イギリスやイスラエルの例を見ても、ワクチンが感染拡大防止の決定打にはならないことは明らかです。それは65歳以上の高齢者に特に顕著なようです。
菅氏は残りの任期中は新型コロナウイルス対策に専念するということですが、もしもそれがこれまで通りの「ワクチン1本足打法」を想定したものであるなら殆ど役に立たず、今後も多数の死者を出すことが避けられません。
感染拡大を抑制し死者を減らすためには正攻法で行くしかありません、
それはPCR検査を拡大し、感染者を隔離できる臨時の入院施設を大規模に且つ早急に作ることで、それを実現することにこそ専念すべきでしょう。
日刊ゲンダイが、ワクチンを2回接種した高齢者にもコロナ感染が増えている理由について、専門家に聞きました。
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ワクチン2回接種の高齢者にコロナ感染が増えている理由 専門家に聞いた
日刊ゲンダイ 2021/09/05
新型コロナウイルスのワクチン接種率が8割を超えた65歳以上の高齢者で、感染が再び増え始めている。栃木県内の高齢者施設では入所者68人のうち、ワクチンの2回接種を終えた60~90歳代の36人が感染。沖縄県与那国町でも、町内の高齢者施設でワクチンを接種した入所者の感染が確認された。岐阜県岐阜市の高齢者福祉施設では入居者と職員の5人が感染するクラスター(感染者集団)が発生したが、5人全員がワクチンを2回接種していたという。いずれのケースも、感染力の強い変異ウイルス「デルタ株」の影響とみられるが、なぜ、高齢者はワクチンの効き目が弱いのか。東京都COVID-19タスクホース技術アドバイザーを務める国立病院機構京都医療センターの林琢磨氏(がん医療研究室室長)に聞いた。
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――2回のワクチン接種を終えた65歳以上で感染者が増えています。
まず、教科書的に言えば、ワクチン接種によって生体内での異物、つまり、ウイルスやバクテリアに対する免疫応答が活性化されれば、発熱や倦怠感、頭痛などの全身性の副反応が認められます。従って、ワクチン接種による免疫誘導は、これらの副作用の発症と相関しています。そして高齢者におけるワクチン接種部位の局所の副反応、発熱や倦怠感、頭痛などの全身性の副反応の発症頻度はこれまで、若年層と比べて低いことが報告されています。
――副反応の発症頻度が低いということは、高齢者の中には免疫誘導、つまり、抗体価が必ずしも高まらない人がいる可能性があるということですか。
臨床研究によると、初期のアルファ型ウイルスに対するワクチンの中和抗体価は年齢と負の関連があり、変異したガンマ型ウイルスに対する中和抗体価は、すべての年齢で減少していました。これらの結果から、65歳以上の高齢者は、ワクチンを接種しても抗体の生産が強く誘導されないか、または免疫応答が誘導されても、早期に抗体価が下がってしまっている可能性があるのです。
――ワクチン接種を終えた高齢者が入所する施設でクラスターが発生しているのも、抗体価が下がったことが原因なのでしょうか。
これまでの臨床研究で、1回目のワクチン接種では、抗体の生産は強く誘導されないものの、2回目の接種によって強まることが明らかになっています。ただ、これは健常者を多く含む調査結果です。高齢者は、糖尿病や高血圧などの心血管病のほか、がん治療中など、様々な疾患を抱えており、とりわけ高齢者施設ではそうした病歴を有する多くの人が生活しています。臨床研究では、ワクチンの2回接種によって誘発される抗体価は、健康な被験者よりもがん患者の方が有意に低いことが報告されています。残念ながら、がんや心血管病の患者の中には、2回目のワクチン接種でも、免疫応答が強く誘導されない人もいると考えられます。
mRNAやDNAを使ったワクチンは、免疫の持続性がやや弱くなる可能性
――イスラエルではワクチンの3回接種も始まりました。日本でも河野大臣が来年にも3回目の接種について言及しています。ワクチンの効果はどのくらい持続性があるのでしょうか。
イスラエルの臨床研究では、ワクチンの2回接種後6か月頃になると、抗体価が70%くらいまで下がり、3回目の接種によって再び抗体価が上がることが認められています。不活化したウイルスを使った従来の不活化ワクチンなどと比較して、現在、多く用いられている「mRNA」ワクチンは、早期の大量製造、販売を行えるため、新型コロナウイルスに対しては有益だと思います。かつて、マサチューセッツ工科大(MIT)で、「HIV-1遺伝子」を用いたDNAワクチンを作った経験がありますが、この「AIDS-DNA」ワクチンをマウスやウサギ、アカゲザルなどに2回接種したところ、抗体価が有意に上昇しました。ところが、その後、2か月経過すると、抗体価が緩やかに低下しました。
この結果から、コロナワクチン接種後の免疫応答の変動と、「AIDS-DNA」ワクチンの免疫応答の変化を合わせて考えた場合、mRNAやDNAを使ったワクチンは、免疫の持続性がやや弱くなる可能性があると考えられます。
――新型コロナのウイルスはデルタ株やミュー株など、新たな変異株が続々と出現しています。現在の治療法はどこまで有効なのでしょうか。
遺伝子変異はウイルスでは必ず生じることなので、特に驚く自然現象ではありません。変異が生じることで、ウイルス構造蛋白質の立体構造が変化するため、ワクチン接種で誘導された抗体が、変異ウイルスを認識出来なくなる可能性が生じるのは当たり前です。WHO(世界保健機関)は、コロナウイルスの注目すべき変異株(VOI)の感染拡大状況について、イプシロン型、ゼータ型、シータ型について、VOIから「監視を継続する変異株」へ再分類しました。つまり、これらの3つの検出数は減少しており、世界的に発生率が低下しています。CDC(米疾病予防管理センター)は、イプシロン型の感染症に対して、現在処方されているステロイド剤や抗体カクテル療法などの治療法が有効であるとしています。
――ワクチン接種に対しては否定的な見方もありますが。
これまでの臨床試験より、ワクチン接種が重症化を防ぐのは明らかで、早期のワクチン接種が推奨されます。鼻腔や上気道の粘膜細胞の表面上に分泌される抗体は、新型コロナの感染を生体への進入路で阻止する。この働きを行う抗体はIgA(粘液性免疫)であり、不活化ウイルスを用いたインフルエンザワクチン接種では、この抗ウイルスIgAの生産、分泌は強く誘導されません。しかし、mRNAワクチン接種では、抗ウイルスIgAの生産、分泌が強く誘導されることが確認されています。 (聞き手=遠山嘉之/日刊ゲンダイ)
▽林琢磨(はやし・たくま) 国立病院機構京都医療センターがん医療室室長、科学技術振興機構JST START-program研究リーダーなど。