菅首相は、有観客で開催する東京五輪パラが成功し、新型コロナのワクチン接種の進展が追い風になってその後に行う衆院選が優位に進められれば、総裁選も無風で再選というシナリオを描いています。
しかし専門家の見方は厳しく異口同音に今後のコロナ感染再拡大を予測しています。
厚労省のアドバイザリーボードで示された試算では、20日の宣言解除後に都内で人出が増加し、インド型変異株の影響も受けると7月前半には再宣言が必要になり、仮にインド株の影響が少なく、人出を10%程度に抑えられたとしても、7月後半には再宣言が必要になると予測しています。
また東京都のモニタリング会議も17日、都内の新規感染者数が下げ止まっているとして「再拡大の危険性が高いと思われる」と分析しています。
要するに五輪開催は間違いなく「一大感染イベント」であるというのが専門家の一致した意見です。
そうであれば五輪開催が感染爆発の悲劇を招き、内閣支持率は暴落し「菅首相では選挙を戦えない」となり、一気に「菅降ろし」の流れになりますが、それにもかかわらず政府は、有観客で五輪パラを開催する以外に選択肢はないと考えているということで、そこには、見通しは暗くとも一縷の望みがあるならそれに掛けるしかないという、ただの博打があるだけです。まさに「思考」の貧困というべきで、「“五輪優先”首相の言いなり この国は戦前よりも狂っている」「この五輪はただの丁半博打」と言われる所以です。到底許されることではありません。
日刊ゲンダイの2つの記事「感染爆発ならば菅退陣 この五輪はただの博打なのである」、「宣言解除の矢先に激増リバウンド 20代感染爆発が五輪直撃」を紹介します。
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感染爆発ならば菅退陣 この五輪はただの博打なのである
日刊ゲンダイ 2021年6月18日
(記事集約サイト「阿修羅」より転載)
現金なものだ。衆議院の解散を巡り「内閣不信任決議案で与野党攻防」とあれほど騒いでいた新聞・テレビが、不信任案が否決され、通常国会が予定通り閉会となると、今度は、東京オリンピック・パラリンピック後の「9月解散」のスケジュールを流し始めた。
9月5日のパラ閉幕直後に臨時国会を開き、冒頭か、新たな経済対策を示した後に衆院を解散。投開票日は10月10日か17日を想定。9月末に迎える自民党総裁の任期切れについては、衆院解散を理由に選挙後にずらす。オリ・パラ成功と新型コロナのワクチン接種の進展が追い風になり、菅首相が衆院選を優位に進められれば、総裁選も無風で再選――。こんな政治日程である。
衆院議員の任期が10月21日までのため、残された解散スケジュールは絞られるとはいえ、これはまさに、以前から語られてきた「菅再選必勝シナリオ」。大メディアは与党にとって都合のいい話を、ただただ垂れ流しているだけなのだ。
「東京五輪が一定の成功を収め、国民にワクチン接種が進めば、秋に支持率は好転するはずだ」「ワクチンが行き渡れば選挙は有利になる」
政権内にはいま、こうした期待感が広がっているらしい。しかし、そうは問屋が卸すだろうか。悲惨な結果となる公算が高いのではないか。
捕らぬ狸の皮算用
政府は17日、20日が期限の緊急事態宣言について、沖縄を除く9都道府県を解除し、東京や大阪など7都道府県を21日から「まん延防止等重点措置」に移行させることを決めた。新たな期限は7月11日まで。解除後のイベント観客数も「収容人数の50%以内なら1万人」に広げる。これは東京五輪の有観客開催を見越したもので、すべてが「五輪シフト」である。
だが、専門家の見方は厳しい。異口同音に今後の感染再拡大を予測している。厚労省のアドバイザリーボードで示された試算では、20日の宣言解除後に都内で人出が増加し、インド型変異株の影響も受けると、7月前半には再宣言が必要になるという衝撃的なものだった。インド株の影響が少なく、人出を10%程度に抑えられたとしても、7月後半には再宣言が必要で、リバウンドによる「第5波」が避けられなくなる可能性があるのだ。
東京都のモニタリング会議もきのう、都内の新規感染者数が下げ止まっているとして、「再拡大の危険性が高いと思われる」と分析している。実際、都内の新規感染者は、16日と17日の2日連続で前週の同じ曜日を上回った。
