2021年3月22日月曜日

日本とアメリカの対中観には偏見がある

 東洋経済オンラインに、岡田 充氏による「 ~ 日本とアメリカの対中観には偏見がある」とする記事が載りました。

 記事は3月12日のQUAD(米豪印4カ国)共同声明と17日の日米2プラス2共同発表文書を対比しつつ、QUAD声明が、中国を名指しで批判する文言は用いずに、守るべき「ルール」を列挙する「間接批判」に留めているのは、東南アジア諸国連合ASEANに共通するもので、インドの立場を考慮したものであるとしました(インドやASEANは「アメリカか中国か」の二択を迫る「新冷戦思考」にしてはいません)
 インドがいわゆる中印国境紛争で死者を出し合う関係であることを抱えながらも、米・豪そして日のあからさまな中国敵視政策に同調しない姿勢は、独立国家の見識を示すものです。
 それに対して日米共同発表文書の方は、アメリカの中国敵視政策をそのまま受け入れて名指し批判するもので、メディア中国が尖閣諸島を今にも「武力で奪いかねない」など、バイアス(偏向)のかかった報道をしていると岡田氏は指摘しています。
 実際 共同発表文書には、例えば下記のような中国にあてつける言葉が並んでいます。
日米同盟がインド太平洋地域の平和、安全及び繁栄の礎であり続けることを再確認。
国はを含むあらゆる種類の米国の能力よる日本の防衛に対する揺るぎないコミ
 ットメントを強調。
・閣僚は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調。
・日米韓3国協力はインド太平洋地域の安全、平和及ぴ繁栄にとって不可欠である

 日本と中国の経済をはじめとする関係の深さを思えば、発表文書がアメリカの中国敵視政策に丸乗りの姿勢を隠していないのは、インドが独自の観点から注意深くQUAD声明の文言を選んでいるのに比べてあまりにも浅はかです。
 岡田氏は、「『共通の敵』の脅威をあおり抑止を強調するだけでは、軍拡競争を招く『安保のジレンマ』に陥るだけである。安全保障とは抑止だけでなく、外交努力を重ね地域の『安定』を確立するのが本来の目的であろう」と結んでいます。
    関連記事
       (3月19日)日米2プラス2 軍事対応の強化では事態は解決しない
       (3月20日)2プラス2共同声明の対中威嚇 黙認する左翼リベラル
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
日本とアメリカの「中国観」は世界標準なのか 日本とアメリカの対中観には偏見がある
                   岡田 充 東洋経済オンライン 2021/03/21
 日本とアメリカ両政府は2021年3月16日、外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)で、中国に対し「威圧や安定を損なう行動に反対」と明記、海警法に「深刻な懸念」を表明するなど中国を名指し批判した。「中国の脅威」をあおり「中国封じ込め」を呼びかける対中姿勢は「世界標準」なのだろうか。
 「2+2」の直前(2021年3月12日)に開かれた日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4カ国(クワド=QUAD)首脳会合の共同声明は、非同盟国のインドに配慮して中国批判を一切封じた。その姿勢は、中国とともに地域の安定を求める東南アジア諸国連合(ASEAN)にも共通する。共同声明をみると、われわれの対中姿勢がかなりバイアス(偏見)がかかっていることがわかる

QUAD(日米豪印)首脳会合が持つ意味は?
 「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)は、海洋進出を進める中国を念頭に安倍晋三前首相が2016年に提唱、トランプ前大統領が「日米共通戦略」として採用した。日本とアメリカ両国は、英語で「4」を意味するQUADをFOIPの中核枠組みとして重視し、中国包囲網の形成に消極的なインド取り込みを、成否をかけ追求してきた。
 QUADは2017年から外相会合を開き、この3年で首脳会合を実現した。今回はインドを「インド太平洋」地域の海洋安全保障枠組みに入れることに成功したのが最大の成果。会合には、ホストであるアメリカのバイデン大統領をはじめ菅義偉首相、オーストラリアのモリソン首相、インドのモディ首相が参加、1時間40分にわたり協議した。
 まず発表された共同声明から、会合で何が合意されたのかを振り返ろう。共同声明では、(1)「国際法に根差した自由で開かれルールに基づく秩序を推進することに共にコミット」し「自由で開かれたインド太平洋」を共通理念にすることで一致、
東南アジア諸国連合(ASEAN)の「インド太平洋に関するASEANアウトルック」への強い支持確認、
新型コロナワクチン供給作業部会をはじめ、重要・新興技術作業部会、気候変動の作業部会の3作業部会を発足、
ミャンマー情勢では「民主主義を回復させる喫緊の必要性と、民主的強靭性の強化を優先することを強調」、
となっている。
 これだけを読んでも、同盟関係にある日本、アメリカ、オーストラリアの対中観と非同盟のインドとの温度差は見えない。そこで日本外務省が2021年3月13日に発表した「新聞発表」を開くと違いが鮮明になる。
 まず「中国の海洋進出」。菅は東シナ海および南シナ海における「一方的な現状変更の試みに強く反対する。中国海警法は、国際法との整合性の観点からも問題のある規定が含まれており、深刻に懸念している」と、中国を批判した。
 しかし共同声明は「国連海洋法条約に反映された海洋における国際法の役割を優先させ、東シナ海および南シナ海におけるルールに基づく海洋秩序に対する挑戦に対応するべく、海洋安全保障を含む協力を促進する」と、中国への名指し批判は避けた。代わって、守るべき「ルール」を列挙する「間接批判」にとどまった

