2022年10月22日土曜日

22- 軍拡と財政金融危機(1~2)軍事ビジネスが活発化/大学を軍事領域に動員

 岸田政権は今後5年間で軍事費を2倍に増大させ、国内総生産(GDP)の2にすることを目指しています。5年後には年間11兆円余りの税金が毎年、主として日米の軍需産業に投じられることになります。

 群馬大学の山田博文名誉教授は、「軍事予算は、経済的には再生産外の消費であり、国民経済にとって無駄遣いの筆頭です。しかも、戦争は人命・街・環境を破壊します。」と述べています。山田教授が軍事と経済財政・金融の関係についてしんぶん赤旗に原稿を寄せました同紙には18日付から5回にわたり掲載されます。
 その(1)、(2)を紹介します。
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軍拡と財政金融危機(1)軍事ビジネスが活発化
          群馬大学名誉教授山田博文さん
                       しんぶん赤旗2022年10月18日
 ウクライナ戦争や「台湾有事」など迦理由に、岸田文雄政権は今後5年間で軍事費を2倍に増大させ、国内総生産(GDP)の2にすることを目指しています。軍事と経済財政・金融の関係について、群馬大学の山田博文名誉教授に寄稿してもらいました。

 軍事費を倍増させると、日本は米中に次ぐ世界第3位の軍事費大国に躍り出ます。
戦争は歴史的に政府の経費膨張の大きな要因(ピーコック・ワイズマン「経費膨張の法則」)として作用してきました。20世紀末の冷戦終了後、世界の軍事費は一時的に減少しましたが、21世紀に増大に転じました。
 世界各国の軍事費総額(2021年)は、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によれば、2兆1130億ドル(約232兆円)です。なかでも米国は、世界の軍事費の約4削(37)を占める突出した軍事大です。次いで中国13、インド3、英国3、ロシア3・1%と続きます。
 もし日本の軍事費が倍増し、1082億ドルになると、766億ドルのインドを超えて、世界第3位の軍事費大国になります。低迷しているとはいえ、日本のGDPは世界第3位で政府予算も大きいため、軍事費の絶対額は今でも世界第9位だからです

裏に「死の商人」
 周知のように、第2次安倍晋三政権以降、政府と経団連は軍備を増強する軍拡路線に走りました。軍事予算を増大させ、防衛装備庁を新設し、官民一体となって日本製兵器の増強と輸出にまい進し、軍事ビジネスを活発化させてきました。
 利益追求を最優先する企業にとって軍事予算は安定した収入源です。不景気でも売上高は減らず、秘密主義なので値段も弾力的に設定でき、最終格が当初格を上回るのが通例のようです。戦争になると膨大な兵器が使用されるので、軍需産業は活気づきます。売り上げが増え、株も上がり、報酬も増えます。兵器を製造販売する企業は、戦争によって肥え太る「死の商人」とも言われます。戦争の背後に軍事ビジネスあり、です。
 世界のGDP(961兆ドル)の約2に達する巨額の軍事費(21ドル)は、軍事ビジネスの経済基盤です。ごく少数の巨大軍需企業が軍事費を独占しています。
 世界の軍需企業の兵器の売上高(21年、1ドル=110円で日本円に換算)をみると、F35戦闘機などを各国に販売する米国のロッキード・マーチン社が71兆円(644億ドル)で突出しています。次いでミサイルなどを販売するレイセオン社46兆円(418健ドル)、オスプレイを販売するポーイング社38兆円(350億ドル)など、米国の軍需企業の売上高は群を抜き、上位を独占しています。(
  世界10大軍需産業(2021年売上高)(原記事は棒グラフ)   売上高単位【億ドル】

順位

名称

国  籍

21年売上高

順位

名称

国  籍

21年売上高

 

1

 ロッキード・マーチン

644

6

 中華航空工業集団

301

 

2

 レイセオン

418

7

 BAE システムズ

257

 

3

 ボーイング

350

8

 中国船舶集団

185

 

4

 ノースロップ・グラマン

314

9

 中国北方工業集団

177

 

5

ゼネラル・ダイナミックス

308

10

L3ハリス・テクノロジーズ

149

 

                    Defense News「防衛企業トップ10」から作成
「マッチポンプ」
 これらの巨大軍需企業、自国の軍事予算だけでなく、各国の軍事予算を自社製兵器の販売市場に組み込んでいます。米国製兵器を輸入する日本の防衛と軍事予算は米軍需企業の売上高に貢献しています。戦後の軍事ビジネスは、米国政府・国防総省・軍需企業をピラミッドの頂点にしたグローバルなビジネスとして展開されてきました。
 イラク戦争(203~11年)の戦費総額は、米国の経済学者ジョセフ・スティグリッツとリンダ・ビルムズによれば、4兆~6兆・(約450兆~670兆円)でした。この莫大(ばくだい)な戦費をめぐって、当時の米ブッシュ政権幹部と軍需関連産業との癒着が問題とされました。チェイニー副大統領は軍需関連部門を抱えるハリバートン社の最高経営責任者であり、ラムズフェルド国防長官は、ハイテク産業のゼネラル・インスツルメントの最高経営責任者でした。米国の国際開発局がイラク復興の大規模事業を発注した企業は、元国務長官のシュルツが役員を務めるプラント建設大手のベクテル社でした。
政府と軍需産業が癒着する軍事ビジネスは、右手で破壊し、左手で復興する「マッチポンプ」のようなビジネスです。(つづく)(5回連載です)


