2021年9月11日土曜日

11- 麻生派の分裂と危機 - 安倍晋三のヘゲモニーを阻む森友と桜の執拗低音

 河野太郎氏が麻生氏の一週間に渡る制止を振り切って総裁選への立候補を表明しました。これは麻生派が分裂することにつながるので、何としても河野氏が総裁になるのを阻止したかったでしょう。9日夜、麻生氏は岸田氏支持を表明しました。一方河野氏は、麻生氏とは対立したものの安倍氏には従順で、例の「モリ・カケ・桜」の再調査等はパスするとし、女系天皇を容認するとしてきたことにも「有識者会議の結果を尊重していくことに異論はない」と修正しました。

 世に倦む日々氏が「麻生派の分裂と危機 - 安倍晋三のヘゲモニーを阻む森友と桜の執拗低音」と題したブログ記事を出しました。因みに「執拗低音」とはバロック音楽の奏法の一つの「通奏低音」をもじったもので、「常に底流としてある考え」などのことです。
 ここでは新総裁には岸田氏か河野氏のいずれかがなるだろうと見ていて、どちらがなっても「安倍・麻生レジーム(体制)」と併称されたうち麻生氏は脱落し、当面は「安倍レジーム」が生き残ると見ています(河野氏と麻生氏の軋轢の故かあの「菅副総裁説」は登場しないので精神衛生上助かります)。
   ⇒9月9日)因果応報/民意に引きずり降ろされた菅義偉(世に倦む日々)
 しかし安倍氏の権力が万全というわけではなく、森友事件と桜を見る会の問題は政局の執拗低音として響いている」「国民は忘却せず、その最終的な解明と解決を粘り強く求めている」としています。したがって、立候補者がどれほど安倍氏に傾斜しようとも、マスコミの討論会では必ず森友と桜が焦点として浮上するし、レジームの終焉を求める民意根強いので、自ずと安倍レジームは崩れて行くと見ていますまさに「 ~ 民意に引きずり降ろされた菅義偉」と共通する見方です。
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麻生派の分裂と危機 - 安倍晋三のヘゲモニーを阻む森友と桜の執拗低音
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9日夜の報ステで、午後9時半頃の映像として、麻生太郎がぶら下がり取材のカメラの前に立ち、総裁選の対応について発言する場面があった。岸田文雄を支持する意向だと(報道原稿が)述べていた。この映像は一見して奇妙で、午後9時半なのに麻生太郎が昼間のようなスーツ姿で両手に書類を持っている。まるで財務省内でインタビューに応じているかの如き絵柄だ。背景のベージュ系の壁の雰囲気は、ニューオータニ・ガーデンコート館のロビーのようにも見える。あの場所はいつも政治家がうろうろしていて、玄関から車に乗り込む手前で記者団に囲まれる。政治ニュースの馴染みの現場だ。この稿を書いている現時点で未だ田崎史郎の「解説」に接してないが、派閥幹部と対応を協議していたのだろう。そして、自身が岸田文雄支持であることをマスコミに披露し、党内と世間に拡散させようと図ったのだろう。神奈川新聞の配信では、これが派閥会合であったと説明した上で、麻生太郎は「(対応を)熟慮する」と言っただけだと書き、岸田文雄支持の意思を記事にさせていない。情報に差がある。

解読するなら、おそらく麻生太郎は、昵懇の関係にあるテレ朝記者に「岸田支持」を放送するよう差配し、親密ではないカナロコの記者には何も意中を語らず、出席議員を通じて、派閥と自身の公式見解である「熟慮中」を書かせたのではないか。公式には未定で、派閥として岸田支持で纏めて無理に全体を引っ張る仕置きはしない。派閥が割れる混乱と騒動の事態を表に曝け出すことはしない。だが、テレ朝の報じたリークで、何が起きているかは誰でも察知できるし、麻生太郎の真意の表明がよく納得できる。一週間続いた河野太郎との暗闘が、いよいよ沸点に達して爆発の瞬間を迎えたという顛末であり、二人が遂に喧嘩別れしたという権力闘争の破裂のフェーズの到来だ。河野太郎は3日、6日、7日、9日と、一週間で4度も財務省を訪れ、麻生太郎と直に会談している。「河野の小僧がまた来るから待ち構えて撮っとけ」と、マスコミに面会予定情報を流していたのは麻生太郎だろう。自らの権力と威勢を誇示するためであり、オレの指図に従わなきゃ河野太郎はレースに出れないんだと強調するためである。

