2020年1月27日月曜日

安倍首相の的外れな憲法論 まず現行憲法を守ってから言え

 憲法学者の小林節慶応大名誉教授は、安倍首相は「国のかたちを語るものは憲法です」というが、憲法の本質は、その国のかたちを「語る」ことではなく、その国のかたちを「権力者に守らせる」ことにあるので「的外れ」な妄言だとしています。
 安倍政権は、日本が海外に「戦争」に行けない国であったのを「解禁」し、全ての国民が法の下で平等であるはずなのに首相と親しい者ならば行政によって優遇される悪例をつくるなど、史上最も露骨に憲法を無視した政権であると述べました。
 そして明らかに憲法尊重擁護義務(99条)に違反している首相には「新しい憲法を」などと語る資格はないとしています。
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ここがおかしい 小林節が斬る!
安倍首相の的外れな憲法論 まず現行憲法を守ってから言え
日刊ゲンダイ 2020/01/25
 20日の施政方針演説の中で安倍首相がまた「憲法」について語った。しかし、それは「的外れ」な妄言としか評しようがない。
 いわく「国のかたちを語るものは憲法です」。 しかし、憲法の定義を一文で語るなら「国家権力(担当者たち)を縛るものが憲法です」となるべきである。
 本来的に不完全な人間が国家権力という大権を預かるため、その乱用を予防・匡正するための主権者国民の最高意思が憲法である。その結果、憲法は、「わが国は、王国ではなく民主国家で、人権を保障し、三権分立と地方自治を採用し……」と「国のかたち」を語ることにはなる。
 しかし、憲法の本質は、その国のかたちを「語る」ことではなく、その国のかたちを「権力者に守らせる」ことにある。だから、その点に触れようとしない安倍首相の憲法観は的外れである。

 しかも、安倍政権は、史上最も露骨に憲法を無視した政権である。自民党政権が確立した解釈では9条の故にわが国は海外に「戦争」に行けない国であった。しかし、その戦争を解禁したのが安倍内閣である
 他に、マイナンバー制度を強行し全国民のプライバシーを国の管理下に置いた。政府を批判した放送局を、「公平性」と電波の許認可権を盾に申し入れ、黙らせてしまった。全ての国民が法の下で平等であるはずだが、首相と親しい者ならば行政によって優遇される悪例をつくってしまった

 わが国は福祉国家であるはずだが、年金、健康・介護保険の給付水準の引き下げが常態化し、自己責任の名で学生が学費ローン漬けになっている。他にも枚挙にいとまがない。

 このように、安倍政権は明らかに憲法尊重擁護義務(99条)に違反している。
 平成が令和に代わったのは天皇家の世代交代であり、それにより世界の歴史が質的に変わったわけではない。にもかかわらず、「新しい時代を迎えた今こそ、未来に向かってどのような国を目指すのか、その(改憲)案を示すのが国会議員の責任だ」などと言われても、同意のしようがない。
 以上、もとより憲法を守る気のないことを実証した首相から「新しい憲法を」などと言われても、信用できるものではない。

 小林節 慶応大名誉教授
1949年生まれ。都立新宿高を経て慶大法学部卒。法学博士、弁護士。米ハーバード大法科大学院のロ客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。「朝まで生テレビ!」などに出演。憲法、英米法の論客として知られる。14年の安保関連法制の国会審議の際、衆院憲法調査査会で「集団的自衛権の行使は違憲」と発言し、その後の国民的な反対運動の象徴的存在となる。「白熱講義! 日本国憲法改正」など著書多数。新著は竹田恒泰氏との共著「憲法の真髄」(ベスト新著)