シリーズ「軍拡と財政金融危機(3)国民はタケノコ生活」で、敗戦によって戦時中の国債は紙屑同然になり、国民は惨憺たる境遇に追い込まれたことを学びました。終戦間際の政府債務は当時の経済規模の約2・6倍に達し日本はあの戦争で「政府債務大国」になりました。
しかもそれは一過性の失敗のケースなどではありません。既に普通国債発行残高だけでも、2022年度には約1000兆円に連し、国内総生産(GDP)比も当時の水準に等しい2・6倍になっています。
この莫大な国債の管理を一手に担っているのが国債整理基金特別会計で、本来なら10年で全額償還される長期国債も、政府が60年かけて償還するシステムに変えたので、10年目の一般会計には6分の1しか計上されず、残りは借換債(債国債整理基金特別会計が発行母体)の発行で処理されます。
そのため借金漬けの実態は一般会計からは見えないものの、財政の不健全さは終戦間際と実は「同じ状態」になっています。日本の財政は借金で首が回らない状況になっているのに、今後、軍事関係費を2倍にする財源などは逆立ちしても出てきません。もしもそれを安易に実行すれば、いずれは敗戦時に国民が味わった「タケノコ生活」に追い込まれることになります。
折しもロシアのウクライナ侵攻を契機に世界は大不況に追い込まれ、日本もほぼ半世紀ぶりにスタグフレーション(不況と物価高が併存)に突入しています。こんな時に仮に軍需産業を振興させてみてもその効果はゼロです。
山田教授は財政を改善するためには「大企業の内部留保金484兆円」「富裕層の純金融資産333兆円」「対外純資産411兆円」など、一極に集中する富へ新規に課税し、その税収を政府債務の解消、貧困と格差是正、経済再建などに活用する対策が求められるとしています。そして食料・エネルギーを外国に依存する日本の課題は 自給率を高め自立的で持続可能な経済システムを構築することで、それこそが国民の命を守り国民経済を発展させる本来の国防力増強であると述べています。
このシリーズは今回で終了です。
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軍拡と財政金融危機(5)集中する富に課税を
群馬大学名誉教授山田博文さん
しんぶん赤旗2022年10月22日
現代日本の財政状況はすでに終戦時と同水準の厳しさです。政府が国内総生産(GDP)の2・6倍の債務を抱える「政府債務大国」となっています。
債務大国への転落
戦後日本は、国債増発と金融緩和政策を先行させ、将来所得を先取りしながら、大型公共投資や不況対策などを推進する経済運営を続けてきました。財政と金融へのタカリの構造が、戦後の平和国家日本を「政府債務大国」に転落させました。
普通国債発行残高だけでも、2022年度には約1000兆円に連します。この莫大(ぱくだい)な国債の管理を一手に担っているのは国債整理基金特別会計です。本来なら10年で全額償還される長期国債も60年かけて償還(「60年償還ルール」)されるので、10年目の一般会計には6分の1しか計上されません。残りは国債整理基金特別会計を発行母体にした借換債の発行で処理されます。そのため、日本財政の全貌は一般会計からは見えません。
そこで、一般会計と13の特別会計の重複分を除いた主要経費別純計額で確かめると、政府債務返済のための国債費は全体の33・6%の99・5兆円に達しています。国民の生存権と社会生活のための社会保障関係費96・9兆円を上回る最大の経費になっています(表)。
一般会計と特別会計の主要経費別純計額(2021年度)(原記事は円グラフ)
| 項 目 | 金額【兆円】 | 割合【%】 |
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| 国 債 費 | 99・5 | 33・6 |
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| 社会保障関係費 | 96・9 | 32・7 |
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| 財政投融資 | 45・6 | 15・4 |
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| そ の 他 | 34・4 | 11・6 |
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| 地方交付税交付金等 | 19・8 | 6・7 |
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財務省『日本の財政関係資料』より作成
日本財政は借金で首が回らない状況にあり、今後軍事関係費を2倍にする財源など、逆立ちしても出てこない事態です。
しかも増発された国債の過半を日銀が買い入れて保有しているので、現代日本の財政は日銀に依存した状態(財政ファイナンス)です。いったん民間金融機関が公募入札した国債を最終的に買い入れてきたのは日銀です。異次元金融緩和政策をやめて日銀が国債を買わなくなったら、財政資金が調達できず予算が成立しなくなります。
財政危機のおそれ
この先、さらに「防衛国債」を増発して政府債務を積み増すと、財政危機を誘発するでしょう。しかも増額される軍事費は少数の軍需企業の経営を好転させるだけで、経済的波及効果がありません。
すでに日銀資産(686兆円)の79%を、価格変勣リスクのある国債(546兆円)が占めています。世界各国はインフシ対策のため、金融引き締めに転換し、一斉に金利を引き上げはじめました。日米の金利格差は3%ほどに拡大しています。世界のマネーは金利の高い方に流れます。低金利の日本からマネーが逃避する市場の圧力に日銀が耐えられなくなり、金利が上昇(=国債価格が下落)すると、財政サイドでは国債利払い費の上昇(1%で10兆円増)となって財政危機を深刻化させます。金融サイドでは日銀保有国債の評価損発生で日銀信用が毀損(きそん)し、円安になり、輸入物価が高騰します。それに連動して国内物価が高騰し、国民生活が破壊される深刻な事態に陥ります。
現代日本はほぼ半世紀ぶりに、不況と物価高が併存するスタグフレーションに突入しています。新型ゴロナウイルス禍、サプライチェーン(供給網)の切断、可処分所得の低下を背景とした不況下で、物価が高騰しています。今後、国民の反発が激化し、早晩、軍拡路線は頓挫する可能性が高いといえます。
応能負担で再生を
終戦直後の膨大な政府債務は、国民からの大収奪によって解消されました。これを教訓とした今後の課題は、応能負担による日本再建を展望することでしょう。「大企業の内部留保金484兆円」「富裕層の純金融資産333兆円」「対外純資産411兆円」など、一極に集中する富へ新規に課税し、その税収を政府債務の解消、貧困と格差是正、経済再建などに活用する対策が求められています。
目下のウクライナ戦争は、軍車力以前の問題として、食料・エネルギーの自給率の低い国が物価高&食糧危機に襲われ、敗戦国状態に陥ることを示しています。食料・エネルギーを外国に依存する日本の課題は、自給率を高めへ自立的で持続可能な経済システムを構築することです。それこそが、国民の命を守り国民経済を発展させる、本来の国防力増強であるといえるでしょう。(おわり)