2021年3月28日日曜日

菅政権がNHK経営委員に議事録公開を求めた女性委員を再任せず

 NHKは18年に「クローズアップ現代+」で「かんぽ生命保険の不正販売問題」を追及しました。そのことで痛手をうけた日本郵政の鈴木康雄・上級副社長(元総務省事務次官)は、NHK経営委員会に働きかけてNHK会長に対して「ガバナンス上問題がある」として「厳重注意」を出させたため、NHKは第2弾以降の報道を断念しました。

 このNHK経営委の対応は極めて異例なもので、NHKの第三者委員会である「NHK情報公開・個人情報保護審議委員会」は、経営委の議事録を全面開示するべきとの答申を二度にわたって出しましたが、経営委はそれに応じずに要約版を出したのみでした。よほど不都合なことがあるのでしょう。
 それにもかかわらず、その主役を務めた森下俊三(当時は委員長代行)はこの3月に経営委員として再任され委員長に就きました。その一方で経営委員の中で昨年から議事録を全面開示すべきと主張していた佐藤友美子・追手門学院大教授は再任されませんでした
 佐藤委員は「非公表での議論が否定されてしまっていると見た方がよいのではないか」、「議事録をできれば一部と言わずに公表する方がよい」、「透明性を担保し情報開示をしていくという私たちがつくった組織のシステムにノーと言うことになり、大きな自己矛盾となってしまう」等と極めて正当な主張をしています。
 従って議事録を隠蔽したい森下氏としては排除したかった筈です。森下氏の再任といい いずれも官邸の了解のもとで行われたのであろうと思われます。不都合な議事録等は公表しないというやり方は、まさに安倍・菅内閣で公然と行われてきた手法です。
 経営委員会は12人中女性5人だったのが4人に減少しました。残留する1人は極右で知られる長谷川三千子・埼玉大名誉教授です。彼女は安倍政権時代に任命されましたが、公共放送の経営・運営にかかわる委員に不適格であるのは明らかです。今後NHK経営委員会は一層悪化すると思われます。
 LITERAが取り上げました。
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菅政権がNHK経営委員会人事で「わきまえない女」排除! 番組介入の議事録公開を求めた女性委員を再任せず“女減らし”を強行
                       水井多賀子 LITERA 2021.03.26
 若い女性に「ジェンダー平等のスローガンは時代遅れ」と言わせるPR動画を公開し、大炎上した『報道ステーション』のPR動画問題。番組側は24日に動画を削除し、お詫び文を掲載したが、しかし、問題の本質をまるで理解できていない内容で、しかも、同夜放送の番組内では一言も問題にはふれず、謝罪も一切おこなわなかった。
 報道番組がジェンダー平等を求める声を潰すような内容の動画を拡散し、批判が集まったというのに、しっかりとした説明もおこなわないまま何事もなかったかのように番組を放送する──。この無責任な姿勢を見ていると、『報ステ』とテレビ朝日には反省はもちろん、社会の公器としての自覚さえないのではないかと疑わざるを得ない。
 しかし、ジェンダー平等をめぐっては、テレビ朝日以上に悪質な問題が起こったのが、公共放送であるNHKの経営委員会だ。
 なんと、NHKの経営委員会人事では、「不都合な」議事録を一向に公開しようとしない委員長が再任された一方で、公開を求めた女性委員が再任されず、外されてしまったのだ。
 今国会ではNHK経営委員会の人事案が提示され、野党3党が反対するなか与党などの賛成多数で可決・承認、菅義偉首相の任命を経て新たに4人のメンバーが再任・新任した。だが、この人事案はそもそもありえないものだった。
 というのも、かんぽ生命保険の不正販売を追及した『クローズアップ現代+』に不当抗議した旧知の鈴木康雄・日本郵政上級副社長(元総務事務次官)に丸乗りし、NHK経営委員会で「(番組の)作り方に問題がある」「(日本郵政側が)納得していないのは取材の内容」などと発言していたことがわかっている森下俊三委員長(当時は委員長代行)を経営委員として再任させるというものだったからだ。
 森下委員長のこの発言は、経営委員による個別の番組への干渉を禁じた放送法に違反するものであることは明らか。にもかかわらず、森下氏を再任する人事案が承認された上、今月9日には森下氏が再び経営委員会委員長に再任されたのである。

 だが、本題はここからだ。じつは、この森下氏の放送法違反の番組干渉発言が飛び出した際の議事録はいまだに公開されていない。NHKが設置する第三者委員会「NHK情報公開・個人情報保護審議委員会」から2度も全面開示すべしという答申も出ているというのに、いまも議論を要約した文書しか公開していないのだ。
「NHK情報公開・個人情報保護審議委員会」は、公開されている議事の要約について「公開制度の対象となる機関自らが対象文書に手を加えることは制度上予定されていないことであり、それは対象文書の改ざんというそしりを受けかねない危険をはらむ」と指摘。しかし、森下委員長は「説明責任を果たすため、議事録に(要約を)追加する形で情報を公開したので、改ざんという認識ではない」などと述べ、2度目の答申が出た後の、22日の衆院総務委員会でも、22日の衆院総務委員会では「(議事録の公開は)いま経営委で検討している最中」と全面開示を明言しなかった。

