1万8200人にと、著しく膨れ上がってきた事実が明らかにされています。
 その背景には、安倍事務所が支持者に案内状を送って参加希望者を募集するような招待者推薦方式をとり、しかも、安倍晋三後援会主催の「桜を見る会前夜祭」とセットにされて800名を超える後援会員が招待されていたこと、また、安倍事務所で幅広く参加希望者を募るプロセスのなかで昭恵夫人が推薦に関与していたこと、さらに2018年には、同年秋に予定されていた自民党総裁選挙対策のため、自民党都道府県議会議員研修会とセットにされて、自民党地方議員が多数招待されていた事実も明らかになっています。
 しかし、「桜を見る会」は「内閣総理大臣が各界において功績、功労のあった方々を招き、日頃の御苦労を慰労するとともに、親しく懇談する内閣の公的行事として開催しているもの」(2019年10月15日付け答弁書第7号)であり、そもそも安倍事務所が支持者に案内状を送り、参加希望者を募るような行事ではなく、また、閣議決定によって「私人」であると確認されている昭恵夫人に、招待者の推薦に関与するようないかなる権限もないはずです。また、「前夜祭」とセットにして選挙区の支持者を多数招待するというやり方は、公費をもって行われる公的行事の「私物化」ではないかとの厳しい批判を受けるのは当然であり、選挙区の有権者に利益を供与することを禁じた公職選挙法221条違反や政治資金規正法12条に定められた政治資金報告書の提出義務違反に当たる疑いもあります。
 同様に、総裁選対策として都道府県議会議員研修会とセットにして自民党の地方議員を「桜を見る会」に多数招待するというやり方も、公的行事の「私物化」以外の何物でもありません。

 運用見直しのためには検証作業が不可欠
 さらに、高齢者に対する詐欺的なマルチ商法を繰り返してきた疑いを持たれている「ジャパンライフ」の会長に招待状が送られていたり、反社会的勢力と見られる人物が招待されていた疑いも浮上しており、たんに倫理上・道義上の責任にとどまらない問題も指摘されています。このような世論の厳しい批判を受け、安倍首相も、「桜を見る会」の運用に問題があったことを認め、2020年度の「桜を見る会」を中止し、招待基準の明確化や招待人数の見直しを行うことを表明せざるを得ませんでした。
 しかし、これは苦しい言い逃れに過ぎません。来年度の「桜を見る会」を中止し、将来の運用を見直すからといって、これまでの運用に関する政治的・法的責任を不問にすることは許されないからです。
 また、もしも安倍首相が言うように、招待基準の明確化や招待人数の見直しを行おうとしたら、何よりもまず、これまでの招待の実績を検証して、招待基準のどこに問題があったのか、その運用にどのような問題があり、どのように見直しを図っていくべきなのか、「桜を見る会」の本来の趣旨に照らして、どの程度の招待人数が適正といえるのかなどについて詳しい検証が必要なはずです。そのような検証作業がなされない限り、招待基準やその運用、招待人数の適正化などの改善を図ることはできないでしょう。

 招待者名簿の廃棄は違法である
 ところが、驚くべきことに、検証作業の基礎資料となるはずの招待者名簿が「保存期間1年未満文書」として会の終了後、早々に廃棄され、しかも、国会議員から資料提出の要求があったその日にシュレッダーにかけられていました。
 それに加えて、すでに招待者名簿が廃棄されているので、誰が「ジャパンライフ」会長を招待していたのかは分からない、というのです。しかし、「ジャパンライフ」会長への招待状に記載された招待区分「60」という数字は、首相の招待枠を示しているのではないかと推測されています。というのも、2005年の小泉政権時代の招待区分「60」が首相推せん枠であることが公文書館に残されていた資料により確認されているからです。
 また、反社会的勢力と疑わしい人物が招待されていたのではないかとの指摘もなされていますが、これ対しては、「反社会的勢力」は、その形態が多様であり、統一的に定義することは困難である、と答弁しています(2019年12月10日付け答弁書第112号)。これは2007年6月19日、政府の犯罪対策閣僚会議の申し合わせで、反社会的勢力とは「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」としていることに照らすと、苦しい言い逃れというほかありません。
 こうした問題について、さまざまな厳しい批判がなされていたにもかかわらず、菅官房長官は、臨時国会の閉会をうけた12月10日の記者会見で、すでに廃棄したとされる招待者名簿などについて新たな調査は行わないと明言しました。そして、招待者名簿が記録された電磁的データの復元も考えていないとする答弁が閣議決定されています(2019年12月10日付け答弁書第114号)。
 さらにその後、2018年度から招待者名簿が保存期間1年未満文書の扱いに変更されたとした上で、その前の、2013年から2017年までの5年分の招待者名簿について、「行政文書に関するガイドライン」(平成23年4月1日、内閣総理大臣決定)により要求されていた行政文書ファイル管理簿への名称等の記載もなく、廃棄簿にも記載がないことが判明しています。このような不記載の扱いは、明らかに公文書管理法や上記「ガイドライン」に違反するものです。この点については、菅官房長官も1月10日の記者会見で「公文書管理法の関連規定、内閣府の文書管理規則に違反する対応だった」と認めざるを得ませんでした。
 しかし、違法の問題は上記の「不記載」の扱いにとどまりません。2019年11月13日に行われた「桜を見る会」野党合同ヒアリングで、内閣府の担当課長は、招待者名簿の保存期間が1年未満であることの根拠規定として、2017年12月26日に「行政文書の管理に関するガイドライン」が改正されたのを受けて、2018年4月1日に1年未満文書の扱いに変更したとし、内閣府行政文書管理規則16条6項7号の「保存期間表において、保存期間を1年未満と設定することが適当なものとして、業務単位で具体的に定められた文書」を根拠としてあげていました。ところが、内閣府の「標準文書保存期間基準(保存期間表)」に「関係行政機関等に協力して行う行事等の案内の発送等」という項目が明記されたのは、2019年10月28日から適用の「保存期間表」においてであり、2018年4月1日から適用の「保存期間表」には、そのような項目は置かれていなかったことが明らかにされています。そうであるとすると、2019年10月28日以前には、保存期間表に明確な根拠はなく、保存期間が1年未満であったとして廃棄が適法であるとする政府の説明は根拠を欠くものというほかないのです。
 要するに、政権にとって不都合な公文書はさっさと破棄したり、隠ぺいしたり、改ざんまでしてしまうという、森友学園や加計学園あるいは自衛隊「日報」をめぐる問題で厳しく批判されたのとほとんど変わらないやり方が、改められることなく今もつづいていることを示しています。

