新型コロナウイルス患者の急増で「病床逼迫」が深刻化しています。ベッド数が多いと言われる日本で、なぜ病床が不足するのか、しんぶん赤旗が全日本民医連の岸本啓介事務局長にインタビューしました。
よく日本の病床数は世界一と言われますが、実際はリハビリ病床を足してもそれほど多いわけではなく(海外ではリハビリは期間は短く通院で行われることが多いためリハビリ用のベッド数は多くはありません)、「病床数が多いのに」というのはかなり意図的な表現になっているということです。
一番大きな問題は、医師・看護師などマンパワーの絶対数が不足していることで、日本集中治療医学会は13日付の提言で、集中治療医はいまの3倍の7200人が必要としているということです。
岸本氏は、病床逼迫を打開するためには通常医療をさらに停止することになるので、非常に丁寧な話し合いが必要になるとして、冬場の第6波を見据え、行政は、現場への丁寧なサポートを積み上げる必要があるとしています。
そして都道府県をまたいだ医師・看護師の派遣や災害派遣医療チームの集中派遣の支援がどれだけ可能か、国は早期に示すべきで、都道府県任せではいけないと述べ、各医療機関や地区医師会、保健所などが集まる「協議の場」などを増やすことが重要としています。
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コロナ下の病床逼迫(上) 民医連事務局長 岸本啓介さんに聞く
病床数世界一と言うが
しんぶん赤旗 2021年9月21日
新型コロナウイルス患者の急増によって医療機関の「病床逼迫(ひっぱく)」が深刻化しています。「世界に冠たるベッド大国」とも称される日本で、なぜ病床が不足するのかー。全日本民主医療機側連合会(全日本民医連)の岸本啓介事務局長に聞きました。
(松田大地)
―コロナ患者の病床確保が課題となるなか、財界などから「日本は人口当たりの病床数が世界一多いのに」との指摘が出ています。どう見ていますか。
まず、ベッドの数え方に問題があります。世界一多いというのはOECD(経済搦カ開発機構)加盟国と比べたものですが、精神科病床や長期入院用の療養病床を合めたときの数です。コロナ治療を担う急性期病床はドイツでは人口1干人あたり6床で、日本は急性期病床にリハビリ用の病床が足されても7・8床です。特別に多いわけではありません。あとで触れますが、 ‟病床が異常に多いのに・・・”というのは、かなり意図した言い方で、地域で必要な機能分担を行ううえでも害悪でしかありません。
深刻な人手不足
一番大きな問題は、医師・看護師などマンパワーの絶対数が不足していることです。余力がないのに“ベッドがあるから大丈夫”とは言えません。
ーOECDによると日本の臨床医は加盟国の単純平均と比べ13万人も足りませんね。
マンパワーには数とともに専門性が必要です。①医療者の感染リスクの軽減 ②患者さ
んへの安全な医療提供―を担保するには、感染制御の専門知識を持つ医師・看護師がきちんといないと、対応するのは難しい。日本集中治療医学会は13日付の提言で、集中治療医はいまの3倍の7200人が必要だと求めています。どの患者を先に治療するかという“選別″が起きるのは、マンパワーや医療機器が足りないからです。
この間、感染した患者さんの受け入れや発熱外来の設置・運営、ワクチン接種の業務など深刻な過重労働で日々、対処しています。
感染者減少こそ
感染者が急増した「第5波」では保健所がパンクし、「自宅療養者」のフォローアツプ(健康観察など)や濃厚接触者の特定・追跡の仕事まで医療機関にまわされている例も出ています。健康観察の電話かけで1日50件の名簿がまわされている訪問看護ステーションでは定年退職した看護師長に頼んで電話してもらっています。
