組織委が五輪会場で「酒類販売」を認めるという情報が流れたことに、TVのワイドショウなどで「長い間お酒を出せなく、飲食店がずっと我慢してきたのに五輪では何でもありなのか」と批判が集中し、「羽鳥慎一モーニングショー」のレギュラー出演者玉川徹氏も、「五輪が行われている東京の店に関しては酒出すのをやめろと言って、会場の中で酒OKとは。居酒屋とかバーの人が聞いたら激怒する」と呆れていました。
組織委は批判の大きさに驚いて撤回しましたが、あまりにも無定見です。
この間、丸川五輪相は、酒類の提供について「大会の性質上、ステークホルダー(スポンサー)の存在がどうしてもある。組織委員会としては、そのことを念頭において検討されると思う」などと発言し、火に油を注ぐことになりました。まさに「別の地平」からの発言でした。
これに限らず、五輪相とは一体どういう役目の閣僚なのかという素朴な疑問も出されていて、その場しのぎの発言の無責任さは早くから批判されていました。
日刊ゲンダイが、なんと「よくも正気で嘘をつけるものだ 橋本聖子大臣の自我が壊れない摩訶不思議」とする記事を出し、丸川五輪相とひと括りにしてやり玉に挙げました。
同紙の別の記事「五輪会場“酒類提供”めぐり芸能界に起こっていた怒りの連鎖」と併せて紹介します。
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五輪会場“酒類提供”めぐり芸能界に起こっていた怒りの連鎖
日刊ゲンダイ 2021/06/23
東京五輪で、組織委が会場での「酒類販売」を検討していることに関しては、芸能界からも非難ごうごうだった。
「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日系・22日放送)では、MCの羽鳥慎一(50)が「本当に長い間、お酒を出せなくて飲食店がずっと我慢してきたのに、オリンピックは何でもありなんだなって」と言えば、解説の玉川徹(58)は、「オリンピックが行われている東京のお店に関してはまっすぐ帰れ、酒出すのをやめろと言って、会場の中でお酒OKって、居酒屋とかバーの人が聞いたら激怒じゃないですか」と呆れた。
お笑い芸人のNON STYLEの井上裕介(41)はブログで、〈いやいや。これを検討するのであれば、今までの我慢はなんやったの!? 大声の抑制などが守られると思っているなら、今までも飲食業を閉める必要なかったやん!!〉と反応。女優の原千晶(47)も「東京オリンピック酒類販売容認? さすがに憤りを隠せません」とツイート。人気ユーチューバーのせやろがいおじさんも「政府が出した酒類提供の自粛要請に政府が協力しないんだけど」とツイートした。
さらに東国原英男(63)も〈驚いた。「オリパラ会場で観客への酒類販売容認」という報道。だったら、感染対策をしている飲食店はフルオープンにして上げないと〉とツイートした。
飲食店関係者や庶民の我慢を踏みにじる露骨な“五輪ファースト”に市井の怒りは爆発寸前だったのだ。
「五輪の最大のスポンサーは税金を出してる国民のはず」
さらに、丸川珠代五輪相が22日の会見で、「大会の性質上、ステークホルダーの存在がある。組織委としては、それを念頭において検討されると思う」と発言したことがさらなる燃料投下になるなど二枚舌も甚だしい。芸能文化評論家の肥留間正明氏は皮肉まじりにこう話す。
「飲食店には2人以下で90分以内などと言っておいて、五輪はOKなどというダブルスタンダードが通用するわけがない。国民はこの不公平感に辟易している。これだけバカにされてやってられるかということですよ。これはもう国が“飲酒OK”というお墨付きを与えたと受け止めて、苦労している飲食店をはじめ、自粛要請に応じてきた映画館、コンサート会場、劇場などのエンタメ業界も酒類を全面解禁してジャンジャン出せばいいんですよ。そもそも五輪の最大のスポンサーは税金を出してる国民のはずでしょう」
