「オリパラアプリ」というのは、東京五輪に向け海外から入国する観戦客や選手団などの健康管理を目的としたアプリで、これをスマートフォンに入れれば入国後14日間の隔離措置が必要なくなるというものです。
政府はこのアプリの開発・運用などに関して今年1月、正月休みを除くと実質4日半の作業になるスケジュールで入札を行い、応じたのはNECなど5社による共同事業体の1社のみでした(契約金額は約73億円)。
4日半などという超短期の見積り期間に設定したのは、他の企業を排除して最初からNECらの共同事業体との契約を目指したのであり、契約金額も業者側の言い値だったと思われます。
その後この契約金額が問題になると、平井デジタル改革相は6月1日になって73億円から約38億円まで圧縮すると公表しました。NEC側は抵抗したようなのですが、デジタル庁が38億円で出来るとの確信を持っていたのであれば、最初からその金額で契約すべきでした。これでは指摘されてから慌てて下げたと言われても弁解できません。
それに加えて、そのアプリは計画ではもう完成していて、いくつかのテストイベントで実際に使ってみる予定だったのですが、実はまだ使われていませんでした。理由は明らかにされていませんが、まだ完成していないか、または何らかの不都合があってまだ解決していないからなのでしょう。なにやら「COCOA」の二の舞の感じです。
これは海外からの入国者に対して14日間の隔離を不要にできるという重要なアプリなので、もしもいまだに機能しないのであれば、海外では常識となっている「抗原検査」に切り替えるなりしなくてはなりません。
⇒(6月14日)日本で「抗原検査キット」の活用が遅れる呆れた理由
しかしそうした情報もまだなく、この点も含め契約金額の野放図さと言い、開発工程の不確実さ・遅さと言い、菅政権のやることは全てがデタラメです。
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平井卓也デジタル相のヤクザ恫喝はオリパラアプリのデタラメ発注をごまかすため! 不自然な契約、異常な金額、いまだテストできず
水井多賀子 LITERA 2021.06.11
陰湿極まりない「恫喝内閣」の実態が暴かれた。巨額の契約が問題視されてきた「オリパラアプリ」の費用削減をめぐり、平井卓也デジタル改革相が内閣官房の幹部に「(発注先を)脅しておいたほうがいい」などと指示してことが発覚した件だ。
この「オリパラアプリ」というのは、東京五輪の観戦を目的に海外から入国する観戦客や選手団などの入国前から出国後までの健康管理を目的としたアプリ。このアプリをスマートフォンに入れれば入国後14日間の隔離措置が必要なしになるというシロモノで、政府は今年1月にこのアプリの開発・運用などを日本電気(NEC)やNTTコミュニケーションズ、日本ビジネスシステムズなど5社による共同事業体に委託。なんと総額約73億円という巨額の予算を計上していた。
一般向けの接触確認アプリ「COCOA」の開発費が約4億円であることと比較すれば「オリパラアプリ」がいかに高額であるかは一目瞭然だが、その後、五輪に海外からの観戦客は入れないことが決定したため、「数万人のために73億円もの巨額をかけるのか」と批判はさらに高まっていた。
すると、平井デジタル改革相は6月1日になって費用を73億円から約38億円まで圧縮すると公表。この日の会見で「(NECの)顔認証(機能)は、開発も運用もなくなりゼロ(契約解除)」などと説明していた。
高額契約が問題になった途端、「顔認証は使わなくなったんで開発も運用もゼロ、契約解除にする」などと言い出すこと自体、滅茶苦茶な話だが、ここにきて判明したのが、その減額をめぐる平井デジタル改革相の「恫喝指示」発言だ。
問題の発言が飛び出したのは、4月におこなわれた内閣官房IT総合戦略室の会議でのこと。この音声データを入手した朝日新聞は今朝の朝刊で発言内容を報じると同時にネットで音声を公開。そこに収められた平井デジタル改革相の発言は、以下のとおりだ。
「デジタル庁はNECには(五輪後も)死んでも発注しないんで。場合によっちゃ出入り禁止にしなきゃな」
「このオリンピックであまりグチグチ言ったら完全に干すからね、あれは」
「一発、遠藤のおっちゃん(編集部注:遠藤信博・NEC会長)あたりを脅しておいたほうがいいよ」
「どっかさ、象徴的に干すところをつくらないとなめられちゃうからね。運が悪かったってことになるね。やるよ本気で。やるときは。払わないよ、NECには。基本的には」
指定暴力団組長が代表を務めていた建設会社から献金を受けていた平井デジタル改革相
平井デジタル改革相の発言から察するに、減額の方針に対してNECが折り合おうとしなかったことが推察されるが、それに対して「脅しておいたほうがいいよ」「完全に干す」「やるよ本気で」「払わないよ」とは……。平井デジタル改革相は指定暴力団組長が過去に代表を務めていた建設会社から計76万円の献金を受けていたという問題が浮上したこともあるが、一体どこのヤクザかというような発言ではないか。
しかも、平井デジタル改革相は本日の会見で、「脅しておいたほうがいいよ」などと指示した内閣官房の幹部について、「まさに幹部中の幹部2人、10年来、私が一緒に仕事してきた仲間でございますので、非常にラフな表現になったなとは思います」などと釈明した。
「脅しておいたほうがいいよ」というヤクザ顔負けの物騒な発言が「ラフな表現」って……。普段、平井デジタル改革相がいかにナチュラルに恫喝の指示をおこなっていることの証左と言っていいだろう。
