米軍統合参謀本部のマーク・ミリー議長は「ウクライナ軍がロシア軍に勝利できないかもしれない」とした上で、ゼレンスキーはロシアとの交渉を始めるべきだと発言しました。
4月の段階で、ロシア政府との交渉を始めようとしたキエフ政権に戦闘の継続を命じたのはイギリスのボリス・ジョンソン元首相で、サリバン国家安全保障担当など対ロシア戦争を推進してきたグループはミリー議長の意見に反対していると伝えられています。
⇒ ロシアの制圧に執念を燃やすネオコンの歴史的な背景 (櫻井ジャーナル 22日)
そもそもウクライナ戦争を勃発させたのは対外謀略を行うCIAであり、米軍ではありませんでした。米国はこれまで膨大な武器弾薬をウクライナに供給してきたため、ここにきて台湾有事に備えなけれがならない武器弾薬の在庫が不足する事態になっているということです。
米国民の間にウクライナへの戦争支援よりインフレ下の生活支援を優先せよという声は大きくて、ホワイトハウスは2年後の大統領選を控えてウクライナ戦争をどこかで鎮める必要に迫られつつあります。
対露戦争はいくらでも継続できるというCIAの構想にはさすがに無理がありました。
世に倦む日々氏による「 ~ 戦争方針をめぐるCIAと米軍の亀裂と対立」を紹介します。
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ミリー発言の意味と背景 - 戦争方針をめぐるCIAと米軍の亀裂と対立
世に倦む日日 2022年11月22日
11月15日にポーランドの村にミサイルが着弾して死者2名を出した事件について、田中宇などは、ロシアとNATOとの第三次世界大戦を呼び込むための謀略(未遂)だったのではないかという仮説を示している。私もその可能性を疑う一人であり、本当に迎撃に失敗して偶然に着弾したのか怪しく感じている。迎撃に失敗したのではなく、そのようにカムフラージュして、どさくさ紛れに、意図的にポーランド領に着弾させたのではないか。その疑念を拭えない。そう推理を立てた場合の犯人はCIAとゼレンスキーで、その根拠は、AP通信が15日に発したこの事件の第一報である。そこにはソースとして「米情報機関の高官の情報として」と記述がある。
ゼレンスキーが強気を崩さず、最後まで「ロシア犯人説」で引っ張り続けた理由は、おそらく、そこにCIAのエンドースがあったからで、さらに言えば、もともとCIAと一緒に仕組んだ謀略だったからではないか。そう事件像を組み立てると、ゼレンスキーが強情を貫き通す意味がよく理解できる。CIAという全能の相棒がいるのだから、大船に乗った気分で平気なのだ。これまで、何があっても、自分の主張が正義として西側にオーソライズされ、国連でも真実として確定され、ロシアの反論はすべてウソでデマだと否定され排斥されてきたから、ゼレンスキーはそのプロトコル(⇒言論様式)環境に馴れきってしまっている。バイデンが何を言おうが、CIAこそが地上の神なのだからゼレンスキーは絶対の自信があるのだ。
高橋杉雄は、普通は防空ミサイルは迎撃に失敗したら自爆する仕組みになっているが、当該弾は作動が不全だったのだろうと解説し、言外に、旧ソ連製だから粗悪品だったのだというニュアンスを込め、今後も同じ事故が起き得ると言った。小谷哲男は、ロシアのミサイルがベラルーシ上空の戦闘機から発射されたと言い、南の地上からの迎撃に角度の余裕がなく、迎撃に失敗して左方向(西方向・ポーランド領)に逸れたと説明した。どれも尤もらしい弁解と言説だが、迎撃する側のウクライナ軍は、すべての状況と位置関係を押さえた上で迎撃弾を発射している。ロシア軍がミサイルを発射するポイントは、偵察監視しているNATOからリアルタイムに正確な位置情報が送られている。
