2022年11月14日月曜日

隣国への敵意を煽るような政府やマスコミの「言葉遣い」に気をつけろ(高野孟氏)

 11月3日にJアラートが大々的に発され、TVでは丸1時間にわたり延々と同じ内容がアナウンスされました。しかしアラートが発された時点で既に飛翔体は日本上空を通過していた(実際は日本海に着水)ので、そもそも通り過ぎた後の無意味な警報で、安倍政権時代に北朝鮮のミサイルの恐怖を大々的に煽った「空騒ぎ」を思い出させるものでした。

 日刊ゲンダイの「永田町の裏を読む」のコーナにジャーナリストの高野孟氏が、「隣国への敵意を煽るような政府やマスコミの『言葉遣い』に気をつけろ」という記事を出しました。
 そのなかで「上空」と「領空」の違いや「EEZ」と「領海」の違い、さらには「防空識別圏」と「領海・領空・国土」との違いを説明しています。
 そして「一見すると何でもないような言葉遣いにも隣国への敵意を培うような邪悪な意図を潜ませている場合があるのだということを心得ておく必要があると述べています。
 岸田首相をはじめとして日本の政治家には、米国に対する卑屈なまでの気遣いさえすれば良くて、その反動とばかりに中国・韓国・北朝鮮・ロシアなどはどう扱ってもいいというような態度が見受けられます。浅はかとしか言いようがありません。
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永田町の裏を読む 高野孟
隣国への敵意を煽るような政府やマスコミの「言葉遣い」に気をつけろ
                     高野孟 日刊ゲンダイ 2022/11/10
 先週の北朝鮮による一連のミサイル実験を通じて「Jアラート」のお粗末ぶりには改めて呆れ返ったが、それに輪をかけているのがマスコミの粗雑な言葉遣いである。
 たとえば「日本の上空を通過」と言われれば、いかにも日本を狙って撃ってきているように思ってしまうけれども、「領空」は国際常識ではおよそ高さ100キロまでで、そこから上は公共空間としての宇宙である。
 北がたとえばハワイ北方の北太平洋に向けて射程4500キロ程度の中距離ミサイルを放ったとして、その最大高度は地表から1000キロ程度で、発射から6~7分後にわが国近辺を通過した時にはもうそれに近い高度に達しつつあるだろうから、はっきり言って日本はすでに関係がない。
 まぁそれでも「上空」には違いなく、そうであれば何かの間違いでミサイル本体や部品が落ちてこないとも限らないので、警戒が不要とは言わないが、通り過ぎてしまった後になって、通ってもいない県に「建物内や地下に避難せよ」と指示している間抜けぶりには唖然とするしかない。
 こういう言葉遊びのようなことはたくさんあって、中国が台湾を威嚇するために放ったミサイルの一部が「日本のEEZ(排他的経済水域)内に落下した」という言い方をすると、いかにも中国が日本にも牙を向けているかの印象が醸し出されるけれども、200カイリまでの「EEZ」も、そのはるか内側24カイリまでの「接続水域」も、基本的に領海12カイリの外の「公海」であって、一定の権益や権限が認められてはいるものの、日本の持ち物ではない。
 「防空識別圏」も勘違いされやすい用語で、2013年に中国が新たに防空識別圏を設定し、それに尖閣諸島が包摂されていたため、当時の安倍晋三首相は「尖閣をあたかも自国の領土であるかのように描いている」と激しく非難をしたのだが、これは安倍のひどい勉強不足で、たとえば台湾空軍の識別圏は中国大陸の福建省の奥深くまで含めているし、韓国のそれは北方では平壌あたりまで届き、南方では日本の識別圏と一部重なっている

 ことほどさように、一見すると何でもないような言葉遣いにも隣国への敵意を培うような邪悪な意図を潜ませている場合があるのだということを心得て、政府やマスコミの一言一言を聞き分けなければならない。

高野孟 ジャーナリスト
1944年生まれ。「インサイダー」編集長、「ザ・ジャーナル」主幹。02年より早稲田大学客員教授。主な著書に「ジャーナリスティックな地図」(池上彰らと共著)、「沖縄に海兵隊は要らない!」、「いま、なぜ東アジア共同体なのか」(孫崎享らと共著」など。メルマガ「高野孟のザ・ジャーナル」を配信中。