現代ビジネスに作家・保阪正康氏による「昭和史を見つめてきた作家・保阪正康が岸田総理を斬る『宏池会の系譜に学ばぬ首相に失望した』」という短い記事が載りました。
同誌は、「いったいどうすれば日本は復活できるのか」について、国内外の7人の「知の巨人」に聞くとして、2番バッターに作家の保阪正康さんを据えました。
記事は「宏池会は優れた政治家の宝庫・・・」で始まり、保守リベラルの派閥出身に期待したものの岸田氏にはその片鱗もなく、彼がこの系譜から何を学び何を引き継ぐのか、まったく見えないと述べています。
岸田氏はもともと思想・信条を持たない人と言われていますが、政治のトップの座についてからもこの有様ではその通りなのでしょう。小選挙区制になってからは派閥の意味合いが変わったと言われますが、何とも寂しい話です。
そして次には「人を見る目がない」と指摘されました。
ひと頃は安倍晋三氏からの圧力を躱す巧みな人事と称されたこともありますが、それはいわば低次元の話で、その上で何を目指すのかがなくて単なる延命を目指したということであれば話になりません。
そもそも人を見る目のない人が人の上に立つべきではありません。
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昭和史を見つめてきた作家・保阪正康が岸田総理を斬る「宏池会の系譜に学ばぬ首相に失望した」
保阪正康 現代ビジネス 2022/11/09
自信なさげにボソボソ喋るメガネの男、キシダに国を任せていて大丈夫なのか? 世界は、日本の総理に厳しい目を向けている。いったいどうすれば日本は復活できるのか、国内外の7人の「知の巨人」に聞いた。2人目は、作家の保阪正康さんだ。
「宏池会は優れた政治家の宝庫でした」
保守リベラルを体現してきた派閥「宏池会」に出自を持つ岸田首相には期待してきましたが、現在の政治姿勢には大いに不満があります。
かつて私は、池田勇人の秘書であり宏池会の事務局長であった伊藤昌哉氏に70時間取材して『自民党戦国史』という本を代筆したことがあるのですが、宏池会は優れた政治家の宝庫でした。
保守とは何かを見極めてきた「学識の前尾繁三郎」、平和的外交に尽力した「護憲の宮澤喜一」、クリーンなハト派であり続けた「人格の伊東正義」、日中国交正常化を成し遂げた「政治的誠実の大平正芳」、行動力で保守政治を牽引した「闘志の男・田中六助」。
ところが岸田首相はこの豊かな系譜から何を学び、何を引き継ぐのか、まったく見えないのです。
岸田首相が、安倍・菅政権とは違った自前の世界観、歴史観、政策論争を国民に提起することにも期待をしていました。
しかし、その役割も果たしていない。外交面では宏池会的な平和主義の哲学が見られない。経済にしても、アベノミクスの弊害がいかに国民を窮地に追いやっているかという大局的な流れを見極めて現在に有効な政策を打つという構えがない。
これでは、前政権までの身内で固められた閉鎖的な権力構造を転換して、国際社会で日本の存在感を示すことはできません。
人を見る目がない
人事も拙劣です。旧統一教会の問題でも、教団に侵食された閣僚の存在が次々指摘されている。政治家の身体検査が不徹底だし、もっと言えば人を見る目がないのではないか。
これは、伊藤昌哉のような優秀なブレーンがいないということでもあり、政策集団としてブレーンを引きつける魅力がなく、ブレーンをつくる能力もないということにもなってしまいます。
私は、近現代史における歴代首相を、好悪は別として分かりやすく4つに分けて評価することがあります。
「別格」は歴史から呼び出されたような存在で、戦争終結の任を負った鈴木貫太郎、一国の首相という立場を超える思想性を提示した石橋湛山、庶民の欲望を政策化した田中角栄などです。
「A」は時代の中で重要な仕事を成し遂げた、若槻礼次郎、吉田茂、池田勇人、大平正芳、中曽根康弘など。
「B」は任期中に独自の存在感を示した、西園寺公望、濱口雄幸、岸信介、佐藤栄作、宮澤喜一など。
そして「C」は客観的に見て反国民的な存在で典型的には東條英機ですが、残念ながら2000年以降の首相たちのほとんどもここにランクインせざるを得ません。
岸田首相はどう評価されるのか。いまこそ宏池会の治績から知恵を汲み取り、真っ当なブレーンを固め、歴史の審判に耐えうる政治を行うべきだと思います。
「週刊現代」2022年11月12日号より