2021年3月15日月曜日

デジタル関連法案 個人情報保護なき活用は危険

 菅政権が看板政策とする「デジタル改革」の関連法案が衆院で審議されています。
 新たに設置されるデジタル庁は各行政機関に対する資料提出命令権、勧告権を持ち、国の情報システム整備に関する予算一括して確保した上で各省庁に配分し自治体や医療、教育機関など準公共団体の予算配分やシステム運用に同庁が口を挟むなど、強大な権限を有するもので、菅首相が長となるということです。
 菅首相の「権力」への執念は、高級官僚の人事権を恣意的に使ってきた官房長官時代のやり方や「菅氏の天領」化したと揶揄される総務省に君臨してきた実績から明らかなだけに、何とも胡散臭く新たな部署を仕切る能力があるのかも疑問です。
 しんぶん赤旗が「デジタル関連法案 個人情報保護なき活用の危険」とする主張を掲げました。タイトルには「基本法案の基本理念に『個人情報保護』の文言がない」ことに象徴されるように、デジタル化を口実に個人情報保護法の理念を無視した進め方に対する警鐘が込められています。
 それだけでなくデジタル関連法によって、地方自治体での独自の施策や改善策に対して、国がシステムにカスタマイズ(取り入れること)するのが困難であることを理由にそれらを排除する危険性が大きいなど、さまざまな問題を含んでいます。
 「主張」と併せて関連するしんぶん赤旗の3つの記事を紹介します。
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主張 デジタル関連法案 個人情報保護なき活用の危険
                        しんぶん赤旗 2021年3月14日
 菅義偉政権が看板政策とする「デジタル改革」の関連法案が衆院で審議されています。地方自治の侵害、強力な権限を持つデジタル庁の新設など多くの問題点がある法案です。「デジタル社会形成基本法案」が示す基本理念には「個人情報保護」の文言がありません。プライバシー権などの人権保障をないがしろにしたまま、個人データの利活用を推進する内容です。拙速な審議で成立を図ることは許されません。

自治体独自の施策を制限
 政府は、行政のデジタル化を進め利便性を向上させるといいます。基本法案がめざす「国・地方自治体の情報システムの共同化・集約」は、自治体の業務内容を国が今後整備するシステムに合わせていくことを進めます。自治体独自の施策が抑えられ、住民自治を侵害させかねません。すでに自治体共用の情報サービスを使っている自治体では、仕様変更ができないことを口実に個別の住民要求に応えた施策を行政側が拒否する事例が各地で起きています。
 デジタル化推進のカギに位置づけられているのが、現在、税、社会保障、災害対策に限定されているマイナンバーの利用範囲の拡大です。「デジタル社会形成関係整備法案」は医師、看護師免許に関する事務や保育士の登録など国家資格保有者に関する業務をマイナンバーで行えるようにします。預貯金口座に関する二つの法案は、公的給付金の受給者をはじめとして銀行口座のマイナンバーへのひも付けを促進します。膨大な個人データが国に集まります。
 個人情報保護については、民間、行政機関、独立行政法人の三つに分散して規制している現行法を整備法案で統合します。自治体の個人情報保護条例も一元化を図ります。先進的な規制をしてきた自治体独自の基準が引き下げられる恐れがあります。多くの人が監視社会化を警戒するのは当然です。
 デジタル庁は首相が長となって強大な権限を行使します。国の情報システム整備に関する予算は同庁が一括して確保した上で各省庁に配分します。各行政機関に対する資料提出権、勧告権も設置法案に明記されています。国が補助金を出している自治体や医療、教育機関など準公共団体の予算配分やシステム運用に同庁が口を挟むことができるようになります。
 デジタル庁職員500人のうち100人以上を民間から登用します。事務方トップの「デジタル監」にも民間出身者が就くことが想定されています。国のルールづくりや予算執行が特定企業の利益に沿ったものになりかねません。総務省幹部の接待問題で明らかになった官民癒着をさらに強める法案など容認できません。

拙速審議で強行許されぬ
 デジタル関連法案は国民生活の多くの分野にかかわり、国と自治体の関係を大きく変える内容を盛り込んでいます。たばねて一括審議させることは国会軽視です。一つ一つを徹底的に審議することが民主主義のルールです。
 法案の資料には45カ所もの誤りが見つかり、平井卓也デジタル改革担当相が陳謝する事態になりました。法案の成立ありきで国会、国民への説明をないがしろにする姿勢がずさんな作業を招きました。世論を高め、廃案に追い込まなければなりません。