ウクライナ側の迎撃ミサイルが、迎撃に失敗して偶然にポーランド領に着弾したという説明は、軍事技術的に腑に落ちない。そこまでポンコツ品なら、これまでもっとウクライナ領内で被害が出ているだろう。この事件の真相解明で重視すべきは、やはり、第一報を「米情報機関の高官」すなわちCIAの幹部がAP通信を通じて発したという事実であり、そして、その情報をただちに国防総省が「確認できない」「調査中」だとしてロイター等に発表させた経緯である。そこから透けて見える事件の暗闇の構図は、CIAがゼレンスキーと組んで仕掛けた謀略を、米軍(国防総省)が即座に察知して未然に阻止したというものだ。米軍(国防総省)は着弾したミサイルの軌道を正確に把握していた。
AP通信が発した15日の記事は証拠として残ってしまっている。これは決定的だ。「米情報機関の高官」が第一報のソースである。天下のCIAが、ミサイルの軌道情報を間違うということはないし、CIAと国防総省の間で戦場の情報把握に食い違いが出るということはない。同じレーダー情報と軍事機密を共有している。国防総省が確認中の情報を、CIAが先走って間違って伝えるなどあり得ない。アメリカの軍内部の齟齬として、アクシデントとトラブルとして、きわめて深刻で重大な事態だ。しかも、一つ間違えば第三次世界大戦となった案件である。一体、AP通信に情報を流した「米情報機関の高官」とは誰なのか。何で、何のためにこんな情報を流したのか。謀略を策したとすれば、その目的は何だったのか。
おそらく、今回の件は、戦争のエスカレーションを目的とした謀略だ。CIAとゼレンスキーには動機と目的がある。現在、アメリカ政治は「ウクライナ支援疲れ」の方向に流れている。国民世論の中に、ウクライナへの戦争支援よりインフレに苦しむ国民の生活支援を優先せよという声があり、それを共和党の極右議員が拾って議会で訴え、民主党の左派議員が代弁して大統領に進言している。ホワイトハウスと議会は、その意見を無視できなくなりつつあり、2年後の大統領選を控えて、確実に選挙の争点となるウクライナ戦争をどこかで鎮めて収める必要に迫られつつある。その場合、現時点で停戦交渉となれば、ウクライナは、クリミア半島奪還どころか4州全体の領土回収も難しくなる。譲歩を余儀なくされる。
ゼレンスキーは妥協できないし、戦争を主導しているCIAも不本意で了承できないのに違いない。今、アメリカの戦争当局の内部で停戦に積極的な部分と消極的な部分に分かれつつあり、停戦派を代表しているのが統合参謀本部議長のミリーだ。ミリーは最初の段階から米国の介入に慎重姿勢を見せていた。ミリーは、この戦争が現実にはアメリカとロシアの戦争になっているのに、軍本体の意思や判断が尊重されず、すべてをCIAが仕切り、軍がCIAによって鼻面を引き回されている現状に不満を覚え、危機感を感じているのに違いない。この戦争は「プーチンの戦争」であると同時に「CIAの戦争」である。CIAが主導し差配している。ミリーから見て、CIAは無責任にずるずると戦争を長引かせ、軍のリソースを過剰にウクライナに投入し、戦争を泥沼化させている。
もし、ロシアが総動員令をかける局面になったら、NATO軍地上部隊すなわち米兵をウクライナの戦場に送らないといけなくなる。そうなれば、米ロが直接ぶつかる第三次世界大戦であり、仮に核を使わない戦争に収めることができても、イラク戦争のように果てしなく消耗戦を演じ合う戦争になる。戦争の結果はどうあれ、米軍が蒙る損失は計り知れない。ミリーはそれを恐れているのであり、そうした懸念を持つ米軍関係者を代表して意見を表明しているのだ。高橋杉雄と堤伸輔は、18日の報道1930の番組内で、ミリーを罵倒し、統参本部議長の分際で政治的発言をするのはシビリアンコントロール違反だと糾弾した。停戦を説くミリー発言が不愉快だと露骨に感情を爆発させていた。高橋杉雄と堤伸輔のミリー叩きは、まさしくCIAの代弁に他ならず、ハンドラーズの任務遂行のプロパガンダである。
