2021年6月5日土曜日

05- 社会は変わるし、変えられる ― 学生オンラインゼミ(2)~(3)

 民青同盟主催で5月23日に行われた「社会は変わるし、変えられる―志位さんと語る学生オンラインゼミ」の詳報が、テーマごとに連載されることになりました。

 その第2回と第3回です。
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社会は変わるし、変えられる――志位さんと語る学生オンラインゼミ(2)
科学と反省の欠如――二つの問題正す
                        しんぶん赤旗 2021年6月2日
コロナ対策 どんな感染対策が必要か
 広島県の学生班 緊急事態宣言が出されているんですけれども、効果がどれぐらいあるのかわかりません。どんなコロナ感染対策が必要だと、委員長は思われますか。あと、「オンライン授業の準備が大変」とか、「バイト先が休業した」という学生に、補償が必要ではないかと思うんですけど、その点いかがでしょうか。
 志位 どんなコロナ対策が必要かという質問ですが、私は、日本のコロナ対策は失敗したと考えているんです。いま世界の少なくない国では(収束への)出口が見えてきつつありますね。ところが日本では出口が見えてきていません。ただすべき二つの大問題があると、私は言いたいと思います。

科学に基づく「封じ込め」の戦略がない――検査とワクチンの異常な遅れ
 志位 第一は、科学に基づく「封じ込め」の戦略がないという問題です。そのなかでも一番の問題は、PCR検査を軽視してきたことにあります。いまだに人口比で世界144位と、まったく遅れている。なぜこんなに遅れたのか、私は、とっても疑問だったんですけれども、この間、「なるほど」と思ったことがあるんです。


 (パネル2)これは、厚生労働省が昨年5月に、秘密裏に作成していた内部文書です。「希望者に広く検査を受けられるようにすべきとの主張」に対する「反論」が書いてある。そんなことをやったら「医療崩壊につながる」「医療崩壊を招く」と書いてあるでしょ。“検査を広げたら医療崩壊が起こる”。こういう文書を、秘密裏につくってばらまいていた。ひどいでしょ。起こったことは反対でした。検査を怠ったために、感染が拡大して、医療崩壊が起こっている。
 ワクチンもそうです。日本ではワクチン接種が非常に遅れている。接種回数で世界128位です。これは、国産ワクチンの開発を怠ってきたことが根本にあるのですが、早い段階からワクチン接種に本腰を入れてとりくむ体制をつくってこなかった政治の怠慢が、こういう事態を招いていると思うんです。
 検査とワクチン――これは「封じ込め」のための科学的基本です。ところが両方とも真剣にとりくんでこなかった。今からでもここは根本からたださなければいけないと、私たちは主張しています。

失敗から謙虚に学び、次の対策に生かすという姿勢がない
 志位 もう一つ問題があります。
 第二の問題として私が言いたいのは、失敗から謙虚に学び、次の対策に生かすという姿勢がないということです。未知のウイルスとのたたかいですから、政治が失敗することは、私はあると思うんです。失敗したときが大事だと思う。そのときに、きちんと失敗だったと認め、反省し、謙虚に学んで、次の対策に生かす。こういう姿勢が大切ではないでしょうか。
 ところが、世界の多くの国ではそういう姿勢でとりくんでいるのに、日本の政府にはそういう姿勢がない。たとえば、安倍政権、菅政権のもとで、誰がみても失敗だったということが、いくつもあるでしょ。昨年3月の全国いっせい休校――子どもを苦しめただけでした。アベノマスク――届いたころには市中にマスクが出回っていた。Go Toキャンペーン――全国に感染を広げてしまいました。明らかに失敗をやっている。
 ところが、いまあげた三つのうち、政府が「間違っていました」と頭を下げたのは、一つもありません。そういうことでは、国民は、政府のやることが信用できなくなってしまいます。たとえば、Go Toキャンペーンのときには、「移動するだけでは感染は広がりません」と言っていたのに、いまは「移動をやめてください」と言っている。つじつまが合わなくなってしまっているわけです。
 私は、この二つの大問題をただすことが急務だと思います。

ワクチン、検査、補償――「3本柱」でコロナ「封じ込め」に責任をもて
 志位 私たち日本共産党としては、先日(5月20日)、政府にたいして緊急要請を行いました。安全・迅速なワクチン接種、大規模検査、十分な補償と生活支援――この「3本柱」で「封じ込め」に責任をもてという要請です。
 それから、医療機関への減収補填(ほてん)や支援強化、そして、東京オリンピック・パラリンピック中止の決断をということも提起しています。ぜひこの方向に進むよう、強く求めていきたい。

