2021年9月5日日曜日

05- 菅首相 退任を表明 関連社説2つと菅首相の主な語録

 菅首相がついに任期一杯で退任することを表明しました。
 信濃毎日新聞は、「菅首相が辞任へ 独善と強権が招いた帰結」とする社説を出しました。
 また新潟日報は、「菅首相退陣へ 無責任過ぎる放り出しだ」とする社説を出しました。
 どちらも菅氏の退陣の特徴を的確に表現しています。
 それとは別に西日本新聞は、「菅首相の主な語録」を出しました。
 「菅首相の主な語録」、信濃毎日新聞社説、新潟日報社説の順で紹介します。
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菅首相の主な語録
                           西日本新聞 2021/09/04
  (原記事写真版より書き起こしして作成)

行政の縦割り、既得権益、悪しき前例主義を打ち破る。国民のために働く内閣をつくる
                        (20年9月16日 首相就任直後の記者会見で)

2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言する
                       (20年10月26日 臨時国会の所信表明演説で)

前例踏襲は止め、例えば民間人や若い人を増やせたらいいと私が判断した。個々人の任命理由は通常の公務員と同様に答えを控える
               (20年11月2日 日本学術会議任命拒否を巡り衆院予算委員会で)

他の方との距離は十分にあったが、国民の誤解を招くという意味においては真摯に反省している (20年12月16日 ステーキ店で二階幹事長らと大人数で会食をしたことで記者団に)

私自身は全く承知していない。長男と私は別人格だ
     (21年2月4日 首相の長男らによる総務省幹部への接待問題について衆院予算委員会で)

発症や重症化に対するまさに切り札だ。一日も早く多くの皆さんに受けていただけるよう取り組む
       (21年4月12日 新型コロナワクチンの高齢者向け接種が始まった会場で記者団に)

安心安全な大会の実現に向けて、最後まで高い緊張を持って取り組む
                 (21年7月20日 東京五輪の開催に際し政府与党連絡会議で)

ワクチンの接種はデルタ株に対しても明らかな効果があり、明かりははっきりと見え始めている
    (21年8月25日 緊急事態宣言の対象を21都道府県に拡大すると決めた後の記者会見で)



