2022年10月13日木曜日

旧統一教会への法規制は可能なのか 「質問権」の行使がカギ(AERA dot. )

 AERA dot. に「旧統一教会への法規制は可能なのか 『質問権』の行使がカギか」という記事が載りました。1990年代中ごろには欧州で旧統一教会勢力を拡大していましたが、現在では活動は事実上行われていません。それはフランスで「反セクト法」が成立したことに代表されるように、統一協会の活動様式が議会で問題視された結果でした。

 それに対して日本では、岸信介による庇護に代表されるように政権党と癒着し、同時にその強烈な反共性を公安警察が好感するなどした結果、霊感商法に対する規制は行われたものの、無法な献金収奪については野放しになっていました。
 安倍氏銃撃事件を機にようやく国民の間で問題視されるようになりましたが、岸田自民党は口先だけで、政権党との癒着や違法な献金を実質的に規制する意思はないようです。
 18年の消費者契約法の改正に携わった菅野志桜里氏(弁護士)は、「旧統一教会に対しては、まずは質問権によって組織的な金銭搾取の構造などを調査し、その結果に応じて解散命令請求につなげるべき」であり、「フランスの反セクト法については賛成・反対という極端な議論ではなく、どの部分を現行法に取り入れ問題を解決していくかという視点を持つべき」だと述べています。
 今回の盛り上がりを一時的なものとして時間の経過とともに収束させるのではなく、その違法性を実質的に規制するところまで進めるべきです。
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旧統一教会への法規制は可能なのか 「質問権」の行使がカギか
                         AERA dot.  2022/10/12
                   週刊朝日2022年10月14・21日合併号
 旧統一教会に法的な規制を求める議論が活発化する中、注目されるのが2001年にフランスで施行された「反セクト法」。「世界で最も厳しい」とされるカルト規制法だ。
 フランスでカルト宗教が問題視されるようになったのは1990年代中ごろ。95年3月に日本ではオウム真理教による地下鉄サリン事件が起きたが、同年12月にフランスでも新興宗教「太陽寺院教団」が集団焼身自殺事件を起こし、子ども3人を含む16人の遺体が山岳地帯で見つかった。
 このころ、旧統一教会も欧州で勢力を拡大していた。94年3月6日付朝日新聞によれば、フランスの右翼政党「国民戦線」の幹部らが旧統一教会関係者と会談。信者の親たちによる「息子や娘が過激な布教に巻き込まれている」という被害の声も報じられている。
 こうした中、95年12月にフランス国民議会のセクト調査委員会が提出した「ギュイヤール報告書」では、宗教団体が反社会的な行動をしているセクトか判断するために、「精神的不安定化」「法外な金銭要求」「元の生活からの意図的な引き離し」など10項目の指標を提示するとともに、170以上の具体的な団体名が書かれたリストも公表された。そこには旧統一教会も含まれていた。
 フランス政府の対策機関は、この指標に基づき団体の監視を行う。複数回の有罪判決が下された団体を大審裁判所(地裁)が解散させることも可能だ。
 フランス出身で、映画を通して社会や政治問題を研究している横浜国立大学のファビアン・カルパントラ准教授は同法をこう説明する。
「監視対象にはアジアやイスラムなどの宗教も含まれており、移民の持ち込む宗教を取り締まる側面もあるのでしょう。フランスのアイデンティティーにも関わる法律で、フランスにも『ライシテ』という政教分離の原則がありますが、実際にはカトリック教会の影響が大きく、カトリック以外の宗教には排他的な傾向があります。日本では公共の場でイスラム教のスカーフを着用しても問題にならない宗教的な自由がある。反セクト法を日本に持ち込めばメリットもありますが、そうした自由を失う危険性も考えなければいけません」

 フランス国内でも賛否が割れている反セクト法を、日本の専門家たちはどう評価しているのか。旧統一教会の宣教活動を社会学的調査に基づいて研究してきた北海道大の櫻井義秀教授(宗教社会学)はこう解説する。
「反セクト法を日本に取り入れるとしても、政府がカルトを許さないという罰則なしの理念法にとどまるのでは。カルトの定義は難しい。実際にフランスでも同法を適用して解散させた団体はありません。セクトの指標とする10項目に関しても、誰が評価するのか考えたときに、文化庁宗務課の十数人の職員で調査できるとは思えません」
 日本の宗教法人法にも、問題のある宗教団体から法人格を剥奪する解散命令があり、「法令に違反し、著しく公共の福祉を害する行為」をした宗教法人は、文部科学省の請求によって裁判所が解散を命じることができる。
 だが休眠状態の法人を除けば、この解散命令が出されたのは「オウム真理教」と、霊視商法による詐欺罪で有罪となった「明覚寺」の2例だけ。9月26日に野党が開いたヒアリングでも、文化庁の宗務課長は「裁判所が命令を出す基準に照らすと、教会の役職員が逮捕や立件、処罰された例がなければ請求は難しく、慎重に考えなければならない」との認識を示した。
 日本で反セクト法のような法律の導入が難しいとすれば、どんな方法で対処していけばいいのか
 前出の消費者庁による検討会の委員で、18年の消費者契約法の改正に携わった菅野志桜里氏はこう説明する。
「フランスの反セクト法は、無知や脆弱性につけこむ加害行為を犯罪化するという点に特徴があります。このうち『無知や脆弱性につけこむ』という要件の部分は参考になりますし、現行法に取り込むことが可能です。一方、犯罪化するという効果は現状では極端なので、むしろ契約の取り消しや法人格・税優遇などの剥奪に結び付けるべきでしょう」

■寄付や献金にもルールづくりを
 菅野氏は、カルト的な団体による金銭的搾取を取り締まるうえで、三つの論点があると説明する。
 第一に、霊感商法対策という点では、18年の消費者契約法改正で盛り込まれた取消権がある。消費者が確実に不利益を回避できると言われて霊感商法などで消費者契約を結んだ場合、契約を取り消すことができる権利だ。しかし、これまでこの権利を使って霊感商法の被害者が契約を取り消した裁判例が見当たらず、より包括的な形で要件を広げる法改正の必要があるという。
 第二に霊感商法と言えない献金搾取をどうするのかという点だ。旧統一教会ではこれまで壺をはじめとする物品を販売する霊感商法を繰り返していたが、09年に特定商取引法違反の疑いで教会と関連のある印鑑販売会社社長らが逮捕されて以降は、資産の献金や寄付が多くなったとされている。公益法人法の第17条には寄付や献金について、無理強いや寄付者に著しい不利益を与える寄付を禁じており、この法を参考に宗教法人にも献金のルールを作っていくべきだという。
 第三に金銭的搾取を繰り返す団体をどう規制するかという点で、宗教法人法の解散命令にはその前提に、違法行為を繰り返す宗教法人やその役員に文科省や都道府県が質問やデータの提出を命じることができる質問権がある。これまで解散命令が下された2例ではこれが使われていないが、旧統一教会に対しては、まずは質問権によって組織的な金銭搾取の構造などを調査し、その結果に応じて解散命令請求につなげるべきだという。
「フランスの反セクト法については賛成・反対という極端な議論ではなく、どの部分を現行法に取り入れ問題を解決していくかという視点を持つべき。金銭的搾取の予防や被害者の救済、違法な団体の税制優遇をなくすために建設的な議論をしていくことが必要です」(菅野氏)
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