参院憲法審査会は2日、改憲手続きを定めた国民投票法改正案を巡る参考人質疑と自由討議を行いました。憲法に詳しい大学教授と弁護士の計4人が参考人として出席しました。
立民党が推薦した名古屋学院大の飯島滋明教授は、「ドイツやフランスには緊急事態条項があるが危険だとして使わず、法律で対応している」と紹介し、「緊急事態条項によってさらに私権が制限されることに果たして国民が納得するのか」と疑問を呈しました。
共産党が推薦した福田護弁護士は、私権制限を規定する災害対策基本法などが既に整備されているとして、「政府にさらに権力を付与する緊急事態条項が必要だという合理的な理由はない」と否定しました。
自民推薦の近畿大の上田健介教授と、日本維新の会が推薦した大東文化大の浅野善治教授は緊急事態条項に関する意見を表明しませんでした。
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国民投票法に根本欠陥 参院憲法審参考人質疑 「公平担保せず」
しんぶん赤旗 2021年6月3日
参院憲法審査会は2日、改憲手続きの国民投票法改定案について参考人質疑を行いました。
福田護弁護士は意見陳述で、現行の国民投票法について公務員の投票運動を禁止し、最低投票率を規定せず、CMなど有料広告での賛成・反対派の実質的公平を担保していないと指摘し、「憲法制定権力であり主権者の国民の自由な意思の表明であるべき公平・公正な国民投票として根本的欠陥がある」と批判しました。
名古屋学院大の飯島滋明教授は「CM規制など同法の付帯決議の項目が14年間も放置されている」と批判。近畿大の上田健介教授は「(改定案論議は)熟議になっていない」と述べました。
4人の参考人全員が広告規制の議論の必要性に触れました。
質疑で、日本共産党の吉良よし子議員はコロナ対策を口実とした改憲論議と一体に改定案を進める菅政権の姿勢を質問。福田氏は「緊急事態宣言の問題を指摘されている時に、さらに政府に権力を付与する『緊急事態条項』の議論に進むだけの合理的根拠はない」と述べました。
委員間の意見交換で、山添拓議員は改定案が改憲論議を進める「呼び水」として提出され、「最低投票率などの重大な欠陥を抱えたまま審議を進めることに反対だ」と強調しました
緊急事態条項創設「合理的な理由ない」 参院憲法審査会で識者ら議論
東京新聞 2021年6月2日
参院憲法審査会は2日、改憲手続きを定めた国民投票法改正案を巡る参考人質疑と自由討議を行った。憲法に詳しい大学教授と弁護士の計4人が参考人として出席し、うち2人は自民党が新型コロナウイルス禍を契機に創設を強く主張し始めた緊急事態条項に異議を唱えた。
立憲民主党が推薦した名古屋学院大の飯島滋明教授は「ドイツやフランスには緊急事態条項があるが危険だとして使わず、法律で対応している」と紹介。日本では緊急事態宣言に伴う休業要請などで事実上私権が制限されているとした上で「緊急事態条項によってさらに私権が制限されることに果たして国民が納得するのか」と疑問を呈した。
共産党が推した福田護弁護士は、私権制限を規定する災害対策基本法などが既に整備されているとして、「政府にさらに権力を付与する緊急事態条項が必要だという合理的な理由はない」と否定した。
自民推薦の近畿大の上田健介教授と、日本維新の会が推薦した大東文化大の浅野善治教授は緊急事態条項に関する意見を表明をしなかった。
一方、議員による自由討議で自民の山田宏氏は「今回のようなパンデミック(世界的大流行)に対し、政府がスイッチを入れて全法令が非常事態のルールに変われば、速やかに国民の生命や生活を守る手だてが講じられたはずだ」と緊急事態条項の重要性を訴えた。
自民、立民両党は今国会での改正案成立で合意しており、自民は9日の審査会で審議を終えた後、採決する方針。(山口哲人)
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2日に参院憲法審査会で行われた参考人質疑の要旨は次の通り。
【参考人意見陳述】
近畿大法学部 上田健介教授
上田健介 憲法改正国民投票では、有権者が投票しやすい環境を整備することが望ましい。地方公共団体の立場からも、国政選挙の場合とできるだけ平仄(ひょうそく)を合わせることは、事務の混乱を防ぐために合理的だ。憲法改正権者は国民であり、国会は発議を行うにすぎない。国会議員は国民の分断をあおるようなやり方ではなく、国民が憲法を巡る諸論点について冷静に熟議することを可能とするよう、できるだけ良質な情報を提供する責務がある。
名古屋学院大経済学部 飯島滋明教授