学生への複数回の給付金、給付型の奨学金、学費を半分に
 志位 それから、学生のみなさんにたいして、「オンライン授業の準備が大変」とか「バイト先が休業した」などの学生に補償が必要ではないかというご意見ですが、これは本当にその通りです。
 困窮している学生への給付金が1回きりしか出ていません。しかも全学生の12%しか対象になっていない。これを複数回、もっと対象を広げて出す必要があります。
 それから、感染対策を考えたら、オンライン授業はどうしてもやむを得ないのですが、オンライン授業だけでは何のために大学に入ったのかとなってしまいます。キャンパスに行きたいですよね。そのためには、大学での検査を大規模にやるべきです。一部の大学で始まっていると聞きましたが、PCR検査を大規模に行って、キャンパスを安全にして、大学でもゼミなどで集えるように条件をつくっていくことも大切です。
 それから、何といっても給付型の奨学金を本格的につくって、学費を半分にするということを、政治の責任でやっていく。
 そうしたことを、強く求めていきたいと考えています。

オンライン授業なのに施設費――政治が責任をもって対応することを求めていく
 中山 ありがとうございます。学生の方から追加の質問ありますか。
 学生 オンライン授業で、大学に行っていないのに施設費がかかる問題についてどう思われますか。
 志位 これは大きな矛盾だと思います。オンライン授業は、現状ではやむを得ないとしても、施設費などを学生負担にするというのは、政治の責任でただしていく必要があると思います。大学に責任を転嫁するのでなく、政治が責任をもって対応することが必要です。また、先ほどお話ししたように給付金をしっかり出していくことも含めて、必要な支援をやっていくことを求めていきます。
 同時に、私が強調したいのは、オンライン授業は、現状ではやむを得ないのですが、大学の一番のだいご味というのはキャンパスでみんなが集う、そのなかで学んでいくことですよね。先ほども言ったように、検査をしっかりやって、大学でも少人数のゼミなどができるように条件をつくっていくことを、今はあわせてやっていかないといけない。そのことも求めていきたいと考えています。

「受益者負担主義」――“「益」を受ける学生が負担を”という考え方が間違っている
 中山 施設費のことで質問でしたけど、学費の半額そのものを掲げているのは、どうしてなんでしょうか。
 志位 これは、日本の学費は、年間で約80万円から130万円にもなる。世界最高水準の学費になっています。私の大学生のとき(1973年)は、国立大学で年間3万6千円でした。それでも、その前の年は1万2千円で、3倍にすることに反対してストライキが起こったぐらい、当時は大問題になったのですが。
 中山 ほんとに高いですね。
 志位 高いですね。これは下げるのは当たり前です。ヨーロッパの多くの国ぐにでは、無償か、廉価です。そういう方向に変えていかなければなりません。
 中山 学生の方どうですか、回答を受けて。
 学生 ありがとうございました。学費が高すぎるというのは本当に思っていて、40年くらい前や50年くらい前は、物価の違いもあるんですけれど、いまより、安かったという印象が自分にもあるので、学生が大学をきちんと卒業できるような環境を整備してほしいなと、それに見合った学費が必要だと思いました。
 志位 いまのお話を聞いてつけくわえますと、政府が学費を上げていった理屈があるんですよ。「受益者負担主義」というもので、つまり大学で「益」を受けるのは学生だと、だから学生が負担して当たり前でしょうと、こういう理屈で上げていったんです。ところが、学生が大学で学んで「益」を受けるのは個人じゃないんです。社会全体の利益になるじゃないですか。学生が、大学でいろいろな勉強をして、社会に出て行っていろいろな分野で頑張る。これは社会全体の利益じゃないですか。そもそも憲法は教育を受ける権利を定めており、「受益者負担主義」は成り立ちません。
 だから、「受益者負担主義」ということで、個人が利益を受けるんだから、その分は払って当然だろうと、この考え方が間違いだということを私はうんと言いたいと思います。ヨーロッパなどでは「益」を受けるのは社会だから、費用は社会が負担する――学費は無償は当然だという議論になるんですね。それが当たり前だと思います。 (つづく)


社会は変わるし、変えられる――志位さんと語る学生オンラインゼミ(3)
「税金の集め方、使い方」の大改革を
                        しんぶん赤旗 2021年6月3日
日本の借金 どのようにとらえ、解決していけばいいのか
 愛知県の学生班 私たちは大学で福祉を学んでいます。班会の中で医療や福祉の分野にもっと予算を拡充してほしいという声がよく上がるのですが、そういうことを話すと、日本は多額の借金を抱えているからそんなところにお金は回せないんだという意見をしばしば耳にすることがあります。そもそもこの日本の借金はどういうものなのか、また、それをどのようにとらえて解決していけばいいのかということを教えてほしいです。
 志位 とても大事な問題だと思います。国と地方の借金(長期債務)は、2020年度末で1158兆円、対GDP(国内総生産)比で216%となっています。日本は、OECD(経済協力開発機構)の国ぐにで、断トツで借金が多い国になっています。