軍拡と財政金融危機(2)大学を軍事領域に動員
         群馬大学名誉教授山田博文さん
                        しんぶん赤旗2022年10月19日
 岸田文雄政権がねらう10兆円以上への軍事予算の倍増は、日米の軍需企業の軍事ビジネスを活発化させ、政府相手の安定した巨額の利益を保証するでしょう。
 倍増される軍事費の恩恵は少数の軍需独占企業の経営を好転させるだけで、国内経済べの波及効果は期待できません。軍事予算とその配分は、防衛省から天下りを受け入れる三菱重工など経団連傘下の大企業と、それらの大企業から多額の政池献金を受け取る政府与党の自民党など、政界・官界・財界の三位一体的な癒着の構造の中で決定されるからです。

上位10社で64%
 2022年度の軍事関係費(21年度補正を含む)は5兆8661億円でした。その内訳は、約23万人の自衛隊員の給与・退職金などの人件費・糧食費関係で37(2兆1847億円)、隊員の訓練費や兵器の整備・修理費開運で24(1兆4488億円)を費消し、戦車・護衛艦・戦闘機などの兵器(「防衛装備品」と表示される)の購入予算は22・.4%(1兆3138億円)でした。
 日本の軍需企業の実際の兵器受注額は、21年度、1兆8031億円でした。三菱重工や川崎重工など日本を代表するごく少数の巨大軍需企業がこの1兆8031億円を独占的に受け取りました。わずか上位5社で兵器受注額の51、上位10社では64を独占しました()。軍事予算の配分先は、上位10社とその系列会社の中に閉じ込められてしまい、経済的な波及効果などありません。
日本の10大軍需産業の兵器受注額(2021年度)(原記事は棒グラフ) 受注額単位【億円】

順位

名    称

21年度受注額

順位

名    称

21年度受注額

 

1

 三菱重工

4591

6

 東芝インフラシステムズ

664

 

2

 川崎重工

2071

7

 I H I

575

 

3

 三菱電機

966

8

 SUBARU

417

 

4

 N E C

900

9

 日立製作所

342

 

5

 富士通

757

10

 小松製作所

183

 

                        防衛装備庁「中央調達の概況」から作成
 軍事予算は、経済的には再生産外の消費であり、国民経済にとって無駄遣いの筆頭です。しかも、戦争は人命・街・環境を破壊しますまた日米両政府軍拡の背景として「台湾有事」などをあげ、自国にとって最大の貿易相手国である中国を仮想敵国にしています。もし戦火を交えたら日は中国だけでなく自国の経済をも破壊する深い経済依存関係にありますごんな戦争には真っ先に経済界が反対するでしょう。

「軍産学複合体」
 現代の戦争は「宇宙・サイバー・電磁の領域にまたがる先端的な科学技術を駆使して行われています。かつて米アイゼンハワー大統領が警告した「産複合体」は現代では「軍産学複合体」となって機能しています。
 近年の日本で注目されるのは、大学の研究筆力が事領域に動員されていることです。それによって、大学の自治・学問研究の自由・教員の境遇などが侵されていますとくに目立つのは、04年に国立大学法人になって以降の国立大学です。
 第1に、教育研究の担い手である教員と教授会の意向が大学運営に反映されにくくなり、外部の有力者かなる役員会で学長・学部長人事が行われるようになりました。
 第2に、教員が自主的に使用できる研究費は削減され、防衛省・大手を業のひも付き研究費が提供されるようになりまかた。今年、軍事研究開発費(3257億円)はとうとう科学研究費助成(23177億円)を上回りました。研究成果を会で発表しようと思っても、守秘義務を強いられ、スポンサーからプレーキがかかり、「人類社会の福祉に貢献」(日本学術会議法前文)するが閉ざされがちです。
 第3に、教員の新規採用に当たって任期付き採用が増えました。全国86の国立大学に勤める40歳未満の若手教員のうち、じつに63が5年間の任期付き採用(16年度)です。5年で研究成果が出ないと6年目には不採用になる境遇では、長期におよぷ大きな創造的テーマの研究は不可能であり、すぐに成果の出る小さなテーマを選択せざるを得ません。教育に十分な時間をあてることもできなくなりました。
 こんな現状では、日本の科学技術の発展現在も将来も期待できず、他国に追い抜かれていく一方でしょう。   (つづく)