17日、菅首相は東京や大阪などに出されている緊急事態宣言を20日で解除し、まん延防止等重点措置に移行させ、そのまん延防止措置も7月11日に解除することを明らかにしました。すべては東京五輪開催に向けて外見を整えるという発想からです。ご丁寧に産経新聞は17日、9月5日のパラリンピック閉会の直後に衆院解散の可能性を報じました。菅首相が全てを自らの総裁再選のために画策していることをあからさまに示すものです。
では東京五輪パラを安全に開催できる条件はあるかといえばそれは皆無です。
当初分科会は開催できる条件として、東京での新規感染者数が100人程度に下がる必要性を挙げましたが、現状は500人程度で下げ止まりというよりは、既にリバウンドに入っている兆候があります。
しかも当初は想定もしていなかったデルタ株(インド型二重変異株)が出現し、早晩主流になると見られているので過去に経験したことのない感染爆発を起こす可能性があります。
コロナ対応無為無策の菅首相はただひたすらワクチンに頼っていますが、何よりも日本ではまだ接種率は極めて低く、高齢者でも接種を望まない人たちは無数にいて、接種会場はガラガラ(空白率は6~8割)と言われています(来日する選手や関係者の中にもワクチンを接種しない人は当然いることでしょう)。
英国型を克服できたイギリスでも再びデルタ株による感染拡大が起きているのを見ると、そもそもワクチンがデルタ株にどの程度効くのか疑問です。
LITERAによれば、ブラジルで今月13日から無観客で開幕したサッカー南米選手権(コパ・アメリカ)は参加が10チームという小規模なものですが、開幕早々から陽性者が続出し選手だけで陽性者は23人(全選手の約9%)にも上り、選手がサッカー連盟に「すべてはお前らのせいだ」と抗議する事態に至ったということです。
では200を超える国・地域から選手が参加し、メディア関係者を含めると約8万人もの人びとが集まる東京五輪は、ブラジルよりも優れた感染防止体制が出来ているのでしょうか。とてもそんな風には思えません。
これについてもLITERAは取り上げていて、来日時点での選手や関係者、報道陣らへのチェック体制は信じられないようなザルぶりで、申請の仕方一つで隔離期間なし(4~5月に入国した海外の選手や関係者らは2003人中1105人が隔離期間0日)で入国していたのでした。彼らは直ちにホテルに向かうのですが、大会組織委はホテルに対して、「3日間は基本的にホテルの部屋で待機し、4日目以降もホテルと競技会場など認められた場所の往復のみで、14日間が過ぎると自由に行動できるようになる」、「4日目以降はホテルの従業員などが部屋の清掃に入ってほしい」と通達しているということです。
これでは入国者がコロナに感染していた場合、ホテルの従業員も感染リスクに晒されることになり、いつそこでクラスターが発生し従業員や家族たちに広がるか分からないし、そうなれば医療体制がいつパンクしてもおかしくありません。
これが菅首相がひたすら「安心安全な五輪」と強調してやまない東京五輪パラ体制の実態です。要するに「関係者の安全を確保するための公衆衛生措置」が極めて不十分だということです。
やや長くなりますが、水井多賀子氏による2つのLITERAの記事を紹介します。
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五輪の有観客開催強行のため菅首相が会見で“空疎な嘘”連発!
