2022年11月16日水曜日

国会審議積み重ね無視 敵基地攻撃に突き進む岸田政権

 しんぶん赤旗に中祖寅一氏による「平和考」が載りました。岸田首相は、「(アベノミクスを含めて)安倍政治を継承する」と理解不能のことを口にして、軍拡政治に邁進しています。憲法違反の軍事大志向は安部元首相の遺産と言えますが、間違いは間違いなので、それを「継承する」と言ったのだからでは済まされません。安倍元首相はさすがに憲法との整合性を表面的に整えようとしました(勿論全く「整合」しませんでした)が、岸田氏にはそうした意向すらもなさそうです。
 しかしただガムシャラに憲法違反の軍備を押し進めることの非はいうまでもありません。 岸田首相らが考えている「敵基地攻撃能力の保有」が如何に憲法と整合しないかについての中祖氏による検証は、この時点では一層必要と言えます。
 (同氏はその前段に相当する「平和考」を10月31日付しんぶん赤旗に載せていますので併せて紹介します)
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【平和考】国会審議積み重ね無視 敵基地攻撃突き進む岸田政権
                       しんぶん赤旗 2022年11月15日
「敵基地攻撃」をめぐるこれまでの国会論戦をたると、その可能性や武器保有の限界について、政府繰り返し答弁してきまた。そこには憲法9条の約が働いていたからです。ところが岸田内閣は、巡ミサイルトマホク導入長射程のミサイルを1000発以上も保有する計画を一方的に進めようとしています。こうしたことが憲法にてらし許されるのか。の議論を抜きにして、予算編成を進めることなど許されません。

 1959年3月18日の衆院内閣委員会で、伊能次郎防衛庁長官は「敵基地攻撃」についての政府の立場を明らかにしました。(⇒末尾の
 そのポイントは、①他に防衛の手段がない場合、敵基地をたたくことは自衛権の範囲にまれ法理上は可能 ②しかし「仮定の事態を想定し」、平生から他国に攻撃的脅威を与えるような兵器を持つことは憲法の趣旨に反する というもの。敵基地攻撃そのものの法理上の可能性とその能力の保有は別の問題とされたのです。

一方的に解釈
 ただ、この場合にも ①日本に対する武力攻撃の発生 ②他に防御の手段がないこと ③武力の行使は必要最小限にとどまる-という「武力行使の3要件」が前提とされ、必要最小限度を超える攻撃や武器の保有は許されないとしてきました。
 この答弁から60年余り。北朝鮮や中国がミサイル技術を発展させ相当数のミサイルを実戦配備するなど情勢は大きく変化しています。政府はこれを口実に国会での論議を抜きにして、「敵基地攻撃」の問題は「法理上の問題」「仮定の事態」ではなくなったとして、憲法の「運用の変化」で対応できると一方的に解釈し、長射程の最新鋭ミサイルの大量配備を進める構えです。
 しかし、ここには根本的なごまかしがあります。
 共同通信元編集委員で『戦後政治にゆれた憲法九条内閣法制局の自信と強さ』の著者の中村明氏は「憲法9条がある以上、政府の立場からも自衛隊の,武力行使にも、保有できる兵器にも限界はある」と指摘。「政府は国会で多くの答弁を残してきた」と強調します。

民主主義とは
 必要最小限度の実力として自衛隊の保有を認める政府の立場でも、9条がある以上、持ちうる兵器や武力行使の態様には限界があるとしてきました。
 中村氏は「国会で積み上げてきた論戦を『情勢の変化』を理由に無視することが可能なら、国会審議も会議録を取ることも意味を失い、民主主義とは何か、根本的な問題が浮上する。『いや、日本はときに専制国家になるのだ』と言って開き直るのなら、岸田首相が中国やロシアを非難する権利があるのか」と厳しく批判します。

の制約突破 岸田政権 トマホーク導入 長射程ミサイル
危険な政権打倒の時
 敵基地攻撃と武器の保有の限界について、中曽根康弘防衛庁長官(当時)は1970年3月30日、衆院予算委員会で「ICBM(大陸間弾道ミサイル)、あるいは中距離弾道弾、このように他国の領域に対して直接脅威を与えるものは禁止されている」と答弁。現在焦眉の問題となっている中距離ミサイルの保有・配備について「禁止」と明言しました。
 こうして政府は、敵基地を攻撃する場合、「日本の自衛力には限界がある」とし、攻撃的兵器は持てないことを前提に「長距離爆撃機はよくない」「航空機以外ない」「爆撃機の効果が問題」「中距離弾道弾は持てない」などの発言を繰り返してきました。
 また、「相手国領域内での武力行使は必要最小限度を一般に超える」とし、憲法上の理論的想定としては、それ以外に手段のない場合に、そのような行動が「許されないわけではない」と抑制的な姿勢を示してきました。軍事情勢が変化しても、どのような武器を用い、どのような態様で現実に「許されうか」について詰めた議論は、まったくなされていません

