2021年6月10日木曜日

10- 社会は変わるし、変えられる―学生オンラインゼミ(8)~(9)

 民青同盟主催で5月23日に行われた「社会は変わるし、変えられる―志位さんと語る学生オンラインゼミ」の詳報が、テーマごとに連載されることになりました。
 その第8回と第9回です。
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社会は変わるし、変えられる――志位さんと語る学生オンラインゼミ(8)
日本が外交イニシアチブ発揮して
                         しんぶん赤旗 2021年6月8日
北東アジアの平和
ASEANのような話し合いのテーブルを本当に実現できるのか
 質問 志位さんは北東アジアでもASEANのような話し合いのテーブルをつくることが、憲法9条実現のための政策だと話していますが、中国や北朝鮮が話し合いのテーブルについてくれるとは思えません。本当に実現できるでしょうか。
 志位 北東アジアでもASEAN(東南アジア諸国連合)のような話し合いのテーブルをつくろうと、私たちが言っているのは、2014年の第26回党大会で提唱した「北東アジア平和協力構想」というものです。

東南アジアでは目をみはるような平和の地域共同体がつくられている
 志位 私たちが、党大会でそういう提唱を行ったのは、東南アジアの国ぐにを何度も訪問して、この地域で目をみはるような平和の地域共同体がつくられていることに、びっくりしたんですね。そういう体験を踏まえて、この流れを北東アジアにも広げようというのが、私たちの提唱なんです。
 実は、東南アジアでも、かつては、1960年代~70年代までは、ベトナム戦争など互いに戦争をやっていました。ところが今では、東南アジアで戦争が起こるということは考えられなくなっています。なぜそう変わったかと言いますと、1976年にTAC=東南アジア友好協力条約というのを結び、武力行使を禁止し、あらゆる紛争問題を平和的な話し合いで解決することを地域のルールにして、実行しているのです。
 私は、2013年9月に、インドネシアのジャカルタに行きまして、ASEANの本部を訪問しました。そこでいろいろな話を聞いたときに一番驚いた話は、こういう話でした。
 「ASEANでは年間1000回を超える会合をやっています。あらゆるレベルで対話と信頼醸成を図っています。だからこの地域にもいろいろな紛争問題はあるけれど、戦争になりません。何でも話し合いで解決しています」
 中山 年間1000回ってどうやったらできるんでしょうね。
 志位 1年は365日ですから、毎日3~4回の会合をやっているという計算になりますね。それだけ年がら年中、会合をやっていましたら、お互いの立場が分かりますし、信頼もできてくる。ですから紛争があっても戦争にならない。これが今のASEANなんですね。もちろん、この地域でもいろいろな難しい問題があって、たとえば中国が覇権主義的な行動をやる、アメリカも影響力を強めるためにいろいろな行動をやる。でもASEANは、どんな大国の言いなりにもならない自主的なまとまりとして、団結を保ちながら前進しています。年間1000回もの会合をやって、紛争を戦争にしない――紛争の平和的解決を実践しています。
 私たちが呼びかけている「北東アジア平和協力構想」は、現にASEANが実行している平和の地域協力の流れを、北東アジアにも広げようという提唱です。北東アジアと言った場合、日本、韓国、北朝鮮、中国、ロシア、アメリカ、モンゴルなどを想定しているんですけれど、そういう国ぐにで北東アジア版のTACを結んで、あらゆる紛争問題を平和的に解決していくことを域内のルールとして確立するというのが私たちの提案です。

「バリ原則」には、東アジア・太平洋のほとんどの国が賛成している
 志位 そこでこの質問です。本当に実現できるのか。
 中山 どうなんでしょう。
 志位 たしかに困難はあるのですが、私は十分に現実性があるということを言いたいんですね。私たちが注目しているのは、2011年の11月に、インドネシアのバリで開催された東アジアサミット(EAS)で、「バリ原則」が調印されているということです。この「バリ原則」を見ますと、武力行使の放棄、紛争の平和的解決など、TACが掲げている諸原則がそっくり入っているんです。政治宣言という形でそういう合意が交わされている。EASの会議には、ASEANの10カ国に加えて、日本、中国、韓国、米国、ロシア、インド、オーストラリア、ニュージーランドが参加し、みんな賛成しているんです。政治宣言にまではなっている、それを条約にすればいいだけなのです。ですから、私は十分な可能性があると考えています。
 私自身、「北東アジア平和協力構想」について、関係各国の大使館をずっと訪問し、懇談してきましたが、韓国、中国、ロシア、モンゴルなどの大使館では、そういう方向にだいたい賛成ですという話なんです。肝心の日本政府はどうかというと、私は、代表質問で聞いたことがあるんです。「北東アジア平和協力構想」についてどう考えるかと。安倍首相(当時)の答えは否定はしないというものでした。積極的に進めようとも言わないけど、日本政府も否定はできない話なのです。

新しい政権が外交のイニシアチブを発揮すれば道は開ける
 志位 ですから、私たちも参加する新しい政権が、北東アジアにも平和の地域協力の枠組みをつくろうという外交のイニシアチブを発揮していくことができれば、現実のものになる可能性はあると思います。何でも平和的な話し合いで解決する、領土に関する紛争問題も、北朝鮮の問題も、中国の問題も、何でも話し合いで解決する。そういう方向に進むことは、その意思さえあれば、可能だと思います。
 中山 すごい力強いです。ありがとうございます。(つづく)


