2021年6月14日月曜日

予想どおり「新大西洋憲章」が出現 – 中国はソフトパワーを持てるか(世に倦む日々)

 10日、G7に先立ってバイデンとジョンソンが首脳会談をし、「新大西洋憲章」なる共同文書を発表したことについて、世に倦む日々氏が412の記事で、バイデンが「嘗ての大西洋憲章の21世紀版のドラフトを考案中なのかもしれない」と予想を述べた通りになったとし、そう予想した人間は世界中で自分一人だったと思うと書きました。少なくともそれに近いと思われるので十分に自慢出来る話です。

 世に倦む日々氏は、3月19日から4月12日までに「台湾有事」に関する3部作とでもいうべき下記のブログを発表しています(紹介日は1~2日遅れとなっています)。
  (3月20日)プラス2共同声明の対中威嚇 黙認する左翼リベラル
  (4月11日)台湾有事のシナリオ – 対中戦争から最後まで離脱できない日本
  (4月14日)台湾有事・米中戦争・第三次世界大戦は三位一体
 要するに中国が7年のうちにGDPで米国と追い越す見込みであることに対して、何としてもその前に中国を叩いておきたい米国が台湾有事を仕掛け(乃至はそれに誘導して)、最終的に日中戦争に持ち込む筈とする見方を示したもので、ここまで明確に(且つ悲観的に)想定したブロガーは他に見当たりません。
 そして最終版の「台湾有事・米中戦争・第三次世界大戦は三位一体で、「新大西洋憲章」を出す可能性に言及していたのでした。それは米国が単に中国を力でねじ伏せようとするだけでなく、そのことが世界的に容認されるような世論作りをあらかじめ狙っていて、それに踏み出したというものです。米国はもともとそうした周到さには長けているので指摘の通りなのでしょう。

 菅首相はG7で中国を非難する演説をブッたようですが、それは米国の周到さとは似ても似つかないものです。
 そもそも近未来に起こりうる「台湾有事」で中国が簡単に負けることはありません。それは米国も考えていることで、いずれ日本にバトンタッチして日中戦争に変える作戦なのです。
 菅首相は一体そのことをどう思っているのか、何も「思っていない」では済まされません。
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予想どおり「新大西洋憲章」が出現 – 中国はソフトパワーを持てるか
                          世に倦む日々 2021-06-11
中国がソフトパワーを持つことは可能だろうか。可能であるとすればそれは具体的に何か。その問題を考えたい。その前に、昨日10日、バイデンとジョンソンがG7前に首脳会談に臨み、「新大西洋憲章」なる共同文書を発表したというニュースが飛び込んできたので、この件から触れたい。新憲章は8項目から成文されていて、民主主義の擁護などが要綱化されているらしいが、詳細はまだ報道されていない。これから報道の目玉になるだろう。8項目というのは、1941年のルーズベルトとチャーチルの大西洋憲章が8条項だった歴史と掛けている。4月12日に上げたブログ記事で、私はバイデン政権の対中戦略を分析し、「嘗ての大西洋憲章の21世紀版のドラフトを考案中なのかもしれない」と予想を述べた。不遜で見苦しくはしたない口上を承知で、敢えて興奮した気分のまま言わせてもらえれば、この時点で、新大西洋憲章の出現を予測した者は、日本中、否、世界中に一人もいなかっただろう。が、奇を衒った意図や誇大妄想で「新大西洋憲章」を言挙げしたのではない。必ずこう来るだろうと確信していた。 

大西洋憲章は、ファシズム陣営と戦う連合国の決意と盟約を綱領化した宣言文書で、後の国連憲章の出発点となったマニフェストである。6項目目の「恐怖と欠乏からの自由」の原則は、日本国憲法の前文にも採り入れられている。重要なのは、この大西洋憲章にソ連が承認参加している事実である。憲章が発表されたのが41年8月。その前の7月に英ソ軍事同盟が締結されていた。遡る形になるが、ヒトラーが独ソ不可侵条約を破ってソ連に軍事侵攻したのが41年6月22日である。ヒトラーのソ連侵攻によって、米英ソが同盟して戦う連合国軍の枠組が形成された。ニューファンドランド沖での大西洋会談と憲章発表の後、41年9月の連合国会議からソ連が出席し、連合国の一員となって憲章の理念を共有する図を世界に示している。前に指摘したとおり、国連憲章の中には「民主主義」の文字がない。国連憲章の前文や条文で示された理念や原則の中には、民主主義の宣揚がなく、それを必須の要件とする前提がない。大西洋憲章もそうである。なぜか。理由は、ソ連が入っているからである。

