基地や原発などの周囲約1キロなどの住民を監視する土地利用規制法案が4日、参院本会議で審議入りしました。
共産党の田村智子政策委員長は、代表質問で「土地利用規制法案は。国民が自由に居住地を選択し、土地や建物を所有する権利を、国が『安全保障』の名の下に制限する違憲立法だ」、戦前、要塞地帯法や軍機保護法で国民がスパイ扱いされた歴史をあげ、「この法案はまさに不安に乗じた国民弾圧法だ」と述べ、廃案を強く訴えました
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居住の自由、財産権侵す違憲立法は廃案を
土地利用規制法案審議入り
しんぶん赤旗 2021年6月5日
参院本会議 田村政策委員長が代表質問
米軍・自衛隊基地や原発などの周囲約1キロ、また国境離島などの住民を監視する土地利用規制法案が4日、参院本会議で審議入りしました。日本共産党から田村智子政策委員長が代表質問に立ち、「日本国憲法は自由に居住地を選択し、土地や建物を所有する権利を保障している。この基本的な権利を、国が『安全保障』の名の下に制限する違憲立法だ」と主張。拙速な議論は許されないと訴えました。(田村氏の質問要旨下掲)
監視が強まる危険 担当相、罰則正当化
田村氏は、政府が「外国資本による土地購入に対する地方自治体からの不安」を法案の根拠にあげている点について、衆院の審議で示された16件の意見書は森林や水源地などの買収・乱開発への危惧だと指摘。これらは海外投資呼び込みの「観光立国・インバウンド(対内投資)政策の結果だ」と述べました。
小此木八郎領土問題担当相は、基地周辺や国境離島の住民を対象にした監視を求める要望について、「ありません」と答弁。「安全保障」を理由とした立法事実がないことがあらためて浮き彫りになりました。
法案では、基地などの周囲約1キロを「特別注視区域」に指定した場合、土地の売買契約で国への事前届け出を義務付けています。田村氏は、事前届け出を怠っただけで、なぜ懲役刑まで科されるのか質問。小此木氏は、事前届け出は「(基地等への)機能阻害行為の兆候を事前に把握するため」のものであり、懲役刑を含む罰則について「実効性を担保するために必要不可欠」だとして正当化しました。
田村氏は、「機能阻害行為」につながる土地利用をやめさせるために、日常的な行動監視が必須になると指摘。監視カメラでの顔認証による行動監視の危険も指摘しました。
田村氏は、要塞地帯法や軍機保護法で国民がスパイ扱いされた戦前の歴史をあげ、「国民の不安をあおり利用することで民主主義が壊される歴史が繰り返されてきた。この法案はまさに不安に乗じた国民弾圧法だ」と述べ、廃案を強く訴えました。
土地利用規制法案に対する田村議員の質問 参院本会議
しんぶん赤旗 2021年6月5日
日本共産党の田村智子議員が4日の参院本会議で行った土地利用規制法案の質問(要旨)は次の通りです。
本法案は、政府が安全保障上重要とする全国の米軍基地、自衛隊基地、原発などの周囲約1キロメートル、また国境離島を「注視区域」「特別注視区域」に指定し、区域内の土地・建物の所有や利用に関する調査、利用の制限、「特別注視区域」内の不動産取引の事前届け出の義務付けなどを行うものです。
日本国憲法は、自由に居住地を選択し、土地や建物を所有する権利を保障しています。この基本的な権利を、国家が「安全保障」の名のもとに直接制限する違憲立法です。
本法案は、自治体からの不安の声を根拠としていますが、政府が根拠とした16件の意見書は、森林や水源地などが外国資本に買収され乱開発されるのではないか等の危惧です。漠とした不安に乗じて、国家が国民監視のフリーハンドを得るための立法ではありませんか。