インド型変異株拡大、サッカー南米選手権で感染者続出の現実も無視
水井多賀子 LITERA 2021.06.17
ついに東京五輪開催のための「地獄シナリオ」が実行に移された。本日17日、菅義偉首相は東京や大阪などに出されている緊急事態宣言を20日で解除し、まん延防止等重点措置に移行することを決定したからだ。
東京でリバウンドがはじまっていることはあきらかで、いま宣言を解除するというのはありえない判断だ。事実、本日17日の東京の新規感染者数は先週より13人増の452人。昨日16日も先週より61人も増加して501人となっている。
いや、それ以上に注視すべきは、感染力が高いインド型変異株(デルタ株)の発生状況だ。東京都で昨日16日までに確認されたデルタ株陽性例は計72人におよんでおり、さらに東京都健康安全研究センターによるスクリーニング検査の結果を見ると、直近の6月7日〜13日に確認された変異株陽性数のうちデルタ株は24.3%にものぼっているのだ。
実際、本日おこなわれた都のモニタリング会議でも、専門家からはこんなコメントが寄せられていた。
「新規陽性者数が十分に下がりきらないまま、未だ高い値で推移している。第3波では、新規陽性者数が今回とほぼ同じ400人前後で約3週間推移した後、爆発的に感染が再拡大した。感染性の高い変異株の影響等を踏まえると、第3波を超える急激な感染拡大の可能性があり、新規陽性者数を徹底的に減らし、感染の再拡大を防止しなければならない」
にもかかわらず、菅首相は新規感染者数を徹底的に減らすどころか増加傾向にあるのに、デルタ株による急激なリバウンドが必至の状況下で宣言を解除することを決定してしまった。しかも、菅首相は宣言解除後に移行する重点措置も「7月11日まで」とあらかじめ期限を切った。
これはどこからどう見ても、7月21日から競技が開始される東京五輪に約1万人もの観客を入れて開催するための布石ではないか。
厚労省新型コロナ対策アドバイザリーボードに示された試算では、宣言解除後に人の流れが15%増、くわえて五輪開催で10%増えた場合、「有観客と無観客での累積の新規感染者の差は8月25日ごろに1万人を超え、1日あたり約300人増えることになる」という(朝日新聞デジタル16日付)。しかもこれは「デルタ株の影響を小さく見積もった」数字だ。人命第一、国民の命と安全を第一優先だと言うのであれば、無観客であろうと人の流れの増加を招くリスクがある東京五輪は「中止」という判断しかありえない。
だが、菅首相は本日おこなわれた記者会見でも「東日本大震災から復興を遂げた姿を世界に発信し、子どもたちに夢や感動を伝える機会になる」と口にし、感染リスクについても「会場に来られる観客は常時マスクし、大声の応援は禁止される。会場に直行、直帰をすることも大事だ」などと発言した。
「日本ではしっかり感染対策を講じることができる」と言い張る菅首相
マスクと大声の応援禁止、直行直帰で感染リスクを抑えられると考えているような人間が、約1万人もの観客を入れて五輪を開催しようとしている……。これだけで背筋が凍るが、さらに菅首相は本日の会見で、真っ赤な嘘を堂々と言い張ったのだ。
会見では、ラジオ・フランスの記者が、選手や関係者がたとえワクチンを接種し感染防止対策をとっても100%の安全性を確保することはできないと指摘した上で、「なぜ感染拡大のリスクや死者が出るリスクがあっても、総理大臣は開催するのは大丈夫と思っているのか。その理由はなんですか。ノーと言えないことでしょうか。それともプライドでしょうか。または経済の理由でしょうか」と質問。すると、菅首相は笑みさえ湛えた余裕の表情で、こう言い切ったのだ。
「ノーもプライドも経済でもありません(笑)。しっかり、日本においては、そうした外国から来られた方を感染対策を講じることができるからであります」
いや、菅首相が開催に固執しているのは「日本ではしっかり感染対策を講じることができるから」などではまったくなく、総裁選と解散総選挙を睨んだたんなる私利私欲じゃないか。しかも、「日本ではしっかり感染対策を講じることができるから」と語ったあとに菅首相が述べたその中身は「選手や関係者はワクチンを打って来る」だの「日本に入る前に2回、PCR検査」だの「選手は毎日検査する」というもの。挙げ句、海外メディアの報道陣については“移動する車両でもアクリル板を設置”と主張し、「そうしたことをしっかりやるから海外から来る人はリスクは非常に少ない」と述べたのである。
言うまでもなく、ワクチン接種をおこなっていても感染する例は実際にあるし、ワクチン接種を選択しない選手もいる。また、陽性者が検査をすり抜けることもある。だからこそ「100%の安全性を確保することはできない」と指摘されていたのに、菅首相はワクチンと検査があれば万全だと言うのである。だったら国民がもっと検査を受けられるようにするべきだし、ワクチンを国民の希望者に全員接種を終えてから開催すべきではないか。
だいたい、菅首相はなにかあると「安全安心の大会」と言うが、同じように「安全」を謳い、いまブラジルでおこなわれているサッカーの南米選手権(コパ・アメリカ)のお粗末な状況を知っているのだろうか。
サッカー南米選手権は感染者続出で、選手がサッカー連盟に「すべてはお前らのせいだ」と抗議する事態に
