2021年9月9日木曜日

菅政権の「原則自宅療養」方針 在宅死増 棄民政治の犠牲

 しんぶん赤旗が、菅政権の「原則自宅療養」の実態を報じました。そもそも「自宅療養方針」とは、政府がこれまでに当然行っておくべきであった病床数の拡大、隔離施設の確保、臨時入院施設の建設等を一切せずに、感染者を自宅に放置するしかなくなった実態を追認するものに他なりません。

 いまは保健所から感染者に連絡が入るのに感染確認から2、3日も掛かり、パルスオキシメーターや食糧支援品が届くのはさらにその先になるので、1人住まいの人は自分で食料を調達するしかありません。また家族と共に家庭内に放置されれば家族に感染させることになり、いずれにしても自宅療養では感染の拡大は防げません。
 レントゲンで肺炎像を認めた医師が保健所に入院を要請したものの、保健所は自宅療養を指示したためそれからまもなく在宅のまま死亡したケースもあります。
 政府の無為無策のせいで感染が拡大し、治療を受けられずに在宅で死亡する人が次々に出ています。
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2021とくほう・特報
菅政権の「原則自宅療養」方針 在宅死増 棄民政治の犠牲
                        しんぶん赤旗 2021年9月8日
 新型コロナウイルス感染症で入院できず、自宅療養中に命を落とした人は8月、東京都と神奈川、千葉、埼玉各県で43人に上ることが分かりました。本紙の自治体への調査によるもの。東京都が31人で7割を占めます。千葉県は5人、埼玉県は4人、神奈川県は3人。同様の事態は首都圏以外にも広がっています。自民・公明政権による棄民政治の犠牲者です。
                                 (内藤真己子)
 「8月末、コロナ重症で搬送されてきた60代女性の自宅に救急隊が駆けつけたとき、やはりコロナで自宅療養中だった、その方の夫が、心肺停止状態になっていました
 東京都北区の王子生協病院159床)。乾いつ子副総看護師長は声を落として語ります。同病院は3床のコロナ病床を8月には12床に増やしてきました。

夫はすでに絶命
 119番通報は「夫の様子がおかしい」と女性がしたもの。急行した救急隊員は、夫がすでに絶命していると警察に連絡。女性も危険な状態と判断しました。女性は救急車内で酸素投与を受けても血中酸素飽和度が90%を切り、重い肺炎を起こしていました。8月半に陽性と判定されてから夫と自宅療養中でした。
 「酸素飽和度を測るパルスオキシメーターはなく、交代でコンビニヘ買い出しに行っていたそうです。呼吸苦は感じず、保健所の電話連絡には『大丈夫』と答えていたらしい。電話で状態をつかむのは厳しい」と乾さん。
 病院は同じように自宅療養中に状態悪化した患者であふれ、中等症から重症で、ほぽ全員が酸素投与を受けています。75%が50代以下です。女性は人工呼吸器の装着が必要になり、大学病院に転送されました。

施設拡充さぽり
 政府は7月、緊急事態宣言下でオリンピックを開催、感染急拡大を招7月31日、都の新規感染者が初めて4000人を突破しました。医療供給体制はたちまちひっ迫し、入院できない患者があふれ出しました。         ’
 このもとで菅義偉首相は82日、重症者と重症化リスクの高い患者以外は「原則自宅療養」とする方針を打ち出します。現状を追認するものでした。5日には療養者に占める入院者の割合(入院率)が東京都で10%に低下、以来同水準で推移しています。自宅療養者が全国で13万5000人余(91日)にも膨れ上がり、自宅療養中の死亡が続発しました。
 政府は昨年来、求められてきたコロナ病床拡大や臨時医療施設の設置、宿泊療養施設の拡充をさぼり、悲惨な事態を招きました

家庭内で感染広げる
 菅首相が「原則自宅療養」の方針を表明した82日午後。23区内の賃貸住宅で、自宅療養中の男性が息を引き取っていました。一人暮らし。50代の働き盛りでした。
 7月下旬に発熱した男性は数日後、東京都民医連加盟の診療所を受診。抗原検査で陽性でした。レントゲンに肺炎像があり医師は入院が必要と判断します。しかし保健所の指示で自宅療養になりました。数日後、職場や家族との連絡が途絶え、警察が部屋で亡くなっているのを確認しました。死亡推定時刻は2日午後
 「本来なら入院が必要だった患者さんが自宅で亡くなっていたことを警察からの連絡で知らされ、ショックでした。きわめて残念です」。診寮所の関係者は語ります。
 「原則自宅療養」方針は、感染拡大の原因にもなっています。
 8月に761人(有症状者407人、濃厚接触者354人、陽性率25%)が受診した王子生協病院の発熱外来。担当の廣川和恵看護師長は話します。
 「陽性者の中に同居家族が自宅療養中という方が何人も。夫婦に子ども、次々に発症して受診する家族もいました。デルタ株は感染力が強い。自宅療養で隔離は無理です」