かんぽ不正を擁護し番組介入した森下俊三が委員長に再任、議事録公開を主張した佐藤友美子教授がクビに
 報道の自主自律の原則を守るでもなく、不正を追及する現場を守るでもなく、ましてや視聴者の知る権利を守るものでもなく、むしろ文書の改ざんに隠蔽、放送法違反の番組への直接干渉といった安倍・菅政権そっくりの不正をおこなう……。まったく腐りきっているとしか思えないが、この議事録を昨年の段階から「全面開示すべき」と訴えていた者がいた。経営委員会の委員だった佐藤友美子・追手門学院大学教授だ。
 昨年分のNHK経営委員会の議事録を見ると、「開示すべし」という答申が第三者機関から出たことについて、森下委員長は「もともとこの内容は非公表を前提として行った意見交換であることから公表すべきではないとの結論」などと議事録は公開しない姿勢をみせるのだが、対して佐藤委員は「非公表での議論が否定されてしまっていると見たほうがよいのではないか」「議事録をできれば一部と言わずに公表するほうがよい」「透明性を担保し情報開示をしていくという私たちがつくった組織のシステムにノーと言うことになり、大きな自己矛盾となってしまう」と議事録の開示したほうがいいと主張。こうした佐藤委員の主張に、森下委員長は「それを言い出したら非公表の議論は一切できません」などと強固に反対したのだ。
 そして、2020年7月7日におこなわれた会議では、佐藤委員だけが議事録の全面開示を求め、残りの全員は「国会などで話している内容と整合性を取った骨子だけを公表」という、事実上の非公表案に賛同したのである。
 番組内容に干渉した自分の発言を隠蔽しようと必死になって議事録の全面開示に猛反対する森下氏に委員長の資格などないが、そんななか、透明性の担保を求める佐藤委員の主張は極めて真っ当と言えよう。
 ところが、総務省、菅政権は森下委員長を再任させる一方で、議事録の全面開示を求めた唯一の真っ当な委員だった佐藤氏を、再任させず、経営委員会から外して国会に人事案を提出したのである。

NHK経営委員会はジェンダーギャップ解消どころか委員が12人中5人から4人に
 22日の衆院総務委員会では、「なぜ佐藤氏は選ばれなかったのか」と追及した日本共産党・本村伸子衆院議員の質問に対し、総務省の吉田博史・情報流通行政局長は「個別の人事にかかわるためお答えは控える」と答弁したが、これはどう考えても、佐藤氏が森下委員長に盾突き、場の空気も読まない、「わきまえない女」だったため排除した、としか考えられない。
 しかも、だ。ジェンダーギャップの解消が喫緊の課題となっているにもかかわらず、前回のNHK経営委員会は12人中5人が女性だったのが、今回の人事によって女性委員は12人中4人に減少。むしろ女性割合が低くなってしまったのだ。ちなみに、その少ない女性委員のひとりに安倍晋三・前首相によって百田尚樹氏とともに経営委員にねじ込まれた長谷川三千子・埼玉大学名誉教授がいるが、長谷川氏は「性別役割分担は哺乳動物の一員である人間にとってきわめて自然なもの」「女性が家で子を産み育て男性が妻と子を養うのが合理的」「男女雇用機会均等法は誤りであり、方向転換しなければ日本は確実に滅ぶ」などと主張してきた人物であり、とてもじゃないが公共放送の経営・運営にかかわる重要事項の審議をおこなう委員には不適格と言わざるを得ない。
 当然、この佐藤氏のパージは、森下委員長の意向、そして森下氏を擁護する菅義偉首相の了解のもとでおこなわれたものだ。実際、前述したように、森下氏が番組干渉発言をおこなったのは、旧知の仲である元総務事務次官の鈴木康雄・日本郵政上級副社長からの不当抗議を受け、それに丸乗りしてのものだったが、鈴木副社長は総務省時代から菅首相と深い関係にある。森下氏のNHK経営委員再任も当然ながら菅首相の意向あってのものであり、議事録問題についても森下氏と同様、菅首相も有耶無耶にしようとしているのだ。
 森下氏の委員長再任により今後もさらに菅官邸のNHKに対する政治的介入は酷くなっていくのは間違いないが、忖度せず、はっきりとものを言った「わきまえない」女性委員が堂々と排除されてしまったこの人事も、菅政権を象徴する相当に深刻な問題だろう。(水井多賀子)