11月26日に実施された台湾の地方選挙で、蔡英文総督の率いる民主進歩党が、中国と友好関係を維持し経済活動を活発にしようとしている国民党に大敗し、蔡氏は党主席を辞任しました。民主進歩党は中国からの独立を主張し、その実現のためにアメリカの支配層へ接近したのでした。
8月2日にナンシー・ペロシ米下院議長が台湾を訪問しましたが、それは日本の衆議院議長が台湾に訪問するのとは訳が違います。下院議長は大統領権限の継承順位が副大統領に次ぐ第2位なので、その行為は米国の意思を表しているとされてもやむを得なかったのでした。
米国は一貫して台湾有事を画策しており、日本政府はその流れに乗せられて軍国大国化に舵を切ろうとしていますが、台湾の人々はその流れを拒否したのでした。
日本人にはそういう智慧はないのでしょうか。
櫻井ジャーナルの記事を紹介します。
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米国政府に従って中国との戦争へ向かっていた台湾の与党が地方選挙で大敗
櫻井ジャーナル 2022.11.29
台湾で地方選挙が11月26日に実施され、蔡英文総督の率いる民主進歩党が大敗、蔡は当主席を辞任した。民主進歩党は「ひとつの中国」を否定、独立を主張している。中国と友好関係を維持し、経済活動を活発にしようとしている国民党とは対立関係にあるが、その国民党に負けたわけだ。
民主進歩党が自力で独立を実現することは難しく、アメリカの支配層へ接近したのだが、それは台湾をアメリカの侵略拠点にすることを意味し、中国政府はそれを容認しない。
蔡総督が行動に出なけらば中国政府も行動に出なかっただろうが、このバランスを壊すためにナンシー・ペロシ米下院議長が8月2日に台湾を訪問。そして安定を失った。
アメリカの場合、大統領が何らかの理由で職務を執行できなくなった場合の継承順位が決められている。第1位は副大統領(上院議長)、第2位は下院議長だ。それだけの要職についているペロシが「ひとつの中国」を否定した意味は重い。それを意識しての挑発だったと言えるだろう。
アメリカと中国との国交が正常化したのは1972年2月。その際、当時のアメリカ大統領、リチャード・ニクソンが北京を訪問して中国を唯一の正当な政府と認め、台湾の独立を支持しないと表明している。つまりペロシの行動はアメリカと中国との友好関係を終わらせるという意思表示だと理解されても仕方がない。
ニクソン政権が中国との国交を正常化させた目的のひとつは中国をアメリカ側へ引き寄せ、ソ連と分断することにあったと見られている。中国と日本が接近することもアメリカの支配層は嫌っていた。
ところが1972年9月に田中角栄が中国を訪問、日中共同声明の調印を実現するために田中角栄と周恩来は尖閣諸島の問題を「棚上げ」にすることで合意している。この合意を壊したのが菅直人政権にほかならない。2010年6月に発足した菅内閣は尖閣諸島に関する質問主意書への答弁で「解決すべき領有権の問題は存在しない」と主張したのだ。
そして同年9月、海上保安庁は尖閣諸島付近で操業していた中国の漁船を取り締まり、漁船の船長を逮捕した。棚上げ合意を尊重すればできない行為だ。その時に国土交通大臣だった前原誠司はその月のうちに外務大臣になり、10月には衆議院安全保障委員会で「棚上げ論について中国と合意したという事実はございません」と答えているが、これは事実に反している。これ以降、東アジアの軍事的な緊張は急速に高まっていく。
「ひとつの中国」を壊す試みは1995年6月にもあった。李登輝総督がコーネル大学の招待を受け、講演のためにアメリカを訪問、中国政府は反発して台湾海峡の軍事的な緊張が高まり、中国軍がミサイルを発射、アメリカ軍が空母を台湾周辺へ派遣するという事態になった。そして1997年、下院議長だったニュート・ギングリッチが台湾を訪問して軍事的な緊張が高まった。
こうした好戦的な政策をアメリカで推進していたのはネオコン。彼らは1991年12月にソ連が消滅した直後、自国が「唯一の超大国」になったと認識、他国に気兼ねすることなく行動できるようになったと考える。国連中心主義を維持した細川護煕政権は彼らにとって好ましくない存在で、同政権は1994年4月に倒された。
そして日本をアメリカの戦争マシーンに組み込もうとするのだが、日本人は抵抗する。それに怒ったマイケル・グリーンとパトリック・クローニンはカート・キャンベルを説得して国防次官補のジョセイフ・ナイに接触、そのナイは1995年2月に「東アジア戦略報告(ナイ・レポート)」を発表したわけだ。
そうした中、1994年6月に長野県松本市で神経ガスのサリンがまかれ(松本サリン事件)、95年3月には帝都高速度交通営団(後に東京メトロへ改名)の車両内でサリンが散布され(地下鉄サリン事件)、その10日後に警察庁の國松孝次長官は狙撃されている。
すでに日本はアメリカの戦争マシーンに組み込まれ、アメリカ側の戦略に基づき、中国だけでなくロシアを攻撃するための中長距離ミサイルの配備を進めようとしている。これは「防衛」のためでも「反撃」のためでもなく、先制攻撃が目的だろう。
その流れに乗ることを台湾の人びとは拒否した。