感染経路の68%
 都の発表(2日)でも感染経路の68%が家庭内です。
 「ネットカフェで暮らしている」という男性が同病院を受診、抗原検査で陽性でした。しかし「病床は満床、案内できる宿泊療養施設もありません。ネットカフェに戻られたと思います。これでは命も守れないし感染も防げません」と廣川さん。
 台東区の蔵前協立診療所にも家族感染した患者が次々訪れています。高熱の母親と受診し、陽性だった10代の息子が2日後、父親に付き添って来院し、慌てました。
 「保健所がパンク。陽性者へ最初の連絡に23日かかっています。行政のパルスオキシメーター貸し出しや食料支援は、ほとんど間に合っていません。患者さんは自宅に放りだされ、動いて感染を広げている。医療機能を強化した宿泊療養施設に保護・隔離することが必要です」。根岸京田所長(東京民医連会長)は強調します。

病床拡大が必要
 中野区や杉並区で地域医療を展開する社団健友会。在宅療養中に低酸素状態になった患者に酸素ボンベを届け臨時往診することもありました。いま、求められるのは病床拡大です。伊藤浩一理事長は次のよう語ります。
「中野共立病院110床)はごロナ病床を2床から4床に着やしましたが、入院を要する救急搬送要求を毎日毎日10件近く断っている状況でした。さらに病床を増やすには、コロナ病床を増やす以上に一般病床を減らして対応するしかありません。そうなると地域の患者さんの通常の入院医療ができなくなります。日常の医療も大事な中で災害に対応するには、明確な政治的なメッセージと、国の減収補償や財政支援で、安心してコロナ診療にあたれる保障がないと思い切ったことはできません。政治の転換が必要です」


「方針」撤回し臨時施設を
                       新型コロナウイルス対策本部長
                             医師 谷川智行さん
 コロナ対策の無策と逆行に対する国民の強い批判を受け、菅首相は政権を投げ出しました。市民と野党カを結集して、いのち最優先の新しい政権をつくることが求められます。
 自公政権はコロナ対策の失敗を認め、事態の全容を国民に説明するべきです。政府「方針」を撤回し、政府が自治体、医療機関と真剣な議論を行ってこそ、打開の道が示せます。
 臨時医療施設の増設、都立・公社病院を中心とした病床の活用を具体的に進めることが急がれます。
 問題は人材で、最大の課題は看護師確保です。ワクチン接種やPCR検査センターでの医師・看護師業務を歯科医師や臨床検査技師などに一部代替して、病床や宿泊療養施設に配置するなど、あらゆる対策をとるべきです。宿泊療養施設の拡充、保健所体制の抜本的強、感染伝播の鎖を断つための大規模検査、くらしと営業への補償と支援も必要です。
 国民も医療現場も、打開のための具体的展望と道筋、財政的な補償と支援を切実に求めています。直ちに国会を開くべきです。


一週間続いた菅義意の失脚ドラマ。先週(8/30-9/3)は刻一刻に集中して神経が興奮しっぱなしで、幕切れと同時にぐったり疲労して週末を迎えた。マスコミ報道は次の総裁レースに目先を変え、国民の関心をそこに惹き付け、菅政権の崩壊と末路について多くを語らない。あるいは、一週間の権力闘争の舞台裏のみに焦点を当て、ミクロ的な政局の「分析」に興じている。マクロ的な観点からの意味づけに言葉をあてがう解説がない。本来、この政治を説明するに当たって最も本質的な論点は、東京五輪をめぐる因果応報という整理と総括だろう。事前の世論調査では8割の国民が「中止・延期」を求めていた。国民世論の8割の反対を押し切り、緊急事態宣言を発するほどの感染状況だったのに、無理やり五輪開催を強行したのは、大会を成功させて国民のテンションを盛り上げ、直後の解散総選挙を勝利へ導こうと図ったからに他ならない。政権の浮揚と維持のための五輪強行突入だった。結局、感染拡大は制御不能の感染爆発のステージとなり、政権支持率の劇落を招き、万策尽きて退陣に追い込まれた。

もし、6月の時点で賢明に、世論の反発と憂慮を正しく汲み取って、五輪開幕を柔軟に延期する判断と調整に動いていれば、第5波の感染禍はここまで巨大な山とならず、被害も小さかっただろう。したがって内閣支持率低下のカーブも緩やかで、総裁選に向けた情勢固めも波乱なく無難に進捗させられただろう。あのとき、6月の英国サミットでG7首脳を前に五輪延期を切り出し、理解と了承を得ていれば、IOCも抵抗なく引き下がったに違いない。大会運営の収拾と善処は可能だったのだ。東京五輪の開催を、国民に妥協する姿勢で対処していれば、9月の政局で有利な条件を得ていたのは明らかだ。果たして、専門家が予測したとおり、天皇が懸念したとおり、東京五輪開催を機に感染者数は空前の規模に激増し、自宅療養中死亡者が続出する災害の事態となった。政権にとって期待の星として追求したものが、逆に疫病神の役割となって破滅を招く結果となった。政権を発揚させる梃子として位置づけ戦略化した道具が、逆に桎梏に転化して自らに逆襲し、自らの没落を運命づける皮肉となった。矛盾の弁証法となった。