法案では、内閣総理大臣は、特別注視区域を含む注視区域の土地・建物の利用状況について「調査を行う」とし、所有権・賃借権を持つ者に加え、その他関係者も情報収集の対象としています。いったい誰を対象とした調査なのでしょうか。調査のために、内閣総理大臣が自治体や国の行政機関に情報提供を要請した場合、自治体等は、氏名、住所などを「提供する」としていますが、これは義務規定でしょうか。
調査の目的は、重要施設等の機能を阻害する行為、その恐れのある行為を目的とした土地等の利用をやめさせることだとしています。「行為」の調査は日常的な行動監視が必須ではありませんか。
調査にもとづき、利用をやめるよう勧告、命令することができるとしています。これは、特定の行為への措置に限定されるのか、それとも土地・建物の利用そのものをやめるよう求めることも含まれるのでしょうか。
勧告に従わなかった利用者は、懲役2年以下または200万円以下の罰金が科せられますが、不服申し立ての規定がないのはなぜでしょうか。
特別注視区域内の土地・建物の売買等契約について、契約当事者は内閣総理大臣に、氏名、住所、売買物件の所在地・面積、利用目的などの情報を、あらかじめ届け出ることを義務付けています。届け出を怠っただけで、懲役刑など刑事罰まで科すほどの問題とは何でしょうか。
戦前戦中、要塞(ようさい)地帯法や軍機保護法などにより、軍事施設や軍需工場などの周辺で写真撮影やスケッチをしただけで、国民はスパイ扱いされ罰せられました。この法案はまさに不安に乗じた国民監視法であり、廃案にするために全力をつくします。
裁判所も断罪した自衛隊の国民監視活動 違法が合法に
土地利用規制法案 基地周囲に「注視区域」
しんぶん赤旗 2021年6月5日
「自衛隊による国民監視の被害者が犯罪者扱いされてしまうのがこの法律」。土地利用規制法案に警鐘を鳴らすのは小野寺義象(よしかた)弁護士です。4日、自由法曹団の国会要請で「今すでに自衛隊の情報保全隊が国民監視を徹底的にやっている。これを裁判所は違法と断じた。この法案は、司法の判断すら無視するものだ」と訴えています。(矢野昌弘)
2007年に日本共産党が告発して明らかになった陸上自衛隊情報保全隊の内部文書。03年に自衛隊がイラクに派兵される際、それに反対する行動や、派兵と無関係な年金減額や消費税増税に反対する市民の行動まで監視し、まとめたものです。
東北地方在住の監視被害者107人が仙台地裁で「自衛隊の国民監視差し止め訴訟」を起こし、小野寺弁護士は事務局長をつとめました。
地裁と仙台高裁はいずれも情報保全隊による市民監視がプライバシー権を侵害した違法な監視だとして国に賠償を命じ、国は上告を断念しています。
土地利用規制法案は、自衛隊基地などの「重要施設」から周囲約1キロを「注視区域」などに指定。国は、その区域内の土地建物の利用者情報を提供するよう求めることができます。また、その場所を「阻害行為」に使われないよう「勧告」や「命令」し、従わない時は刑事罰を科すこともできるというもの。
裁判では、シンガー・ソングライターのAさんへのプライバシー侵害が認められました。保全隊の内部文書には、Aさんが駐屯地から10キロも離れているスーパーの敷地内で「イラクに自衛隊を行かせないライブ」をしていることや本名、職業などを記録していました。
裁判で国は「(スーパーを)自衛隊員の家族が利用するなどしていたから、悪影響が生じることが考えられる」と強弁していましたが、仙台高裁は「10キロも離れているので影響があるとは考えがたい」と否定しました。
国はAさんに賠償金を払ったものの謝罪はなく、収集した情報をどうしたのかも明らかにしていません。
小野寺弁護士は「内部文書で明らかになった保全隊の活動をみれば、『阻害行為』を防止するためなら距離などお構いなし。土地利用規制法案は、政令に白紙委任となっており、なんとでもなるのではないか」と指摘。「保全隊の違法な活動が合法化され、被害者が犯罪者扱いされてしまう」と訴えます。