コロナ前からの長時間労働がいっそう長くなっている状況や、自身や家族の感染が不安で自宅に帰れない人もいるなど、心身への影響は危険な状況です。短期間に医療従事者を増員するのは不可能ですから、問題解決は感染者数を激減させることに求めるべきです。
-コロナ収束はまったく見通しが立ちません。政府の対策をどう評価していますか。
政府「敗北宣言」
東京五輪ありきで警戒感が緩むメッセージを重ねてきましたから、誰も緊急事態とは.思いません。五輪実施のため多くの医師・看護師を現場から動員することまで行いました。
重症者と重症化リスクがある患者以外の「原則在宅方針」は、新型コロナは急変するのが本当に早く、重症化を防ぐため医療の届くところで療養する必要があるという原則から逸脱する危険な方針です。自宅に「留め置く」ことになれば、治療遅れで亡くなる人が増えます。原則在宅方針は現状への「敗北宣言」であり、政府の対応は終始ミスリードです。
(つづく)
コロナ下の病床逼迫(下)民医連事務局長 岸本啓介さんに聞く
在宅死防ぐ対策を丁寧に
しんぶん赤旗 2021年9月22日
―病床逼迫(ひっぱく)を打開するにはどうすべきですか。
コロナ病床をこれ以上確保するには、通常医療をさらに停止することになります。しかし、そこにはコロナ以外の患者一人ひとりの命がかかっていますから、非常に丁寧な話し合いが必要になります。
役割分担後押し
一般の救急搬送を受け入れられず一晩に40~50件断らざるをえないなど、現場からは 「涙が止まらない」と悲痛な声が出ています。がん患者の手術の延期も非常につらい。感染拡大がずっと警告されてきたのに準備を怠ってきたのは、第3波、第4波の教訓を曖昧にしてきた政府の失敗だと思います。
冬場、第6波を見据え、行政は、現場への丁寧なサポートを積み上げてほしい。▽各医療機関や地区医師会、保健所などが集まる「協議の場」などを増やす ▽ボトムアップで互いの困難な課題を共有・整理・解決する ▽感染患者の受け入れ先や転退院先の確保をはじめ、コロナ診療に関わることが少ない科にはワクチン接種を担ってもらうなど役割分担を進めるというコーディネート(⇒調整)も大事です。
自主的に進めている地域もありますが、行政が専門知識を持った応援人員を入れないと難しいと思います。
お金の面では、いよいよ医療機関すべてへのコロナ下での減収補償にかじを切り、経営不安を即座に払拭(ふっしょく)することです。発熱外来を広げようにも、医師1人の診療所で医師が感染すれば休院することになるのに、休業補償がない問題もあります。全額補償に踏み出してほしいJ
医療管理強化を
通常医療を停止せずコロナ在宅死を防ぐという点で、臨時医療施設や宿泊療養施設にはメリットがあります。
まったく独立した臨時医療施設をつくる場合、院長など管理体制の確立も大変ですから、国が責任を持つべきです。宿泊療養施設は、急変・死亡例を踏まえ医療管理を強める必要があります。各地の協議を丁寧に進め、「小規模な自院では患者を受け入れられないが、そこにスタッフをまわそう」など協力を積み上げていくしかありません。認知症や精神科の患者さんなど特別のケアを必要とする方の施設や体制を確保しておくことも必要です。
また、都道府県をまたいだ医師・看護師の派遣やDMAT(災害派遣医療チーム)の集中派遣の支援がどれだけ可能か、国は早期に示すべきです。都道府県任せではいけません。
-コロナ対策が不十分どころか、国は「病床逼迫」を統廃合や病床削減につなげようとしています。“病院・病床が多く分散しているため、人的にも物理的にも患者受け入れが難しい。だから集約化を″という理屈ですが ・・・ 。’
コロナ下で問題になった、医療従事者数の抑制や公立・公的病院、急性期病床、保健所の削減から目を背けさせる意図があります。病床規模だけの視点で集約化すれば、中小病院や診療所、保険薬局、介護施設がそれぞれの役割分担を共同でつくりあげてきた地域の医療体制を壊すことになります。さらなる削減計画を改めることが先決です。 (おわり)