2022年10月26日水曜日

ヨーロッパでは市民がNATOに反対して大規模デモをしている(世に倦む日々)

 欧州では酷寒の冬場を目前にして、パリの一般家庭の電気代は従来の5倍に高騰し、ドイツのガス価格は7倍に上がったということです。これでは市民から悲鳴が上がるのは当然で、パリやベルリンでは大規模なデモが繰り返し起き、チェコや英国やイタリアでも同様ということです。

 こうした高騰はエネルギー費に留まらず影響は広範囲に及ぶので、普通の人々にとってはこの状況が継続することには堪えられません。国民の過半数から、対ロシア経済制裁を止め停戦和平を目指すべきだという要求が出るのは当然のことで、理念を説くことでこれを収めようとするのは所詮無理な話です。
 世に倦む日々氏は、こうした欧州の情報を日本のマスコミは殆ど流していないと指摘するとともに、日本のマスコミがどれほど偏っているかを自覚するならば、提供される情報に自己の脳内で補正をかけ、認識を矯正し、戦争の正確な像を組み立て直さなければならないと述べています。
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ヨーロッパでは市民がNATOに反対して大規模デモをしている
                      世に倦む日日 2022年10月25日









先週(10/16-21)半ば以降、プーチンは核を撃つのではないかという「プーチン核使用脅威説」がマスコミで論議されなくなった。テレビの報道番組のネタにならなくなった。今月はずっとその話ばかりが続き、夜の放送を埋めていた。21日に米ロ国防相会談があり、ここでNATO側の核報復を含む反撃作戦の意思が通告され、ロシア側にメッセージとして公式に伝えられ認識共有されため、とりあえず危機を煽る西側の宣伝工作はトーンダウンにしたのだろうか。米ロ国防相会談は、明らかに、13日のニューズウィーク誌に載ったウィリアム・アーキンの判断と提言がそのまま米軍政府によって政策実行に移されたものだ。

しかし、よく思い出せば、「プーチン核使用脅威論」の派手なマスコミキャンペーンというのは、過去にもあり、ロシア軍が4月に北部から撤退したときも、「追い詰められたプーチンが核を使う」という言説が夥しく流された。定番オールスターズの面々が松原耕二や反町理と一緒に毎晩大声で連呼していた。二度目はマリウポリ攻防戦のときで、例によってオールスターズが、今度は「プーチンが化学兵器を使う」というキャンペーンを展開した。高橋杉雄や兵頭慎治や山添博史や小泉悠が、今と同じように代わる代わるテレビ出演して「プーチン化学兵器使用論」の蓋然性を言い、明日にでも起こるという恐怖を視聴者に撒いて扇動していた。結局、化学兵器は使われなかった。

今回は三回目のキャンペーンだ。要するにプーチン悪魔視を念押しする刷り込みであり、西側陣営の日本の世論工作のプロパガンダ作戦である。高橋杉雄の口調が典型的だが、公共の電波を使った「解説」は軍事作戦の一環であり、公共空間を戦場とした軍人の行動であり、いわゆる情報戦の一部に他ならない。時間が経てば、日本の市民も遠い欧州の戦争の話に飽き、いわゆる「ウクライナ戦争疲れ」を起こすため、それはならじと情報戦の作戦活動をテレビに入れ、刷り込みのメンテナンスをしている。日本の国民世論をプーチン憎悪で固め、NATOの戦争を神聖化させ、日本国民を嘗ての国防婦人会のような「銃後の隊列」として引き締めること。それがオールスターズの任務である。

ロシアが核を使用する場合は「国家存亡の危機のときのみ」とラブロフは言っている。同じ説明は4月にもしていた。国家存亡の危機のときとは、NATOがロシア領への侵攻を始め、ロシア連邦が崩壊の危機に瀕した最終局面を意味するだろう。国家崩壊の屈服か、核反撃の活路か、この事態に遭遇したときは、プーチンの決断以前にロシア国民多数が核使用の必要を認め、軍政府に要請する空気になると想像される。私見では、カリーニングラードがNATOに攻略占領される段階がロシア国民のレッドラインと考えられ、現在の焦点のクリミア半島がウクライナ軍に奪取されてもその臨界線には達しないだろう。核を北朝鮮のようにブラフとして使い、アメリカを牽制することはあるだろうが。