専門家の意見に耳を傾ければ、五輪開催は間違いなく「一大感染イベント」であり、狂気の沙汰なのである。
コロナ担当の西村経済再生相は五輪期間中でも「躊躇なく再宣言を発動したい」と予防線を張るが、五輪シフトで感染防止策を緩め、その結果の感染爆発なら、菅政権は持たないだろう。
自民党内は「議員連盟」を舞台に、「3A(安倍前首相、麻生財務相、甘利税調会長)VS二階幹事長」の主導権争いが激化する政局にかまけている。焦点は次の人事での二階の幹事長ポスト交代とされ、菅がどう判断するのか、という話だが、それは「菅必勝シナリオ」が前提だ。五輪開催が感染爆発の悲劇を招けば、内閣支持率は暴落。「菅首相では選挙を戦えない」となり、一気に「菅降ろし」もあり得る。
政治ジャーナリストの角谷浩一氏がこう言う。
「自民党の下村政調会長が16日のBS番組で、『任期満了直前に解散し、11月選挙もあり得る』とコロナ次第で解散がずれ込む可能性に言及しています。現実を直視すれば、五輪後の政権浮揚というシナリオは甘い。大メディアは大本営発表ばかり伝えていますが、政権の思い通りにいくのでしょうか。捕らぬ狸の皮算用ですよ」
五輪開催なら感染拡大 大メディアの欺瞞と矛盾
「国民の命と健康より五輪」の無責任体質は、大メディアも同罪だ。
17日の首相会見では、東京新聞や朝日新聞が「五輪開催によるリスク」を質問していたが、菅は人流抑制や大会組織委のガイドラインなど、「対策」について繰り返すのみで、真正面から答えない。会見場には緩い空気が流れ、他の記者は解散時期や内閣改造など人事について質問し、あっさり菅にかわされていた。
繰り返すが、大メディアが垂れ流す与党の思惑だらけの「菅必勝シナリオ」は、感染再拡大や緊急事態の再宣言がなく、国民が五輪に熱狂して盛り上がることが前提だ。
しかし一方で、大メディアは厚労省アドバイザリーボードなどの専門家の警鐘もしきりに報じている。五輪開催を後押ししている読売新聞でさえも、<インド型感染拡大なら 五輪中「再宣言レベル」>と伝えている。五輪で感染爆発なら、「菅再選シナリオ」は崩れるわけで、大メディアだってこのまま何事もなく、五輪が終わると確信してはいまい。
ところが、朝日新聞が社説では「五輪中止」を求めながら、同日にホームページで「オフィシャルパートナーとしての活動と言論機関としての報道は一線を画します」とスポンサー継続の意思表明をしたように、五輪を巡っての大メディアの立ち位置は欺瞞と矛盾に満ちている。朝毎読日経が揃ってスポンサーであり、テレビはNHKと民放全局が五輪の放送をするから、どうにも曖昧なのである。
政治評論家の森田実氏が言う。
「新聞やテレビを見ていると、メディア全体が『五輪をやりたい』で足並みを揃えていることがよく分かります。それは国会が閉幕したら、一気に次は秋の総選挙というモードになったこと。その前に7月4日投開票の東京都議選があるのに、あまり報道せず、世論に関心を向けさせないようにしている。7月ですよ。対象は都民ですよ。つまり、五輪推進派が過半数を割るようなことがあれば、都民は『五輪NO』の意思を明確にしたことになるのです。本来ならメディアは都議選についてもっと論じるべきなのに、菅政権や五輪推進派が有利になるよう、避けているのです」
「きっと大丈夫」の楽観論
IOC(国際オリンピック委員会)のコーツ調整委員長が既に来日し、米国内の五輪放映権を独占するNBCのCEOが「最も利益の高い五輪になる」と発言したことが報じられ、五輪開催への既成事実化とムード醸成が進む。
テレビを筆頭に、大メディアは無批判五輪翼賛報道が全開。群馬県太田市で事前合宿中のソフトボール豪代表の練習を市民が観戦したとか、野球の日本代表が内定し<侍ジャパン 盤石の布陣>といった見出しが躍る。
だが、感染爆発なら、飲食店は再び苦しみ、企業倒産もまた増える。その危険性から目を背け、政権もメディアもみな「きっと大丈夫」「ワクチンがある」の楽観論。
「五輪中に感染が蔓延して衆院選になれば、自民は目も当てられない。逆に、ワクチン接種が成功して五輪も『感動した』となれば我々が苦しくなる。はっきり言ってギャンブルだ」と言った野党幹部がいたらしいが、その通りで、要は、この五輪はただの博打なのである。国民の命と暮らしは置き去り。バンザイ突撃ならぬバンザイ五輪だ。