デジタル法案 自治体独自施策を抑制 塩川氏批判 地方自治侵害の危険
                        しんぶん赤旗 2021年3月13日
 デジタル関連5法案が12日の衆院内閣委員会で実質審議入りし、日本共産党の塩川鉄也議員は法案が住民自治を侵害する危険性をただしました。
 基本法案では、国と自治体の「情報システムの共同化・集約の推進」を掲げ、国が整備する全国規模のクラウドシステム(インターネットを利用して情報やサービスを共有する仕組み)を自治体に使わせようとしています。
 塩川氏は、平井卓也デジタル改革担当相が同日の答弁で、法案では自治体に対し情報システムの共同化・集約を義務づけているとの考えを示したことについて追及。平井氏は「システムは(自治体の)政策判断を制約するものではない」などと述べました。塩川氏は、システムの制度設計も不明確なのに自治体には義務だけがかかり、自治体独自の事業に差しさわりが起こりうる規定だと指摘。「地方自治の侵害になる」と批判しました。
 クラウド等のシステムでは国保料の減免や子ども医療費の無料化など自治体独自の施策が実施できるのかとただしました。
 対応が可能かのように述べる平井氏に対し、現に複数の自治体が共同で使っているクラウドの利用によって、行政の仕事内容をシステムに合わせている事例(富山県上市町)や、カスタマイズ(仕様変更)するより簡素化で業務を減らすことが大事と答えた市長の例(滋賀県湖南市)をあげ、当局が個別の住民要求に応えた施策のカスタマイズを受け入れない事例が全国各地にあると強調しました。塩川氏は、政府が「カスタマイズを無くすことが重要」とした方針を閣議決定し、カスタマイズを抑えた自治体に助成金を出す仕組みまでつくっていることをあげ、「国が住民要求に応えたカスタマイズを抑制する旗を振っていることが問題だ」と批判しました。


デジタル法案 個人データ 不利益利用も 塩川議員 行政サービス充実こそ
衆院本会議
                       しんぶん赤旗 2021年3月10日
 デジタル社会形成基本法案などデジタル関連5法案が9日の衆院本会議で審議入りしました。日本共産党の塩川鉄也議員が質疑に立ちました。
 塩川氏は、デジタル化を口実に窓口の減少など自治体の対面サービスを後退させる事例が多いと指摘。デジタル化を生かすとともに多様なニーズに応える対面サービスの拡充を求めました。
 また、基本法案が推進する「国や自治体の情報システムの集約・共同化」は、自治体の業務内容を国のシステムに合わせるものだと指摘。ある自治体がシステムの仕様変更ができないことを理由に、第3子の国保税免除の要望を拒否した事例を紹介し、「自治体独自のサービスの抑制につながる」と批判。菅義偉首相は根拠を示さず、「懸念はあたらない」と強弁しました。
 塩川氏は、同法案によって個人データを「活用」する社会になると指摘。マイナンバー制度の拡大をめぐっても、個人の所得・資産・医療・教育などの膨大なデータを国に集積させようとしているとして、「本人に不利益となる利活用が行われるのではないか」と追及しました。
 菅首相は「法定された範囲内で利用する事務を増やす」とし、「個人情報の一元管理はせず、保護に万全を期す」と述べるだけでした。
 塩川氏は「基本法案の基本理念に『個人情報保護』の文言がないことは重大だ」と強調し、「国家による個人情報集積が監視社会につながる」と主張しました。
 デジタル庁については、各行政機関への勧告など強力な権限を持ち、自治体や医療・教育機関の予算配分やシステム運用にも関与でき、多数の民間企業在籍者を登用することで、官民癒着を招くと批判しました。


デジタル法案 給付抑制と市場化狙う 医療・教育への影響を学習
                        しんぶん赤旗 2021年3月10日
 衆議院でデジタル関連5法案が審議入りした9日、「共謀罪NO実行委員会」と「『秘密保護法』廃止へ実行委員会」が国会内で学習会「デジタル化される医療と教育」をひらきました。
 神奈川県保険医協会の知念哲さんは、マイナンバーカードを普及するため、政府が今月からマイナンバーカードを健康保険証代わりに使えるようにしたことについて「医療機関にとってそのリスクは高い」と指摘しました。
 知念氏は「マイナンバーカードを必須ツールに(集められる)医療情報は、病名や病歴など機微性の高い要配慮個人情報である一方、生命保険会社などにとって、使用価値が高い。医療情報をもとに、負担の範囲でしか給付が受けられない、給付抑制と市場化を進めるのが政府の狙いだ」と述べました。
 全国学校事務労働組合連絡会議の伊藤拓也さんは、子どもが1人1台のパソコンを持つことや、学習履歴などの教育データの利活用を政府が狙っていることを紹介しました。
 「個別最適な学び」というキーワードをもとに、デジタル教材のどのページを何秒間ひらいたかなどのデータが取得できるようになるなどと指摘。伊藤氏は「運用には民間教育産業に頼るしかない。データを人工知能が分析し次の課題が用意されていく。(学ぶ者)個人でなく、類型化された課題が強力な意味を持ち、教員が“窓口”にすぎなくなる」と批判しました。

 学習会では、日本共産党の田村智子副委員長はじめ立憲民主党、社民党の参院議員があいさつしました。