社説 菅首相が辞任へ 独善と強権が招いた帰結
                          信濃毎日新聞 2021/09/04
 菅義偉首相がきのう、自民党総裁選に立候補しない意向を表明した。昨年9月の就任から約1年。新型コロナウイルス対策などで国民の信頼を失ったまま、退場することになる。
 菅首相は官邸で記者団に対し、「コロナ対策と総裁選の選挙活動には莫大(ばくだい)なエネルギーが必要であり、両立できない。感染防止に専念したい」と理由を述べている。
 退任表明なのに2分間。質問を受けず一方的に話すだけだった。この質疑が図らずも、菅政権の体質を表しているのではないか。
<責任に向き合わず>
 菅首相は総裁選を巡る党内の動きが活発化してから、自らの延命策に明け暮れた
 二階俊博幹事長の交代を柱とする党役員人事を唐突に打ち出したのは、出馬を表明した岸田文雄前政調会長へのけん制だ。岸田氏は5年以上在任する二階氏を意識し、役員の任期制限を掲げた。党内で共感が広がることを避ける狙いがあったことは明らかだ。
 総裁選を前に人事に踏み切るのは異例だった。支持が広がらず再選が見通せない中、衆院の解散と総裁選の先送りも画策した。「個利個略」に走る姿勢が党内の反発を招き、役員人事にも行き詰まっていたとされる。
 首相が追い込まれたのは、コロナ対策に失敗して支持率が低下し、選挙で連敗を続ける菅政権を自民党議員が見放したためだ。求心力はさらに弱まるだろう。新たな対策を打ち出すことも困難だ。政治空白は長期化する。
 それなのに不出馬を「コロナ対策のため」と正当化し、責任を認めない。支持を失った理由の一つが「責任に向き合わない姿勢」にあることを理解していない。
<国民と官邸に溝>
 新型コロナは感染拡大が止まらず、医療体制が逼迫(ひっぱく)している。在宅で病状が深刻化する人も増えている。コロナ禍の出口は見通せない状況が続いている。
 医療体制の拡充や人出対策に注力し、国民に説明し理解を求める姿勢が欠かせない。野党がコロナ対策のため憲法に基づいて要求した臨時国会も召集せず、党内抗争と駆け引きに走った菅首相の責任は重い。
 菅首相は就任以来、国会を軽視し、国民への説明を欠いてきた。
 日本学術会議が推薦した会員候補6人の任命を拒否した問題では、理由を明らかにしなかった。任命について首相に裁量の余地は本来ない。推薦候補を拒むのは法を逸脱する振る舞いなのに、「説明できることと、できないことがある」と居直りさえした。
 元法相で当時衆院議員の河井克行氏と、妻で当時参院議員の案里氏が逮捕された参院広島選挙区の公選法違反(買収)事件では、自民党本部から案里氏の陣営に送金された1億5千万円の使途が不明のままだ。
 税金を基にした政党交付金が買収の原資になった可能性があるのに、菅首相は説明を避けてきた。
 過ちや責任も認めなかった。観光支援事業「Go Toトラベル」は、専門家の指摘を受けても「感染拡大の原因ではない」との立場を崩さなかった
 東京五輪の開催を巡っては、感染拡大を懸念する世論を押し切って開催を強行。感染が広がっても影響を否定した。
 楽観的な見通しに頼って対策が後手に回り、医療や検査体制の充実策を怠った。会見では「ワクチンが決め手」と繰り返すだけ。8月25日には、感染者や重症者が増加しているのに「明かりははっきりと見え始めている」と述べた。
 コロナ禍で苦しむ国民と官邸の間には、埋めることができない深い溝ができていた。退陣は、菅首相が独善的で強権的な政治を続けた帰結である。
<政治の再構築こそ>
 菅首相の政治手法は、安保法制などで強権的な政治を続けた安倍晋三前首相の継承といえる。
 安倍氏は森友、加計学園、桜を見る会の問題などで同じ説明を国会で繰り返し、詳細が不明のまま放置してきた。
 コロナ対策では布マスク配布など思い付きの政策を繰り返し、病気を理由に政権を投げ出した。野党の臨時国会の召集要求を無視し、国会軽視の姿勢も同じだ。
 2012年12月に第2次安倍内閣が発足してから8年半。自民党も政権の姿勢を追認し、国会論戦でも批判してこなかった。
 ないがしろにされてきたのは、国民と向き合って説明して対話し、少数意見も採り入れながら合意を目指し、責任を持って政治を行う民主主義の精神だ。コロナ禍は「安倍・菅政治」の負の側面を浮き彫りにした。
 総裁選には岸田氏のほか、高市早苗前総務相、河野太郎行政改革担当相らも出馬の意向を示している。論戦では、安倍・菅政治への向き合い方が問われる。
 継承するのか、検証して再構築するのか―。国民と懸け離れた政治を続けるのなら、政治への信頼はさらに失われていく。