麻生太郎は、「副総理・財務相はオレな、幹事長は甘利だ、女系天皇だの脱原発だのは引っ込めろ、安倍ちゃんもそう言ってるから」と無理難題をふっかけ、「それを呑んだら派閥を纏めてやろう、細田派にも話をしてやろう」と強請していたのだろう。逡巡し抵抗する河野太郎に、「一晩よく考えてまた出直して来い」と命令していたのだろう。結局、4回も参上拝謁する次第になった。麻生太郎の狙いは、河野太郎の出馬を阻止することであり、無風で岸田文雄を通して傀儡ポチに据え、現在の安倍・麻生レジームを保全することである。「出直して来い」を繰り返し、「2年後には岸田の後に就かせてやる」とか見え透いた甘言を弄し、アメとムチを繰り出して一日一日と時間を潰させて、時間切れへ追い込み、河野太郎不出馬の既成事実を作ろうとしたと推測される。人気絶頂の河野太郎がいつまで経っても出馬表明しないのは奇妙だ、ひょっとしたら20人集まってないんじゃないか、安倍・麻生に嫌われている異端の石破派に頼らざるを得ないんじゃないか、などというネガティブな憶測が党内で立つ。モメンタムが下がる。それが麻生太郎の狙い目だった。

今日10日が河野太郎の出馬表明のデッドエンドであり、麻生太郎も態度を明らかにせざるを得なくなり、「岸田支持」をテレ朝にローンチ⇒公表させたに違いない。派閥53人の議員は、麻生太郎に従って岸田支持に与するか、河野太郎に従って派閥を出るか、二つに一つを選択しなくてはいけない。この時点で麻生派の分裂は必至で、総裁選を機に党内第二勢力を誇った麻生派は小さく縮小する運命になる。そのことは、必然的に麻生太郎の権力の衰退を意味する。その情勢が進む下では、岸田文雄が総裁になるにせよ、河野太郎がなるにせよ、次の内閣の副総理・財務相から麻生太郎は外れる公算が高くなる。もう外していいという新総裁の判断になる。9日、麻生太郎は岸田文雄まで財務省に呼びつけ、自身の権勢を偏執的に示威したが、ここでも「副総理・財務相はオレな」と念押ししたに違いない。だが、経済政策で新自由主義からの転換を打ち出し、それを目玉にしようと策している岸田文雄が、麻生太郎を財務相に据え置くとは考えられない。麻生太郎を副総理・財務相のポストから叩き出せるかどうか、これが安倍・麻生レジームの転換が成るか否かの重要なメルクマール⇒指標である。

総裁選序盤の今週(9/6-10)は、安倍晋三の党内での権力の強大さを見せつけ、その影響力で構図を自在に仕切った一週間だった。麻生太郎の挫折 - 麻生派分裂 - 以外は、すべて安倍晋三が思惑どおり総裁選をコントロールし、投票日までの流れと、さらにその後の新政権の性格まで方向づけた感のする政治過程だった。何としても総裁の座を射止めたい岸田文雄は変身し、安倍晋三のイヌコロになり、胸に右翼の青バッジを光らせ、女系天皇反対を言い、毒々しい極右の政治家に姿を変えた。原発維持を明言し、総理任期中の改憲断行を公約し、挙げ句、経済安保担当相の新設と経済安保推進法の制定まで公表した。9月下旬に菅義偉が訪米し、クアッド首脳会議が開催されて賑々しく演出される。反中・開戦モードの気運が高まり、NHKが「鬼畜中国」のプロパガンダで埋める。帰ってきた和久田麻由子が「暴支膺懲」のフレーズを絶叫して煽る。そのタイミングとトーンで総裁選の後半戦が進行する。9月下旬は、目も眩み嘔気をもよおす政治状況と化すのではないかと心配だ。リベラルを売りにしていた岸田文雄の醜悪な変貌は、11年前の菅直人の裏切りを想起させて苛立つ気分にさせられる。

