「日米同盟の正体」「戦後史の正体」などの著書を持つ元外務省官僚の孫崎 享氏は、米国の対日政策の主眼は自衛隊を海外に展開させる体制をつくることであったとして、2008年、ブッシュ大統領から自衛隊をアフガニスタンに派遣するよう激しく求められた福田康夫首相(当時)は、首相を辞任することで海外派兵拒否を貫いたと評価しています。
その時に福田氏を降ろしをしたのが安倍・麻生・菅氏らで、以後その体制が続いてきました。ここにきて米国は対テロ戦争路線から、経済、安全保障面で台頭してきた中国に対峙する方針に変わり、日本に対中包囲網の中核になるようとの圧力が掛り出しました。
現在の自民党総裁選もそうした流れの中のこととして見る必要があると述べています。
孫崎 享氏のシリーズ「日本外交と政治の正体」の記事「自民党総裁選の大きな問題点とは、米国が構築した日本支配の仕組みの存続だ」を紹介します。
併せて植草一秀氏のブログ「自民党党首選の見方」を紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
日本外交と政治の正体 孫崎 享
自民党総裁選の大きな問題点とは、米国が構築した日本支配の仕組みの存続だ
日刊ゲンダイ 2021/09/17
(記事集約サイト「阿修羅」より転載)
旧ソ連の崩壊後、米国の対日政策の主眼は、自衛隊を海外に展開させる体制をつくることにあった。
その圧力をかけたのが、アーミテージ元国務副長官、ナイ・ハーバード大学教授、キャンベル元国務次官補、ヘイムリ戦略国際問題研究所CEO、グリーン同日本部長、カーティス・コロンビア大学教授らで、「ジャパン・ハンドラー」と呼ばれてきた。
彼らの意向に反した細川、鳩山両首相や、小沢民主党代表は次々と退陣に追い込まれた。
多くの人の知らないケースは福田康夫首相の退陣である。2008年7月に開催された洞爺湖サミットで、ブッシュ大統領は福田首相に自衛隊をアフガニスタンに派遣するよう激しく求めた。
だが、福田首相はこれを拒否した。にもかかわらず、米国は国防次官補を日本に送り、自衛隊のC―130(輸送機)やCH-47(ヘリコプター)、医療部隊などの派遣要求を突きつけた。
福田首相は自ら辞任をすることで、この要求の実現を止めた。この時、福田首相を降ろし、その後の政権づくりの工作をしたのが3A(安倍、麻生、甘利)+S(菅)であり、この構図が今日まで継続してきたのである。
ところが、ジャパン・ハンドラーが利用してきた3A+Sは使えなくなった。
約20年の間に米国の重点は変わり、かつてのイラン、イラク、アフガニスタンを舞台にしてのテロとの戦いから、経済、安全保障面で台頭してきた中国に対峙することに移行した。
そして日本に対しては、対中包囲網の中核になるよう圧力が始まったのだが、この圧力に同意しなかったのが二階幹事長であり、二階はずしの動きが強まった。
この状況を踏まえて総裁選に出馬した岸田前政調会長の動きを見てみよう。総裁選に関連し、岸田氏は「総裁以外の任期は1年、連続3期まで」と提言し、二階はずしの先鞭をつけた。
台湾問題について、日本は米中対立の「最前線に位置」しており、「基本的な価値観を守る覚悟を示す必要がある」と強調した。
さらにアフガニスタンからの邦人救出が十分に機能しなかったとして、自衛隊派遣緩和へ法改正を検討することなどを表明した。
ほとんど誰も言及しないが、長年、米国が構築した日本支配の仕組みの存続が自民党総裁選の大きな問題点なのである。
孫崎 享 外交評論家
1943年、旧満州生まれ。東大法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。66年外務省入省。英国や米国、ソ連、イラク勤務などを経て、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大教授を歴任。93年、「日本外交 現場からの証言――握手と微笑とイエスでいいか」で山本七平賞を受賞。「日米同盟の正体」「戦後史の正体」「小説外務省―尖閣問題の正体」など著書多数。