飯島滋明 人を選ぶ選挙と憲法改正の是非を問う国民投票には制度的、趣旨に根本的違いがある。単純に同じ投票ということで横並びにしては、投票環境や利便性の悪化をもたらす可能性がある。洋上投票や不在者投票に関しては、投票できない人がそのままになっている可能性がある。そうであれば最高裁の判例に照らしても、憲法違反状態が放置されている状況での国民投票は憲法違反になる可能性もある。改正案には問題が多すぎる。
大東文化大法学部政治学科 浅野善治教授
浅野善治 立憲主義とは、権力者の権力行使を憲法に従わせることで国民の自由を守ると説明されるが、現在の国民がその意思に従って今の憲法を検証し、改正が必要なら、常に改正できるようにしておくことが極めて重要だ。憲法は国会に唯一の立法機関の地位を与えているが、憲法改正の発議は立法活動とは全く違った機能だ。改正案の審議と憲法改正の実質的な審議とは全く性格が異なる。そこは分離をして、国会が憲法改正の審議をすることが重要だ。
福田護弁護士 現行の憲法改正手続法は、根本的な部分に欠陥があり、その対処がなされない限りは公平公正な国民投票が保障されず、実際に適用されるべきものではない。特に国民に極めて影響力の大きいテレビ・ラジオCMも含む有料広告は賛成派、反対派の間で、その量などに圧倒的な格差が生じる極めて不平等な事態が現出する。選挙の投票率が大きく低下している現状では、根本規範である憲法改正の正当性を基礎づけるに足る賛成票がないままに改正される恐れも感じる。
【質疑】
古川俊治氏(自民) 私は自民党だが、自民党の改憲原案がそれほど良いとは思っていない。もっと使いやすい憲法のほうが良いと思うが、いかがか。
浅野氏 日本国憲法が七十数年改正されていないということがあるが、国民の使い勝手が良い憲法である必要はある。ただ、憲法はその時の政治情勢でころころ変わることは避けなければならない。
福田氏 私自身は、憲法が日常生活で意識をされずに、社会生活が送られている状況はむしろ望ましい状態だと思う。
江崎孝氏(立民) 国民投票法改正案は憲法違反の疑いが強い。このままで憲法審議や発議が可能か。
飯島氏 投票ができない国民がいることは、最高裁の判例に照らしても憲法違反。こんな状況で改憲発議をした段階で憲法違反になる可能性が否定できない。
江崎氏 衆参で改正案に関する熟議がされていると考えるか。
上田氏 熟議にはなっていないのではないか。ただ、憲法本体の議論と手続きの在り方についての議論は次元が違う。改正案はテクニカルな話なので、そんなに問題はない。
伊藤孝江氏(公明) 英国の憲法と日本の憲法で1番違うのは、成文化されているかどうか。英国は判例や慣習を含めて憲法として捉えられている。
上田氏 英国は成文はないが、大事な価値観が共有されているように外部からは見える。日本は(成文の)憲法があるが、その奥にあるような基本的価値観が共有されているのだろうかというところは、逆に心配なところもある。
浅田均氏(維新) 制定権力者である国民の評価をまだ1度も得ていない現行憲法をどう評価するか。
上田氏 (衆参両院の)3分の2の発議で国民投票が1度も行われていないのは、要件が厳格であることもあるが、結果として国民が(現行憲法を)認めてきているのではないか。
浅野氏 今の国民は今の憲法を受け入れていると基本的には思う。ただ、緊急事態条項が必要だというような議論が起きてくることは、憲法的に見ても「こう考えた方がいいのではないか」という国民の声が上がってきているとは思う。
浜野喜史氏(国民) 改正案付則の広告規制に関しては、なるべく自由にという考えと、一方で規制が必要という考えがあるが、合意できる一致点があるとすれば。
飯島氏 外国政府の影響が生じるようなことはまずい、というあたりは(各会派で)合意できないのか。
吉良佳子氏(共産) 自民党は、新型コロナウイルス対策の失政を憲法のせいにして、緊急事態宣言とは別物の緊急事態条項をちらつかせ、改憲と一体で国民投票法改正案の議論を進めている。この状況をどう思うか。
飯島氏 ドイツやフランスは緊急事態条項があるが、危険だとして使わず、あえて法律で対応している。(日本で)これ以上、私権の制限をすることに国民が果たして納得するのか。
福田氏 緊急事態宣言も国民の権利侵害の危険が指摘されている中で、緊急事態条項がさらに必要だという議論に進むだけの合理的な理由がない。災害対策基本法などで、政府が国民を義務づける体制が整備されているのに、さらに憲法上の緊急事態条項が必要だとは思わない。
渡辺喜美氏(みんな) 改憲原案の提案には衆院100人以上、参院50人以上(の賛成)という要件がある。原案提案は党議拘束を廃止してもいいのではないか。
浅野氏 人数制限を設けることには反対だ。憲法改正案の審議は政治のルールと切り離されたところで議論すべきだ。