コパ・アメリカは東京五輪と同じように昨年開催される予定だったが新型コロナを理由に延期となり、さらに開催地となったブラジルでは感染が拡大しており、世論調査では「反対」が6割超えに。さらに〈南米諸国の感染症専門家などからも「複数の国から選手団を受け入れるのは問題だ」といった批判が上がっていた〉という(毎日新聞ウェブ版17日付)。だが、大会を主催する南米サッカー連盟は「世界で最も安全なスポーツイベントになる」と発信。今月13日から無観客で開幕した。
感染拡大の最中の開催、開催反対の世論、主催者の「安全」という掛け声……「無観客」という点以外では東京五輪を彷彿とさせる開催経緯だが、いざ開幕すると「世界で最も安全なスポーツイベントになる」というのが看板倒れであることが露呈。というのも、大会では毎日PCR検査を実施しているというが、開幕早々から陽性者が続出し、ブラジル保健省は15日、選手やスタッフ33人を含む52人が陽性と確認されたと発表。「サッカーダイジェスト」に掲載された現地発の記事によると、選手の陽性者は23人にものぼり、これは参加10チーム全選手の約9%にあたる陽性率になるという。
当然、選手からも主催に対する怒りの声があがっている。たとえば、陽性反応が出たというボリビア代表であるマルセロ・モレーノ選手は、自身のインスタグラムにこう投稿したと前出「サッカーダイジェスト」記事は伝えている。
「CONMEBOL(編集部注:南米サッカー連盟)よ、見てみろ! すべてはお前らのせいだ。もし誰かが死んだらどうする? 選手の命に価値はないのか!」
多くの人が抱いていた懸念が的中し、選手や大会関係者に感染が広がっていくコパ・アメリカ。しかも、コパ・アメリカは前述したように参加チーム数は10というスポーツイベント。200を超える国・地域から選手が参加し、メディア関係者を含めると約8万人もの人びとが集まる東京五輪は比較にもならないほど大規模なものだ。菅首相は「選手には毎日検査をする」ことを安全対策として語ったが、コパ・アメリカのように連日陽性者が続出し、メダル数よりも感染者数に注目が集まる「一大クラスターイベント」になる可能性はけっしてゼロにはできないものなのだ。
にもかかわらず、菅首相は「ワクチンと毎日検査」を念仏のように唱えるだけ。さらにはコパ・アメリカとは違い、観客まで入れて東京五輪を開催しようとしている。これを恐怖と言わずしてなんと言うおうか。
菅首相が有観客に執着した結果、議論は「開催か中止か」ではなく「有観客か無観客か」にシフトし、いまや「観客は何人ならOKか」という話にまで移っている。しかし繰り返すが、人命第一ならば「中止」の一択しかないのだ。(水井多賀子)
14日隔離は嘘! 五輪組織委が海外メディアに「隔離0日」になる“抜け穴”例文をおしらせ! すでにロイターと新華社がコピペで申請
水井多賀子 LITERA 2021.06.16
なし崩しにも程がある。20日にも東京都などに発出されている緊急事態宣言を解除すると見られている菅義偉首相。しかも、政府はイベント開催要件について「観客上限数は最大1万人」などという方針を打ち出した(緊急事態宣言やまん延防止等重点措置がつづいた場合は「最大5000人」)。
こうした基準を東京五輪にも適用して有観客開催を強行するのは必至だが、一方、本日おこなわれた厚労省新型コロナ対策アドバイザリーボードの会合では、インドで見つかった変異株(デルタ株)の影響が非常に大きくなった場合、〈早ければ7月前半から中旬にかけて再び緊急事態宣言が必要な状況になる懸念がある〉と指摘(日本経済新聞16日付)。このように中止が検討されるべき状況であるにもかかわらず、それをすっ飛ばして是が非でも観客を入れて開催しようとは……。
だが、懸念が高まっているのは観客の問題だけではない。約8万人にもおよぶ東京五輪のために海外から来日する選手や関係者、報道陣らへの対応でも、信じられないようなザルぶりが明らかになっているからだ。
問題が発覚したのは、6月9日におこなわれた衆院文科委員会でのこと。立憲民主党の斉木武志衆院議員は、東京五輪組織委員会が世界に向けてメールなどで発送した「本邦活動計画書(Activity Plan)」を入手したとし、これをもとに質疑。この「本邦活動計画書」は、選手や大会関係者、マスコミ関係者が来日する4週間前までに必要事項を記入した上で提出を求めているもので、そのなかに隔離期間についての記載もある。
政府は「正当な理由がないかぎり14日間隔離が原則」だとしているが、実際には「14日間隔離」「3日間隔離」「到着の翌日から活動する」の3つの選択肢を用意。つまり、正当な理由があれば隔離期間なしの「0日隔離」も可能になっている。
そして、この「本邦活動計画書」には「活動計画の作成方法」というマニュアルが添えられており、「留意点」という項目では〈隔離のパターンで「3.到着の翌日から活動する」を選択した場合、なぜ3日間の隔離を行えないのか、明確に理由を記入する必要があります。例として下記を参照してください〉と記述。2つ用意された例文のひとつは、以下の通りだ。
〈到着後すぐに競技運営に携わる予定となっている。入国後すぐに活動を始める必要があり、不在の場合、運営に重大な支障をきたす。〉
(The person will be in operation for a competition just before the departure. It is essential for the person to start his/her activities right after entering Japan since his/her absence of the activity affects an operation severely.)
