2022年11月7日月曜日

岸田首相の経済対策 「タダの選挙対策」「実は増税の布石」がバレバレ

 経済誌「プレジデント」の前編集長・小倉健一氏(イトモス研究所)が、「官僚も議員も失笑…岸田首相の経済対策が『タダの選挙対策』『実は増税の布石』がバレバレな理由」という記事を出しました。

 いまやアベノミクスの破綻は明確に可視化され、当面、年明けに向かって猛烈な値上げが予想されるという未曽有の困難の中にあります。
 しかし岸田首相の眼中にあるのはこうした足許の事柄ではなく、来年春統一地方選挙対策だということです。地方選で大敗したのでは身が持たないからというのは合理的かも知れませんが、そういう間抜けなことでは国は持ちません。
 それにしても「アベノミクスを継承する」という宣言を撤回する気がないのであれば、日本に浮かぶ瀬はありません。小倉氏の記事を紹介します。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
官僚も議員も失笑…岸田首相の経済対策が「タダの選挙対策」「実は増税の布石」がバレバレな理由
                    小倉 健一 現代ビジネス 2022/11/06
「来年分だけ支援」のカラクリ
急速な円安進行や物価高・資源高によって国民が負担増に苦しむ中、政府は10月28日に総合経済対策を決定した。上昇する電気代やガス代の緩和策を盛り込み、来年1月以降の家計負担を総額4万5000円ほど和らげる。
だが、生活必需品の値上げラッシュは今に始まったことではない。9月の消費者物価指数は前年同月比3%上昇と31年ぶりの水準で、人々は「明日より今日」の生活に頭を抱えている。対策の中身を見ても、支持率が続落する岸田文雄政権による選挙対策が色濃くにじむとともに、自民党内のパワーバランスが変化している実態が浮かび上がる。
「平均的な家庭で、来年前半に総額4万5千円の支援となる」

岸田首相は10月28日の記者会見で、経済対策で打ち出した支援策によって国民生活を守っていくと強調した。電気料金は1kWhあたり一般家庭で7円、企業には35円を支援して「平均的な家庭の負担増に対応する額」(岸田首相)にあたる月2000円ほど負担が軽減されるという。
ガス代(都市ガス)も1立方メートルあたり30円を支援し、標準家庭で月900円の負担減となる。首相は「電気代の2割引き下げや、ガソリン価格の抑制などにより、来年にかけて消費者物価を1.2%以上引き下げていく」と宣言した。
物価高騰対策に重点を置いた首相だが、これには「カラクリ」がある。

お気づきの人も多いだろうが、経済対策では家庭の電気代について、「来年1月から来年度初頭に想定される平均的な料金引き上げ額の約2割分を国において負担する」としている点だ。対策の中にも「特に来年春以降の急激な電気料金の上昇によって影響を受ける家計や価格転嫁の困難な企業の負担を直接的に軽減する」と目的が記されている。
だが、31年ぶりの水準となった9月の消費者物価指数を見ると、前年同月と比べて電気代は215%、ガス代は194%もそれぞれ上昇している。つまり、「すでに上がっている分」の負担増が支援されるというわけではないのだ。ロシアによるウクライナ軍事侵攻に伴いエネルギー価格は上がっており、来年はさらに上昇するとの見方が強い。岸田政権は「来年分」は支援するものの、足元の上昇分は国民に「家計負担増を受け入れて欲しい」と言っているに等しい。

「党高政低」のパワーバランス
なぜ「来年」なのか。経済アナリストの佐藤健太氏は「来年春には統一地方選挙がある。支持率が続落する中で選挙を迎えれば、大きなダメージを負いかねない。そのため、選挙直前に電気代、ガス代の負担軽減を国民が感じることができるようなスキームになったのではないか」と指摘する。
岸田政権は子育て対策として子供1人あたり計10万円のクーポンなどを支給する方針だが、これも「来年1月1日以降に生まれる子」が対象だ。首相は衆院を解散しない限り大型国政選挙が3年近くない「黄金の3年」を手にしたとはいえ、来年春の統一地方選挙で自民党系候補が苦戦を強いられれば首相の責任論に発展しかねない。支持率が続落する中でナーバスになっている首相の胸の内が透けて見える。