 招待者名簿は「個人情報」ではない
 安倍首相も菅官房長官も、「桜を見る会」への招待者名簿が「個人情報」を含んだ膨大な文書であり、それを適切に管理する必要があるため、公文書管理法等の規定に基づき「桜を見る会」の終了後遅滞なく廃棄する取扱いとしていたものであるとして、招待者名簿の公表を拒み、隠ぺいしつづけています(2019年12月10日付け答弁書第114号および同月17日付け答弁書第166号でも同じ趣旨が繰り返されています)。
 しかしながら、「桜を見る会」は公金を使って行われる政府の公的行事であり、それに出席したという事実は、個人の私生活上の事実とはいえず、プライバシー性の程度が高いものともいえません。また、すでに多くのメディアを通してたくさんの映像が繰り返し放映され、画像が流布されており、招待に応じて「桜を見る会」に出席した多くの人が特定可能であること、さらに、招待された者の多くが、SNSなどにより招待された事実を自ら発信し公表していることなどから、非公知の事実ともいえません。そして、何よりも、招待者名簿は政府主催の「桜を見る会」が本来の趣旨に沿って適正に実施されたかどうかを検証するための必要不可欠な情報であり、その公表には十分な公益性もあります。
 それらの事実をふまえれば、「個人情報」であるから招待者名簿を公表できないというのは、真実を隠ぺいし、責任を逃れようとする口実に過ぎないといえます。

 バックアップデータも行政文書である
 菅官房長官は、昨年12月4日および5日に行われた記者会見において、バックアップデータは「行政文書」には当たらないなどとも主張していました。しかし、2019年3月25日に内閣総理大臣決定として公表された「行政文書の電子的管理についての基本的な方針」によれば、今後作成・取得する行政文書については「電子媒体を正本・原本として体系的に管理することを基本とし、そのための枠組みを構築する」とし、政府全体として「国民共有の知的資源である公文書の新たな管理の姿を実現する」としているのです。
 「桜を見る会」の招待者名簿を簡単に廃棄したり、データの復元を拒否したりすることは、自ら決定した行政文書の電子的管理の方針に逆行するものであり、バックアップデータが「行政文書」ではないというのは、自らが定めた「基本的な方針」にも反する無責任な言い逃れにすぎません。

 公文書の適正な管理は民主主義の根幹であり、国民の「知る権利」にかかわる
  ――疑惑の徹底的な究明を
 「桜を見る会」の問題は、安倍首相自身による権力の濫用・私物化が厳しく問われ、内閣総理大臣としての適格性にも関わる問題ですから、決して軽視することはできません。
 また、招待者名簿の存在をうやむやにしてしまうことは、公文書管理の観点からみて重大な疑問を残しています。公文書は「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」(公文書管理法1条)であり、行政の適正かつ効率的な運営と政府の説明責任を全うするために、経緯も含めた意思決定に至る過程や事務及び事業の実績を合理的に跡付け又は検証することができるよう、文書の作成と適切な保存を義務づけている(同法4条、6条)からです。つまり、問題は民主主義の根幹にかかわるものです。
 「桜を見る会」をめぐる問題が、民主主義の根幹と私たちの「知る権利」に関わるものである以上、安倍首相や菅官房長官、内閣府のこれまでの説明でよしとすることは到底できません。私たちは、国民の代表機関である国会が「国権の最高機関」(憲法41条)として「桜を見る会」をめぐる多くの疑惑について徹底的に事実を究明し、政府をして十分な「説明責任」を果たさせるよう、強く求めます。
以上