プーチンの戦略は秋冬を耐えて時間稼ぎすることである。併合した4州で戦線を膠着させ、特に南部2州の線引きを停戦交渉の材料にして、当面妥結する地平を目論んでいるのではないか。一方、アメリカの基本戦略はプーチンを失脚に追い込んで戦争勝利に導くことであり、4州の地面を徐々に削り取り、ロシア軍の通常兵力を破壊・損耗させ、市民の抗議運動と、軍内部の反乱と、クレムリンの宮廷革命の三方向からプーチンを攻め上げ、首尾よく大統領辞任に追い込むことである。だが、これを拙速に進めると、ロシア国内の士気を逆に高める効果となり、カディロフ的な強硬派の新指導者がプーチンを追い落として主導権を握る羽目になりかねない。不測の事態(乾坤一擲のハルマゲドン)へ突き進む心配がある。

アメリカ内部にもそれを恐れる慎重派の見方があり、どうやらバイデンはタカ派とハト派の中間で政策を選んでいる。ウクライナの戦局をマネジメントし、コントロールし、短期拙速にロシア軍(通常兵力)を全面壊滅させず、プーチンの膠着戦略にも付き合う素振りを見せ、時間をかけてプーチンを破滅させる作戦に出ている。ゼレンスキーはそのバイデンの「巧遅戦略」に不満で反対なのだけれど、ウクライナの作戦を決めるのはアメリカである。ゼレンスキーが焦って戦争を急いでいるのは、秋冬のEUのガス不足が深刻な不安要因だからだ。EU社会のガス不足は確実に「ウクライナ支援疲れ」の空気を助長し、停戦和平を促してエネルギー供給を安定化させよという市民要求と政治運動の流れを作る。すなわち、プーチンの頼りの綱の政治である。

欧州では実際に左派と右派による大規模デモが起きている。18日、フランスでは1万3000人の市民が賃金引上げを求めて街頭に出た。これは、16日に物価上昇に抗議する数千人のデモがパリであり、その場で左派がゼネストを呼びかけての進行である。この状況を伝える日本のマスコミ報道は皆無に近く、テレビのニュースで見た記憶がない。長周新聞の記事によると、パリでは8日も数万人規模の巨大なデモが起きていて、「マクロン、お前の戦争を我々は望んでいない」「ウクライナへの武器供給を停止せよ」という市民の声が上がったと紹介されている。パリ市民の一般家庭の電気代は、通常の5倍の500ユーロ(7万1000円)に跳ね上がっているそうだ。パリ市民が抗議に出ないわけがない。

また、ドイツのベルリンでも8日にAfDのデモがあり、「暖房とパンと平和を」のスローガンの下に8000人の市民が抗議したとある。ドイツのガス価格は7倍。悲鳴が上がるのは当然だ。4日には旧東独地域で10万人がデモに参加、ウクライナへの武器供給をやめ、対ロ経済制裁の中止を訴えたと報告されている。目から鱗というか、こんなデモが起きている状況は全く知らなかった。媒体が長周新聞なので、本当かどうか疑ってしまうのだが、きわめて重要な事実であり、欧州社会のリアルな動向である。日本国内ではほとんど知らされず、知る者が少ない。私も含めて日本の市民一般は、欧州は左翼も含めてNATO支持で凝り固まり、ロシアの敗北まで戦争支持で全体が団結し、不便と苦境を甘受しているものと思っている。その認識は誤りだった。