一方、今回の経済対策の編成過程からは自民党内のパワーバランスが変化していることが浮き彫りになった。岸田首相や財務省は当初、国の一般会計歳出規模を総額251兆円にすることで調整を進めていた。だが、閣議決定の2日前(10月26日)に首相から原案を聞いた自民党の萩生田光一政調会長らは猛反発。慌てた首相が鈴木俊一財務相に増額を指示し、291兆円に膨らませた経緯がある。

10月7-10日に実施した時事通信の世論調査で、岸田政権の内閣支持率は発足後最低の274%となり、政権維持の「危険水域」とされる20%台に突入。旧統一教会(世界平和統一家庭連合)問題は党調査結果の公表後も収束の見通しがつかず、経済対策策定の要となる山際大志郎経済再生相が辞任しており、首相の求心力は一気に低下している。安倍晋三政権や菅義偉政権で見られていた「政高党低」は、岸田政権の支持率急落とともに「党高政低」へと変わりつつある。全国紙政治部記者は「もう首相主導の政策は実行できにくい状況になているのではないか」と語る。

首相は経済対策で「賃上げ」「労働移動の円滑化」「人への投資」を柱に据えたが、これらは以前から指摘されてきた長期的課題の羅列であり、一時しのぎの支援策と長期的な転換策では家計を守れないとの悲鳴が漏れる。共同通信の世論調査(10月29、30日)によると、足元の幅広い分野での値上げが生活の打撃になっていると回答した人は8割超に上っているが、政府の経済対策には「期待できない」(324%)、「どちらかといえば期待できない」(387%)を合わせて7割以上が悲観的だ。

これで不発なら「岸田おろし」か
岸田首相は自らが打ち出した「資産所得倍増プラン」については今年末に策定するとした。個人金融資産を貯蓄から投資にシフトさせるべくNISAの抜本的拡充・恒久化を検討するとともに、個人型確定拠出年金(iDeCo)制度の改革を検討し、今年末の2023年度税制改正において結論を得るとしている。ただ、極論を言えば、これは国民が汗水流して貯めた資産を活用して市場を動かし、「必要なお金は自分でリスクをとって蓄えてください」といっているようにも映る。
佐藤氏は「10月は食品・飲料だけで6000品目超が値上げされ、今年は累計2万品目以上の価格上昇となる。2人以上の世帯は家計負担が年間約7万円も増加する状況で、国民の間には『来年よりも、とにかく今の生活を支えて欲しい』との声も強いのではないか。物価上昇に見合うだけの賃金アップがあれば問題はないが、日本の平均給与は20年以上も上がっていない。物価高騰対策とともに、デフレギャップを改善し、経済成長と国民の賃金を上げていく政策の実行が求められている」と指摘する。
首相は「前例のない思い切った対策」とうたうものの、12月に決定される来年度の税制改正大綱に向けては政府税制調査会で消費税率の引き上げ自民党税調においては所得税や法人税などの増税が議論される見通しだ。来年1~9月の電気代・ガス代などを総額4万5000円支援する一方で、国民負担を増やす増税議論を同時にするという姿勢では「ますます消費が萎縮してしまうことになるだろう」(閣僚経験者)との見方が広がる。

年末には、来年度予算案の編成や国の外交・防衛政策の基本方針「国家安全保障戦略」など安保関連3文書の改定も行われるが、「党高政低」の下で首相の求心力はさらに低下し続けていく可能性がある。岸田政権発足から1年が過ぎ、首相のモットーである「信頼と共感」の政治は遠い過去となりつつある。
新型コロナウイルス感染拡大と物価高・資源高、円安の影響で国民生活が苦境に立たされる中、今回の経済対策が「不発」に終われば、首相への逆風はさらに強まるだろう。来年春の統一地方選で大きなダメージを負えば、それが号砲となって「岸田おろし」が一気に始まるかもしれない。