2022年10月6日木曜日

統一教会へ「解散命令」請求をしない文化庁の謎 

 統一教会の所轄官庁である文化庁は、一貫して「統一教会の解散命令を請求する要件はまだ満たされていない」として腰を上げようとはしません。何故なのでしょうか。

 東洋経済が、九州大学の南野森教授(憲法学)に信教の自由はどこまで保障されるのか、話を聞きました。南野教授も文化庁は大いに腰が引けているという見解です。
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統一教会へ「解散命令」請求をしない文化庁の謎
      「信教の自由」を理由に及び腰な政府の姿勢
                  井艸 恵美 東洋経済オンライン 2022/10/05
                          東洋経済 記者 
安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件の背景には、「宗教」の影があった。10月3日発売の週刊東洋経済は「宗教 カネと政治」を特集。
「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会、以下、統一教会)をめぐっては、信教の自由を理由にした行政の及び腰な姿勢が浮き彫りになった。文化庁は野党のヒアリングにおいて、統一教会は現時点で解散命令を請求する対象に当たらないとの見解を示した。九州大学の南野森教授(憲法学)に信教の自由はどこまで保障されるのか、話を聞いた。
        南野 森(みなみの・しげる)/憲法学者。1996年、東京大学大学院
         法学政治学研究科修了。2014年から九州大学教授。著書に『憲法主
         義』(PHP研究所、共著)など

──宗教法人に対する解散命令請求は過去に2例しかなく、文化庁は慎重な姿勢です。

 大前提として、宗教法人を解散させることは、信教の自由の直接的な侵害には当たらない。1996年に解散命令が出されたオウム真理教の最高裁判所決定でも、同様の判断が示されている。
 宗教法人格がなくなると、税制上の優遇といった「特典」がなくなるが、宗教団体としての活動は維持できる。信教の自由と宗教法人としての特権が失われることは、切り分けて議論する必要がある。
 過去に解散命令が出された2例はオウム真理教と、2002年の明覚寺だ。明覚寺は霊視商法で一般の人を脅して献金を集めた。この点で統一教会と類似する。

解散要件は抽象的
──宗教法人法の解散要件には、「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと」とあります。過去の2例と比較して、どう位置づけられますか。

 この解散要件は非常に抽象的だ。過去の2例は、教団の教祖や幹部が刑事事件で逮捕されている。そのため文化庁は、刑事裁判で宗教法人本体の役員などの責任が認められないと解散要件に当てはまらないと解釈している。
 文化庁の解釈は官庁の法解釈として一定の権威があるが、あくまで行政の基準だ。最終的な解散命令は裁判所の判断になる。その前の段階で、文化庁がふるいにかけすぎて裁判所の判断を仰がないでいる。はたしてそれでいいのか

──2009年、霊感商法で印鑑販売をしていた統一教会傘下の販売会社「新世」の幹部が逮捕され、特定商取引法違反で懲役刑を下されています。それでも宗教法人本部には捜査が及びませんでした。

 この事件の判決で、販売会社は全社員が信者であると認定され、統一教会の信仰と一体となったマニュアルを基にした組織的な犯行だと認定された。しかし、法的には販売会社は宗教法人である統一教会とは別法人になる。法人を分けている点こそが、統一教会のいわば巧妙な点だ。
 統一教会は過去の裁判で、霊感商法や献金強要が違法行為であると繰り返し認定されている。その判例の多さは、ほかの宗教団体の比ではない。統一教会の巧妙なやり方と、類を見ないほど多い判例をどう評価するか。その点が裁判所に問われることになる。統一教会の特殊性を考えると、2例に縛られない新しい判断をすべきだと思う。
 解散命令が難しいにしても、ほかにやるべきことはある。1つは優遇税制の見直しだ。おそらく、ほかの宗教団体の反発があるため、政治的合意を得るのはかなり難しいだろうが、そこにメスを入れるべきではないか。

税制上の優遇に応じた責務
 税制上の優遇を享受しているならば、その特典に応じた責務がある。詐欺的な集金を行っていないか、外為法に触れるような海外送金をしていないか、こうしたお金の流れを明らかにする必要があるが、透明化されていない。

過去に解散になった宗教法人

オウム
真理教

地下鉄サリン事件などを起こし、教祖の麻原彰晃をはじめ多数の幹部が逮捕された。1996年に解散命令

 明覚寺

「霊視商法」を行っていた教団。トップらが詐欺罪で逮捕された。2002年に解散命令

法の華
三法行

「足裏診断」を行い多額の献金を教祖の福永法源が詐欺罪で逮捕された。01年、解散命令を出される前に、破産宣告により解散

献金額に具体的な上限を設けるといった案も出ているが、現実的には難しいだろう。しかし、文化庁あるいは税務当局がお金の流れを明らかにしたり、行政が相談窓口を設けて被害相談数を公表したりといったことで、一定程度の透明化はできる。消費者庁や消費生活センターが、相談件数や内容を公表しているのと同じで、宗教団体に関する相談やクレームの公開を検討すべきだ。

──統一教会だけでなく、文化庁に提出された宗教法人の財務諸表などの文書は公開されません。

 税制優遇を受けている場合や、ほかの公益法人であれば透明化されるべきお金の流れが、宗教法人になるとベールに包まれる。信教の自由が錦の御旗になっているからだ。しかし、行政がお金の流れを公開しても、信教の自由を侵害することにはならない。お金の流れを公開されて困るような宗教団体は、そもそも宗教法人として保護する必要性に欠ける。
 宗教法人法は宗教団体に対する性善説に基づいている。統一教会に限らず、宗教であることを隠れみのにして、反社会的な行為をする団体が紛れ込んでいる可能性がある。しかし信教の自由を盾にされると、どこまで介入していいのか、行政側も腰が引けてしまう。
 信教の自由は無制約ではない。心の信仰は守られても、外形的に違法行為や反社会的な行為をすれば制裁を受けるのは当然だ。憲法上の権利が無制約ではないことは、ほかの権利も同じ。表現の自由は名誉毀損やプライバシー侵害に当たれば制約されることは、よく理解されている。ところが、信教の自由になると急に及び腰になる

「カルトSOS」が必要

──宗教2世の当事者からは、子どもの信教の自由が侵害されているという声が上がっています。ただ、親が教育する権利も保障されています。

 そこは一番の難題だ。家庭の中に公権力がどれくらい踏み込めるのかという問題になる。児童虐待と同様に、虐待が疑われる、学校に行かせないなど外形的に見える部分にしか介入できないだろう
 例えば、カトリックでは幼児洗礼がある。それを、成人になってから自分の意志で洗礼を受けるようにと国家が決めるのは、信教の自由を侵害すると教会側は反発するだろう。宗教や親の側からすると、信仰の継承はとても重要な価値だ。「子どもを洗脳してはダメ」と言うのは難しい。
 ただ、子どもが助けを求めたり、相談できたりする窓口は必要だ。フランスではカルト問題に悩む人が電話できる窓口がある。日本でも「カルトSOS」といった電話相談窓口を早急に設置する必要がある。子どもの異変に気づいた学校の先生など、周囲も相談できる窓口だ。こども家庭庁に窓口を一本化し、そこで2世問題に対応するのも一案だろう。

──行政機関に相談しても宗教が絡むと介入できないと聞きます。

 2世の人たちが、育児放棄に遭ったり、経済困窮に陥ったりしていても、行政や警察は「宗教の問題だから」と立ち入ろうとしない。だが、児童相談所の仕事は家庭の中に入ることだから、信教の自由があるからといって、ひるむ必要はない。宗教に対する知識不足や誤解が、さまざまな不幸を生んでいると思う