ソ連に配慮しているからだ。ルーズベルトの発想と差配である。第二次世界大戦は、ファシズムと反ファシズムの戦いであり、ファシズムと民主主義の戦いではなく、全体主義と民主主義の戦いでもなかった。戦後の国際連合は米ソ二大国が立ち上げ、責任を持って運営した世界秩序の保全機関であり、二大国のパワーに支えられた平和体制維持の最高合議機関だった。ソ連はリベラルデモクラシーの国ではなく、それとは異なる価値観(イデオロギー)の国家である。そのため、民主主義の理念は国連憲章の中に書き込まれていない。この点に注意を要する。ソ連の力なくば戦後世界を平和裡に回せない。それがルーズベルトの認識と信念で、病が重くなり死が近づくほどにソ連への妥協と譲歩が顕著化し、米ソ協調融和の地平を展望する態度が強くなった。反共のチャーチルを不満にさせていた。ソ連は潰れて消えたが今度は中国が台頭し、現在の国連において、世界のパワーバランスにおいて、嘗てのソ連のような役割と地位を持つに至ったソ連にはない強力な経済力を持ち、経済力でアメリカを凌ぐ存在となってきた

アメリカは、今の国連体制と国連憲章をリセットしようとしていて、その意思と方向性を世界に知らしめるべく、意図的に「新国連憲章」の前段を打ち出したのである。アメリカは中国(PRC)の存在を認めず、第3次世界大戦も辞さずの構えを見せているのであり、戦争が戦略にプログラムされている。戦争後の新国連が見据えられ、ポスト国連憲章が想定されている。その中身は、自由と民主主義が理念語として書き込まれ尽くされた、リベラルデモクラシーの聖典であり、現在のNATO憲章と同じものだろう。社会主義・共産主義の国は異端化して排除し、サウジアラビアやイランのようなイスラム主義の国も基本的には認めないという不寛容な組織性格になるのだろう。1941年の大西洋憲章の敵はナチスドイツだったが、2021年の新大西洋憲章の敵は共産中国であり、アメリカは共産中国を打倒する新連合国軍を作ろうとしている。アメリカは幾らでも打つ手があり、目標を達成するべく矢継ぎ早に手を繰り出すに違いない。一帯一路に対抗する新スキームもその一つであり、参加国を新連合国の集合のように組織し、会議を定例開催し、一帯一路から脱退させるよう後押しするだろう。

中国は正念場を迎えている。孤立化して正念場を迎えながら動きが遅い。習近平の人格を反映してか愚鈍だ。立ち往生して次第に窮地に追い込まれている。中国がどうするべきかは、すでに4月27日のブログ記事で具体的で有効な外交戦略の案を述べた。が、一向にその打開に向けての動きが見えない。事態を楽観視しているのだろう。この包囲網から脱出する上で最も即効性のある打開策は、4月27日の記事で提案した三つの外交策、とりわけ、(1)インドとの国境紛争の収束と和解、(2)ベトナム・フィリピンとの南シナ海でのテリトリー線引きの合意、の二点である。これらはディプロマシー⇒外交術の問題だ。ソフトパワーよりも簡単で短期に片づけられる。ソフトパワーの問題はイデオロギー(価値観)の問題で、もっと課題が重く知恵が要る。中国はこの分野で活路を見出さないといけない。これまで、中国はこの領域で何も有効な戦略と概念を持っておらず、必要性すら感じていなかった。孔子学院の教育事業などという、傍から見て愚にもつかないような政策をやっていた。真面目に孔子学院に取り組んでいた者には恐縮だが、噴飯としか言いようがない。中国固有の文化を外国人に押し売りしても意味がない

孔孟や老荘では普遍的な価値観にならない。汎用性がない。伝統文化というものは、興味のある外国人が自主的に学ぶものだ。中国に求められているのは、普遍的な政治思想と経済原理であり、そのコンセプトとエバンジェリズム⇒福音伝道(比喩的表現)である。世界のどこの国の者でも、それを自分のものとして受け止められる思想性だ。正しい未来を示す羅針盤として誰もがコミットできる理念軸だ。そうでないとソフトパワーにならない。価値観として、リベラルデモクラシーを凌駕し、相対化し、リプレイスすることができない。