社会は変わるし、変えられる――志位さんと語る学生オンラインゼミ(9)
「ルールある経済社会」に転換
                        しんぶん赤旗 2021年6月9日
日本経済 普通に就職してまともに暮らしていけるか
 質問 コロナ禍でバイトがなくなり、就職率も悪化して今も未来も心配です。このまま日本に住んでいて経済はよくなるんでしょうか。起業や投資など、特別なことをしないで普通に就職してまともに暮らしていけるんでしょうか。
 志位 「このまま日本に住んでいて経済はよくなるか」「普通に就職してまともに暮らしていけるか」。こういう心配をしないといけないところまで若い人がきているということは、ほんとうに大変な事態だと思うんですね。
 それでは、どこをどう変えたらいいかと考えますと、一番の深いところで日本経済のあり方を変えていく必要があります。

「ルールなき資本主義」――日本をヨーロッパと比較して
 志位 日本経済というのは、「ルールなき資本主義」とよくいわれるんです。つまり、国民の暮らしや権利を守るルールがない、あってもとても弱い、そういう体質を抱えていて、それが経済のまともな発展にとっても大きな障害になっている。














(パネル9)これをご覧ください。少し細かいですけれども、今回のゼミナール用につくったので見てください。これは、日本とヨーロッパの暮らしと経済についての比較なんです。10年ほど前に行った「綱領教室」でつくった表をもとにして、直近のデータに置き換え、一部項目を変えたものです。
 雇用でみると、労働時間は、日本は年間2021時間、ヨーロッパは年間1400~1700時間くらいです。フランスと比べると600時間も長い。一生のうち40年間働くとして、2万4000時間も長く働かされる。そうすると1日24時間で割ると、一生で1000日間、まるまる拘束されていることになります。
 中山 そんなにですか。
 志位 日本に住んでいるおかげで、“3年懲役”というくらい長い労働時間で、「過労死」がいまだに後をたちません。
 非正規雇用の率は39・8%です。ヨーロッパは1割前後です。この間、派遣・パート・アルバイトなど「使い捨て」の労働がうんと広がりました。
 最低賃金は、全国のたたかいで多少、上がってきたけれど、時給で902円です。ヨーロッパではだいたい日本で目標にしている1500円前後ですから、これもうんと遅れている。世界最低水準の最低賃金です。
 ジェンダー平等では、賃金格差が73・3%という数字が出ています。ただこれはフルタイムの常用労働者の比較なんです。国際比較ではこの数字しかありません。日本について、非正規も含めて計算しますと、こういう数字が出てきます。男性が540万円、女性が296万円、女性は男性の55%なんです。ですから、40年働くとすると、生涯賃金では1億円もの格差がでてくる。
 中山 大きいですね。
 志位 豪邸が建ってしまいますね。それくらい男女の賃金格差がひどい。国会議員の女性比率も10%足らずです。
 中山 少ないですね。
 志位 ヨーロッパはだいたい3割を超えていますからね。日本共産党は50%を目標に努力していますが、日本全体の立ち遅れは深刻です。
 さらに、社会保障、中小企業、農業、環境、教育と比較表をつくりましたので、活用していただければと思います。
 たいへんな違いがあります。あらゆる分野で国民の暮らしと権利を守るルールがない。そのことが日本経済をもろく、弱くしている。健全な発展を阻害し、長期停滞と衰退を招いている。これを変えなくちゃいけません。

「大企業の民主的規制」――日本社会のまともな発展にとって必然的な道
 志位 それではどう変えるか。私たちは、「ルールなき資本主義」という現状を変えて、ヨーロッパで当たり前になっているような暮らしを守るルールをつくる――「ルールある経済社会」に変えていこうということを提唱しています。
 そのための政策手段として私たちが提案しているのは、「大企業の民主的規制」ということなんです。「大企業の民主的規制」というのは、大企業をつぶすという話じゃないですよ。大企業を敵視するものでもありません。大企業の横暴勝手を法律などいろいろな手段で抑えて、大企業にその力にふさわしい社会的責任を果たしてもらいましょうということなのです。
 これは日本経済のまともな発展にとっても避けて通れません。これにかかわってマルクスの『資本論』の有名な一節を紹介したいと思います。
 「“大洪水よ、わが亡きあとに来たれ!” これがすべての資本家およびすべての資本家国家のスローガンである。それだから資本は、社会によって強制されるのでなければ、労働者の健康と寿命にたいし、なんらの顧慮も払わない」
 これはフランスの国王ルイ15世の愛人の言葉だったと言われています。この人はひどい贅沢(ぜいたく)三昧をやっていた。「そんな贅沢三昧をやっていたら、国家財政が破綻して、たいへんなことになりますよ」と忠告されて、「大洪水(財政破綻)が来るのだったら、私が死んだ後にして」と言ったというのですが、日本語で言えば「あとは野となれ山となれ」ということですね。
 マルクスはここで、とても大切なことを言っているんです。資本というのは労働者の健康や寿命に対してなんらの考慮も払わないで、ひたすら労働時間の非人間的な延長を追求する。しかし、そんなことをやってしまったら、労働者階級の全体の健康が壊されてしまい、衰退してしまいます。そうしたら社会全体も成り立ちません。「大洪水」がやって来る。
 それではその「大洪水」をどうやって止めるのか。マルクスは、「社会によって強制されるのでなければ」と言っています。逆に言えば、「社会による強制」によって資本の行動を規制する、横暴勝手を抑える。このことによってはじめて「大洪水」を防止できるんだと言っているわけです。
 これは、私たちの言う「大企業の民主的規制」と一緒ですね。「普通に就職してまともに暮らしていける」ような社会をつくろうと思ったら、「大企業の民主的規制」が必要だし、それは社会的必然――日本社会をまともに発展させようと考えたら必然的な道なんだということを言いたいし、ぜひ力を合わせて実現しようということを、若いみなさんに訴えたいと思います。(つづく)