借金増はなぜ――「社会保障のため」はうそ、公共事業の浪費、大企業・富裕層減税が原因
 志位 借金の問題を考えるときに、なぜ借金がつくられたか、ここから考える必要があると思います。自民党や財界などは、「社会保障にお金を使いすぎたからだ」という議論をすぐしますでしょう。これはうそですよ。

 (パネル3)これを見てください。GDP比での社会保障支出の国際比較です。フランスが32・1%、ドイツが27・7%、アメリカが24・9%に比べて、日本は22・9%といちばん少ないじゃないですか。これを、アメリカ並みにしただけでも約10兆円、増やせます。ドイツ並みにしたら約25兆円、フランス並みにしたら約50兆円、いまの経済規模でも社会保障支出を増やせます。ですから、「社会保障にお金を使いすぎたから」というのはうそなんです。
 なぜ巨額の借金ができたかというと、二つ原因があります。
 第一は、1970年代から90年代のことですが、無駄な公共事業に巨額のお金を使い続けた時期があります。90年代には、年間50兆円も公共事業に使って、社会保障が20兆円だった時期もあって、私たちは「逆立ち」財政だといって、ずいぶん批判したんです。この時期に、無駄な公共事業にお金を使い続けて、30年間で借金が約300兆円も増えてしまいました。これが第一の原因です。
 第二に、2000年代に入りますと、さすがに無駄な公共事業に野放図にお金を注ぎ続けることができなくなった。今度は、公共事業に代わって、借金の最大の原因になったのは、大企業と富裕層の減税でした。


 (パネル4)これを見てください。1989年に消費税が導入されてから、今日まで、33年間で国民は消費税を累計で447兆円も払っています。ところが、法人税(3税)は累計で同じ時期に326兆円も減っている。所得税・住民税は累計で287兆円も減っている。大企業と富裕層への減税のために、これだけ税収に穴が開いてしまったんです。合わせて約600兆円でしょう。これでは、消費税をどんなに払ったって、穴の開いたバケツに水を注いでいるようなもので、借金がどんどん増えてしまいました。これが二つ目の原因です。

「税金の集め方、使い方の改革」で、暮らしを良くしながら、借金解決の道筋もつける
 志位 それではどう解決するのか。今の事態の改善はもちろん必要です。ただ、「借金をすぐ返す」とか、「借金の額自体をすぐ減らす」などは、無理なことになります。追求すべきは、「借金が多少増え続けたとしても、経済がそれ以上に成長し、GDP比でみた借金残高は低下していく」というところにあります。そうした方向に進む必要があるというのが、私たちの考えです。
 そのさい、コロナ対策と、通常の財政運営を分けて考える必要があります。
 コロナ対策というのは、一時的なものです。一時的なものに終わらせなければなりません。これは借金をしてでも、必要な対策はどーんとやって、命と暮らしを守る。そういう姿勢が必要です。
 そのうえで、社会保障の財源とか、消費税減税の財源というのは、私たちは、「税金の集め方、使い方を改革する」ことで賄っていこうと、こう考えています。


 (パネル5)これをご覧ください。これは、企業の規模別の法人税の実質負担率です。大企業は中小企業に比べて負担率が低いでしょう。小規模企業や中堅企業の負担率はだいたい20%程度、大企業は10%程度で半分しか払っていない。これは、おかしいですよね。大企業には、いろいろな優遇税制があります。そのためにこんな不公平なことが起こっているんです。私たちは、大企業への優遇税制を正し、法人税率はこの間、23%まで下げられてきましたけれども、大企業については安倍政権前の28%まで戻そうということを主張しています。


 (パネル6)もう一つは、このグラフを見てください。これは有名なグラフなんですが、所得階級別の所得税負担率のグラフです。わが党の大門実紀史参議院議員が最初に作った。そして、今は財務省も使っている(笑い)というグラフなんです。このように、年収1億円を超えると、所得税の負担率が大金持ちになればなるほど下がっていってしまう。これも、おかしいですよね。なぜそうなるかというと、株取引などにかかる税が軽い。それにくわえて、所得税の最高税率が下げられてきた。こういう大金持ちへの優遇税制を正し、最高税率を上げていくことによって財源をつくろうというのがもう一つなんです。
 税金の使い方の方も、5・4兆円まで膨れ上がった軍事費や公共事業の無駄にもメスを入れる。
 そういうもろもろの改革で、暮らしを良くすることで、経済成長を実現し、税金の増収をはかる。
 私たちの試算では、合計26兆円程度の財源をつくれます。26兆円のうち、12兆円で消費税5%への減税をやる。さらに暮らしを良くする仕事をやる。暮らしを良くしながら借金の問題も解決する道筋をつけていく。こういうプランを示しています。