大規模デモはチェコや英国やイタリアでも起きている。NHKの報道だったと記憶するが、選挙前のイタリアの世論調査で、対ロ経済制裁を撤回せよと求める声が半数を超えていると伝えていた。東京新聞に裏づける情報があり、9月30日の社説に「対ロ制裁支持は四割にまで減った」と書いている。こうした欧州社会の現状と世論が、プーチンをして時間稼ぎの膠着戦略の勝算を支えていて、また逆にアメリカの方は、スローペースのままでは具合が悪いとウクライナ武器支援の拍車をかけ、南部での進撃作戦の速度を上げているのだろう。クリミア大橋爆破とノルドストリーム破壊工作も、そうした戦争マネジメントの調節の結果に違いない。単なる膠着ではまずいのである。プーチンが主導権を握る。ロシア劣勢を印象づけないといけないのだ。

対ロ経済制裁に反対する市民の反政府デモは、まだアメリカでは起きてない。欧州の都市のみである。だが、それが起きる可能性はゼロではない。経済方面に一つのリスクが見出される。森永卓郎が「私は米国株のバブル完全崩壊が目前に迫ったとみている」と言っている。毎度の持説の発信であり、ある種オオカミ少年トーク化した感のある森永卓郎の言説だが、今回の発言には根拠が添えられていて、アメリカの長期金利(4%)と株投資長期平均利回り(6%)の接近に注目している。投資家がマネーを安全な米国債の方に移し、その行動によってNY市場がクラッシュすると分析している。エコノミクスの論理的考察であり、荒唐無稽な妄想や願望の類ではない。実際、FRBもリセッション辞せずの方針でアグレッシブに金利を上げ続けている。

森永卓郎の予言が的中し、金融市場が破裂したら、一夜にして世界が変わり、アメリカのウクライナ戦争へのコミットも一変し、ゼレンスキーが青ざめる境地に変わるだろう。CIAの戦略は破綻する。世の中、何が起きるか分からない。7月の事変を目撃して覚醒させられた。先週末、私のツイッターアカウントにある左翼がリプライしてきて、「ロシアの国民は真実を知らされておらず、プーチン支持率8割も公正な調査ではない」と書き込んできた。真実を知らされてないのは、日本国民なのか、ロシア国民なのか、どっちなんだろうと思う。ロシア国民にとっては、この戦争は8年前から始まった戦争の延長であり、NATOの東漸と侵略のプロセスとの衝突である。それがロシア人の本質的認識であり、だからプーチン8割支持になる。

それに近い認識は、キッシンジャーが示していたし、ミアシャイマーが示していた。ロシアに内在的な見解はアメリカ国内にもあった(現在は消えているが)。そうした認識を、頭から被害妄想だと決めつけるのが、日本のマスコミ報道を占拠しているオールスターズ(CIA工作員軍団)であり、堤伸輔と松原耕二の態度であり、日本のマスコミのウクライナ報道の「常識」である。日本のテレビのウクライナ報道には、鳩山由紀夫も登場しないし、鈴木宗男も登場しない。孫崎享も登場しないし、佐藤優も登場しない。最近は塩川伸明も出てこなくなった。キャノングローバル研の小手川大助も出てこない。田岡俊二が軍事情勢を解説する場面もない。こうした面々がテレビに出演し、オールスターズと時間を半々にしてコメントを提供していれば、日本の世論は全く違った中身になっていただろう

もっとバランスのとれた深い認識と思考になっていたはずだ。私に噛みついてきた上の左翼のような、マスコミに洗脳された親米反ロの者ばかりということはなかっただろう。キッシンジャーやミアシャイマーの主張に触れ、それを納得し理解できる知性の者ならば、ロシア国民は真実を知らされてないだの、ロシアの世論調査は公正ではないだのと、安易に口走ることはあるまい。日本のマスコミがどれほど偏っているかを自覚する者ならば、提供される情報に自己の脳内で補正をかけ、認識を矯正し、戦争の正確な像を組み立て直すものだ。普段はマスコミの偏向への批判を常套句にしながら、オールスターズの信者になっている左翼は、バカとしか言いようがなく軽蔑しかない。ヨーロッパの左翼は(一部かもしれないが)NATOのウクライナ軍事支援に反対し、即時の停戦和平に動くよう政府に求めて運動している。

この戦争で(私と同じく)中立の立場に立って平和を望んでいる。日本の中でも、そうした政治的感性の市民が増えることを期待したい。