ところが、22日夜に事態は一転。こうした芸能界からの声も奏功したか、組織委は世間の猛批判に耐えきれず、酒類の販売を見送る方向で調整中と報じられ、組織委は23日に「収容人員の50%で1万人まで」の観客上限が決まった大会における観戦者ガイドラインを公表。会場での飲酒は全面禁止となり、アルコール飲料の持ち込みも禁止。会場内での酒類販売も見送られた。
五輪開催まであと1カ月。政治的意見は控える傾向が強い芸能人の爆発は、今後も世論を大きく動かしそう。開幕までドタバタはまだまだ続きそうだ。
よくも正気で嘘をつけるものだ 橋本聖子大臣の自我が壊れない摩訶不思議
日刊ゲンダイ 2021年6月23日
(記事集約サイト「阿修羅」より転載)
政府、大会組織委、東京都、国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)の代表者による5者協議が21日に行われ、東京五輪は有観客で開催することが決まった。観客数は「上限1万人」で決着と思ったら、「大会関係者は別枠」だとか「開会式は2万人」とか、次々と“特例”措置が既成事実化している。揚げ句に競技会場での酒類販売を検討――。横紙破りとはこのことだ。
政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長ら専門家有志は、五輪について「無観客開催が望ましい」と提言。観客を入れるのであれば、現行の大規模イベントの開催基準より厳しい基準を採用すべきだとした。
21日の会見で専門家の提言との整合性を問われた組織委の橋本聖子会長は、「中止は提言になかった」と都合よく解釈。「観客を入れた時のことも想定した提言をいただいた」「組織委員会の感染対策については大変高い評価を尾身会長からいただいた」などと言って、「有観客で上限1万人」の開催を正当化してみせた。
「政府も組織委も最初から有観客開催の結論ありきで、専門家の知見も無視して突っ走ろうとしている。コロナ禍で五輪を開催することに対する国民の不安は大きいのに、開催の是非をスッ飛ばして、いつの間にか観客数の上限が論点にされていたのです。そのうえ大会関係者は観客ではないから別枠、子どもたちに観戦機会を提供する学校連携観戦チケットも別枠などと、なし崩しで観客数を増やそうとしている。IOCにおもねると同時に、秋の解散総選挙に向けた政治的思惑から、盛り上がりを演出するためにどうしても観客を入れて開催したいのでしょうが、人が移動したり集まったりすれば感染拡大リスクが高まることは周知の事実です。リーダーには冷静で科学的な判断が求められるのに、現実から目をそらし、行き当たりばったりで大会成功を夢想しているだけとしか思えません」(法大名誉教授の五十嵐仁氏=政治学)
酒類提供は「朝令暮改」で断念
会場での酒類提供については組織委が22日の夜になって、“朝令暮改”で断念する方針を固めたが、まさしく行き当たりばったりで、五輪開催の迷走を象徴している。
検討から一転、酒類提供を断念したきっかけは、22日午前の丸川五輪相の発言だ。
閣議後会見で、酒類の提供について「大会の性質上、ステークホルダー(スポンサー)の存在がどうしてもある。組織委員会としては、そのことを念頭において検討されると思う。大声を出さない、拍手だけで応援する観戦スタイルをしっかり貫かれるような形で、検討いただきたい」と話した。
語るに落ちるで呆れるほかないが、あからさまなスポンサーファースト、五輪ファーストに批判が集中し、酒類提供を引っ込めざるを得なくなった。こうなるとスポンサー企業もいい迷惑で、五輪スポンサーがこれほどイメージダウンにつながる五輪もないのではないか。
それにしても不気味なのが、橋本や丸川が無表情のまま、五輪に関して白々しい嘘や支離滅裂な答弁を繰り返していることだ。当事者の責任感というものがまったく感じられない。まるで他人事なのだ。
2人とも、組織委の森喜朗前会長が女性蔑視発言で辞任に追い込まれたため急きょ登板することになったが、おそらく森発言の悪影響を和らげるために「女性だから」という理由で登用されたのだろう。橋本は当初、会長就任を嫌がったというから、貧乏くじを押し付けられたという見方もあるし、“お飾り”という言葉がしっくりくる。それにしても、彼女らの発言は「別の地平」から聞こえてくるようだ。視線の先に国民が不在なのである。
