しんぶん赤旗日曜版に不定期に連載されている「統一協会 闇の実像」の 第5回「『洗脳』と『マインドコントロール』」です。
人には誰しも悩みや不安があります。統一協会はそうした弱みに付けこんで勧誘するのですが、そのやり方については入念に仕立て上げられた「マニュアル」が出来ていて、それに忠実に従うことで成果が上がるようになっています。今回はその仕組みが具体的に語られています。
マインドコントロールの手法は「献身」(職業を捨てて信者活動に専念)を決意した人に対しても及んでいて、就寝が深夜の2時,起床が5時というように極度の睡眠不足に追い込んで正常な判断力を失わせるなど、実に周到で徹底しています。
末尾に「『青春を返せ』訴訟」に関する記事が載っています。これは、マインドコントロールによる伝道そのものの違法性を問う訴訟で、最高裁は、統一協会のそうした伝道の仕方は「内心の自由に関わる重大な意思決定に、不当な影響力を行使しようとする」もので違法(憲法違反)であると認定しています。まさに「解散命令」に値するものです。
それとは別に、旧統一教会の元信者で、詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト多田文明氏の記事「なぜ高額な壺や印鑑を買わされてしまうのか? 元統一教会信者が明かす『霊感商法の巧妙手口』」を併せて紹介します。
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統一協会 闇の実像 第5回「洗脳」と「マインドコントロール」
悩み聞き出し街角〝伝道″ マニュアルトークで洗脳施設に誘導
「姓名判断してあげる」 「大切なものは?」 「運勢かわるよ」
しんぶん赤旗日曜版 2022年11月13日号
統一協会の「闇の実像」に迫る柿田睦夫さんのシリーズは第5回。取材体験から「洗脳」と「マインドコントロール」に迫ります。
1980年代後半、東京・池袋駅頭。10人余りの女性が集まりました。西武線で3駅の江古田にあるホーム(合宿施設)で暮らす人たち。通行人に声をかけます。
「こんにちはー」。ニコッと笑う。「青年サークルのアンケートなんですけど、学生さんですか」。十数mくいさがって、あきらめる。そして次の人に・・・。
対話ができると、「意識が高いですね」「素晴らしい」と相づちをはさむ。賛美のシャワー。相手をその気にさせるテクニックです。アンケートの内容は「関心のあるもの=健康、仕事、占い、政治、ボランティア、宗教、人間関係、死後の世界、恋愛-」「あなたの大切なもの=地位、財産、友人、家庭・・・」。相手によっては、持ち家か借家かから貯金にまで踏み込むこともあります。
要するに、趣味や性格、不安や悩みを聞きだすのが狙いです。名前と連絡先を確認するのが鉄則。「アンケートの集計を届けたいから」などと言って聞きだします。
夜にお礼電話
夜、彼女たちは電話に向かいます。〝ありがとう電話″です。「突然声をかけたのにいやな顔もせずに答えてくれたので、とても印象に残ってるんですよね」。その語り口によどみはありません。すべてマニュアル通りだからです。
当時、統一協会西東京ブロッ第5地区の「伝道機動隊」に所属していました。駅頭の活動は「路傍伝道」。家族や友を介した「F・F伝道」もあります。
-筆者が「赤旗」記者時代、よく見る光景でした。新規の青年信者が減ったいま、活動の中心が2世信者になるといった変化はあるけれど「路傍」「F・F」という勧誘=伝道の仕組みは変わっていません。以下に紹介することも同じです。
Aさんー繁華街で声かけられ
伝道機動隊にAさんという当時24歳の女性がいました。経理事務所の元職員。ホームには元看護師、栄養士、保育士、教師という人もいました。Aさんと、入信後の居住と活動の拠点を訪ね歩き、追体験しました。
Aさんが声をかけられたのも池袋駅。一度は無視したけれど、相手の真剣さに負けてファストフード店に入りました。「姓名判断をしてあげる」。手際よく字画を数え「転換期にきてますね」。さりげなくそう言い「最近、何かあったんじゃないですか」。Aさんは職場の人間関係で少々めいっていました。見透かすように「精神面を学ぶところがあるよ。キリスト教精神で自己啓発するところ。私もそこで運勢を転換することができた」。明るく確信ありげな口調に説得力を感じました。それが〝転換期トーク″というマニュアル通りだということは、もちろんAさんは知らない。
Aさんたちが使っていたトークマニュアル |
講義の最後に正体明かす
駅から3分のビルにある「池袋ライフアカデミー」。ビデオセンターと呼ばれる統一協会の〝洗脳″コースの入り□です。(下記PDF図↓)
https://drive.google.com/file/d/1zRtmubwKGfT9_CAEQV76b_2drm8n97Kd/view?usp=sharing