「『トム・ソーヤの冒険』で有名な作家、マーク・トウェーンの格言に『人間の一生に、賭けをしてはならない時が2度ある。それをする余裕のない時と余裕のある時である』があります。政治権力者は、国民の生命や安心を賭けの対象にしてはいけないのです」(森田実氏=前出)
17日の会見で菅は、東京五輪について「世界が団結し、難局を乗り越えることを日本から世界に発信したい」と力を込めた。しかし、博打に負けて感染爆発で最悪の結果を招けば、日本という国の愚かさを発信するだけである。
宣言解除の矢先に激増リバウンド 20代感染爆発が五輪直撃
日刊ゲンダイ 2021/06/18
過去の失敗から何も学びやしない。菅首相は17日、沖縄を除く9都道府県の緊急事態宣言を今月20日に解除すると発表。1カ月後の東京五輪を見据えた判断だが、都内の新規感染者数は既にリバウンドの兆しが見える。3月末の「早すぎた解除」よりも拙速すぎる解除で感染爆発の五輪直撃は必至。再拡大の中心となるのは20代の若者だ。
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「日本ではしっかり感染対策を講じることができるからであります」
17日の会見で、安全・安心な五輪開催を実現できる根拠を問われると、菅首相はそう強がった。しかし、足元の数字は感染再拡大の兆候を示している。
17日の都内の新規感染者は452人。2日連続で前週の同じ曜日を上回った。感染者数の1週間平均は前週の98.6%に達し、もはやリバウンドに転じたとみるのが妥当な状況だ。
ただでさえ、菅首相は第3波が収まらないうちに宣言解除を急ぎ、第4波を招いたのに、今回は輪をかけてなし崩し。2度目の宣言を全面解除した3月下旬に比べ、今の都内の感染状況はより深刻だ。2度目の宣言を解除した3月21日までの1週間平均が301人だったのに対し、17日までの直近1週間平均は386人に上る。西武学園医学技術専門学校東京校校長の中原英臣氏(感染症学)がこう言う。
「2度目の宣言は、現在の感染者数よりも少ない状態で解除したのに、リバウンドを招いてしまった。今は当時より深刻な感染状況ですから、解除後は感染拡大に転じるのは明らか。政府は『五輪ありき』で何も反省していないのです。全国民の5割近くが2回のワクチン接種を終えた英国でさえ再び感染爆発に見舞われています。まして宣言解除と五輪開催で人流の増える“ワクチン後進国”なら、感染爆発を避けられるはずがありません」
このところ、目立つのは20代の感染増だ。都内の1日の新規感染者に占める20代の割合は2回目の宣言解除時の21.5%(3月16~22日)から33.4%(6月8~14日)に増加。17日の感染者のうち、20代は147人と断トツだった。
同日に開かれた都のモニタリング会議でも、専門家から「20代の新規感染者数はすでに増加し始めている」「リバウンドのリスクが高まっている」などと懸念の声が相次いだ。
小池都知事は「予断を許さない状況で、何としても(リバウンドを)防ぎたい」と意気込んだが、コトと次第によっては“女帝”の判断が若者の感染急増を後押ししかねない。
小池都知事の“酒類解禁”に注目
焦点となるのは「重点措置」への移行に伴い飲食店での酒類提供を“解禁”するかどうか。
具体的な検討案として午後8時までの時短営業を要請の上、①客数を1~2人に限定②注文は午後5時から7時まで③滞在時間は90分以内――との条件が報じられている。
17日の決定は先送りとなったが、18日にも解禁の判断に踏み切れば、宣言解除と相まって若者たちの“解放感”に拍車がかかるに違いない。
「重点措置に移行するといっても、感染拡大への防止効果がないことは、2月末の『早すぎる宣言解除』で3月末に感染が一気に拡大した大阪が証明済み。緩和によって人出がさらに増える上、活発に動き回る若い人のワクチン接種が後手に回っているため、東京も大阪と同じ轍を踏むでしょう。感染力の強いインド株は若年層にクラスターを引き起こしていることを考慮すると、20代の感染爆発が1カ月後に五輪を直撃することも十分考えられます」(中原英臣氏)
今後の感染状況について、京大などの研究グループがインド株の影響が小さくとも、五輪期間中には再宣言に至るとの試算を出したばかり。五輪の開幕まで残り35日。早すぎた宣言解除の答えは、あと1カ月で分かる。