2021年6月10日木曜日

市民監視に限定なし 対象・範囲・期間幅広く 土地利用規制法案

 基地や原発、国境離島などの住民を監視する土地利用規制法案が8日、参院内閣委員会で審議入りしました。共産党の山添拓議員の質問に対し、政府は調査の対象、実施主体、範囲、期間いずれも法文上、限定がないことを認め、幅広い市民が監視対象になることが明らかになりました。
 質疑の中で、区域内の調査対象として、そこで働く会社員、ホテルや飲食店の従業員や客、病院、福祉施設の職員や入所者など、土地と建物を利用するあらゆる人が対象になり、特定の対象者が日常的な監視下におかれる可能性や、公安調査庁や自衛隊情報保全隊、内閣情報調査室などからも政府に情報が提供されることが明らかになりました。
 政府はまた自治体や住民から、土地の利用状況に関する情報提供を受け付ける窓口の設置を検討しているということです。
 住民が恐るべき監視下に置かれることが明瞭になりました。
 山添拓議員は、「総理のさじ加減で、あらゆる機関を動員でき、あらゆる情報を一元化できる。市民監視そのものだ」批判し、廃案を求めました。
 しんぶん赤旗の3つの記事を紹介します。
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市民監視に限定なし 対象・範囲・期間幅広く 土地利用規制法案
 政府も認める
                         しんぶん赤旗 2021年6月9日
山添議員が追及
 自衛隊、米軍基地や原発、国境離島などの住民を監視する土地利用規制法案が8日、参院内閣委員会で審議入りしました。日本共産党の山添拓議員の質問に対し、政府は調査の対象、実施主体、範囲、期間いずれも法文上、限定がないことを認め、幅広い市民が監視対象になることが明らかになりました。(論戦ハイライト下掲
 同法案は基地周辺などを「注視区域」に指定し、機能阻害行為の有無など土地利用状況を、調査するもの。
 山添氏は、区域内の調査対象として、そこで働く会社員、ホテルや飲食店の従業員や客、病院、福祉施設の職員や入所者など、土地と建物を利用するあらゆる人が対象になるのかと質問。木村聡内閣審議官は、「条文上の規定はない」と述べ、政府の裁量であらゆる人が対象となることを認めました。
 また木村氏は、公安調査庁や自衛隊情報保全隊、内閣情報調査室などからの情報提供などについても「条文上は排除されていない」と答弁。政府が必要と判断すれば、日常的に市民監視を行っているこれらの機関から個人情報を提供することが可能であることも明らかになりました。
 さらに、小此木八郎領土問題担当相は、調査によっては一度で把握しきれない場合、「調査が継続的に行われる」と述べ、特定の対象者を日常的な監視下におく可能性を認めました。
 山添氏は、重大なプライバシー侵害を招きかねないにも関わらず、調査の対象範囲や期間などについて「条文上何の限定もない」と指摘。「すべては総理のさじ加減であらゆる機関を動員でき、あらゆる情報を一元化でき、可能とする。市民監視そのものだ」と同法案を厳しく批判しました。


土地利用規制法案 “密告”受付窓口設置へ
「注視区域」範囲拡大も
                        しんぶん赤旗 2021年6月9日
 8日、参院内閣委員会で審議入りした土地利用規制法案をめぐり、内閣官房の中尾睦土地調査検討室長は、現在、基地や原発など重要施設からおおむね1キロ圏内としている「注視区域」について、将来的に拡大する可能性に言及しました。
 中尾氏は、同法案の付則に基づき、施行から5年後の実施状況をふまえ、必要な場合は「距離の是非について検討する」と答弁しました。戦前の要塞(ようさい)地帯法に盛り込まれていた監視区域も、当初の区域がその後の法改定で大幅に拡大した経緯もあります。
 さらに、土地利用者による基地などへの「機能阻害行為」がみられ、中止命令に従わない場合の土地収用についても、同付則に基づき「要否を含め、さらに検討する」と述べました。
 また、全国各地に注視区域が広がり、政府だけでは監視が追い付かないことから、「自治体や住民から、土地の利用状況に関する情報提供を受け付ける窓口の設置を検討している」と答弁しました。事実上、“密告”受付窓口といえます。いずれも、自民党の高野光二郎氏への答弁。