ビデオやその後の講義には同じ内容のことがくり返して出てきました。
―堕天使(ルーシェル)と人間(エバ)の淫行は黙示録やマタイによる福音書に示されている。
―人間は悪魔の子孫であり、従ってサタンの子孫であるが故に結局蛇の子孫である。
―人間の祖先が天使と淫行を犯すことによって、すべての人間がサタンの血統により生まれるようになった。この人類を救うことができるのは一人しかいない。
「すべての存在は陽性と陰性、すなわち主体と対象の二性性相をもって展開される」という講義もありました。これが男と女という性を基調とした教義につながります。
コースが進むにつれ、何か新しい真理に出合ったと思うようになっていった、とAさんは言います。
アンケートや占いなどをきっかけに、マニュアルに添ったトークを駆使して悩みや不安を聞き出し、それを増幅させて助けを求める気持ちにさせる。外界と遮断した合宿の集中講義で霊界の存在やサタンの原罪を教えつけ、逃れられないほどに追い込んだ末に唯一の救い主=文鮮明を証す。
Aさんの場合、それはフォーデイズ合宿の最後のときでした。すでに心の準備はできていました。「これで救われる。私も親も弟も。ホッとした」とふり返りました。
自分で考えることを放棄
献身=仕事をやめて全生活を信仰実践にささげる決意をしました。職場や親にどう話すのかは霊の親(Aさんを入信させた信者)が教えてくれました。自慢だった背中までの長髪をバッサリ切りました。「善言はおでこにつき、悪霊は首筋の髪につく」から。ホームの仲間も全員が短髪でした。
伝道機動隊に始まり、和服や宝石展の販売員、マイクロバスで移動する珍味売り・・・。献金目標を達成できないときには友人などから借金しました。朝5時に起床してから深夜2時の消灯までぎっしり詰まったスケジュール。「とにかく眠かった。電車では立ったまま眠ることを覚えた」
救世主を受け入れたとき、その人はすでにマインドコントロールの状態になっています。何事もアベル(上位の信者)の指示に従えばよい。昨日と逆のことを言われても今日はそれが正しいのだからそうすればよい。だからアベルとの「ホウレンソウ」を絶対に欠かしてはいけない。報告、連絡、相談です。
マインドコントロールとは自分で考え判断する意欲を一時的に失った状態です。何事もアベルのいうがままにすればよい。自分で責任をとらなくてもいいんだ。だから摂理(ノルマ)の厳しさにあえいでも、気分は楽だったとAさんは言います。信者でいる限り気分は楽というのは、ものみの塔(エホバの証人)やオウム真理教などにも共通した特徴です。
友人か送った「赤旗」記事
取材して分からないことがありました。″洗脳″の入り口であるビデオセンターのことです。どの元信者に聞いても「堕落論」「メシヤ論」などのビデオは「ちんぷんかんぷん、おもしろくなかった」。それでなぜ、センターに通ったのか。ほとんどの元信者がこう答えます。「センターのスタッフが話を聞いてくれたから」。自己責任論にしぱられ、バラバラにされた社会の現実を見せつけられた思いをしました。
Aさんの母親がことの重大さを知ったのは、娘の大学時代の友人からの手紙でした。ノルマに迫られたAさんが借金を申し込んだ相手です。手紙には「赤旗」の切り抜きが大っていました。統一協会の記事です。
母親ら家族の懸命の努力や牧師の協力で「自分で考える」勇気を取り戻しました。「母も弟も頭ごなしになじったりせず、社会悪は許さないけれど私の立場は理解しようとしている。それに気づいたとき、ちょっと変だぞと思うようになった」といいます。聖書について牧師の話を聞くうちに、「なんだ私の方が間違っていたんだ」と納得できました。「自由になれたんだ」とも思いました。
Aさんはその後、結婚し、子育て中はPTAの活動に励み、今も熱心に「赤旗」を読んでいます。
「青春を返せ」訴訟 教団は「信教の自由」を侵害 |
(つづく)
なぜ高額な壺や印鑑を買わされてしまうのか? 元統一教会信者が明かす「霊感商法の巧妙手口」
多田文明 マネーポストWEB 2022/11/12
人の不安につけこみ、高額な壺や印鑑を言葉巧みに売りつける「霊感商法」が社会問題となっている。11月14日には、旧統一教会に限らず、幅広く霊感商法の相談を受け付ける「霊感商法等対応ダイヤル」が、日本司法支援センター(法テラス)に開設される。そもそも霊感商法とはどういった手口なのか。なぜ人は騙されてしまうのか。元統一教会信者で、詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリストの多田文明氏が、自身の体験も交えて解説する。
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マインドコントロールと聞くと「ああ、カルト団体がよく使う手だね」と他人事に思う人もいるかもしれません。でも、手口をよく知っておかないと、知らないうちに自分自身がその罠にはまって、多額のお金を取られることがあります。その手法は巧妙で、霊感商法で多くの人が被害に遭ったことからもわかります。