だが、田崎史郎などがマスコミの表面で言い囃すほど安倍晋三の権力が神聖で万全というわけではない。森友事件と桜を見る会の問題は、やはり衰弱せず効いていて、政局の執拗低音として響いている。国民は忘却せず、その最終的な解明と解決の地平を粘り強く求めている。総裁選をそこへ跳躍する契機にすべしという民意は強い。永田町で零落し萎びきって評論家同然となった石破茂に、党支持者や一般からの支持が向かうのはそれが要因だ。したがって、立候補者がどれほど安倍晋三に忠誠を誓い、傀儡競争を必死に演じ、政策を極右反動の路線に傾斜させても、マスコミの討論会では必ず森友と桜が焦点として浮上する。それへの対処を鋭く問われる。安倍晋三に靡くポチ公の姿勢を、国民がマスコミの質問を通じて引き戻そうとする。森友と桜と広島の選挙資金が問題になり争点になる。森友と桜が執拗低音として不滅に隆起するということは、安倍晋三の権力を失墜させる風力が常に大気中に一定あるということで、レジームの終焉を求める民意が根強いという意味に他ならない。選挙敗北を恐れる若手議員も、党支持者も、安倍晋三の「カリスマ」を歓迎しつつ、安倍レジームの永続には躊躇せざるを得ない。

立候補者と党支持者は、森友と桜の執拗低音にも忖度せざるを得ない。すなわち、ここにも自民党のディレンマがある。党勢を陥没させる多重ディレンマの一つの局面がある。マスコミの選挙討論会は何度か機会があり、その度に森友・桜をどうするかがホットな話題となる。視聴者は3候補の差異に注目する。それは有権者の視線であり、総裁選の後にすぐ行われる総選挙の争点になる問題なのだ。新政権の支持率に関わり、総選挙時の自民党の評価に関わる問題だ。8日、高市早苗の出馬表明があった記者会見の席で、膳場貴子が高市早苗に正面から戦闘的に噛みつく一幕があった(らしい)。安倍・麻生レジームに批判的な良質のマスコミ人は、菅義偉の失脚と退陣を見て、9年間続いたマスコミの政権への忖度の惰性と束縛から今こそ離れようと奮起するだろう。政治の空気を入れ替えようと模索し、歯に衣着せぬ言論で権力者に迫る原点を取り戻そうとするだろう。その態度で総裁選レースの討論会に立ち会えば、議論での主張の噛み合わせの過程で候補者は民意に忖度し、自ずと安倍レジームは崩れて行く。岸田文雄も、河野太郎も、本心では安倍レジームの鋼鉄の軛から自由になりたいからだ。

総裁選の争点は、脱安倍・麻生・菅である。9年続いた暗黒のレジームからの脱却である。アンシャンレジーム⇒旧体制の破砕と新地平の創生である。民意の力というものは弱いようで強い。菅義偉の政権が一年で倒れたのも、東京五輪開催に8割の世論が反対なのに強引に押し切って突入したからだった。あっと言う間に支持率が崩落し、総選挙を前に退陣せざるを得なくなった。世論調査で、森友問題に「決着がついてない」と思っている国民は8割に上る。8割が解決を求めている。8割の中には自民党支持の保守層も含まれている。この民意を無視すれば、新政権は菅政権と同じ蹉跌を踏むのである。