米政府に打診
 岸田内閣はこれらの国会論議の積み重ねを無視して、米国製の巡航ミサイル「トマホーク」の購入を米政府に打診しています。トマホークは精密誘導型の巡航ミサイルで、射程は1600km超。全地球測位システム(GPS)衛星の位置情報などによりピンポイントで目標を破壊します。1991年の湾岸戦争で実戦投入され、その後、イラクやアフガニスタンでの「対テロ」先制攻撃戦争で繰り返し使用してきました。
 中村氏は指摘します。
 「トマホークは、射程1600km超のミサイルであり、『憲法9条の下では保有することができない』としていた長距離爆撃機よりも攻撃的だ。『ミサイル攻撃されたら、ミサイル発射基地を飛行機で爆撃する』とする象徴的な意味合いの『敵基地攻撃論』という防衛(defence)の概念とは異なる発想だ。トマホーク配備は、『ミサイルの発射基地をたたく』というよりも、『敵をせん滅する』とする意思の表明であり、抑止力(deterrence)を高めるというより攻撃力を行使することで、外交交渉で解決する余地をなくす一種の『宣戦布告』であると言って過言でない

立憲主義破壊
 安倍政権のもとで強行された安保法制で「可能」とされた限定的集団的自衛権行使のもとでは、使える兵器も拡大されるのかー。トマホークの購入を打ち出した岸田内閣は、そう考えているかのようです。
 しかし、集団的自衛権行使を合む武力行使の新3要件の3番目は「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」とされ、いわゆる「専守防衛」の制約はここにも適用されます。つまり保持できる武器の変更はしていないのです。前述の「中・長距離ミサイルは持てない」など制約は、集団的自衛権の場合にも及びます
 攻撃型の中距離ミサイル、トマホークを購入するためには、政府の憲法9条解釈、自衛権発動の3要件の変更、さらには憲法9条自体の改定が必要となります
 これを無視してトマホーク導入、長射程ミサイルの導入、開発・改良に進む岸田内閣は、さらなる立憲主義破壊に突き進むものです。
 中村氏は「北朝鮮から発射されて日本の上空を通過し米国へ向かうミサイルを打ち落とすことはほとんど不可能だ。ただ発射基地はたたける。しかし、たたいたとき、北朝鮮が核兵器で報復に出れば、日本は核弾頭を搭載した北朝鮮のミサイルを100%迎撃することはできない。米国が北朝鮮に戦略核で報復しても、後の祭りだ」と鋭く指摘します。
 また、沖縄をはじめ南西諸島に長射程ミサイル12式地対艦ミサイル改良型)を大量配備する計画は、台湾正面で中国のミサイル群に対抗する米国の戦略に忠実に追随するもの。ひとたぴ、米甲の戦端が切られれば、日本も巻き込んだ全面戦争に発展しかねません。
 中村氏は言います。「政治、軍事に関する岸田政権のでたらめな政策変更で、歴史と文化と人聞らしさに満ちた日本の歴史を終わらせるわけにはゆかない。岸田政権は内政・外交に行き詰まり、軍事力強化で活路を見いだそうとしているが、危険で無能な岸田政権を一日も早く終わらせよ」 (中祖寅一)
       敵基地攻撃と武器の保有の限界についての政府答弁

1959318日伊能次郎防衛庁長官

根本は法理上の問題、かように私どもは考えまして、誘導弾等による攻撃を受けて、これを防御する手段がほかに全然ないというような場合、敵基地をたたくことも自衛権の範囲に入る・・・座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨ではあるまい。・・・誘導弾などの基地をたたくということは、法理的には自衛の範囲に含まれており、また可能である・・・しかしこのような事態は今日においては現実の問題として起こりがたいのでありまして、こういう仮定の事態を想定して、その危険があるからといって平生から他国を攻撃するような、攻撃的な脅威を与えるような兵器を持っているということは、憲法の趣旨とするところではない

1967年3月25日増田甲子七防衛庁長


高辻正巳内閣法制局長官

長距離爆撃機はおもしろくない、できない・・・日本の自衛力はおよそ限界がある・・・純軍事的に見ても非核弾頭用のハーキュリーズが最もよろしい(ハーキュリーズは迎撃用の地対空ミサイル)

爆撃機の兵器としての効果、それが実は問題なのです(高性能の爆撃機は持てないことを示唆)

1970年3月30中曽根康弘防衛庁長官

ICBM、あるいは中距離弾道弾、このように他国の領域に対して直接脅威を与えるものは禁止されている

1971年3月23日久保田卓也防衛局長

座して自滅を待つという趣旨ではないという場合に、攻撃するのは航空機以外にはございません

                  (中祖寅一)