情緒に訴える「スポーツの力」や「絆」の欺瞞
「五輪に向けて練習を重ね準備をしてきたアスリートを応援したい思いは多くの国民が持っています。そういう気持ちに政治家たちが水を差している。飲食店には酒類の提供禁止を要請して、国民にも我慢を強いているのに五輪会場内では飲酒OKと言い出したり、五輪期間中は『テレワーク・デイズ』と会社員に移動の自粛を求めながら、五輪観戦で何万人もが移動する人流増加をつくりだそうとしたり、支離滅裂なのです。これでは、今までの自粛や我慢は何だったのかという話になる。なぜ五輪だけは特別なのか、納得できる説明がなければ、政府や自治体の要請にも従わず好き勝手やるという人が増えるのも仕方ありません。五輪が批判の対象になれば、出場する選手たちも気の毒です」(政治ジャーナリスト・山田厚俊氏)
金満病のIOCに大会中止の選択肢はハナからなかった。開催さえできれば、全世界に中継され、放映権料が懐に入る。有観客にこだわったのは、むしろ日本側だったと報じられている。産経新聞(22日付)によれば、とりわけ菅首相と橋本の強い意向があったという。
<「最大1万人でどうだろうか」。菅義偉首相は15日午前、丸川珠代五輪相とスポーツ行政を所管する萩生田光一文部科学相を官邸に呼んだ際に、こう切り出した>
<大会関係者によると、有観客を強く望んだのは橋本会長だったという。組織委が4月末に設置したコロナ対策の専門家会議でも、議論の中心は開催可否より、観戦リスクの分析や対応策の検討>
その産経のインタビューで橋本は「安心・安全をどこまで(国民に)お伝えすることができるかにすべてをかけてきた」とか言っていたが、壊れたレコーダーのように「安心安全」を繰り返すだけで、その具体的な中身について説得力のある説明を聞いたことはない。
ぎょっとするほどの無表情
18日の会見で本紙記者が「安心安全とはどういう状況を指すのか」と質問した際も、「安全というものが理解をされることによって、安心に少しずつつながっていったかなというふうに思っております」と、まったく要領を得なかった。
アスリート出身の橋本が有観客を望む気持ちは分からないでもない。最高の舞台で記録を残したい選手にとって、観客の声援は何よりの励みになるだろう。観客も世紀の瞬間を見届けようと競技場に足を運ぶ。本気の勝負に熱狂し、思わず声が出る。その一体感がスポーツ観戦の醍醐味ではないのか。
過去7回の五輪出場を誇る橋本だからこそ、応援の「大声禁止」がいかに荒唐無稽で無理難題かということを誰より分かっているはずだ。カネのことしか頭にないIOCのバッハ会長や五輪を選挙戦略に利用する菅のために、アホらしい五輪プレーブックも作って、嘘をつき続けるストレスによく耐えられるものだ。アスリートファーストに立っていたら自我が崩壊するのではないかと心配になってしまう。
「橋本会長はもはやアスリートではなく政治家なのです。森元首相のお気に入りで、本人も組織委会長就任にあたって政治的中立性を担保するために自民党こそ離党しましたが、国会議員を辞めることはかたくなに拒否した。丸川五輪相もそうですが、レールに乗って自分より上の人間の意向に従うだけ。思考停止に陥っていて、操り人形のようです。五輪強行でコロナ感染拡大のリスクがあることも分かっていながら、中止を進言する勇気もない。破滅に突き進んだ先の大戦とそっくりの展開になってきました。橋本氏と丸川氏の無表情を見ているだけで、この五輪の異様さが分かります」(五十嵐仁氏=前出)
今般の五輪でメダルを獲得した選手が、いずれは橋本のようになるのかと想像すると、ますます純粋に応援できなくなる。
選手より、国民の安全より、カネと名誉と政権延命。そのヨコシマな思惑を覆い隠すために「スポーツの力」や「絆」という情緒的な言葉がことさらに強調されるのだ。その欺瞞に気づいた国民は、1カ月後の開会式を暗澹たる気持ちで迎えることになる。