8月に行われる横浜市長選挙では、現職の林文子氏が去就を明らかにしない中、菅氏直系で現職閣僚の小此木八郎国家公安委員長が、IR(統合型リゾート)誘致反対の立場を明瞭にしたうえで立候補を表明し、菅首相の了解を得ました。
現職の林市長は菅氏の意向通りに市政を行っているといわれIRの誘致も容認しているので、本来であれば菅氏に不足はない筈なのですが、IR誘致反対の声が市民の大勢になる中では当選が難しくなったという判断があるようです。
その流れから言えば、小此木氏がIR誘致反対を標榜するのは当然の成り行きですが、当選後もそれを貫くのかについては、そうではなく最終的には菅氏の意向に沿うようになるだろうという見方が有力です。
まことに常識では判断し切れない、首相のひざ元の市長選ならではの奇々怪々の様相です。
ところがここにきて、元東京地検特捜部検事で弁護士の郷原信郎氏(66)が、市長選に立候補するのではないかという見方が出てきました。郷原氏は、元法相の河井克行、案里夫妻の公職選挙法違反事件で4月に再選挙となった参院広島選挙区でも、候補者として名前が挙がりましたが出馬はしませんでした、
郷原氏は以前から横浜市のコンプライアンス外部委員で、数年前からは横浜市のコンプライアンス顧問を引き受けていて横浜市との関係が深く、地元の有志から出馬を求められているということです。
郷原氏が無所属で出馬するのはかなり確実なようですが、同氏はAERAからの問い合わせには、「コンプライアンス顧問を務めているので、横浜市長選の行方はとても気になります。私に横浜市長選に出馬という話があるのは事実です。だが今は話せません。いずれ、会見で明らかにしたい」と答えたということです。
AERAの記事を紹介します。
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【独自】陰謀渦巻く横浜市長選挙に「第三の男」元東京地検特捜部検事・郷原信郎氏が出馬へ
今西憲之 AERA dot. 2021.6.25
編集部
現職閣僚である小此木八郎国家公安委員長(56)が立候補を表明し、注目されている8月に行われる横浜市長選挙。
立憲民主党の候補として擁立が検討されている横浜市立大教授の山中竹春氏(48)、他にも「横浜DeNAベイスターズ」元社長、池田純氏(45)も名乗りをあげている。そこに「第三の候補」が現れた。
元東京地検特捜部検事で弁護士の郷原信郎氏(66)である。郷原氏は元法相の河井克行、案里夫妻の公職選挙法違反事件で4月、再選挙となった参院広島選挙区でも候補者として名前が挙がったが、出馬はしなかった。広島県は郷原氏の故郷ゆえだが、なぜ横浜市長選挙なのか。郷原氏の支援者がこう話す。
「郷原氏は数年前から横浜市のコンプライアンス顧問を引き受けている。その前はコンプライアンス外部委員だったこともあり、横浜市との関係が深い。そこで、地元の有志から出馬を求められていた」
横浜市長選の最大の争点は、カジノを含むIR(統合型リゾート)の誘致だ。現職閣僚の小此木氏はIR誘致に反対の意向をすでに示している。
IR誘致を推進する現職の林文子市長は、4期目についてまだ態度を明確にしていない。
「林市長が出馬した場合、勝てない、との公算が強まり、小此木氏にお鉢がまわってきました。しかし、小此木氏はもともとカジノ賛成派でした。しかし、世論調査の結果、カジノ推進を旗印にしたら選挙を戦えない、という判断になり、『市民の意志に反した状態でのカジノ誘致はしない』という理屈で出馬を決めた。菅首相にしてもお膝元の横浜市長を落としたら面目が丸潰れですから、ともかく勝利を優先しようとなりました。首相と小此木氏と出馬表明前に何度も面会し、すり合わせ、『やむを得ない』となったようです」(政府関係者)
しかし、IR誘致は待ったなしで進んでいる。横浜市が5月末、IR施設の参入を希望する事業者の公募を行った結果、海外のカジノ事業者を中心とする2つのグループが資格審査を通過した。
シンガポールに拠点を置く「ゲンティン・シンガポール」とパチンコの大手メーカー「セガサミーホールディングス」と「鹿島建設」の連合と、中国のマカオを中心に事業を展開している「メルコリゾーツ&エンターテインメント」と「大成建設」の連合だ。今夏には事業者が選定され、秋にはIR誘致の具体的な候補地も決めるスケジュールとなっている。
「カジノ誘致については当選後、世論の推移を見極めながら考えていこうと。市民が誘致に反対している山下埠頭ではなく、瑞穂埠頭でカジノをやると言えば、誘致できるのではないか、という理屈も考えているようです。横浜の有力者も『どうしてもカジノをやりたいんであれば、 瑞穂埠頭にある米軍施設、ノースドックの敷地内にすればいい』 と話しているそうです。菅首相としては、よくわからない人が市長になるよりも、気脈の通じた小此木氏の方が、その後のIRの扱いも含め、調整しやすいと考えたのだと思います」(同前)
対する郷原氏は争点のIR誘致問題についてどう公約を打ち出すのか。
「大金を投じて、IRを誘致。日本人がとばくで負けたカネで税収をアップさせる、地域活性化なんて、そんな時代ではないし、手法も反対だ。横浜市民がカジノで負けて失うカネも膨大になると思われます。断念となったが、米軍跡地へのテーマパーク誘致構想でもわかるように箱ものありきの政策では未来がない。コンパクトな横浜市を目指す考えだ。しかし、IR誘致は林市長の方針に横浜市議会も賛成して進んでいる。市議会にもキチンと責任があることを明確にするため、IRをやるやらないに、民意を反映させるために住民投票条例を制定し、市民の意見を聞いて判断することを公約にする。民意の確認には直接民主主義の住民投票条例が最適だと考えている」(郷原氏の支援者)
郷原氏が横浜市長選に意欲を示すのはもう一つ理由があるという。菅首相は横浜市議を経て国政に進出し、衆院神奈川2区が地盤だ。
「コンプライアンス顧問を通じて、横浜市の関係者からいろいろな話を伺うチャンスが数多くあった。その中には『今の横浜市長はお飾りで、菅首相支配だ』『林市長は菅支配を跳ね返そうという思い、気力などまったくない。ただの言いなり』という声を聞いた。人事にまで菅首相の意向を忖度するような話があるそうだ。菅首相の側近である小此木氏が市長になれば、IR誘致の反対もどうなるかわからない。菅首相がそんなに影響力を及ぼしたければ、国が直接やればいいわけで、横浜市はいらない。それではダメだ。菅首相にNOを突き付けるためにもと、出馬を決意している」(同前)
郷原氏が出馬となれば、IR誘致の反対派ばかりの選挙戦となりかねない。そうなると進退を表明していない現職の林市長があえてIR誘致賛成を公約に出馬に踏み切るというシナリオも考えられる。郷原氏は無所属で出馬するという。すでに選挙に備えた「親衛隊」を結成し、7月6日に横浜市のコンプライアンス顧問を辞任を申し入れ。近いうちに出馬表明する方向でスケジュール調整している。選挙事務所探し、ポスター制作なども進んでいるそうだ。郷原氏を直撃した。
「コンプライアンス顧問を務めているので、横浜市長選の行方はとても気になります。私に横浜市長選に出馬という話があるのは事実です。IR誘致の是非は、住民投票で民意を問い、その結果を市長や市議会が答えていくというのは、以前から私が考えていたこと。だが、立場上、今は話せません。いずれ、会見で明らかにしたい」
横浜市を二分するIR誘致の行方はいかに。 (AERA dot. 編集部 今西憲之)