社説 菅首相退陣へ 無責任過ぎる放り出しだ
                             新潟日報 2021/09/04
 感染力の強い「デルタ株」の拡大で重症者は増え続け、医療提供体制は逼迫(ひっぱく)している。新型コロナウイルスによる感染禍は収束には程遠い。
 そうした中でのリーダーの唐突な退場表明である。あまりに無責任というほかない。
 菅義偉首相が3日、自民党の臨時役員会で、総裁選(17日告示、29日投開票)に立候補せず、退陣する意向を表明した。
 首相は、その理由について感染拡大防止に専念するためだとしたが、果たしてどれだけの国民が納得できるだろう。
◆またも説明尽くさず
 党臨時役員会で首相は「この1年間、コロナ対策に全力を尽くしてきた。総裁選を戦うには相当のエネルギーを要する。総裁選は不出馬とし、コロナ対策を全うしたい」と述べた。
 記者団に対しては「コロナ対策と総裁選の選挙活動には莫大(ばくだい)なエネルギーが必要で両立はできない。国民に約束している感染拡大防止に専念したい」と説明し、国民の命と暮らしを守る首相の責務だと強調した。
 だが、総裁選を前にしたここ最近の首相の言動に照らせば、これらの発言を額面通り受け止めるのは難しい。
 ウイルス対策で批判を浴び、各種の世論調査で内閣支持率が低迷しても、首相は「時期が来れば出馬するのは当然」などと総裁選立候補の意向を重ねて語っていた。
 さらに岸田文雄前政調会長が出馬に手を挙げ、総裁選の構図が固まりつつある中、首相は自らの求心力を高めるため、来週6日に二階俊博幹事長交代など党役員人事を行う方針と報じられていた。
 是が非でも首相の座を守り、政権を延命させたい。伝わってきたのは自らの保身最優先の身勝手さであり、権力の座に対する強烈な執着だった。それが、なぜ突然の退陣表明なのか。
 求心力回復が目的だったはずの役員人事で行き詰まったためと伝えられるが、3日の記者団への説明はわずか2分足らずで、質問にも応じず打ち切った。
 ウイルス対策に加え、日本学術会議の任命拒否問題などを巡り、首相はかねて説明を尽くさない独善的、強権的な政権運営を厳しく批判されてきた。
 週明けに記者会見するとしたものの、退陣表明でもそうした体質は色濃く表れた。
◆「国民のため」どこへ
 首相は1年前、就任直後の会見で「国民のために働く内閣をつくる」と意気込みを語った。
 さらに「国民が求めているのは新型コロナウイルスの収束だ。まずこのことに全力を挙げて取り組む」と訴えた。
 しかし、今となってはあの時の決意は何だったのか、どこへ行ったのかと思わざるを得ない。
 辞める真の理由が人事の不首尾にあるならば、自らのもくろみが外れたために政権を投げ出すに等しい。「国民のために」の覚悟とは対極にあるものだろう。
 総裁選に出馬せず、感染拡大防止に専念したいというのも口先だけとしか映らない。残り任期が1カ月を切った中で何をするのか。
 ウイルス対策に全力を尽くすとした菅政権だったが、緊急事態宣言が繰り返し発令され、「明かりが見えてきた」と首相が根拠なき楽観論を口にする一方、感染拡大には歯止めがかからなかった。
◆自民党の責任は重い
 政権浮揚を狙い、首相が「開催ありき」にこだわった東京五輪が開かれる中で感染は爆発的に広がり続けた。五輪が国民の緩みを招いたとの指摘は根強い。
 その揚げ句の政権放り出しと言っていい。しかも理由は国民の命と暮らしを守るためという。
 「災害級」とも称される未曽有の感染禍への対応を1年間担ってきたはずの首相の内向きと身勝手を改めて見せつけられたようで、暗然とした思いに駆られる。
 後継首相を選ぶ総裁選は予定通り実施される。今後はその行方に注目が集まることになろうが、自民党は極めて重い責任を負っていることを忘れてはいけない。
 安倍晋三前首相、安倍政治の継承をうたって登場した菅首相と2代続けてリーダーがウイルス対策で成果を上げられず、国民の疲弊は進んだ。
 安倍、菅両政権は党内の有力派閥に支えられていた。とりわけ菅政権は選挙という国民の審判を受けていない。感染禍を巡る失政の責任は、自民党全体が深く肝に銘じるべきものだ。
 次期首相には膠着(こうちゃく)状況を打開し、感染を収束に導くまっとうな指導力が求められる。
 派閥の力学や菅首相の影響力保持といった内向きを排した総裁選とし、真に国民のために汗をかける指導者を選び出せるか。厳しく目を凝らさなければならない。