論戦ハイライト
常に何もかも監視 あらゆる機関を動員し、あらゆる情報を一元化
                        しんぶん赤旗 2021年6月9日
山添議員 土地利用規制法案廃案迫る 参院内閣委
総理のさじ加減で、あらゆる機関を動員でき、あらゆる情報を一元化できる。市民監視そのものだ」―。8日の参院内閣委員会で日本共産党の山添拓議員は、土地利用規制法案について調査対象や内容、主体など全く歯止めがないと批判し、廃案を求めました。
 山添氏は、土地の「利用状況」の調査について、会社の従業員やホテル、飲食店などの従業員・客、病院や福祉施設の職員や入所者など「土地と建物を利用するあらゆる人が入り得る」と指摘。調査の範囲について条文で制限があるのか問うと、木村聡内閣審議官は、「(調査に関する条文には)利用者の定義は置いてない」と無限定だと認めました。
 さらに山添氏は調査内容にも限定はないと批判しました。
 山添 利用者の職業や収入、交友関係、SNSの発信などは対象になるのか。
 木村審議官 土地利用と関係なければ対象にならない。
 山添 条文に限定は書いてない。関係するかどうか判断するのは調査側で、歯止めにならない。
 また木村審議官は、同法に基づいて総理大臣が情報提供を依頼できる関係行政機関にも限定がないことを認めました。山添氏は「総理大臣が求めれば提供しなければいけない。調査主体に限定がない」と強調しました。
 山添氏は、法案の提出理由が「安全保障上の懸念」であるため、調査は常時監視になりうると指摘。その根拠として、自衛隊情報保全隊や岐阜県警大垣署による国民監視事件を挙げました。
 自衛隊イラク派兵に反対する市民を監視していた自衛隊情報保全隊の事件(2007年に日本共産党が暴露)について、仙台高裁は16年にプライバシー権を侵害した違法行為と認め、国に賠償を命じたと指摘しました。
 山添 同様の情報収集活動は現在やめたのか。
 松川るい防衛大臣政務官 個別具体的な内容は答えられない。
 山添氏は、広範な団体・個人を監視対象とした理由を質問しましたが、防衛省は「手の内を明かすことになる」として答えませんでした。山添氏は、「自衛隊が必要と認めれば歯止めなく対象となるということだ」と批判しました。
 また山添氏は、岐阜県大垣市で脱原発運動や平和運動をしていた市民の個人情報を県警が収集し、電力会社に提供していた事件に関し、政府は現在も「通常行っている警察業務」だと認識していると強調。「情報保全隊や警察は日常的に市民を監視し、情報を収集している。法案は、総理の一存でさらなる情報収集を可能にし、バラバラに存在する情報を総理に集約する意味がある」とし、プライバシー権に重大な侵害をもたらす市民監視だと厳しく批判しました。

共産党が暴露したイラク派兵反対運動への自衛隊による監視(2003年)
 国家権力による広範な市民監視の実態が明らかになったのが、自衛隊の情報保全隊による2003年の自衛隊イラク派兵に反対した市民などへの監視活動でした。07年に日本共産党が暴露しました。
 情報保全隊の文書では、自衛隊はイラク派兵に反対する市民を「国内勢力」、その運動を「反自衛隊活動」と認定。運動参加者の氏名や職業の調査、顔写真の撮影など、全国で監視し、個人情報を記録していました。
 監視対象は、イラク派兵に批判的な映画監督や画家、写真家、ジャーナリスト、宗教関係者など幅広い層に及びました。年金改悪反対や消費税増税反対、春闘など自衛隊と関係ない運動も対象となり、41都道府県で289団体・個人が監視されました。市民が行う運動全般にわたって監視活動を、自衛隊が日常業務として実施していたことが明らかになりました。
 仙台高裁では2016年に、原告1人についてプライバシー権を侵害した違法行為と認定し、国に賠償を命令。国は上告せず、判決は確定しました。

 情報保全隊の資料 拡大図はこちら

イラク派兵に反対する全国各地の運動を監視し、網羅。「P」は日本共産党とみられる