野党4党は、7月16日、憲法53条に基づく臨時国会の召集の要求書を菅首相宛てに提出しました。それから1カ月半が経つのに菅政権は国会を開こうとはしません。那覇地裁は昨年6月に、憲法53条により、国会議員が内閣に臨時国会の召集を求めた場合、内閣は国会を召集する憲法上の義務を負うと明確に認めています。
国会開催の要求に応じない政府の態度は安倍政権下でも顕著でした。その不誠実さが安倍亜流の菅政権でも再現されている訳で、国会の答弁と言い、極右の姿勢と言い、新自由主義政策と言い、本当にどうしようもない点が瓜二つであるのは救いのない話です。
国会の召集はいつの場合でも重要ですが、今回はコロナが爆発的に蔓延し、首都圏をはじめ全国各地で大変な惨状に陥っている中で政府が無為無策を決め込んでいるのですから、国民にとってはまさに死活的に重要です。
政府がその役割を果たさない以上、国会を召集し、その姿勢を改めさせ、国会議員、各政党の英知を結集して、総力を傾けて総合的な対策を講じないことには、国民の命も健康も、営業も生活も守れません。
しんぶん赤旗が「政治考 国民の命を守る国会開け」とする記事を出しました。
菅首相が国会の開催に応じない背景には、不誠実と無能力に加えて「危機感の欠如」「楽観論」があります。
これについてジャーナリストの高野 孟氏は、菅首相の思考の最大特徴は「希望的観測」の連鎖にあり、何事につけても、自分にとって都合のいいことが次から次へとつながっていって、最良の結果をもたらすはずだと信じ、国民にもそのように言い続けるのだが、実はその通りになったことは一つもない、と述べています。
そして「認知バイアス(⇒偏位)」という認知科学の分野があり、認知症は疾病だが、そこに至らないものの誰にでも日常的に起きるのが思い違い、記憶違い、言い間違い等々であるとして、情報文化研究所編「認知バイアス事典」によれば60類型があり、そのひとつが「希望的観測」だということです。
「病気」とまでは極めつけられないとされてはいますが、トップの地位にいながら年がら年中そんな想念に憑りつかれていて、なすべきことが何も出来ないのならも、もはや立派に?「病気」と呼ぶべきではないでしょうか。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【政治考】 国民の命を守る国会開け
しんぶん赤旗 2021年8月31日
日本共産党の志位和夫委員長、立憲民主党の枝野幸男代表、国民民主党の玉木雄一郎代表、社民党の福島瑞穂党首は7月16日、国会で会談し、憲法53条に基づく臨時国会の召集の要求書を菅義偉首相宛てに提出しました。それから1カ月以上が経過しましたが、菅政権は国会を開こうとはしません。
「最低限の役割」
こうした状況に政治学者の五十嵐仁法政大学名誉教授は次のように指摘します。
「菅政権には命を守る政治ができないことがはっきりしてきた。命と暮らし、それに営業を守るということは、最も基本的で最低限の政治の役割です。政府がその役割を果たさないのだから、国会を召集し、その姿勢を改めさせ、国会議員、各政党の英知を結集して、総力を傾けて総合的な対策を講じる。これをやらないと、今、国民の命も健康も、営業も生活も守れないという状況になっています」
野党が国会召集を求めた当時、全国の新規感染者数は1日約3400人でした。現在は2万人を超える日もあります。重症者数は2070人(29日)と17日連続で過去最多を更新。緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の対象地域は、全国の7割の33都道府県に広がっています。報道では、自宅療養中に亡くなった患者は7月以降、少なくとも45人とされています。
志位氏は26日の記者会見で、「明らかに菅政権によるコロナ対応が失敗した」と強調。菅首相に危機感も責任感も見られないとして、直ちに臨時国会を召集し、打開策の議論を行うように求めました。
日本共産党の田村智子政策委員長は27日、菅政権が同日決定した予備費(1兆4226億円)の使途として「臨時の医療施設」増設が明記されなかったことについて、「医療ひっ迫の深刻な状況の中で理事懇談会の中だけで議論するというレベルの話ではない」と厳しく批判しました。
これに対し菅政権と自民党はいま、国民的危機に真剣に向きあうことなく、自身の政治的危機にきゅうきゅうとする状況です。内閣支持率が最低を更新し続ける中、自民党に対する支持率が26%(「毎日」の世論調査)にまで低下しています。
感染爆発の中、「オリパラ後の早期解散」という思惑は外れ、衆院議員の任期満了(10月21日)選挙に追い込まれつつあります。
すべてが流動化
東京都議選での惨敗に続き横浜市長選で菅首相のひざ元での大敗という結果に、菅首相ではたたかえないという空気が広がり「党全体が浮足立っている」(関係者)という状況です。自民党総裁選(9月17~29日)の党員投票で、過半数も取れないという危機感の中で「菅首相が総裁選前に解散を打つのでは」という臆測さえ流れ、自民党議員の一人は「すべてが流動化している」とし「土日をはさみ、菅交代の空気が強まった」という関係者もいます。
国会召集拒否 立憲主義破壊のきわみ
国民と政治 危機感共有する時
憲法53条は、「内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる」とし、「(衆参)いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その(臨時国会の)召集を決定しなければならない」と定めます。自公政権は、野党の追及を避けるため、53条による召集要求をたびたび無視してきました。これに対し、昨年6月10日の那覇地裁判決は、憲法53条により、国会議員が内閣に臨時国会の召集を求めた場合、内閣が国会を召集する憲法上の義務を負うと明確に認めました。五十嵐氏は、国会召集に背を向ける菅政権を「立憲主義破壊のきわみ」と厳しく批判します。
危機感の欠如
菅首相の「危機感の欠如」「楽観論」も際立っています。菅首相は「ワクチン接種がデルタ株にも効果があり、明かりははっきり見え始めた」(25日の記者会見)などと言明し、会見に出席した記者からも「疑問だ」と面前で批判されました。
五十嵐氏は、「もっとも楽観バイアスに取りつかれているのは菅首相自身。人流は抑制されているから、開催しても大丈夫などと言って五輪を強行しました。結果、どんどん感染者、重症者が増えました。揚げ句の果ては、自宅でまともに医療も受けられない、あるいは、通常医療も破たんする状況になっています」と批判します。
危機感と国民への説明する姿勢の欠如―コロナ危機の中で致命的な問題であり、政権のコロナ対応に対する行政監視機能を発揮する国会の開会が必要です。
共産党緊急提案
日本共産党は、コロナ感染爆発と医療崩壊の深刻化のもとで政府がとるべき対応として「症状におうじて必要な医療をすべての患者に提供する」「感染伝播(でんぱ)の鎖を断つために大規模検査を実行する」「パラリンピックを中止し、命を守る対策に力を集中する」の3点の菅首相あての「緊急提案」を発表(19日)しました。この提案も含めて国会で審議が求められます。
五十嵐氏は、国会開会の「もう一つの意義」として「パラリンピックを中止し、臨時国会を開いて、野党の意見を聞き、国民の力を結集しますという姿勢を示すことで、国民全体に大変な状況にあるという危機感を共有する」と指摘。「補償とセットで自粛を求めれば、国民の行動変容を生み出すことにもつながると思います」と言います。 (若林明)