大企業と富裕層にしかるべき税金を――コロナ危機のもと世界の流れに
 志位 最後にこの問題で一つ言っておきたいのは、世界の流れも私たちが主張しているような方向にむかっているということです。
 いま、コロナ危機のもとで、日本でも世界でも超富裕層がものすごくもうけています。そうしたなかで大企業と富裕層にしかるべき税金を払ってもらおうという動きが世界中で起こっています。
 バイデン米大統領は、トランプ政権が21%まで下げた法人税を28%まで戻すと言っています。日本共産党と同じ28%です。先に言ったのは日本共産党ですけれども(笑い)、それをアメリカの民主党がいま言いだした。これはいいことですから、日米協調で法人税を引き上げて、ちゃんと払ってもらえるようにしたい。
 世界の流れからみても道理のある道なんです。こういう方向で、きちんと財源の問題も考えながら、暮らしを守っていきたいというのが私たちの考え方です。

「借金を増やしても心配はいらない」という立場にはくみしない
 中山 では、学生の方から質問などありますか。
 学生 ありがとうございます。借金について調べているときに、「日本の円は信頼があるから、借金はとくに問題がないんだ」という意見だとか、そういうものをよく耳にするんですけれど、そういうものについてどうとらえたらいいのか、また、共産党はどう考えているのかを教えてください。
 志位 私たちは、「借金を増やしても心配はいらない」という立場には、くみしません。たしかに、日本の場合は、借金のほとんどは外国ではなく、国内で借りたものですし、いざとなれば日本銀行がお金を発行して国債を買ってしまうこともできます。しかし、「財政破たん」というのは、「借りたお金が返せない」ということにかぎらず、別の形で起こることもあるんです。
 いざとなれば日銀がお金を発行できるといっても、好き勝手にいくらでもできるわけではありません。お金というのは、物やサービスを売り買いするための手段ですから、物やサービスの流通量に見合ったお金の量が必要になります。物やサービスとの関係で、お金ばかりがどんどん膨らんでいったらどうなりますか。お金の価値が下がってしまいますね。お金の値打ちが下がるということは、「インフレ」になるということです。
 多少の「インフレ」ならともかく、年に10%とか20%もの急激な「インフレ」になったらどうなるか。そうなると、働く人の実質賃金がどんと下がってしまう。あるいは、なけなしの貯金もぼーんと目減りしてしまう。国民にとっての大被害が起こります。戦後の一時期、ものすごい「インフレ」が起こって、そういう大被害が起こったことがありましたが、そういう問題があるのです。
 「インフレになったら、その時は政府の財政支出を減らしたり、増税したりして、借金が増えるのを減らせばいい」という議論がありますが、これは理屈ではそうだったにしても、実際にはできません。「インフレ」で物価が上がって、ただでさえ暮らしが苦しくなっているときに、「消費税を増税する」とか、「社会保障を削る」ということをしたら、暮らしの破壊に追い打ちをかけることになってしまいます。
 ですから、私たちは、「借金を増やしても心配ない」という立場にくみするわけにはいかないということを、言いたいと思います。
 大企業、富裕層にきちんと税金を払ってもらって、あるいは、5・4兆円にもなった軍事費にメスをいれて、財源をつくっていくという道を進みたいと思います。財政について考えの違う人とも、そういう点は一致すると思うんですよ。そういう一致点で協力するということもやっていきたいと思います。

経済停滞の原因は、借金を増やしても、国民の暮らしのために使われていないから
 中山 なるほど、お金をいくら刷ってもそのお金がどこから出て、どこに使われるかという仕組みが変わらないと意味がないということでしょうか。
 志位 そうですね。「日本経済が停滞しているのは、政府の借金が少なすぎるからだ」という議論がありますが、経済が停滞している原因がどこにあるかといえば、借金を増やしても、それが国民の暮らしのために使われていない。先ほどお話ししたように社会保障に回っていない。ゼネコンをもうけさせるための公共事業や、大企業・富裕層への減税だとかに使われてしまったからです。日本経済を良くするためには、ただむやみに政府の借金を増やすというのではなく、「税金の集め方、使い方」を全体として改革していくことが大切です。あわせて、派遣・パート・アルバイトなど、「使い捨て」の労働を広げてしまった雇用の規制緩和を大もとからただしていくことが必要です。(つづく)