10月に単行本を上梓しましたが、宗教に対してあれだけ警戒していた私自身が、よもや旧統一教会に入信して、約10年にわたって信者であり続けるとは思ってもいませんでした。
時間をかけてマインドコントロールの魔の手から逃れて、ジャーナリストとして、世の中の詐欺や悪質商法を見続ける中で、教団が使っていた手口が多くの悪徳業者のところで使われていたことがわかりました。教団が先なのか、悪徳業者自体がすでにそのノウハウを持っていたのかはわかりませんが、いずれにしても、人の心をからめとり、お金をとる術はすでに世の中に広がっています。
モノを売ると思わせず、その人に近づく
旧統一教会の信者らが行った最も有名な手口は、霊感商法でした。これは、霊能師や占い師を騙った人物が、手相や姓名判断、家系図を鑑定しながら「あなたには、悪霊がついていて、先祖の悪因縁がある」と言って、高額な壺や印鑑、多宝塔などを売りつける商法です。
この手口の巧妙さは、モノを売ると思わせず、その人に近づくという点です。マインドコントロールする上での第一歩は、真の目的を告げずに相手の心に入り込むことです。
〈旧統一教会では、壺などを売る霊能師・占い師(説得役)と、勧誘場所に連れていく人(連れ込み役)は別の人物が行うようになっています。役割分担をしっかりさせています〉(『信じる者は、ダマされる。』より。以下〈〉内同)
そして連れ込み役は「占い」を口実に、相手の個人情報を聞き出して、それを霊能師に伝えます。その情報をもとに、霊能師は占い鑑定などを行い、次々にその人の事情を的中させていきます。当然、話を聞いた人は、霊能師に信頼を寄せますので、聞き耳をもったところで、次の展開に移ります。
〈「このままだと、大変なことが必ず起こる」「不幸になる」と断言しながら、少しずつ相手の心を追い込んでいきます。そして「今、陥っている不幸の原因は、過去の先祖の罪があり、その因縁を背負っているからだ。それで悩みが深くなっている」と断定口調で話してきます〉
まさにここがマインドコントロールの重要なポイントになります。先祖の悪因縁など目に見えない存在を使い、「不幸が訪れる」といって恐怖心を覚えさせます。恐怖にいったん心がとらわれてしまうと、簡単には逃れられなくなります。霊能師の言葉に一喜一憂しながら、相手の思い通りの方向に進まされてしまいます。
より深い「恐怖心」を刻みつけられたところに…
これでほぼ簡易なマインドコントロールは完成ですので、後は「救いの手」を差し伸べればいいだけです。壺や多宝塔という、因縁を切り、悪霊を浄化させるというグッズを売りつけます。多くの人は購入させられてしまいます。ここであえて、マインドコントロールに「簡易」という言葉をつけたのには、わけがあります。より深い教化をするために、教団のマインドコントロールはさらに続くからです。
実際に、霊感商法でモノを売りつけられただけで終わった人もいますが、その一方で多くの人がその先にある教義を教え込む場に誘われます。その違いは、マインドコントロールの濃淡にあるように思います。それはその人の置かれた事情によって違いますが、もし教団側が霊界への恐怖心などが「濃」な人だと思われれば、その先に進まされます。「淡」だと「少し時間を置こう」などといって、敬遠される傾向があります。
次のステップに誘われた人は、当然、壺を販売した人たちが信者であることはわかりませんので、正体を隠されたまま教団の関連施設に誘われます。「悪因縁などを解決するため」という口実で、教義を教えこまれる場所に誘い込まれてしまうのです。そして霊界の存在や悪魔(サタン)の存在を信じるように仕向けられて、より深い「恐怖心」を心に刻み付けられます。そこに救いの存在として、「壺」ではなく「再臨のメシヤ」がやってくるわけです。そして教団の信者となり、多額の献金をさせられて、家庭が崩壊の道を歩むことになります。
それにしても、一般の業者が正体や目的を隠して誘い、威迫・困惑させて商品を販売した場合、逮捕されたり、契約を取り消される事例が多々あります。しかし旧統一教会のような宗教団体、及びその関連団体が同じような手法を使って、人々から多額のお金を集めたとしても、ほぼ黙認状態でした。この状況はあまりにもおかしいといわざるをえません。
【プロフィール】
多田文明(ただ・ふみあき)/詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。『ついていったらこうなった』(彩図社)はテレビ番組化。また、旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)。