批判できなかった中国の海警法と現状変更姿勢
 2021年2月18日に開かれたQUAD外相会議は「中国の力による一方的な現状変更の試みに強く反対」と、中国を名指し批判していた。
 国軍による銃撃で死傷者が増えるミャンマー情勢で、菅は「ミャンマー情勢悪化への重大な懸念を表明するとともに、民間人に対する暴力の即時停止、アウンサンスーチー国家最高顧問を含む関係者の解放や民主的な政治体制の早期回復をミャンマー国軍に対して強く求める」と主張した。
 だが共同声明は、「同国における民主主義を回復させる喫緊の必要性と、民主的強靭性の強化を優先することを強調する」と、民主主義の早期回復を主張するにとどまった
 共同声明と、中国、ロシアも賛成した国連議長声明(2021年3月10日)を比べると「平和的なデモ隊に対する暴力を強く非難する」「国軍に最大限の自制を働かせるよう求める」というレベルすら下回る表現にとどまっている。ここで注意したいのは、共同声明がインドと並び、中国批判に消極的なASEANにも配慮したことだ。ASEANは「内政不干渉」を原則にしており、ミャンマー情勢でも国軍批判に踏み込んでいない
 菅は「香港の選挙制度に関する全人代の決定について重大な懸念を表明し、新疆ウイグル自治区に関する人権状況についても深刻な懸念」を表明したが、共同声明には一切盛り込まれなかった。このように共同声明は中国批判を徹底して封印した。(1)の「『自由で開かれたインド太平洋』を共通理念にする」を除けば、(2)~(4)は中国ですら賛成できる内容だ。薄めた理由はインドを引き入れるためである。それに代わり、新型コロナウイルスのインド製ワクチンを途上国に供与する枠組みを前面に出したのだ。
 QUAD首脳会議開催についてバイデンはまず2021年1月27日、菅との電話会談で提案した。モリソンとは同年2月3日、モディには2月8日の電話会談で持ち掛け、当初は2月中の開催を目指していた。しかしインドが開催に難色を示したことから、バイデンは、インドがイギリスのアストラゼネカ社のワクチンをライセンス生産し、世界のワクチンの約6割を生産する「ワクチン大国」であることに着目し、安全保障色を薄め、インド産ワクチンをインド太平洋諸国に供与する資金枠組みの構築に設定し、インドが乗りやすい環境を作った

「中国敵視」には日本が思うような普遍性はない
 インドがQUAD首脳会合に参加したからと言って、「準同盟国」になったと見るのは早計だ。伝統的に非同盟政策を採ってきたインドは「戦略的自律性」を基調に、時には「ヒンズー・ナショナリズム」が鎌首をもたげる「帝国」である。将棋のコマのように扱うと、しっぺ返しに遭うだろう。
 2020年の中国・インド国境衝突を機に、インドは動画投稿アプリTikTokなど中国製アプリ使用を禁止する「反中ナショナリズム」をあおり、インド各地で反中デモや中国製品ボイコットが広がった。だが対中姿勢は一筋縄ではいかない。「一帯一路」は、宿敵のパキスタン支援の案件が入っているため反対しているが、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)には加盟し、インドはAIIBの最大の被融資国だ。中国とロシア主導の「上海協力機構」(SCO)にも加盟し、新興5カ国(BRICS)首脳会議のメンバーである。アメリカ一極支配にはくみしない「多極化世界」の担い手である
 日本とアメリカの「2プラス2」が中国名指し批判に踏み込み、メディアでは中国が尖閣諸島(中国名:魚釣島)を今にも「武力で奪いかねない」など、バイアスのかかった報道(https://www.businessinsider.jp/post-225595)(https://www.businessinsider.jp/post-229602)が目立つ。しかし日本とアメリカの中国を敵視する姿勢が「普遍的だ」と錯覚してはならない。インドやASEAN諸国は、「アメリカか中国か」の二択を迫る「新冷戦思考」にくみしてはいない
 「共通の敵」の脅威をあおり抑止を強調するだけでは、軍拡競争を招く「安保のジレンマ」に陥るだけである。安全保障とは抑止だけでなく、外交努力を重ね地域の「安定」を確立するのが本来の目的であろう。QUADの共同声明を「インド太平洋」安定のひとつのモデルとみてもいい。(一部敬称略)