2022年10月22日土曜日

軍拡と財政金融危機(3~4) 国民は「タケノコ生活」/軍事費が壊す社会保障

 シリーズ「軍拡と財政金融危機」の(3)、(4)です。
 自民党の国防部会は、軍事費増額の財源に「防衛国憤」を検討しているとのことですが、それは1回で済むような話ではありません。仮にその後に国債を止めることにすればその分社会保障費に大ナタが入るのは明らかです。
 第2次大戦に当たって発行された国債はどう処理されたのか、その惨憺たる事実が簡潔に語られています。100歩譲って2次大戦後の国債処理に止むを得なかった側面があったとしても、いままた全く不要の軍備拡張に向けて突き進むのは許されないことです。
 軍需産業が経済成長に資することもありません。山田教授は、軍事関係費が増えても、ごく少数の巨大軍需企業に独占されるので、経済成長に結びつかないどころか、経済成長に直結する社会保障・福祉予算を削減し、むろ経済成長の基盤を壊してしまうと述べています
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軍拡と財政金融危機(3)国民は「タケノコ生活」
          群馬大学名誉教授山田博文さん
                       しんぶん赤旗2022年10月20日
 自民党の国防部会は、軍事費増額の財源に「防衛国憤」を検討しているようです。
 歴史的に軍事費調達と国債制度は密接な関係を持ってました軍事費調達が国王や権力者の借金や私だと、資金の貸し手はたぴたび踏み倒されてきました。そこで16世紀ごろから、税収を担保にし、永久機関とみなされる議会の議決を通して発行される国債によって軍事費が調達されるようになりました。

「致富の主源泉」
 国王や政権が変わっても国家の債権者である国債投家の利益(国債利子や元本の受け取り、売買差益)は持続するからです。しかも、国債は将来の税収の先取り消費なので、国民の反発に直面する増税を避けつつ巨額の軍事費を一挙に調達できるからです。国家の債権者になる大資本や富裕層にとっては、「国家が負債陥ることは、むしろ直接の利益・・・致富の主源泉」(マルクス)になりました。
 戦前日本の軍事費調達は、日露戦争期ではロンドン、ニューヨークで外債を発行し、海外から軍事費を調達しました。日本は遅れて発達した資本主義経済国のために、国内貯蓄が貧弱だったからです。その後の満州事変・日中戦争・太平洋戦争期では、欧米と敵対したので外債の発行は不可能になりました。また国内貯蓄も貧弱のため、日本銀行に直接国債を引き受けさせ、日銀から軍事費が調達されました。(
    第2次大戦下の国債発行高と引受先 (原記事は円グラフ)

順位

引 受 先

比率【%】

引 受 額 【億円】

 

1

 日銀引き受け

67

996

 

2

 預金部引き受け

29

431

 

3

 郵便局売り出し

4

60

 

 

   (国 債 総 額)

100

1487

 

大蔵省編集「財政金融統計月報」から作成。預金部とは大蔵省預金部でありその原資は大蔵省に運用を委託された郵便貯金である
 1932年に始まった国債の日銀引き受けは「窮余の一策」であり、かつ「新機軸」(当時の日銀副総裁・深井英五)でした。日銀引き受けに依存して青天井で調達できた軍事費は、国家予算全体(一般会計十臨時軍事費特別会計の純計の85(44年度)に達しました。
 膨大な軍事費が民間貯蓄でなく日銀から調達され、財政ルートで軍需企業・従業員・兵士と遺族などへ広範囲に散布されたため、終戦を契機に爆発的なインフレが発生しました。戦後はこれを教訓に財政資金を日銀から調達することが禁止(財政法第4条)されました。

国民の資産収奪
 終戦間際の政府債務は、当時の経済規模の約26倍に達し、日本は歌争で「政府債務大国」になりました。問題は、この膨大な政府債務が終戦後どのように解消されたか、です。現代日本の政府債務の対国内総生産(GDP)比も、当時の水準に等しい26倍ですから、この問題は歴史な教訓となるでしょう。
 第1に、46年2月、預金對鎖と新円切り替えが同時に実施されました。タンス預金の旧円は使用不能になり、生活のための預金の引き下ろしは世帯主でも月300円に制限されました。家によって国民の金融資産が差し押さえられました。
 第2に、同年11月最高税率90の財産税が国民の金融資産だでなく、田畑・山林・家屋などの不動産にも課税されました。この莫大(ぱくだい)な税収が政府債務の返済に充てられました。「徴税権の行使」という形での国民からの大収奪によって政府債務が「返済」されました。
 第3に、インフレによる債務解消です。物価は終戦から4年目には約220倍に上がりました。これで政府債務の金銭的負担は220分のに減ったことになります。インフレは債務解消の主要な手段ですが、国民は物価暴騰に直撃され、「タケノコ生活」(タケノコの皮を1枚ずつはぐように身の回りの物を売って資金を得る暮らし)を強いられました。
 戦争目的であれ、景気対策であれ、財政補てんであれ、増発された国債は政府の背負った借金です。国債の大部分が自国通貨建てで、国内で消化された場合、財政運営が行き詰まると、最後の打開策として国民からの資産収奪が強行される、というのが教訓です。「国債が国内で消化できていれば大丈夫」ということでは決してありません。大収奪の犠牲になるのは国民だからです。(つづく