平和考敵基地攻撃と集団的自衛権 相手国せん滅する米国並み「抑止力」
                       しんぶん赤旗 2022年10月31日
 いま政府・与党内では、敵基地攻撃能力の保有は憲法の「運用の変更」で対応でき、「専守防衛は維持される」などと語られています。
 公明党の北側一雄副代表は27日の日本記者クラブでの講演で、敵基地攻撃能力の保有は「完全に合憲という認識か」と問われ、「そのように思っている」と強調。「武力攻撃の着手があったというのが大前提だ」「先制攻撃になったら9条に違反するし、専守防衛に反する。そうならないようにする」と述べました。
 ここには大きなごまかしがあります。最大の問題が違憲の集団的自衛権行使との関係です。
 もともと敵基地攻撃能力の保有の問題は、個別的自衛権の枠組みのもとでその可否が論じられてきたものです。
 ところが現在、政府が50年以上にわたり「集団的自衛権の行使は憲法上許されない」としてきた原則が安倍自公政権のもとで壊され、安保法制によって集団的自衛権行使が「可能」とされている状態です。

「専守防衛」と全く相いれず
 政府は、集団的自衛権の行使として敵基地攻撃を行うことを認めています。日本共産党の小池晃書記局長の追及に、岸信夫前防衛相が答えました。(5月31日、参院予算委)
 日本が攻撃されていないのに、米国への攻撃に対して反撃し、戦争に参加する集団的自衛権の行使では、日本に対する武力攻撃はなく、その「着手」もありません。日本の「反撃」は、相手国に対する先制攻撃とならざるを得ません。
 それだけではありません。敵基地攻撃は、相手国領土内の軍事拠点をたたくものです。日本が攻撃されてもいないのに、米国とともに相手国領土内に深く侵入して攻撃することは、「専守防衛」と全く相いれないと言わざるを得ません。
 しかも現在の自民党の提言では、「敵基地」に限定せず「指揮統制機能等」を攻撃するとされています。指揮統制機能とは、日本で言えば東京にある首相官邸や市ケ谷の防衛省などを攻撃するということです。先制攻撃として政治的中枢を攻撃すれば、相手国は個別的自衛権を行使して日本に全面的な反撃を行います
 安倍晋三元首相は、2020年9月の退任直前に異例の敵基地攻撃能力保有の「提言」を発表。その後も一貫して唱道し危険な役割を果たしてきました。

安倍氏主張に沿う形で提言
 安倍氏は昨年11月の講演では「敵基地だけに限定せず『抑止力』として打撃力を持つ」と主張。さらに、「『抑止力』というのは日本に手を出すと大変な痛手を被ると相手に思わせるもの」だとし、「米国の場合はミサイル防衛によって米国本土は守るけれども、一方で反撃能力によって相手をせん滅します。この後者こそが抑止力なのです」と語っています。せん滅とは、皆殺し、徹底的に滅ぼすという意味です。安倍氏は米国並みの「抑止力」を求めてきました。
 つまり敵基地に限定されない「反撃」とは、相手を滅ぼすような報復攻撃を行うこと。前述のように、こうした安倍氏の主張に沿う形で、敵基地に限定されない指揮統制機能等=中枢への攻撃として自民党提言もまとめられています。
 敵基地攻撃はもともと、攻撃に着手した相手国の弾道ミサイル基地を破壊して自国防衛をはかるという個別的自衛権として議論されてきました。相手国の中枢に侵入し敵基地に限らず先制攻撃を行うというシナリオは、元来の議論と大きく異なるものとなっています。
 なぜそうなるのか―。集団的自衛権を行使し米国とともに海外で戦争する以上、米国と同じ論理で軍事行動をとらざるを得ないことを示しています。米軍には、憲法9条のもとで自衛隊に課せられた必要最小限度の武力行使=専守防衛のような制限は存在しません。
 敵基地攻撃能力の保有の最大の狙いは、集団的自衛権という権限に、実際に米軍とともにたたかうだけの攻撃力を充足するものです。それは、奄美大島から沖縄本島・南西諸島を通りフィリピンに至る「第1列島線」に「精密統合打撃網」を構築するという米国の対中戦略の一環ともなっています。中国東海岸の2000発を超えるともいわれる中距離ミサイル網に対抗して、長射程のミサイルをこの地域に大量配備するものです。

 違憲の集団的自衛権行使のもとでの「敵基地攻撃能力」の保有は、実態として危険極まりないと同時に、先制攻撃をもたらすほか、近隣諸国に軍事的脅威をもたらし、相手国の領土内での全面攻撃につながりかねないという点で、専守防衛を全面的に逸脱する重大な違憲性を免れないものです。(中祖寅一)