英文バージョンの1文目はそのまま訳すと「出発直前に競技運営に携わる予定」になってしまい誤記なのか意味が取りづらいが、いずれにしてもこれでは組織委が「こう書けばゼロ日隔離でもOK」という回答例を明示しているようなものではないか。
丸川珠代「コピペはない」は嘘! 新華社とロイターが例文コピペで「0日隔離」申請
しかも、この組織委が送った“抜け穴”アドバイス例文をめぐって、丸川珠代五輪担当相が真っ赤な嘘をついていたことも明らかになった。
前出の斉木議員は、「この例文のようなものが送られてきた場合に、これで良しとして入国を認めるつもりでしょうか」と質問。すると、丸川五輪担当相はこう答えたのだ。
「さすがにこれをそのままコピペするような、この例示のような具体性のないものはまったく認めておりません。もしこのままきたら、当然はじきます」
「実際にはこういうものが、コピペされたものが出回っているという実態はありません」
しかし、12日放送の『報道特集』(TBS)の取材に応じた斉木議員によると、丸川五輪担当相の答弁を聞いた組織委の職員が「丸川さんは何もわかっていない」とし、斉木議員へある文書を送ってきたという。海外メディア2社が組織委に提出した「本邦活動計画書」だ。
そして、その2社が提出した「本邦活動計画書」を見ると、「到着当日から活動する」ことを選択し(3番目の選択肢はなぜか「到着翌日」でなく「到着当日」になっている)、その理由を記入する欄には、前述した誤記と思しき部分も含め例文と一字一句変わらない、つまり「コピペ回答」が記入されていたのだ。
ちなみに斉木議員のツイートによると、この海外メディア2社とは大手通信社であるイギリスのロイター通信と中国の新華社。報道機関なのに隔離を逃れる理由として「到着後すぐに競技運営に携わる予定」「不在の場合、運営に重大な支障をきたす」と挙げている時点で滅茶苦茶なのだが、しかし、それもこれも組織委がコピペを推奨するような例文をわざわざ載せたせいだ。
いや、というよりも、組織委も政府も、東京五輪を目的とした入国者に対する厳格な感染防止対策や管理など、ハナからおこなう気などないのではないか。
実際、9日の衆院文科委員会でおこなわれた斉木議員の質疑によると、東京五輪のテストイベントなどに参加するため4・5月に入国した海外の選手や関係者らは2003人にのぼったが、「0日隔離」で入国した人数は、なんと1105人。全体の55%が隔離期間0日で入国していたのだ。しかも、この「0日隔離」でスリランカから入国したパラアスリート介助者の女性は、入国4日目にコロナ陽性であることが判明したという。
ホテルは隔離なしで受け入れ、しかも組織委が「4日目以降は従業員が部屋の清掃に」と指示
ザルぶりを裏付ける話はまだある。NHKの報道によると、海外メディア関係者の宿泊先のひとつとなっている東京・日本橋のホテルでは当然ながら「14日間隔離」を終えた人を受け入れるのだとばかり考えていたが、最近になって説明に訪れた組織委の担当者はこんな説明をおこなったというのだ。
「3日間は基本的にホテルの部屋で待機し、4日目以降もホテルと競技会場など認められた場所の往復のみで、14日間が過ぎると自由に行動できるようになる」
「4日目以降はホテルの従業員などが部屋の清掃に入ってほしい」
このケースが「3日間隔離」への対応なのか、それともこの対応で「14日間隔離」としようとしているのかはわからないが(もしこれで「14日間隔離」と言うのなら大問題だ)、ホテル側は「入国後14日間の隔離は別の場所で行われると考えていて、来日直後から宿泊を受け入れるとは思っていなかった」といい、組織委のこの説明には従業員からも不安の声があがっているという。当然だろう、こんな対応では受け入れた海外メディア関係者がコロナに感染していた場合、ホテルの従業員も感染リスクに晒されることになる。組織委も政府も、一体何を考えているのだろう。
このように、「安全安心の大会」「感染防止対策に万全を尽くす」という菅首相の言葉がいかに嘘っぱちであるかは、開催前からすでに明らかだ。にもかかわらず、菅首相の強引な強行開催論を前に、国民のあいだでは「どうせやるんでしょ」という諦めからの五輪開催容認論が広がりつつある。だが、こんな穴だらけの対策しかとれない政府や組織委の言うままに東京五輪が実施され、感染拡大が起こったとき、命の危険に晒されるのはわたしたち市民なのだ。そのことをゆめゆめ忘れてはいけないだろう。 (水井多賀子)