2022年10月7日金曜日

米国のどこが民主的なのか 米国追従外交からの転換は喫緊の課題

 敗戦を契機に始まった対米従属はいよいよ病膏肓に入り、いまでは野党(一部を除く)もそのことに違和感を持っていません。自民党をはじめ野党の多くも、米国(及びそれに倣っている西側諸国)の「目線」が世界の現状を判断する基準であると無意識的に思っているようです。

 6月29~30日にマドリードで開かれたNATO首脳会議に特別参加した岸田首相が、あたかもNATOが最上の組織であるかのように持ち上げたことも大いに違和感を呼びました。そもそもNATOはソ連に対抗するために第2次世界大戦後に米国が組織した「対ソ連 軍事同盟」であり、1991年にソ連が崩壊した後も、NATOが対露戦に向けて組織や軍備、ミサイル発射網(基地)を拡大させてきたことが、ロシアのウクライナ侵攻の背景にあったのでした。
 そして あろうことか岸田政権は今後、米国の言うがままにNATO加盟国に倣って軍事費をGDPの2%(11兆円超)にまで上げようとしています。米国は儲かるでしょうが日本国民はさらに貧しくなるだけです。防衛力・軍事力は相対的なものなので、あとはひたすら軍備拡大の泥沼に嵌るだけのことで、いいことは何一つありません。
 評論家の高野孟氏が日刊ゲンダイの「永田町の裏を読む」のコーナーに「あの国のどこが民主的なのか 20世紀の遺物のような米国追従外交からの転換は喫緊の課題」という記事を載せました。
 同趣旨の大前研一氏の記事を引用しなら、日本がいまだに米国の目線で世界を見ていることは「もはや危険である」として、ちに20世紀の遺物のような世界観は捨て去るべきで、米国発、外務省・官邸経由でマスコミをも深々と汚染している「米国はまだまだ世界の盟主」というマインドコントロールを解かないと、この国は一気に沈没に突き進むと警告しています
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永田町の裏を読む 高野孟
あの国のどこが民主的なのか 20世紀の遺物のような米国追従外交からの転換は喫緊の課題
                          日刊ゲンダイ 2022/10/06
 大前研一氏が『プレジデント』誌10月14日号の「日本のカラクリ」連載で、「米国追随の外交はもはや危険である」と指摘している。前々からそう言ってきた私としてはもちろん大賛成だが、ここで改めて重要なのは、対米追随がいいとか悪いとかという話ではなく「もはや危険である」と捉えて直ちに転換を図ることの緊急性である。
 安倍政治にすっかり飼いならされて「日米同盟重視は我々も同じなので争点にしない」などと間抜けなことを言ってきた野党こそ、まずこの認識を悔い改めなければならない
 大前は「『日米同盟』『中国包囲網』の外交戦略は勉強不足で時代遅れ」「現在の日本は外交の軸を失って漂流状態でその最大の理由はいまだに米国の目線で世界を見ていることだ」とも述べている。
 安倍晋三元首相と言えば「地球儀を俯瞰する外交」を謳い文句にしていたが、地球儀は模型だから俯瞰できて当たり前で、俯瞰するのは地球そのものでなければならない。
 そこを修正してもなお、「米国の目線」から地球を眺めてご主人様にどこまでも付いていくのが安倍外交で、こんな20世紀の遺物のような世界観は今度の葬儀を機にキッパリと葬らなければならない。安倍の負の遺産は山ほどあれど、真っ先に廃棄しなければ危ないのはこれである。

 安倍外交の根底にあるのは、「価値観を同じくする民主主義国」を味方として同盟を組み、軍事的・経済的に「包囲網」をつくって敵である中国を閉じ込めようという考えなのだが、前大統領が2年前の選挙での敗北をいまだに不正選挙だと言い張って、その熱狂的支持者らが連邦議会に乱入するような国のどこが民主的なのか。しかも、そうした国内の分裂を覆い隠すため、ロシアや中国の軍事的脅威を誇大に描き上げて政権危機を乗り切ろうとしている。
 また、インドのモディ首相はヒンズー民族主義にますます傾いてムスリム系少数派に暴力的な弾圧を加え、国際的な「民主主義ランキング」で順位を下げていて、手放しで民主国と称揚できるものではない。そういう米国やインド、それに豪州を加えて「クアッド」軍事同盟を主導したことが、安倍の最大の外交的成果のように言われているが、本当にそうなのか。
 米国発、外務省・官邸経由でマスコミをも深々と汚染している「米国はまだまだ世界の盟主」というマインドコントロールを解かないと、この国は一気に沈没に突き進む。

高野孟 ジャーナリスト
1944年生まれ。「インサイダー」編集長、「ザ・ジャーナル」主幹。02年より早稲田大学客員教授。主な著書に「ジャーナリスティックな地図」(池上彰らと共著)、「沖縄に海兵隊は要らない!」、「いま、なぜ東アジア共同体なのか」(孫崎享らと共著」など。メルマガ「高野孟のザ・ジャーナル」を配信中。

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