平井デジタル改革相といえば、本サイトでも取り上げてきたように、自民党ネットメディア局長を務めていた2013年に「ニコニコ動画」で党首討論が生放送された際、国会議員であることを隠してスマートフォンで「あべぴょん、がんばれ」などといったコメントを投稿。さらに、社民党の福島瑞穂党首が発言したときには「黙れ、ばばあ!」などと書き込んでいたことが発覚。この事実は当時、東京新聞が報道し、本人も事実を認めている。
「ばばあ」というのは、個人への誹謗中傷どころか、女性に対する明白な差別発言。こんな人物を菅義偉首相は「デジタル庁」創設に向けたデジタル改革相に抜擢したこと自体が問題なのだが、その意味も今回の音声を聞けばよくわかるというもの。「脅し」をかければどうにでもなるという考えは、菅首相にソックリだからだ。
しかも問題なのは、平井デジタル改革相が恫喝をかけることを指示したのは、明らかに「デタラメ発注の責任逃れ」「不透明な契約隠し」のためであることだ。
そもそも「オリパラアプリ」をめぐっては、入国後14日間の隔離措置をなしにしても安全を担保できるなんてことがアプリひとつで可能になるのかという疑義があり、当初からその巨額の予算の妥当性が国会で問われてきた。本来、予算額が妥当なのであれば、その妥当性を国民が納得できるよう説明をおこなうのが平井デジタル改革相の責任だ。
ところが、平井デジタル改革相はその説明もできず、今回もNECの契約解除について、「同社の顔認証機能が不要になった。すでにNECが開発済みのシステムを使ったサービスなので払う必要はない。現場には裁判になってもいい、と指示して交渉させた」と説明したのだ。
言っておくが、「オリパラアプリ」の契約金額の内訳では、「顔認証連携システム」に開発費として2億円、運用に3億円が計上されていた。「すでにNECが開発済みのシステムを使ったサービスなので払う必要はない」と言うのであれば、当初から開発費に2億円を計上しているのがおかしいということになる。
つまり、平井デジタル改革相は今回、契約金額自体に疑義があったのを、減額にすることで有耶無耶にしようとしたのである。それどころか、業者に恫喝をかけるよう部下に指示まで出し、「金は払わないよ」という姿勢で減額を一方的に打ち出していたのだ。ようするに、平井デジタル改革相は自分の無責任さを隠すためにケツ拭きを業者にやらせた、というわけだ。
4日半の入札でNECに決まった不可解な経緯 アプリはテスト大会でも使用されないまま…
平井デジタル改革相は、朝日新聞の取材に対し、「交渉するスタッフが弱腰になったら、いくら取られるかわからない。国民の血税だから強気で交渉しろ、と伝えた」などと釈明している。
しかし、「国民の血税だから」などと言うなら、そもそもこの73億円にものぼる契約自体がおかしい。「オリパラアプリ」の委託先を決める一般競争入札は〈入札の公示から書類の提出期限までが、年末年始の休みを除くと実質4日半しかなかった〉(東京新聞4月13日付)という異常な短さで、応札したのはNECやNTTコミュニケーションなどによる共同事業者1者のみ。つまり、最初からNECやNTTコミュニケーションなどの応札を見越した入札で、その契約金額の妥当性などは考慮されず「言い値」で委託した可能性が高い。それは前述した開発済みだったシステムに「開発費2億円」を計上していたことからも明らかだ。
NECやNTTコミュニケーションはマイナンバーカード関連事業でも地方公共団体情報システム機構(J-LIS)から多くの事業を受注しており、今後、デジタル庁の発足によってJ-LISに対する国の関与が強化される。NECは過去にマイナンバー関連事業によって1000億円の売り上げを目指す方針を発表していたが、平井デジタル改革相は政府の利権構造のなかに入り込んでいるNECに対し、「甘い汁を吸わせてやっているのだから脅しをかければ言うことを聞く」とでも踏んでいたのだろう。ようするに、恫喝は国民の血税を守るためでなく、「癒着」の成れの果てでしかないのだ。
しかも、「オリパラアプリ」が問題なのは、業者との癒着だけではない。5月21日におこなわれた衆院厚労委員会で、立憲民主党の尾辻かな子衆院議員が「仕様書を見ると(オリパラアプリを)テスト大会で使うということになっていた」と指摘。「いつ、どのテスト大会で、何人が使用したのか。そのときに不具合はあったのか」と質問をおこなったのだが、時沢忠・内閣官房内閣審議官はこう答弁した。
「これまでに、東京オリンピック・パラリンピック競技大会のテストイベントにおけるテスト、これはおこなっておりません」
オリパラのテスト大会で「オリパラアプリ」を使用すると説明されてきたのに、なんとそれがおこなわれていない──。時沢審議官は「必要なテストは鋭意進めているところ」「東京五輪組織委員会の一部関係者に一部の機能についてテストしていただいた」「順次テストする機能や対象を増やしていく」などとも答弁したが、実際に選手団が使用しなければまったく意味がまったくない。
しかも、「オリパラアプリ」のテストをおこなったという関係者の人数は、たったの「10人強」だと言うのである。
「オリパラアプリ」に73億円もの税金を投入していたことそれ自体がありえないのに、さらには正常に機能するかどうかを確認する場であったはずのテスト大会で使用せず、いまだに組織委の10人強がテストしている段階でしかないとは……。こんな体たらくで、菅首相は「安全安心の開催実現」などと言っているのである。完全に詐欺ではないか。
平井デジタル改革相の恫喝指示発言は言語道断だが、今回の恫喝発言問題であらためて浮き彫りになったのは東京五輪が結局は癒着の温床になってきたこと、そして最大の問題は、いまだに約38億円という巨額の税金が投入されたこの「オリパラアプリ」による「安全安心」はまったく担保されていない、ということだ。これで東京五輪を開催しようという政府の無為無策も、もっと問題になるべきだろう。 (水井多賀子)