軍拡と財政金融危機(4)軍事費が壊す社会保障
          群馬大学名誉教授 山田博文さん
                      しんぶん赤旗 2022年10月21日
 予算のあり方は、その国の姿を忠実します。とに一般会新の歳出は、国民から徴収した税命がどの分野にどれだけ配分されているかを正確に映し出す鏡です。
 戦前と戦後の一般会計の歳出費目を比較すると()、軍事国家から平和国家へ激変したことがわかります。
          戦前と戦後の一般会計主要歳出内訳(%)

 

国債費

その他

地方財

恩給

軍事

文教科

公共事

社会保

 

 

 

 

政関係

関係

関係

学振興

業関係

障関係

 

1941年度

14.7

11.5

 

4.3

50.2

3.3

13.7

2.3

 

2022年度

22.6

13.3

14.8

 

5.0

5.0

5.6

33.7

 

大蔵省昭和財政史編集室編「昭和財政史ー総説」財務省ホームぺージ、参議院予算委員会調査室「財政関係資料集」から作成
 太平洋戦争に突入した941年度の一般会計歳出では、軍事関係が突し、予算全体の502を占めました。そのしわ寄せを受けた代表的な費目は社会保障関係費であり予算全体の2にすぎず、旧軍人とその家族などへの恩給関係費4を大幅に下回っています。国民の社会生活や権利に一切責任を持たない国の姿勢が予算配分に示されています。
 他方、戦後77年たった今年度予算では、軍事関係の占める割合は50%です。予算の最大費目は社会保障関係であり、全体33を占めています。

暮らしが犠牲忙
 周知のように、戦後の憲法は、その第25条で国民の生存権を明記し、国民は「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障され、政府は「社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上」に努める義務を負っています。
 戦前と戦後の予算を比較すると、戦時下で真っ先に犠牲になるのは国民の生活と権利であることがわかります。一定の予算枠の中で、軍事費が増大すると社会保障関係は削減され両者は両立しません。
 国家予算に占める軍事費の割合が日本の3倍の約15(円換算で約100兆円)にする米国では、社会保障関係費は貧弱となり、年金でも保険でも国民は自己負担を強いられています。米国を現地取材したに堤未果氏(『ルポ貧困大国 アメリカ』岩波新書)によれば、皆保険でな公的医療保険しかない米国で民間保険にも未加入場合、「一度の病気で貧困層に転落」するほど医療費が高額のようです。急性虫垂炎で1日入院した場合の入院費は、日本では数万円程度ですが、ニュヨーク やロサンゼルスでは200万円前後もかかってしまうからです。
 一般会計の国債費は、今年度の22に比ぺで戦前の方が14・と低くなっています。そのわけは、日清戦争以来の4回の大きな戦争において、国債増発 による軍事費の調達・配分・全体処理を一身に担ていたのは、一般会計から切リ離された臨時軍事費特別会計だったからです。一般会計はこの特別会計に軍事関係費の一部を繰り入れていたにすぎません。戦争の始期から終期までを会計年度とみなして処理する臨時軍事費特別会計は終戦によってなくなりました。

経済成長に逆行
 軍事関係費が増えても、ごく少数の巨大軍需企業に独占されるので、経済成長に結びつかないどころか、経済成長に直結する社会保障・福祉予算を削減し、むろ経済成長の基盤を壊してしまいます。軍事と社会保障・福祉は両立しませんが、・経済成長と社会保障・福祉は両立します。しかも、社会保璋・福祉へ予算は従来の公共事業分野よりも経済成長に貢献することが計測されています。
 2009年の京極高宣国立社会保障・人□問題研究所所長(当時の試算によると、需要1億円当たりの雇用創出効果は、介護では24786人、社会福祉では1860人にのぼまず。他方、公共事業では介護の半分以下の997人に・すきません。(「朝日」09年4月19日付
 社会保障分野に予算を振り向け、需要を増やずことが安定した多くの雇用を創出し、経済成長を実現する道です。高度発達した日本の産業構造では、公共事業で直接利益を得る建設業・製造業とその従業員の割合は2割程度にすぎず、就業者の7割以上はサービス産業に従事しているからです。   (つづく)