自民党党首選の見方
植草一秀の『知られざる真実』 2021年9月19日
菅義偉氏が辞意を表明して以来、メディアは白昼堂々、自民党祭りを繰り広げている。
延々と1ヵ月、自民党祭りが続く。
菅義偉氏が辞意を表明したのは9月3日。自民党の党首選は9月17日に告示され、9月27日に投票日を迎える。
10月4日に臨時国会が召集されて新しい首相を選出。同日に新内閣が発足する見通し。
次期衆院総選挙は10月26日公示、11月7日投票の日程が有力視されている。
野党は国会召集を求めている。日本国憲法は
〔臨時会〕
第五十三条 内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の
総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。
の条文を置く.。
四分の一以上の国会議員による国会召集要求があった場合、内閣は国会を召集しなければならないと定めている。ところが菅内閣は国会を召集しない。国会を召集せずに自民党祭りに明け暮れている。
国会で論ずべき問題は山積しているが自民党は国会召集要求を放置して自党内のお祭り騒ぎに明け暮れている。
自公政権の国会召集要求無視は憲法違反。日本国憲法は国会を国権の最高機関と位置付けている。国会議員には巨額の歳費が税金で支払われている。
巨額の歳費を受け取りながら国会議員の本分である国会での活動をサボタージュすることは度し難い職務怠慢行為。懲戒免職に値する行為だ。
野党が主張するように昼間の時間に国会で活動を行い、夜の時間等を活用して党内のイベントを実行するべきだ。
本来業務を放棄して党内行事に明け暮れる自民党の行動を公共の電波を使って垂れ流すメディアの姿勢も糾弾する必要がある。
メディアは9月29日まで自民党党首選報道に明け暮れる。
党首選が終わり10月4日に召集される臨時国会で新しい内閣が発足する。
そして、1ヵ月後の11月7日に衆院総選挙が実施される。
自民党党首選はコップの中の嵐であり、自民党内の権力闘争であるが、同時に当面の新しい首相を選出するプロセスでもある。
この意味で日本の主権者が無関心でいるわけにもいかない。
何よりも重要なのは自民党党首選直後に実施される衆院総選挙。
衆院総選挙の結果に従い、新しい日本の政治体制が定められる。
2021政治大決戦であり、これにどう向き合うのか。日本の主権者にとっての最重要問題である。
これまでの日本政治のどこに問題があったか。これを確認した上で自民党党首選を見つめる必要がある。三つの問題がある。
第一は公器である政治が私物化され、政治利権をむさぼる政商の跋扈を許していること。
第二は対米隷属政治に堕していること。
第三は経済政策運営が新自由主義に傾き過ぎていること。
当面の首相を選出する自民党党首選だが、この三つの視点から候補者の評価を定めておくことが重要だ。
第一の問題は候補者自身の人間性の問題と第三の経済政策運営に関わる問題の双方に関係する。
候補者の人間性を見定める必要がある。同時に、規制緩和・特区・民営化が新しい利権を創出してきたことに留意しなければならない。
にわかに創作された河野人気の創作者は米国の支配勢力であると考えられる。
彼らがなぜ河野人気を人為的に創作したのかを考える必要がある。
答えは河野氏が、1.対米隷属堅持、2.新自由主義経済政策路線、という米国の日本支配勢力が求める路線を忠実に実行すると評定したことにあると考えられる。
自民党党首選の4人の候補者全員が「対米隷属」をクリアしていると見られるが、経済政策運営の路線では、河野氏と高市氏が新自由主義を基軸にすると見られるのに対して、岸田氏と野田氏は新自由主義からの方向転換を示唆している。
この点を踏まえれば、河野氏、高市氏が新首相に就任するよりは、岸田氏、野田氏が新首相に就任する方がましであると言えるだろう。
(以下は有料ブログのため非公開)