菅氏は3日、総裁選とコロナ対策の両方に莫大なエネルギーを注ぐのは不可能なので、「コロナ対策に専念したい」として総裁選不出馬を表明しました。しかしあるメディアが4日~6日の首相動静をしらべたところ、その間、僅かに5日に40分間官邸で吉田コロナ感染症対策推進室長らと会議をしたのみでした。
その一方で9月下旬には米国を訪問しバイデン大統領との首脳会談を行うことを調整しています。退陣直前の首相の外遊は極めて異例で、「コロナ対応に専念する」として総裁選出馬を断念したこととの整合性も問われます。
せめて最後の1ヶ月足らずはコロナ対策に専念すべきではないのか。1年間、ただ漫然と過ごしてきた人間が俄かにコロナ対策に専念するというのは元々無理ともいえますが、自ら宣言しておきながら、一向に取り組もうとしないのは許されません。
医療の現場はどうなのでしょうか。「昨日も私が診ていた患者さんが亡くなったんですよね」 死と向き合うのに慣れっこになっていたのか、首都圏でコロナの訪問診療を続けるA医師は坦々とそう語ったということです。「抗体カクテルがあったら救えたかもしれない」と述べましたが、高額な抗体カクテルを使うには保健所に、煩雑で書くのに時間がかかる申請書類を出さなくてはならず、超多忙な訪問診療医には多大な負担になるのだそうです。「オリパラさえなければ、こんなことにはならなかった」 A医師は為政者への怒りを込めて話を締めくくりました(5日 田中龍作ジャーナルより)
菅義偉首相は9日、緊急事態宣言の延長に伴う記者会見を行う中で、総裁選への立候補断念の経緯も説明しました。本来は首相と党総裁は立場が違うので2回に分けて行うのが筋と見られていたのですが、質問を含めて約1時間の会見に両方を盛り込んだため、質問も分散し、何ともあいまいなものになりました。
それは兎も角として、菅首相はその一方でコロナ感染拡大に伴う制限緩和の基本方針を決定しました。それは11月頃を想定したものですが、これまでも焦って宣言を解除してはすぐに感染爆発を引き起こすことの繰り返しでした。その頃に感染が治まっていればというような視線ではなく、まずは当面やるべきことに全力を尽くすべきです。それは一刻も早く臨時の入院施設を設置して治療を受けられないままに命を失う人たちを救うことで、制限緩和・経済活動再開はそうした基本的な対策を確立してからにすべきです。
ところが菅政権は14年に作られた公立病院の病床20万床の削減・看護師5万人の削減をいまもなお推進しています。やること為すことがピント外れです。
LITERAが取り上げました。
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菅首相の人気取り「制限緩和方針」の一方で医療体制が信じがたい逆行! 税金を使った一般病床削減を延長、看護師5万人削減計画も
水井多賀子 LITERA 2021.09.09
菅義偉首相が最後に党利党略のための政策を打ち出した。本日、菅首相は緊急事態宣言の延長などを決めたが、一方で政府は制限緩和の基本方針を決定。10〜11月にはワクチン接種証明や検査の陰性証明を活用し飲食や旅行などで制限を緩和していく方針を明らかにした。
当初の政府による行程表(ロードマップ)原案では、10〜11月には緊急事態宣言下でも飲食店での酒の提供を可とし、会食の人数制限の緩和・撤廃や「Go Toトラベル」の再開検討などが盛り込まれていたという。この原案に対し、松本哲哉・国際医療福祉大学主任教授は「正直言って、腹立たしい思いです。これだけ感染症が深刻な状況のなかで、なぜこういう楽観的な議論ができるのか」「いかにも選挙を意識したような楽観的な内容」(9月3日放送テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』)と批判していたが、まさにそのとおりだろう。
実際、制限緩和策は菅首相が総裁選や総選挙において自身のPRに使おうとしていた切り札のひとつだったはずだ。菅首相が失脚したいま、この緩和策は総選挙において自民党の宣伝に使われることは必至。事実、この制限緩和が本格的に実施されるのは11月と見られており、11月にずれ込む可能性が高くなっている衆院選と重なる。
「コロナ対策に専念する」と言いながら、肝心の医療提供体制の強化などは置き去りにしたまま、制限緩和策で歓心を買う──。だが、コロナ対策を放り出しているのは菅首相だけではなく、総裁選候補者たちも同じだ。
たとえば、自民党の岸田文雄・前政調会長は、2日におこなった総裁選に向けたコロナ対策の政策発表のなかで「国主導による臨時の医療施設の開設」や「無料のPCR検査の拡充」などを打ち出した。これらはいますぐ着手すべき課題であることは間違いなく、岸田氏は、ちんたら会見をやっている暇があるのなら、すぐに提言をまとめて菅首相に上げるべきではないか。
また、岸田氏はこの政策発表で菅首相が打ち切った「家賃支援給付金」や「持続化給付金」の復活を掲げたが、すでに今年3月に立憲民主党と日本共産党が両給付金の再給付を盛り込んだ予算案の組み換え案を国会に共同提出。それを反対して否決に持ち込んだのは自民党だ。しかも、否決されたあとにも野党両党は「持続化給付金再支給法案」など支援のための法案を国会に提出済み。コロナ対策を重要視するというのであれば、岸田氏は臨時国会の招集を要求した上で、これらの野党提出法案を可決させるべきだろう。
ところが、こうしてすぐに国会で対応できるコロナ対策を自民党は店晒しにしつづけた挙げ句、総裁選の公約として政争の具にしようというのである。ふざけるのもいい加減にしろ、という話だ。
