2021年3月14日日曜日

14- 各国の大半が開催に反対 会期中のコロナ蔓延を防げるのか(孫崎 享氏)

 菅首相や森喜朗・東京五輪大会組織委員会元会長などは、東京五輪の開催中止はあり得ないという硬直した考え方ですが、それは世界の論調に反するものです。

 バッハ会長を擁するIOCがそう考えているのは、IOCの立場上それ以外の選択肢がないものとして分からなくはありませんが、日本がそれに完全に同調するのは間違いです。
 日本は主催国として、日本に大被害をもたらさずにまた大会後に日本発の大被害を世界各地に撒き散らさないという立場から、東京五輪をどうすべきか考えるべきです。自分の再選に有利だからというのが論外であるのは勿論です。
 孫崎享氏が、「各国の大半が開催に反対を…世界で嫌われつつある東京五輪」とする記事を出しました。
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日本外交と政治の正体
各国の大半が開催に反対を…世界で嫌われつつある東京五輪
                      孫崎享 日刊ゲンダイ 2021/03/12
 世界中の国々が今、新型コロナウイルスと苦闘している。どの国や地域でも、感染者数は一時的に減少したものの、再び増加傾向にある。
 新規感染者は3月上旬、米国で減少傾向がみられたが、それでも1日当たり約6万人いる。欧州では上昇傾向が顕著で、フランス、イタリアの新規感染者数はともに約2万人。この状況の中、多くの国は危機感を持ち、ドイツ、ベルギー、デンマーク、フィンランド、ハンガリー、スウェーデンは渡航・国境制限を行った。
 EUは「行き過ぎ」と警告したが、ドイツは3月1日付でEUに書簡を送付し、「国民の健康を保護する観点から、現時点では制限措置を維持せざるをえない」と回答している。

 こうした状況下で、日本が東京五輪の開催を強行しようとしている姿勢は、狂気の沙汰としか言いようがない。
 東京五輪の開催可否について調査した世界各国の結果によると、ドイツは反対52%に対し、賛成19%、スウェーデンは反対46%に対し、賛成23%、フランスは反対37%に対し、賛成25%、アメリカは反対33%に対し、賛成33%である。
 今や先進国をはじめとする世界各国の大半が東京五輪に反対している。この状況を日本国民は知っているのであろうか。
 世界の世論形成に大きい役割を果たしている英国のタイムズ紙は3日、東京五輪について「中止する時が来た」とする内容のコラムを掲載した。記事では、日本政府やスポンサー企業が五輪開催を推進していることを「止まらない暴走列車」と批判し、「今、日本政府はお金と名声のためにこれらを犠牲にしようとしている」と強調した。

 一方、日本では「政府は海外からの観客の受け入れを見送る方向で調整に入った」との報道が流れ始めたが、こんないい加減な政策はない。
 訪日観光客による新型コロナ感染の危険性があるのであれば、選手からの感染リスクも同様ではないか。選手村に感染者が出た場合、どうするのか。今、一部の国で開かれているスポーツ大会は、出場選手にコロナ感染者が出た場合は一時中止だが、東京五輪で新規感染者が出た場合は一時中止する準備があるのだろうか。
 おそらく日本政府にその覚悟はないだろう。では、どうするのかといえば、PCR検査などを実質的に行わないか、あるいは検査結果を公表しないかだろう。そうなれば、選手村でクラスター(集団感染)が起きる可能性もある。
 現状を見る限り、東京五輪は「金儲けのために命を無視した大会」と世界で位置付けられる危険性があるだろう。

孫崎  外交評論家
1943年、旧満州生まれ。東大法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。66年外務省入省。英国や米国、ソ連、イラク勤務などを経て、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大教授を歴任。93年、「日本外交 現場からの証言――握手と微笑とイエスでいいか」で山本七平賞を受賞。「日米同盟の正体」「戦後史の正体」「小説外務省―尖閣問題の正体」など著書多数。