ミリーの発言には背景がある。10月11日のAFPの記事は、ウクライナへの支援の長期化によって米軍の弾薬余剰が近く枯渇すると書いている。CSISの分析に基づいた報道で、「一部軍需品の備蓄量が最低レベルに到達しつつある」という問題が紹介されている。そこから1か月経った11月19日、ミリー発言の3日後だが、CNNが「ウクライナ向け兵器の残存量手薄に、製造能力にも問題」と題した記事を発信した。米軍の武器の在庫が逼迫し、155ミリ榴弾砲弾薬や対レーダーミサイル、誘導型多連装ロケット発射システムの追加供給に不安が出ている内情が示されている。「3人の米政府当局者」が匿名でCNNに語った話だが、おそらく国防総省の幹部だろう。ミリー発言を補強する政治の動きであり、ミリーの和平提言が単独のスタンドプレーではない事実が納得される。
イラク戦争の後、米軍は長らく本格的な戦争から遠ざかり、紛争への介入も手控える傾向にあったため、武器弾薬の大量生産に即応する態勢が弱まっている。すなわち、まさしく米軍の継戦能力に不安が生じてきた点を当局者が認めた報道だ。マスコミはロシア軍の継戦能力の途絶ばかりにフォーカスしているが、アメリカの方も同じで、いつまでも青天井でウクライナに武器供給できない状況になっているのである。ミリーは、中国との戦争を踏まえて発言しているのだろう。米軍の地上部隊を出さないとしても、大量の武器弾薬を台湾に送らないといけない。台湾での戦闘に要する武器弾薬の量は、ウクライナの比ではない。それは来年始まるかもしれない。米軍の備蓄と在庫をここで空っぽにするわけにはいかない。そういう認識と判断なのだ。
高橋杉雄は、今回のミリー発言をスタンドプレーだと言い、戦略を知らぬ軍人が政治に嘴を入れる出過ぎた真似だと罵った。だが、それは違う。高橋杉雄の方が政治に無知なだけだ。ミリーにはバックがいる。単独の発言ではない。具体的に名前を二人挙げて高橋杉雄に政治を教えよう。一人はジョン・ケリー。現在はアメリカの気候変動問題の特使で、COP27とか環境政策の方面でのみ有名だが、民主党の安保外交に影響力を持つハト派の重鎮である。何と言ってもベトナム戦争に従軍経験があり、戦闘で負傷しつつ仲間を救助した功績で顕彰され受勲している。オバマ政権で国務長官。アメリカの戦争では常にハト派の位置から発言し、無益な侵略戦争を自制するよう勧告する。おそらく昨年のアフガン撤退も、ケリーの進言をバイデンが採ったのだろう。
もう一人は、トランプ政権で国防長官を務めたジェームズ・マティス。イラク戦争で海兵師団を統率し、ファルージャの戦闘(虐殺)を指揮した。その戦歴と「狂犬」の異名から、どんな恐ろしい悪魔かと思っていたら、意外にも読書家のインテリだった。シリアでの戦争で不拡大方針をとり、トランプと対立して馘首されている。軍を政治によって暴走させないことをモットーに据え、戦争せずに軍事目的と国益を達成する軍を目指した。マティスが国防長官のときにミリーは統参本部議長に就いていて、二人の間には何らかの関係性があり、軍人として思想が近いのではないかと私は推測する。二人が共有しているのはイラク戦争の苦い失敗経験だ。マティスの観点から現在のウクライナ戦争を見たとき、戦争に素人なCIAがコントロールを失って暴走し、米軍を危険な泥沼に引き込んでいると映るだろう。
ミリーの発言はCIAに対する牽制であり、方針転換の提言であり、ミリーを支持する者がアメリカ指導層の中に多くいることを示唆している。来年にかけて、停戦論の勢いが増し、これまで主導権を握っていたCIAとゼレンスキーの立場は相対化されて行くと予想される。