川崎市の病院が救命救急センター開設を進めるも「地域医療構想・病床削減方針」のせいで暗礁に
いや、それだけではない。いますぐ進めなくてはならない問題であり、そして菅首相が動けばいますぐ解消できるのが、消費税を原資に補助金まで付けて進めている「病床削減」政策の撤回だ。
本サイトではこれまで繰り返し言及してきたが、2014年に安倍政権が医療費を削減するため、公立・公的病院の統廃合を進めて病床数を20万床減らすという「地域医療構想」なる制度を開始し、2019年9月には「再編統合の議論が必要」だとする全国400以上の公立・公的病院を名指ししたリストを公表。また、統廃合や病床削減をおこなう病院には全額国費で補助金を出すとし、2020年度予算で84億円を計上。この制度は「病床削減支援給付金」と名付けられているが、ようは病院側に「ベッドを減らしたらご褒美にお金をあげる」と持ちかけて病床を削減しようというものだ。言うまでもないが、その「ご褒美」の原資は我々の税金である。
わざわざ税金を使って医療をカットするとは意味不明としか言いようがないが、もっと愕然とするのは、2020年にコロナ感染が広がり、医療逼迫が叫ばれるようになっても政府はこの政策を撤回せず、2021年度予算では2020年度の2倍以上になる195億円を計上。さらにその財源を消費税で賄うために法改正までした。これにより、今年度は消費税を195億円も使い、なんと1万床を削減するというのである。
周知のとおり、コロナ患者の多くを受け入れてきたのは公立・公的病院だが、自民党政権の医療費カット政策によって公立・公的病院の感染症病床は削減されつづけ、さらにこの「地域医療構想」によりコロナの重症患者を受け入れることができるような高度急性期病床も削減されてきた。つまり、感染症対策という国家の安全保障を軽視して社会保障をカットし防衛費を増額させてきた結果、いまのような危機に陥っているのだ。
実際、この「地域医療構想」による悪影響は、コロナ治療にあたる最前線の現場にあらわれている。今年6月27日に放送されたNHKスペシャル『パンデミック 激動の世界(12) 検証“医療先進国”(後編)なぜ危機は繰り返されるのか』では、神奈川県川崎市の民間病院である新百合ヶ丘総合病院がICUを備える救命救急センターを開設するべく、感染症に対応できる個室病床を増設、人工呼吸器やECMOも導入し、今年4月の運用開始を目指したものの、病床を削減するための「地域医療構想」がネックとなって地域の医療機関や行政が参加する会議で合意が得られないという実情が報告されていたからだ。
すでに29都道府県が病床削減を申請も、申請締め切りを11月に伸ばしさらなる削減
だが、菅政権は何の反省もなく、6月に閣議決定された「骨太の方針」でも、社会保障費の削減や「地域医療構想」の推進を明記。さらに、厚労省が8月末に発表した2022年度概算要求でも「地域医療構想の実現」のために多額の予算が計上されている。
そればかりか、国会でこの問題を取り上げてきた共産党の高橋千鶴子・衆院議員によると、現時点ですでに29都道府県が“病床削減”事業の申請をおこなっており、今年度予算195億円の予算のうち60億円が申請済み。その上、都道府県から国への申請期限は8月までとしていたが、「コロナ対応で忙しいから」という理由で11月頭まで延長して募っているというのである。
入院すべきコロナ患者が入院できず、医療にかかれないまま自宅で亡くなるという悲劇をこれだけ繰り返しておきながら、国民が捻出した消費税を195億円も使って社会保障費を減らすために病床を削減しようという狂気──。しかも、4月に国会で厚労省の迫井正深・医政局長が答弁したように、「地域医療構想」で2025年まで予定どおりに病床削減などがおこなわれた場合、看護師の数は2018年と比較して1割、約5万人も減るという。これだけ看護師が足りないと叫ばれているのに、この「地域医療構想」によって看護師をも減らそうというのだ。
このように、どう考えても「地域医療構想」はすぐさま撤回するほかない愚策なのだが、しかし、菅首相は見直そうともせずに制限緩和策に執着するばかりで、総裁選候補者である岸田氏も「地域医療構想」の撤回は打ち出さない。もっとひどいのは高市氏で、これほど社会保障の重要性が高まっているというのに、社会保障もそっちのけで防衛費の増額を主張。さらには〈「過度の依存心を煽る政策」を廃するとともに、「福祉制度の不正利用」を防止します〉などという文言をHP上に「理念」として掲げ、いまだに弱者バッシングを煽っている。
自民党政権によって感染症病床も保健所も減らされてきた結果、新型コロナによって大打撃を受けたというのに、首相も総裁選候補者もこの有様──。他方、立憲民主党、共産党、社民党、れいわ新選組の野党4党と市民連合は昨日8日、総選挙における「野党共通政策」で合意したが、その共通政策では〈従来の医療費削減政策を転換し、医療・公衆衛生の整備を迅速に進める〉と明記されている。これは「地域医療構想」の見直しも視野に入れたものだろう。
メディアは総裁選報道によって自民党のPR部隊と化しているが、顔をすげ替えたところで自民党政治は変わらない。むしろ、菅首相も総裁候補も、揃いも揃ってコロナ対策を後回しにしている問題を徹底批判すべきだ。 (水井多賀子)
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。